人探し
「ん~、流石、彼女の舌を満足させ続けただけはあるねぇ。
シズクの愛の籠った手料理には敵わないけど、これは美味い。
どうだろう、俗世から離れてここに住んでみない?
おっと、そう言えば君は彼女一筋だったね、それに君を引き抜いたとあれば、今度こそ彼女から殺されそうだ」
「食事くらい静かに摂れないのか……」
饒舌すぎる主と違って、黙々と食べ続ける従者。
なんだ、この温度差は。
「ん? メイドが主と一緒に食卓を囲むことに疑問でもあるのかな?」
「ない」
「シズクはメイドだけど、2500年ぶりくらいにできた、家族だからね。
その家族を後ろに控えさせるなんて所業、とてもじゃないけど僕には無理だ。
ご飯は一人で食べるより皆で食べた方がいいだろう?
君だって、彼女とは一緒に食べていたはずだ。
いや、そうでなければ、僕が改竄しているところだよ」
聞いてもいないことをぺらぺらと、確かにこれはフィーネと気が合うだろう。
あれも、無駄な事をしゃべるのが大好きだからな。
「主が申し訳ありません」
「あんたも苦労してるな」
「従者同士分かり合えるところでもあるのかな?
でも、シズクは僕のモノだし、君は彼女のモノだ。
お互い、浮気はやめた方が身のためだ。
僕はまだしも、彼女は許してくれないだろう?」
「―――はぁ、話を聞くと約束したはずだが?」
「おっと、そうだったね。
さて、この僕にいったい何をやって欲しいんだい?」
「研究所を直して貰いたい、それと、俺が頼んでいる間、世界を誤魔化してほしい」
「―――ふむ、成程成程、てっきり僕は10年以上遡る面倒な事を頼まれると思っていたがその程度の事か。
確かに、あそこなら余り人目についてないし、干渉と言う程のものではないし、僕の主義に反するわけでもないか」
「頼まれてくれるか?」
「条件がある、君だってタダで受けてもらえるとは思っていないはずだろう?
さて、もったいぶる趣味なんてないし、さっさと言ってしまおう。
君には純情なドジっ娘を探してきてほしい」
こいつは今なんと言った?
「あぁ、恋人がいる娘は駄目だ、僕は寝取る趣味はないし、幸せな若者を邪魔する気もない。
それと、君達で言う若い世代がいい、何と言っても見栄えが違うからね。
シズクより少し年下がベストだ」
「すまん、あんたの主は気でも狂ったか?」
「いえ、あれが正常です」
どうやら、俺の聞き間違いでも、あいつがトチ狂ってるわけでもないらしい。
「勿論、可愛ければ可愛いほどいい、そのあたりは君のセンスに一任するよ。
是非とも、僕の新しいメイドを探してくれたまえ」
「――――そんなもの、あんたの力で作りだせばいいだろう」
「君は分かっていないな、天然だからこそロマンがあるんじゃないか。
僕が作りだしたとしても、それは純情とは言えない。
僕は人形が欲しいわけじゃないんだ」
「そんな女がいるわけないだろう」
「いるさ、現に僕の理想を体現したシズクがいたんだ。
純情でドジっ娘だっているはずだ。
彼女の元にいたから仕方ないとはいえ、君は視野が狭いな。
君だって、彼女が純情だったらと考えたことはないかい?」
「とある女が言っていたが、女は多かれ少なかれ裏があるそうだぞ」
「それはまたキツイ娘がいたものだ。
ともあれ、僕になにかを望むのなら、純情ドジっ娘を連れてくることだ」
「あれ、2、3日かかるんじゃなかったの?」
もう、復活したのか……こいつが純情―――――は無理があるか。
そんな奇怪な生物をどうやって探せと言うんだ。
例え、見つけたとしても加えてドジというマイナス面を付加してると言う、理解しがたい趣向のせいで、難易度が格段に跳ね上がった。
時間がないこんな時に、人海戦術しか有効な手段がない人探し、最初から詰んでいる。
「帰ってきていきなり無視するなんてやってくれるじゃない?」
「――――お前の知り合いに同年代で純情な女はいるか?」
「――――あんた熱でもあるんじゃない?」
「俺だって自分がいかに理解しがたい事を言っているか理解している。
だが、現状、そんな空想上にしか存在しない女がいなければ打つ手がないんだよ」
それだけでさえ、空想上の存在だと言うのに、それに追加要素があるんだ。
どんな奇跡が起これば見つかると―――――
「いるわよ」
「――――今なんと言った?」
「だからいるわよ、今時ありえないくらい純情な娘でしょ?」
「それはお前が仮面を被っていることを見抜けないだけじゃなくてか?
