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モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜  作者: 和宮 玄
第二章 探索学院編

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1年E組

カクヨムでは更新していたのですが、久しぶりの執筆でバタバタしていて……。

なろうでの更新作業に手が回らず、申し訳ありません。なるべくこちらでも更新できるように頑張ります。


カクヨムでもアカウントをお持ちの方は、あちらもフォロー等していただけると、最新話が少し早く読めるかもしれません。

検索していただけると幸いです。

引き続きよろしくお願いします!

「ジント! ユキノ……!」


 トロッコを降りると、馴染みのある声が聞こえてきた。

 俺たちより先に駅へ到着していた面々の中に、ゲーム【ラスティ・マジック】のヒロインである彼女もいたようだ。


「うそ、アイシャ!?」

「まさかお二人と同じクラスだなんて。良かったです! 私、すっごく緊張していたので」


 ユキノがアイシャと駆け寄り、キャーと手を合わせて跳ねる。


 すっかり仲良しだな……と思いつつも、俺は多少の気まずさを覚えずにはいられなかった。

 何しろ最後に会ったときがあれだ。アイシャから謎の『尊敬宣言』を受け、そして今も何故かキラキラとした目を向けられてしまっている。


「……ひ、久しぶりだな」

「はいっ!」


 無言でいるわけにもいかず声をかけると、威勢の良い反応が返ってきた。

 ユキノに対してのそれとは異なる、親しみとはどこか違った隔たりを感じる。


 どうしたものか。

 俺としてはゲームで見ていたヒロインという認識をやめ、なるべく現実に生きる一人の人間として接しようとしていたのだが。

 肩の力を抜き、対等な存在として親しくなれるように、と。


「尊いっ」

「……ん?」


 頭を煩わせていると、アイシャがぼそりと言った。


「あ、いえ! な、なんでもありません! ただ思っていたことが口に出てしまったというか。いえ、別に思っていたことでもないのですがっ」

「もうなにそれ」


 顔を赤らめあたふたするアイシャを、ユキノが笑う。


 俺が知っているアイシャには、こんな一面があっただろうか。

 何だか変なところが出てきてしまっているような気もする。だが、これも自然な彼女らしさというやつなのだろう。

 ……おそらく。


「俺たちもそろそろ行くとするか」


 他の生徒たちは目の前にある階段を登っていっている。


「ちょうど、あの二人も来たみたいだしな」


 次のトロッコから降りてくる生徒たちに目を向けると、その中に知人の姿があった。

 ユキノが目を丸くしている。


「え! ナツミとロイも……!?」


 アイシャに加え、実技試験を受験した際に同じグループになったナツミやロイ。

 そしてさらに、ゲームをプレイしていた俺からすると他にも見知った顔ぶればかりの総勢28人。


 これがゲームでプレイヤーが所属することになっていた、メインストーリーで中核を成す人物が多く集まる1年E組の生徒たちだ。


「よう、ジント! まさか一緒のクラスとはな」

「すごっ。良かったじゃん、ロイ。『オレはジントにも誰にも負けないように、学院で立派な探索者になってやる』って燃えてたからね〜」

「あ、お前っ。別にそんなキリッと言ってないだろ。キリッと」


 拳を作りながらナツミが、ロイの声真似をする。


「ユキノたちのお知り合いですか?」

「うん、友達。紹介するわね」


 ユキノが何気なくそんなことを言い、アイシャを二人に紹介する。


 ……友達、か。

 ユキノにとってはアイシャだけでなく、ナツミやロイもすでに友達と呼べる存在になっていたようだ。

 果たして俺にとってはどうだろうか。


 階段を登りながら互いに挨拶を済ませ、一気に賑やかになった四人。その後ろに続きながら、俺はそんなことをふと考えた。

 しかし振り向いたユキノに声をかけられて思考は中断させる。


「ジント、教室すごいよ……!」

「おお。思ったよりも広いな……」


 階段の突き当たりにある扉を抜けると、重厚で上品な机が並んだ教室に出た。


 席は一列ごと傾斜がつけられている。講義室のような景観だ。

 ゲームの画面上で見ていた印象よりも天井が高く、広々として感じる。


 ユキノが窓の外を眺め、首を傾げた。


「あっ。グラウンド……に、森?」

「ここも【魔空間扉マジックドア】の中みたいだな。トロッコでいくつか空間を越えて、また別の空間に入ってきたんだろう」

「【魔空間扉】の中から、さらに【魔空間扉】を通って……わっ、もう頭が混乱してきた」


 俺の解説で余計に混乱させてしまったらしい。

 その様子を見て笑うアイシャが、教室を見回す。


「席順は決まってないようですね」

「じゃー、あそこらへん空いてるし座ろっか」


 その言葉に、ナツミが中央の最後列に向かうことを提案する。

 ゲームにおいて、まだこの段階では二人に交流はなかったはずだが、現在は早くも打ち解け始めているようだ。


 変化が生じ始めている。

 きっとこれからは、結局はもう自らの受け入れ方次第なのだろう。

 これから待つ不確定要素に対する懸念も、友達という概念についても。


 あまり深く考えても意味はないとわかっている。

 しかし俺という人間にはどうしても、頭を空っぽにして底抜けに明るく今を楽しむことができない。


 そんな自分に呆れながら、席につき教室内を見渡してみる。


 するとやはり、まだ俺にとって友達という言葉がしっくり来る人物を見つけられはしなかった。


「──全員揃ったようだな」


 そうこうしていると、俺たちが来た扉とは反対側にある引き戸が音を立てて開いた。

 廊下からカッカッと靴を鳴らし、黒髪をなびかせて入ってきた美女。


「私がE組の担任を務めるビビアンカ・スミスだ。お前たちは、いずれ未開の地を切り開くことを期待されている探索者たちだ。決して忘れるな。口を開いてれば勝手にエサがもらえる雛鳥ではない」


