3人目の超越者
『3人とも無事帰還できて何よりです。
早速で申し訳ありませんが、報告をお願いします』
シオンもキュロもぎりぎりの戦いを強要されただけあって、あの電波が去った後、流石に疲弊しきった様子で、これ以上の戦闘は無理だと判断して、倒壊した研究所を調べることもせず、イルミス島を後にし、サンスクリット領にある最寄りの支部へと身を寄せた。
その間は、『トマラクス』をフル活用して、近辺を警戒していたけど、何事もなく帰還することができた。
余談だけど、あの3人から奪った剣と杖は去り際に破壊されてしまい、私たちは強力な手札を一枚奪われてしまった。
もし、次に対峙することになれば3度目の戦い、次は、想像だにしないよう物を持ってくるだろうし、いよいよ、キュロでは対処がきかないかもしれないわね。
『―――――――研究所跡の調査はこちらで受け持ちましょう。
上手くいけば、魔獣に対抗する術が見つかるかもしれません。
君達は、体を休めることに専念してください。
では、また、何かあれば報告をお願いします』
あのシオンが負けるなんて……
イルミス島へ行っている間、移動を含め4日間、その間勿論お風呂になんてないわけで、4日ぶりに汗を流している。
行く前は勿論だけど、帰ってくる間も気を抜けなかったから、考える余裕なんてなかったけど、あのシオンが負けたのよね……
それも、あの電波はまだまだ余裕で、私たちの不意打ちも容易に対処してたし、何より『トマラクス』で、殺すことすらできなかった。
解析することはできたけど、分解することできない。
つまるところ、あの電波は『トマラクス』の力を凌駕しているってこと。
『トマラクス』が司る理の領域を超えた存在、それって神を超えてるってことよね……
シオンは『終の魔女』はまだ生きているって言ってたけど、神を超えた存在ならいくら、『終の魔女』でも、敵わないんじゃ……
そんなやつが敵に居たら、もうどうしようもないじゃない……
そんな弱気になっていたところで、戸が開かれ、現れたのはキュロ。
ああ、そう言えば、出発前が最後で、4日間もしてないんだっけ。
『4日間も』といういい方に、少し引っかかるところがあるけど、それより前は毎日と言って言いくらいしてたわけで、やっぱり、4日間もよね。
「―――おいで」
それだけ交わっていれば、いい加減抵抗感も薄れているわけで、今更、抵抗しようとは思わない。
それに、キュロに抱かれている間は何も考えずに済むし、いまはとにかく、何も考えなくていいように滅茶苦茶にして欲しい。
だけど、私が期待していた展開にはならず、私の目の前に立つと、しっかりと私の目を見据え
「あの人は負けない」
胸を貫かれたような衝撃が走った。
あれ? なんで、私はこんなに弱気になってるの?
逆境なんていつもの事じゃない、『スラント』を奪われた時も、陛下が暗殺された時も、どんな時だって、シオンは諦めなかったじゃない。
なのに、どうして、私はキュロにこんなことを言わせてるのよ!
「あの人は負けない」
「――――うん、そうね、シオンは負けない」
あのシオンがあんな電波に負けるわけないわよね!
皮肉やで毒舌ばっかり吐くやつだけど、期待は裏切らない奴なんだから!
よし! シオンに会いに行こう、あいつが落ち込んでるとは思わないけど、何となく発破をかけてやりたい。
湯船につかっていた体を、起こし、キュロの手を引いて浴場を出ようとしたとき
「何処行くの?」
小柄なはずのキュロを引こうとした手は、ピクリとも動かず、逆に、前に進もうとした私を引き寄せる。
――――そういえば……
場所は浴場2人きり、お互い一糸まとわぬ素っ裸、4日間エッチなし。
我に返った私はこの後、訪れるであろう未来を予言者も真っ青になる程、正確に予測することができた。
「お、お手柔らかにお願いね?」
「いただきます」
お腹を空かせた獣が獲物を発見した時のような鋭い眼光を前に、私のお願いは却下され事を悟った。
そこからはいつも通り――――――――にはならなかった。
浴場で嬲られた後、ようやく終わったと安堵する私を部屋に連れて行き、寝かせてくれるのかと思いきや、何処から手に入れてきたか分からない、大人の玩具たちが目に入った。
興奮に顔を紅潮させるキュロと反比例するように私の顔は真っ青になる。
逃げようにも、腰が砕けて逃げられない私を容赦なく責めて立て、私の意識はブラックアウト。
気を失う前に私は思った、これからはこまめに発散させようと……