「その可能性は否定しないけど、あの反応は嘘とは思えないわね」
半信半疑、いや、まだ、疑いの方が割合は高いが、いまは藁にもすがりたい気分だ。
この女は馬鹿だが、嘘はつかない。
もしかすると、本当にいるのかもしれない。
「そいつとは今すぐ会えるか?」
「その娘、サンスクリットに住んでるのよ。
だから、物理的に今すぐってわけには――――」
「いくぞ」
「―――はぁ!? あんた、まだ、怪我治ってないんじゃ―――――」
「転移する、絶対に俺から離れるなよ」
「ちょっと、人の話聞きなさいよぉぉおおおおお!!!」
「ここよ」
何度見ても大きな家ね、まぁ、公爵家なんだから当たり前だけど。
「おい、いろいろ聞きたいことはあるが、こんなところの娘を連れだせるのか?」
「―――はぁ!? そんなこと一言も聞いてないわよ!?」
―――はっ、もしかして誘拐なんてしないわよね?
ただでさえ、2国間の仲は険悪の一言に尽きるのに、公爵家の娘が誘拐されたとあれば、テーヴァの差し金じゃなかったとしても、テーヴァがやったと勘違いされかねないわよ。
「―――一応、顔くらい拝んでいくか」
「ちょっと待ちなさい! 誘拐だけは絶対に駄目よ!」
「何を言ってるんだお前は? さっさと案内しろ」
―――あれ? そう言えば私どうやって侵入したんだっけ?
というか、あれは、私がドジってあの娘が匿ってくれただけであって、私1人じゃ面会とか無理じゃない?
いや、でも、今の私には『トマラクス』があるし、何とかなるのかしら……?
「貴様ら、門の前で何をやっている?」
やば、見つかった―――――え?
「貴様は……!?」
驚愕に染まる騎士様、どこかで見たと思ったら、私が『スラント』をサンスクリットまで運んでいた時に、遭遇した脳筋さんだった。
――――終わった、すぐにでもサンスクリットの軍隊が押し寄せてくるだろうと思った矢先、脳筋さんは門を開き私たちを中へと招いた。
もしかして、家宅の中に罠でもしかているんじゃないかと疑ったけど、私が見てもそんな形跡はない。
豪華な客室に通されると、これまた豪華なお茶を出され、なんというか客人を迎えたみたいな対応。
毒を入れられているわけでもなく、本当に招いただけ?
「戦場で貴様を見た時は驚いた、てっきり、姫と共にテーヴァで果てたとばかり思っていたからな。
サンスクリットでは、貴様が裏切り姫を亡き者にしたと結論付けられているが、誰もがそう思っているわけではない。
現に、貴様が尽力しなければ今頃、私も戦火の中に身を投じ命を落としていたかもしれない」
「前置きはいい、なぜ、俺たちを通した?」
「真実が知りたい、私は民を守る為に存在している。
可能であれば、戦争を止めたい」
貴族ってどいつもこいつも人を見下したやつばっかりだと思ってたけど、公爵家にもこんなやつがいるのね……
今まで脳筋とか言ってごめんなさい……
「―――『エリクシル』と言う組織がある。
そいつらの目的は知らないが、その過程で戦争を起こす必要があり、あの女はその組織に通じていた、それだけだ」
「―――礼を言う、私が戦うべき相手はテーヴァではなくサンスクリットにいたようだ」
「まて、これはまだ極秘だ、例え話したとしても与太話として聞き流されるだけじゃなく、お前の立場も危うくなる。
動くなら機をまて、下手に動けば奴らの思うつぼだ。
俺がいる限り、そう簡単に再戦には踏み込めないはずだ。」
「――――助かる」
血が出る程に手を握り締める程、悔しい。
そうよね、自分の国の事なのに、何も出来ず、挙句の果てには全く関係のないシオンに任せるしかないんだから。
「しかし、貴様たちは何故、ここにいたんだ?」
「あんたに、姉か妹はいるか?」
「両方いるが、この屋敷に、いるのは妹だ」
「確認したいことがある、合わせてくれないか」
「―――悪いが、妹は病弱でな、自分では立って歩くことはおろか、あまり長く話すこともできない身だ。
いきなり、知らない人が訪れれば、そのショックで体調を崩しかねない」
――――病弱か……それも歩くことさえできないとなれば……
これはもしかするかもしれない。
「俺はこれでも医学を齧ってる。
俺なら、あんたの妹を治せるかもしれない」
キョロ ((o(・x・ )o( ・x・)o)) キョロ




