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【完結】転生したら嫌われ者の悪役令嬢でしたが、前世で倒したドラゴンが守護精霊になってついてきたので無敵なようです  作者: As-me・com


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第51話  裁きと救済


 馬車の中でのアルバートの衝撃の告白により、それなりの一騒動が起きていた。私だって本当なら心臓が飛び出るくらいにびっくりだ。


 いやほんと、ハッキリ言って素直に言えば国家機密とか転覆とか、そんな大事な話のはずなのだが────今はそれどころではないのである。だからまぁ、それについては今はいいかと思っていた。


 本当ならば、アルバートの語った真実を真剣に考えるべきはあるのだろうけれど。



 それはそれとして、相当疲れたのは言うまではない。(とりあえず精神的に)いやまぁ……みんなは元気だけどね?





 ***









「やっと着いたぁ~!」


『はっははは!いやぁ、なかなか有意義な話し合いが出来たってもんだ!なぁ、アル坊さんよ?』


 いち早く馬車から飛び降りたルルが「なんか空気が重くて疲れちゃったぁ~」と軽く伸びをしていると、すぐにクロがぴょんと飛び出した。ふたりとも軽い感じで話しかけているがアルバートは渋い顔をしている。


 そして、のそりとした重い足取りでふたりに続いて馬車を降りたアルバートからはいかにも“不機嫌”という雰囲気が放たれていた。再び目を隠すために前髪を元に戻したのだが、それでもはっきりわかるくらいの不満顔である。それなりにショックを受けたらしい。




「事前に言ってくれていれば僕だって……」


『まぁまぁ、あたくしたちも隠していたんですから仕方がないでございますわ……』


 まだ納得していない様子でブツブツと文句を言っているアルバートをニョロが慰めているようだがあまり効果はないようだった。


「アルバート様ったら、まだ文句言ってるのぉ?だってそんなの、アルバート様のジジョーなんかあたしたちは知らなかったんだからしょーがないじゃなぁい!それに、アオちゃんのこと黙ってたアルバート様が悪いんでしょぉ?だよねぇ?フィレンツェア様!」


「うぐっ」


『そうだぜ、アル坊。男は細かいことばっかり気にするもんじゃねぇさ!フィレンツェアお嬢ちゃんだってそう思うだろ?』


「ふぐっ」


 ルルとクロが次々とアルバートの背中を手のひらで力いっぱい叩きつけ、その度にアルバートは衝撃で転びそうになっていた。アルバートが物言いたげに口をへの字に曲げてこちらに顔を向けてくるが……。


「あははは……」


 私はといえば、笑って誤魔化すしかない状態である。




 そして公爵家の馬車も到着してエメリーたちと合流した早々、学園長が生徒たちを校庭に集め出したのだ。クロには一旦姿を消してもらい様子を見ていると、何事かとざわめく生徒たちの前で学園長は咳払いをすると重々しい声を絞り出した。


「……先日よりレフレクスィオーン先生が失踪し行方不明になってしまった。学園はもとより自宅にも街にもいた痕跡がなく、レフレクスィオーン先生ご自慢の守護精霊も同じく行方不明なようだ。これについては《《もしも》》ということがあるので、なんでもいいので情報を持っている者はどんな事でもいいから学園まで至急に知らせて欲しい」と。


 その「もしも」の意味合いを考えたのか、生徒たちのざわめきが酷くなった。たぶん想定する最悪の状況を想像したのだろう、中には顔色を悪くしている数人の生徒の姿がちらほらと見える。


 私はそれを聞いて、あの時のグラヴィスたち教師の焦った顔を思い出していた。つまり「もしも」というのは、ある意味で最悪の状態……レフレクスィオーン先生が守護精霊に見捨てられて“加護無し”になってしまったのではないか。そしてその事実を受け入れられなくて現実逃避した末に自ら行方をくらましたのではないのか……。学園長はそう疑っているのだ。


 この学園でレフレクスィオーン先生が“加護無し”を毛嫌いしているのは周知の事実だった。そんな人がもしも自分が“加護無し”になったらどうなるのか……。みんな、もしかしたら自暴自棄になっているのかもしれないと考えたのだろう。そのせいかはわからないが、いくつかの刺さるような視線がこちらに向けられているようだった。


 これだけでも学園を騒然とさせるには充分な騒ぎだと言うのに、学園長の話はさらに続いた。その間もこちらに向けられる視線はどんどん増えている。その視線に込められる気持ちが好意かそうではないかなんて、考えなくてもわかるだろう。