足りないか……今回で嫌になる程思い知った、あの実験で十分に魔力を得たつもりだったが、あの魔女を打倒するにはまだまだ足りない。
それを補うための物は創り出したが、やはり決定的に魔力の総量が桁違いすぎる。
それを解消するためには、あの実験を掌握する必要があったがあの電波野郎に破壊された。
再稼働できる程度に残っていればいいが、そもそも運用の仕方も分からない以上、それは望むべきものじゃないか。
だとすると、気にくわないがあいつに頼るしかないわけか……
「おい、話がある、入る―――――」
扉を開け、部屋に入った時、全てを悟った、そして、額を手で押さえ大きくため息を一つ。
「―――ぁ……ぁ……」
「エルナ、エルナ」
―――――こいつらは、またやってるのか……
本来なら放っておくところだが、話は急を要するもの、それに、このまま放っておくと流石に死んでしまいそうな勢いだ。
「落ち着け、キュロ」
首根っこを掴み、無理矢理引きはがすと、血走った目で振り返りざまに大剣を振るった。
驚きはしたものの、その程度でどうにかなる程、柔にできてはいない。
大剣を消滅させると、拳を握り、頭へ落とす。
「~~~っ!!?」
声にならない声を上げ、両手で頭を押さえ、涙目で見上げてくる。
「落ち着いたか?」
「何かあった?」
感情の緩急が着きすぎだ、あれだけ血走った目をしていたというのに、ここまで落ち着いた反応を帰されると逆に困るぞ。
「話があると言いたいが、あれはやりすぎだ、殺す気か?」
既にキュロは離れているというのに、震えは止まらず、絶えず喘ぎ声をあげ、目は虚ろで焦点が合っていない。
毎回のようにあそこまで犯されて、次の日には元通りになるところだけは賞賛に値するな。
「反省……」
「まぁ、お前たちが決めたことなら俺が口をはさむことじゃないか。
それより、しばらく俺はここを離れる。
なにか、あれば連絡をよこせ」
「行き先は?」
「空中宮殿『カルロ』だ」
未だ、空を飛ぶという行為は一部の高位の魔導師か、魔獣に乗る以外の方法は存在しない。
そして、飛行能力を持った魔獣で、尚且つ人を乗せることができる魔獣というのは、希少だ。
勿論、飛翔の魔法を実践レベルで使える魔導師なんて世界でも30人もいないだろう。
そんな世界だからこそ、空に浮かぶ遺跡はいまだ発見されておらず、古代の文明が悠々と佇んでいる。
そして、その中の一つ、最大規模を誇る空中宮殿『カルロ』、ここに、人知れず住んでいる奴こそ、今俺が面会を求めている変わり者。
空を駆け、雲を突き抜けた先に、4年程前に訪れた時と変わらず存在している宮殿。
着陸し、門へと向かうと、そこにはメイド服を着た、若い女が待ち構えていた。
「お待ちしておりました、どうぞ、ご主人様がお待ちです」
身の丈の数十倍はあろうかという門を細腕で押し、開門。
何千年と存在しているはずの建造物だというのに内装は、新設のように真新しい。
案内された先には、両国の謁見の間と似たような場所、そして、王が座るべき場所にあいつはいた。
「やぁ、久しぶりだね、シオン」
風格を漂わせる金の髪、見る者を委縮させる赤い瞳、絢爛な衣装を着た、キュロより数年、年上に見えるだろう少年。
「彼女とは喧嘩でもしたかい?
いやはや、君を連れてきた彼女の姿は数千年生きた中で一番驚いたよ。
『終の魔女』と呼ばれた彼女がまさか恋をしているなんてね」
「相変わらずぺらぺらとよくしゃべる奴だな……」
「ははは、僕みたいな年寄りは若者との会話が楽しくて仕方ないんだよ。
ここを訪れることができる生物なんて限られているからなおさらだ。
シズク、おもてなしの準備をしてくれ」
「畏まりました」
恭しく頭を垂れると、音もなくその場から消える。
伊達にこの化物に付き添っているわけじゃないか。
「どうだい、僕のメイドは、人前ではクールビューティーだけど、僕の前では可愛いところを見せてくれる。
彼女は僕の理想のメイドだ、欲を言えばもう2,3人くらい欲しいところだけど、彼女が拗ねてしまうからね」
「悪いが世間話に来たわけじゃない」
「おっと、そうだったね、それで、僕に何の用かな?」
俺やフィーネと同じく、世界を揺るがす固有能力の所有者『理の使役者』の一人であり、俺が知る限り、唯一、フィーネが殺すことができなかった存在。
化物と呼ぶにふさわしいその名は―――――――
「アベル、あんたに頼みがある」
( ・∀・)ノィョ-ゥ




