第356話 ◆不敵な七海総一郎1
七海がパチンと指を鳴らすと同時、玖命たちの眼前に無数の人間が現れた。
当然、その中には――、
「儂を狙った者もおるな。玖命、気を付けるのじゃ!」
山井の忠告を聞き、玖命は腰を落とす。
(三十人~四十人ってところか。天恵は第三段階~第四段階。それにしても……奴らのあの腕輪は……?)
玖命はアーティファクトとは別に、はぐれの集団が揃って装着している腕輪に着目した。
(いや、今はそれを気にしている場合じゃない。とにかく、今は奴らに囲まれるのは厄介……っ!)
玖命が気合を込めると同時、川奈、鳴神、山井、水谷の戦力が底上げされる。
「うっそ……これって高幸の……!?」
水谷は玖命の【元帥】の力に驚き、玖命の背中を見る。
しかし、玖命はその驚きなど意に介さず水谷に言った。
「水谷さん、集中。集中ですよ」
そんなアドバイスのようで、忠告のような玖命の言葉に、水谷はハッとして腰を落とす。
「後でちゃんと教えてよ、玖命クンっ!」
現状、【元帥】の力で戦力が上がったとて、【命謳】の中で一番弱いと言えるのが、【剣皇】水谷結莉である。
第五段階に匹敵する力を持つとはいえ、第四段階の集団に囲まれれば絶命は必至。
更に――、
「む、むむむむっ!?」
川奈が天才たちの装備を見て目を見張る。
「す、凄いですよ、伊達さん! この人たち、全員複数のアーティファクトを持っています!」
川奈の助言通り、そう言いたげに七海が笑う。
「くくくく、麻衣に恋い焦がれた執拗なストーカーが誘拐を企み、七海のボディーガードに阻まれる。今回のシナリオはこんなところか? いや、クラン【命謳】まで私的に動かした異常者……こちらの方がニュースの見出しとして最適だろうか? ふふふ、どうかな麻衣?」
「……鏡を見たら?」
「ふむ、爽やかな敏腕社長が映っていると思うが?」
御剣の皮肉はやはり届かない。
しかし、七海の言葉に反応した者がいた。
「伊達さんがそんな事する訳ないでしょうがっ!」
川奈ららが怒りを見せ、同時に気合い込め周囲の天才たちのヘイトを集めた。
それが開始の合図となり、無数の天才たちが川奈に飛び掛かる。
それを待っていたのが鳴神翔である。
「嬢ちゃんに手ぇ出すんじゃねーよ、ボケェ!!」
反撃の一手、これまで溜まりに溜まっていた鳴神の拳が決まり、はぐれの一人が吹き飛ばされる。
しかし、川奈へ向かうはぐれの数は十や二十ではきかない。
だからこその――、
「こっちにも来い……!」
玖命のヘイト集めが活きる。
このヘイト集めにより、はぐれたちの標的が玖命と川奈に分散される。
更には――、
「っ!? 狙撃だっ!」
一人のはぐれが叫ぶ。
飛来したのは、月見里梓が放った【KW-00K】の弾丸。
室内はあっという間に崩壊し、その底が抜ける。
七海は階下に落ちていった【命謳】をニヤリと見つめ、見送る。
「伊達さんっ!」
御剣の心配も、無数の金属音にかき消されてしまう。
山井、水谷が遊撃を担い。玖命と川奈に釣られないはぐれと戦う。
鳴神が川奈の横を守る。川奈の背には玖命が控え、多くのはぐれたちを捌く。
「ぬぅ、やはり手強いのう……!」
「数は正義ってかぁ!? しゃらくせぇ!」
それを見た玖命が違和感を覚える。
(それだけじゃない。翔とたっくん。いや……皆の反応速度が悪い……?)
本来であれば、第六段階に近い実力となった山井や鳴神が、複数相手とはいえ、第四段階相手に出遅れる事はない。
しかし、多対一とはいえ、互角に追い込まれているという事実。
玖命は冷静に周囲を監察した。
上階にの応接室のような部屋とは違い、その階下は会社の一室というには余りにもおかしな部屋だった。
一面白塗りのトレーニングルーム。
更にははぐれたちが装備している腕輪。
玖命は答えこそ出せなかったが、最初に目に入ったそれをいち早く狙った。
「っ!?」
玖命により、腕輪を破壊されたはぐれの男が蹲る。
攻撃は受けていない。ただ腕輪が破壊されただけ。
しかし、それだけで答えに近づいた者がいた。
「なんとっ!? これはもしや……!」
「あぁ!? どういうこった!? いや、待てよ……!?」
山井、鳴神がヒントを得、玖命が確信を得る。
「重力室か……!」
そう、腕輪を壊されたはぐれに限り、急に動きが悪くなったのだ。
「なるほどね、腕輪は重力の制御装置って訳ね!」
水谷の捕捉にを聞き、川奈が動く。
「むぅ……てぃ!」
なんと川奈は、敵のはぐれの腕輪を強引に奪い、自身に取り付けたのだ。
「おぉ~……身体が軽くなりました!」
「お、いいね~! 私もマネしちゃおう!」
そう言って、水谷もまた相手の腕輪を強奪する。
続き、山井、鳴神もそれを奪い取り、装着する。
「ほっほっほ! やはりこれくらい動けんとなっ!」
「カカカカカッ! これで全殺しだぁ!」
力を取り戻した【命謳】のメンバーに対し、玖命が大きな溜め息を吐く。
「はぁ、何か仕込まれてたらどうするんですか……」
皆に呆れつつも、頼もしさを覚える玖命だった。
しかし、そんな【命謳】有利の光景を見下ろしつつも、七海総一郎は不敵に笑うのだった。