 私をどれだけ見つめたってこの事件が解決するわけではないのにな。と、そう思わずにはいられない。


「……実は王家から緊急の連絡が来たのだ。隣国のアレスター国では突如、守護精霊が消えてしまい教会によって“加護無し”になったと判断され烙印を押された人間が……その、続出していると……。これは厄災だと判断されたのだ。精霊たちが人間を見限り、人間の世界が滅亡する前触れだとも言われた。

 だ、だから、当たり前の事だが自分の守護精霊を大切にするように!もし、ぞんざいに扱っている自覚がある者は自身の態度を改めて関係の改善をするようにと!……そ、それから、これから言う事をもっとも重大な発表であって……」


 “この世界に厄災が降りかかっている”のだと宣告する学園長の声はかすかに震えている。顔色はどんどん悪くなり次の言葉を発するのを躊躇っているようだった。学園長自体にはそれほど嫌な記憶は無いが、たぶん表に出してなかっただけで“加護無し”についてよく思っていなかったのだろう。きっと、その危機が目に見える範囲に近付いている恐怖を感じているのだ。


 さっきアルバートからも聞いた通りだ。ある日突然、守護精霊が消えてしまい呼び掛けに応えてもらえなくなった人たちは“精霊に見捨てられた存在”として混乱のさなかに国から“加護無し”の烙印を押されてしまい捕まってしまっているのである。本人たちだって訳がわからないだろう、まさかそれを仕組んだ黒幕がアレスター国の王族だなんて……。もしかしたらジュドーもそのことを知っていたのだろうか?もし知らなかったのならば、この場の何処かでこれを聞いて驚いているのかもしれない。


 そして、学園長は大きく息を吸い込み、口を開いた。



「────我がガイスト国の第二王子、ジェスティード様がアレスター国より派遣されてやってきた教会の者によって“加護無し”の烙印を押されてしまい連行されてしまっなのだ……」



 その言葉に、ほんの一瞬その場が静まり返った。しかし次にざわめきが起きる前に、私たちはいつの間にか数人の見知らぬ人たちに囲まれていたのである。



「わぁ!この人たちって今、学園長が言ってたアレスター国から来た教会の人たちじゃなぁい?」


「……まぁ、そうでしょうね。すでに王家まで“加護無し”狩りの手に落ちていたとは驚きですが」


 ルルとアルバートが私の前に一歩出ると、エメリーたちが後ろを守るように私に背を向けた。周りの生徒たちは動揺を隠せないように私たちから距離を取っていたが、数名が青ざめた顔でその場を逃げ出していた。彼らはちらりとそれを確認していたが追おうとはしない。どうやら今の目的は私のようだ。そして張り付けた笑みを浮かべたまま、ルルとアルバートに視線を向けた。


「見たところ、そこのおふたりにはちゃんと守護精霊がおられるようですな。精霊に守護されている人間には関係がないことでございます……そこの“加護無し”のご令嬢をこちらに渡してもらいましょうか。第二王子ですら“加護無し”として裁きを受けるというのに、たかだか公爵令嬢がお咎め無しなんて誰も納得しますまい。それに、そこのご令嬢は生まれた時から“加護無し”であるとか……そんな穢らわしい異物をのさばらしていたとわかればこの国の品位が疑われますぞ?これは全て精霊の意志。今からでも正さねばならないのです」


 教会の人間だと言う彼らがニヤリと気持ち悪い笑みを見せつけてきた。そしてその手が私に向かって伸ばされた次の瞬間────その手は燃え盛る炎に包まれたのだ。


「う、うわぁ?!」


 目の前で燃えるそれは全く熱さを感じなかったが、相手を驚かせるには充分だったようだった。見た目は派手だが熱くないように調整されている高度な精霊魔法だ。そして驚いたそいつが手が引っ込められるとふわりと空気が揺れ、その場に牙を剥いて怒りの表情を隠さずにいるクロが姿を現した。


『フィレンツェアお嬢ちゃんに勝手に触るんじゃねぇぞ……!』


「こ、この精霊は……!まさか、第二王子の守護精霊だった精霊……?!」


 どうやらクロがジェスティード王子の守護精霊だったことは有名なようだ。だがその驚きようは尋常ではないように見える。まるで、《《クロがこの場に存在するはずがない》》とでも言いたげなのだ。


「な、なぜここにいるんだ?!」


「そ、そうだ!確かに消えたはずでは……!」


「いや、きっとニセモノだ!《《一度消えた精霊》》が戻って来るなどあり得ない……何が目的だ、このニセモノめ!」


 やたらとクロを「ニセモノ」と連呼してくるが、クロが威嚇をやめることはない。確かアレスター国の教会は精霊に敬意を払い、精霊の意志を尊重しているらしいのに、目の前の精霊に向かってそんな様子は全く無かった。


