第2話
巨大な魔獣が地響きを立てて倒れ伏し、戦場にようやく静寂が戻った。
土煙が晴れたその中心で、先陣を切ったカイルが剣の血糊を払い、見事な手際で鞘へと収める。エースとしての圧倒的な強さを見せつけたその姿に、周囲の騎士たちから安堵の息が漏れた。
「カイル!」
誰よりも早く駆け寄ったのはサラだった。息を切らし、彼の身体をぐるぐると見回して怪我がないかを確認する。
「無事でよかった……! 今の剣、すっごくかっこよかったよ!」
心からの安堵と共に目をキラキラと輝かせて褒めるサラに、カイルは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
「ははっ、サンキュ。お前が背後を守ってくれてたから、思い切り踏み込めたんだ」
「ヒューヒュー! 相変わらず熱いねえ、第一部隊の幼なじみコンビ!」
「エース殿は、可愛い専属の護衛がいて羨ましいぜ!」
周囲の先輩騎士たちから、ドッと愛想のいい冷やかしの声が飛ぶ。
サラの顔がぼんっと赤く染まるが、カイルは困ったように笑って手を振った。
「からかわないで下さいよ。こいつは昔から妹みたいなもんなんですから」
(……また妹扱い。バカイル)
冷やかしに少しだけドキッとしていた分、サラは唇を尖らせてそっぽを向いた。
「サラちゃんもお疲れ様」
ふいに、横からひらひらと手を振りながら近づいてくる青年がいた。同じ第一部隊に所属するカイルの親友、ルアだ。カイルの生真面目さとは対照的な、どこか飄々とした空気を纏っている。
「あ、ルアもお疲れ様」
「今回はサラの魔法のおかげで楽勝だったな。あの一撃がなかったら、俺も危なかったかもしれないし」
カイルが真剣な表情でサラを労うと、ルアも「間違いないね。うちの部隊の裏のエースはサラちゃんだな」と笑って同意した。
頼りになる二人に褒められて、くすぐったいような、でも誇らしいような気持ちになり、サラは愛用の杖を胸に抱きしめてふわりと微笑んだ。
「私なんてまだまだだよ。でも……みんな無事で、本当に良かったね」
サラの優しく飾らない言葉に、血生臭かった戦場の空気がふっと和らぎ、騎士たちの顔が綻ぶ。
「よし! 討伐も無事に完了したことだし、今日は街に戻って盛大に祝勝会だな!」
一人の騎士が剣を高く掲げて叫ぶと、「おおーっ!」という雄叫びにも似た歓声が森に響き渡った。
「祝勝会か、美味い酒が飲めるぞ!」とはしゃぐルアの横で、カイルも嬉しそうに頷いている。
(祝勝会……)
皆が盛り上がる中、サラはそっと、窮屈な胸のさらしを服の上から押さえた。
普段の分厚い制服や防具なら誤魔化せるけれど、酒場に行くために私服に着替えるとなると、最近さらに育ってしまったこの胸を隠すのは一苦労なのだ。
でも、カイルの隣にはいたい——。
そんなサラの乙女の葛藤を知る由もなく、カイルは「サラも当然行くよな? 美味いもんいっぱい食おうぜ!」と、無邪気で眩しい笑顔を向けてくるのだった。




