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第79話 ◆伊達家と四条棗

「で、調査課は、【脚力】とか【腕力】系の天恵を有効活用して、(ポータル)周辺の調査が主だな。戦闘が必要な場合は、避難して派遣所に連携したりする。管理区域のモンスター数の把握なんかもこれに該当するな」


 ケーキを食べる伊達兄妹を前に、指を折りながら説明する四条(しじょう)(なつめ)


「この丁寧な説明、聞いてんだよな? 聞いてくれてますよねぇ!?」

「「美味しかったー!」」

「何でケーキの感想が出てくるんだよ! 『はい』か『いいえ』で答えろよ!」

「四条さん、今一人暮らし?」


 (みこと)の唐突な質問に、四条は困惑を浮かべながら答える。


「……派遣所の寮だよ」

「門限ある?」

「20時まで。おい、何だよこの質問!?」

「じゃあ帰りはお兄ちゃんが送ってくれるよ」

「何で帰りの話が出てくるんだよ!?」

「お父さんなんとか回復したって」


 そう言って(みこと)と玖命が立ち上がる。


「な、何だよぉ……?」

「四条さん、良かったらウチでご飯食べて行きなよ」


 そんな(みこと)の提案に、再びあんぐりと口を開ける四条。

 すると、そこに玖命が補足するように言った。


「さっき言ってたオムライスですよ。(みこと)のは絶品ですから」

「な、何できゅーめーの家にお呼ばれされなきゃいけないんだよ!?」

「伊達家には、ご馳走になったらちゃんとご馳走し返すという家訓がありまして」

「ご馳走させられたんだけど? だ、だったら、この中でご馳走してくれれば――」


 そう言い掛けたところで伊達家の二人が目を光らせる。


「外食とか無理に決まってるじゃないですか……」

「そんなお金あったら借金返済に充ててるわよ……」


 一瞬、ほんの一瞬だが伊達家の闇を見た四条は、口を横一文字に結び、「はい」とだけ返事をしたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「へぇ、鑑定課エースの四条さんか。伊達一心(いっしん)です。よろしくお願いします」

「あ…………ども」


 ぺこりと頭を下げる四条。

 玖命と(みこと)の父、一心の姿を見、四条の目が不可解に染まる。


(この男があの兄妹の元凶……! だけどなんか…………普通だな?)

「「ふんぬっ!!」」


 玖命と共に、一心が叫ぶ。

 (みこと)セレクションという名の買い物袋を両手に複数個。

 二人の気合いは凄まじく、四条を驚かせる。


((腕が……なんか凄い!?))


 袋の持ち手がギチギチと食い込むも、二人の顔は涼しいまま。なのだが、


「親父、大変そうだな。持ってやろうか?」

「何言ってるんだよ玖命? 天恵があろうとも父との差はないと知れ」

「痩せ我慢が顔に浮き出てきてるぞ」

「くっ、何のこれしき!」


 意気込む一心に(みこと)が忠告を入れる。


「お父さん、卵割ったらお父さんだけチキンライスだからね」

「馬鹿な!?」


 そんな父を置き、玖命はすいすいと歩き始める。


「おい玖命! ちょっと早いぞ!?」

「え? そうかな? じゃあ、おぶってやろうか? 親父?」

「くっ、いつの間にかデカい背中になりやがって……!」


 そんな寸劇を見せられ、四条は(みこと)に聞く。


「何だアレ?」

「いつもの二人よ。昔はお兄ちゃんがお父さんに張り合ってたんだけど、今じゃ完全に逆転」

「え……? て事は、あの人も今の玖命と同じ煽り方を!?」

「面白いでしょ」


 言いながらカラカラと笑う(みこと)に、四条は呆れ交じりの溜め息を吐いた。


「やっぱりこの兄妹の父親か……」


 そう呟き、肩を落としながら張り合い続ける一心と玖命の背を見ていたのだった。


「これが……伊達家」


 見上げるも、そこにあったのはありふれた一軒家。


「とてもお金がないようには見えないんだけど?」

「貸家なのよ、ここ」

「でも結構高いだろ?」

「お父さんの会社の社長がオーナーだから、かなり安く貸してもらってるの」

「なるほど、そういうカラクリか」

「本当にありがたい事だけど、この家が原因で、お父さんも色々あったみたい」

「色々……?」


 そう聞くも、四条が求める答えは返ってこなかった。


「さ、入って。すぐできるから、お兄ちゃんとでも遊んでて」

「お前、私を何歳だと思ってるんだ?」

「あ、同い年だっけ?」

「そうだな」

「じゃあお兄ちゃんとリバーシでも……」

「もう少しまともな歓待は出来ないのか……」


 それ以上の答えはなく、四条は諦めて玖命の用意したリバーシを始め……ようとした。


「……なんでリバーシの用意するのにビニール袋が出てくるんだよ」

「この中にリバーシが入ってるんだよ」


 そんな玖命の言葉を、四条は理解出来なかった。

 玖命がビニール袋を逆さにする。

 直後、テーブルに降り注ぐ紙吹雪。

 丸い紙を持ち、四条が目を点にする。


「これ……新聞紙か……?」


 震える手で、白と黒で両面が塗られた新聞紙を持つ四条。


「いくら金がなくても、今時100均でも買えるだろ!?」

「でも、作ったし……」

「わかった! わかったよ! これでいいよ!」


 もう伊達家に関しては諦める他なかった。

 四条はその考えの下、玖命のリバーシに付き合うのだった。

 その後、12戦し、一度も勝てなかった四条は半泣きになりながら(みこと)が用意したオムライスを食べ、幸せの笑みを伊達家に振り撒いた後……後悔した。


「こ、こっち見るんじゃねぇよっ!」


 四条の笑顔を見、ニコニコする一心、玖命、そして(みこと)

 伊達家のプレッシャーとオムライスの美味さが噛み合わず、四条は俯きながら、黙々とオムライスを口に運ぶのだった。

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