『あぁ゙ん?ニセモノだなんだとごちゃごちゃうるせぇな。俺様は俺様だってんだ!ジェス坊……いや、ジェスティード第二王子の守護精霊は確かに辞めたがよ。だがなぁ、今はこのフィレンツェアお嬢ちゃんの守護精霊になりたいと思ってんだ。だからこうやって付き纏って口説き落としてる最中だっつうのに、それを邪魔するってんなら容赦しねぇぞ!』


「な、なんだと?!そんな馬鹿なことがあるはずが……」


「いや、それ以前に精霊が契約者をコロコロと変えるなど聞いたことがないぞ……!それに王族の守護精霊は誉れ高き存在だ!それを自ら捨てるなんてあり得ないではないか!この精霊は嘘をついておるぞ!まさか精霊が王家の守護精霊の品位を落とそうというのか、このニセモノめ!」


「やはりニセモノだ!」





『────うるせぇって言ってんだろうがぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!』





 すると痺れを切らしたかのようにクロが唸り声を上げた。同時に炎が乱舞し、放たれたオーラの強さにそれを見ていた生徒たちはその場で腰を抜かしてしまい逃げたくても逃げられなくなってしまっているようだった。


 ドラゴンの咆哮にも負けないそれはさすがというべきか。気が付くとルルの肩には手のひらサイズのセイレーンが姿を見せていて、頬を赤らめながらクロに向かってパチパチと拍手を送っている。ちなみにアルバートの襟元からはニョロが顔を出していて『なかなかやるでございますわねぇ』とクロを称賛していた。


『俺様は俺様以外の何者でもねぇんだよ!一体俺様が何のニセモノだっつぅんだ?!てめぇらの言う“ジェスティード第二王子の守護精霊”はもう存在しねぇ!俺様はただの炎の精霊だ!なんか文句あんのかごらぁぁぁぁぁ!!!』


 クロはさらに口からも炎を吐き出し、炎は勢いを増した。まるで阿鼻叫喚図のように燃え盛っている。だがやはり熱さは感じないし、草や誰かの服が燃えてる様子もなかった。キレているように見えるが冷静に魔法をコントロールしている証拠だろう。


「……うーん。温度は完璧だけど、パーフェクトファングクローちゃんってばやりすぎじゃない?いくら本当に燃やさないからって激し過ぎたら後が大変だよぉ?」


 ルルが飛んできた火の粉を掴み取り手の上で転がしながらそう言うと、アルバートがやれやれとばかりに肩を竦めて見せた。


「ジェスティードのお世話でストレスが溜まっていたんじゃないですか?または、ジェスティードが“加護無し”として連行されたと聞いて腹が立っているのでしょうね……あいつらにも、自分自身にも。それでも魔法は完璧ですし、大口を叩くだけはありますが……なんであの実力で空想生物ではなくライオンの姿を選んだんでしょうか。あれほど強い力があれば、自由に姿を選べたでしょうに」


 そしてアルバートは「まさか、ジェスティードを怖がらせない為……なんてね」と、ポツリと呟いていた。それはルルにも聞こえていたようで、チラリとクロを見てから笑っている。私も、無双するクロの背中を見つめていた。



 クロは後悔しているのだろうか?いくらジェスティード王子の方から守護精霊を辞めさせたといっても、もしもクロがそのままジェスティード王子の側に残っていればこの事態は避けられただろう。


 ただ、そうだったのならば今頃ジェスティード王子は学園長の隣にふんぞり返るように立っていて教会の人間に「“加護無し”のフィレンツェアを捕まえろ!」と偉そうに指示していたに違いない。その姿が脳裏に浮かんできて容易に想像が出来る。そしてアレスター国で続出している“加護無し”たちの事も馬鹿にするのだろう。高笑いしながら自分だけは絶対に大丈夫だと謎の理論を振りかざして……。


 今はこれまで自分が馬鹿にして蔑んできた立場になってしまったようだけれど……今、ジェスティード王子が何を考えているのかはわからない。もしかしたら恨み言を言っているのかもしれないが、もしもそれがクロに対してならば逆恨みもいいところだ。


 きっとクロはジェスティード王子を守りきれなかった事と、彼を変えられなかった自分の無力さに怒っているのだ。本当なら我を忘れて暴れたいだろうに、私のために理性を保っていてくれるのもクロの優しさだ。


「……そっか、そうだよね。《《いつも》》会わせてもらえなかったから《《今回も》》つい、避けてたけど……少し関わっただけでパーフェクトファングクローちゃんがとっても優しい守護精霊だってわかったもん。《《今回は》》ジェスティード様にパーフェクトファングクローちゃんの気持ちが届くといいんだけどなぁ……」


