第1話
王都近郊の森に上位魔獣が出現したという急報を受け、騎士団はただちに討伐隊を編成した。
緊迫した空気が張り詰める出撃前の広場で、団長の太い声が響き渡る。
「第一部隊、前衛の指揮はカイル副隊長に任せる。頼むぞ、我が騎士団のエース」
「はっ! 被害を最小限に抑え、必ずや速やかに討伐してみせます」
カイルの声は力強く、迷いがない。その凛々しい横顔に、周囲の若い騎士たちから羨望と信頼の眼差しが向けられる。
入団からわずか1年。並み居る先輩騎士をごぼう抜きにし、今や誰もが認める騎士団の「エース」。それが、サラの幼なじみだった。
「カイル……」
後方支援部隊の列からその背中を見つめ、サラは胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
みんなのエース。みんなの憧れ。カイルが眩しくなればなるほど、幼い頃のように「私だけのカイル」ではなくなっていく気がして、無性に寂しくなるのだ。
「サラ」
ふいに、出撃の直前になってカイルが小走りで駆け寄ってきた。
周囲の視線が一斉にサラに集まる。
「いいか、今回は上位魔獣だ。お前は絶対に後方から離れるなよ。危なくなったらすぐに逃げろ」
「ちょっと、子供扱いしないでよ。私だって第一部隊の魔道士なんだから」
「分かってるって。でも、俺がお前を守るって昔から決めてるんだ。……じゃあ、行ってくる」
頭をぽんっと撫でて、カイルは疾風のように前線へと駆けていった。
サラは彼に撫でられた髪をそっと押さえる。守る、と言ってくれるのは嬉しい。でも、それは「か弱い幼なじみ」に向けられた保護欲にすぎない。
「……置いていかれないために魔法を覚えたって、何度も言ってるのに」
サラは杖を握り直し、さらしでキツく巻いた胸の息苦しさを深呼吸で整えた。
戦闘が始まると、カイルの圧倒的な実力は瞬く間に戦場を支配した。
銀閃が走るたびに、強靭な皮膚を持つ魔獣たちが次々と地に伏していく。誰の目にも明らかな、次元の違う剣技。エースの名に恥じないその戦いぶりに、味方から感嘆のどよめきが上がる。
しかし、上位魔獣の群れは狡猾だった。
カイルが大型の個体に気を取られ、大きく剣を振りかぶったその一瞬——彼の死角である頭上から、息を潜めていた別の魔獣が鋭い爪を振り下ろした。
「カイル副隊長!」
周囲の騎士の叫び声が遅れる。カイル自身も、わずかに反応が遅れた。
——その時だった。
「『炎球』!!」
凛とした詠唱と共に、カイルの頭上スレスレを灼熱の業火が駆け抜けた。
極大に練り上げられた炎の塊は、死角から迫っていた魔獣を空中で見事に焼き尽くし、跡形もなく消し去った。
熱波に髪を揺らしたカイルが、驚いて後ろを振り返る。
そこには、制止を振り切って前衛のすぐ後ろまで飛び出してきたサラが、杖を構え、肩で息をしながら立っていた。
「サ、サラ……!? お前、後方にいろって……」
「バカイル!!」
サラは涙目になりながら、戦場に響き渡る声で叫んだ。
「背中は任せたって、さっき自分で言ったでしょ! 私をただの泣き虫だと思ったら大間違いなんだから!」
凄まじい威力の魔法と、普段の大人しさからは想像もつかないサラの剣幕に、戦場が一瞬だけ静まり返る。
呆然としていたカイルだったが、やがてふっと吹き出すように笑い、そして、これまでにないほど嬉しそうな、誇り高きエースの顔で剣を構え直した。
「……ああ、そうだったな。悪かった、俺の優秀な相棒!」