 ふいに、ルルが遠くを見つめるように目を細めた。


 未だにルルの事はよくわからないままだが、転生者とは少し違うのではないかと思っている。そんな単純なことではなく、もっと複雑な理由があるような気がするのだ。そして、決してジェスティード王子の事を愛しているわけではないらしいということも。だが彼を踏み台にして何か企んでいるわけでもなさそうだった。その心情の深いところはどうしても読み取れないでいる。



「くそっ……なんて強さだ!まさか本当にあの守護精霊なのか……いや、そんなはずはない!」



「そ、そうだ!どうせお前はただの野良精霊なのだろう?!どうやらそこの“加護無し”を庇っているようだが、まだ契約していないのなら結局そいつは“加護無し”だ!生まれ落ちた瞬間に精霊に見捨てられるような人間が精霊と契約なんて出来るわけがない!だいたいその令嬢は嫌われ者として有名で、婚約者どころか家族にまで虐げられている厄介者のはず!そんな人間を庇う価値など無いのだ!」


「あの、ひとつ聞きたいのですが……いいですか?」


 唾を飛ばしながら喚く教会の人たちに向かってアルバートが手を挙げた。それを合図にしたかのようにクロが炎を吐くのを止めると、あれほど渦巻いていた炎があっという間に鎮火したのだ。それを見て彼らはあからさまにホッとした顔を見せたが、クロの動向が気になるのかそわそわとしている。


「ん、んんっ!な、なんだね?君は《《ちゃんと》》守護精霊がいるようだが……」



「いえ、ちょっと疑問に思っただけなんですが……。あなた方は“加護無し”と認定した人間を連行していると言っていましたが、それはどこに?そして、連行したとして……なにをするんですか?」



「それは……我々の教会で神に仕えてもらうのだよ。“加護無し”とは精霊に見捨てられた存在だ。つまり心が穢れているのだ。だが我々の崇める神はそんな人間すらも救済したいと考えておられる。また精霊が戻ってきてくれるように神の元で禊をして身も心も清らかにしなくてはならないのだ。神はその為の試練をお与えくださる。神がお許しくだされば、自然と守護精霊が戻ってくると我々は考えている。これは精霊の意志でもあるのだ」


 だから、ガイスト国の王子だろうとアレスター国の教会に連れていくのだと。彼らはそう言った。



「では、“加護無し”になった王子はその神が許せば守護精霊が戻ってきてこの国に帰れると?しかし元々“加護無し”であるフィレンツェア嬢はどうするつもりなんですか」


「ああ、ジェスティード第二王子も神がお許しになれば本物の守護精霊が戻ってくる。そうすればすぐにでもガイスト国へお返ししよう。“加護無し”令嬢も心の穢れさえ落とせれば、もしかしたら精霊がやってくるかもしれないぞ。言っただろう?これは救済なのだ」


 さっきは私のような“加護無し”が精霊と契約出来るわけがないと喚いていたが、今は精霊をエサにして釣り上げようとしている感じだ。言っていることにイマイチ一貫性が感じられない。というか、今クロが私と契約したいと思っていると言っていたのにそれは無視なのか。


 なにがなんでも、“私”を連れていきたいらしい。




 だから私は────。







 ***






 小さく息を吐いたフィレンツェアが、アルバートとルルを押し退けて一歩前に出た。



「……わかったわ。そうすれば私に守護精霊が出来るというのならば、あなた方に従いましょう。神に祈ればいいだけなら簡単だもの。それに私、どうせなら美しい精霊が欲しいのよ。こんな野蛮なライオンではなくてね」


 自分を守るために炎を吐いたライオンの精霊を鼻で笑うその姿は、少し前まではよく見かけた傲慢な悪役令嬢そのものだった。



『それなら俺様はついていくぜ!どんな精霊よりも俺様の方が強いってことを証明してやる!』


「くくく……いいでしょう。では我々の馬車にお乗りください」



 こうしてフィレンツェア・ブリュードは行ってしまった。残された生徒たちは自分の不安を掻き消すように口々にフィレンツェアへの不満を口にしている。もうその日は授業どころではないと、青ざめた何人かが急いで帰宅していた。




 主を失ったブリュード家の侍女たちは表情を変えること無く黙って移動した。さすがは嫌われ者の悪役令嬢だ、使用人に心配さえしてもらえないのかとせせら笑う声が聞こえるほどだった。


 そしてアルバートとルルが《《顔色の悪い新人侍女》》に付き添っているのが見えたが、誰も構う余裕がないのかそれを咎める人間はいなかった。





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