 教壇に手をつき、優しさを感じさせない真顔で放たれる文言。

 ゲームで初登場した際にビビアンカが言っていたものと、ほとんど同じだ。


 ビビアンカ・スミス──俺と同じ境遇の転生者で、前世で【ラスティ・マジック】をプレイしていた時のフレンドである彼女は、きっと今日のために練習していたのだろう。


「自力で孵化しろ。やがて空高く飛び立て」


 真っ直ぐ伸びる声に、誰もが背筋を伸ばしている。

 ユキノも隣で唾を飲み込み、手を力強く握り拳を作っている。


 しかし、ゲームで俺が知っていたビビアンカと比べると、いささか人間味を帯びた表情に思える。


「──期待しているぞ」


 最後にそう言ったビビアンカと視線が交錯する。

 俺は他の誰にも気づかれないように、つい小さく笑ってしまった。


「では早速、まず第三探索学院での生活についての説明に入ろう。基本的に本校では、先ほど校長も仰っていたように『自由であること』が尊重されている」


 そのままビビアンカは学院生活の諸々に関する説明に入っていく。

 話を聞きながら、俺は頭を悩ませている問題について改めて考えることにした。


 ──本来であればゲーム本編にいたはずの人物の穴を、どう埋めるのか。


 プレイヤーが使用する才気あふれる主人公にあたる人物だけではない。

 このクラスには、骸廃坑道でのコープス・バット戦で命を落としたニックも欠けている。


 彼の末路を思い出すたびに呼吸のリズムが崩れた。

 目の前で散っていた命。今この場所にいたはずの彼は、もう決して戻ることがない。

 どうしたって忘れることができない重い記憶だ。


 だが──自責の念に脚を絡め取られ、歩みを止めはしない。

 前に進み続ける。俺はこの世界を自らの足で歩み、生きると決めたのだから。


 きっとビビアンカやユキノ、アイシャも本人にしかわからない形で乗り越えていくのだろう。


 人物が欠けた学院生活において俺にできることは、その都度、取るべき行動を選択していくことだけだ。

 ゲームでの知識を過剰に信頼せず、しかし有効に活かしていく。

 いざという時に力が及ばず、無念な思いに打ちひしがれることがないように。


 もちろん俺という人間の才能には限りがある。

 だからこそ、できる限り全力で、顔を上げて前に進み続ける。


「──話は以上だ。授業に出て、落第しなければ何も問題はない。優れた探索者を目指し、まずは一年間を無事に過ごせるよう各々がベストを尽くしてくれ」


 ビビアンカが話をまとめに入る。


「授業は明日からだからな。この教室への辿り着き方を忘れるなよ。初日から遅刻なんてことにならないように」


 ごく自然な、教師然とした態度だ。

 元からのビビアンカと、前世で大規模クランのリーダーを務めていた彼女の人格は重なる部分が大きいのだろうか。


 ビビアンカは、これからについてどういった計画を立てているのか。

 後で話を聞いておこう。

 生じる問題は可能な限り少なくし、学院における日々を円滑に進めたいのは彼女も同じはずだ。


「ではクラスメイトたちと親交を深め、今日のところはクラブ見学にでも行くといい」


 その言葉に、教室全体の空気が軽くなる。


「ユキノ、少し気になることがあるから先生に質問してくる」

「え、質問?」


 全体が騒がしくなり始め、俺が適当に理由をつくって腰を浮かしたときだった。


「……と、言いたいところだが」


 突然ビビアンカが声を張った。

 全員の動きが止まる。


「最後に一つだけクラス全体に共有しておこうと思う。本校に存在する公安会という組織には、二年次から参加を志願する権利が与えられる。しかし、先ほどの式典で挨拶をしていた現会長など、一部の者は教員の推薦を受けた結果、特別に初年度から参加が許可されている」


 唐突に始まった公安会の話題に、俺は目を細めた。


「入学試験の結果を鑑みて、今年度このE組から私はある者を推薦することにした」


 その言葉に、教室に緊張が走ったのが手に取るようにわかった。


 ゲームにおいて、このクラスから公安会に推薦された者はいない。

 まったく、彼女は何の目的で……。


 静寂のなか、ビビアンカは愉快そうに僅かに口角を上げる。

 ビビアンカが引き起こしたイレギュラーに俺も頭を掠めなかったわけではない。


 やはり、というべきか。


「────ジント・ウォルド、お前を公安会へ推薦する」


 彼女は俺を見た。


 少し遅れて、教室中から居心地の悪さを覚える視線が集まる。

 その眼差しのなかには純粋な羨望だけでなく、当然俺を見定めるような目もある。


 優秀な探索者を目指すために、この学院に来た者ならばビビアンカの言葉の意味を正確に理解したはずだ。

 誰もが得られる権利ではない、選ばれし者だけへの特別な恩恵を授かる。

 それがすでに秀でている人材が、他の生徒に比べ今後より多くの成長の機会に恵まれるエリートコースを歩み始めるということだと。


「納得いきませんわ! 彼よりもわたくしが推薦にふさわしいと、証明する機会をくださいませ!」


 だが、中には強く嫉妬の感情を表出させる者までいた。


 教室の最前列で勢いよく立ち上がり、激しい口調で主張したのはウェーブがかった金髪を腰あたりまで伸ばした少女だった。

 振り返ると後方にいる俺を鋭い目つきで睨み、あからさまな敵対心を見せている。


「……シビラ・アーウィン。何が言いたい?」


 眉根を寄せてビビアンカが尋ねる。


 シビラと呼ばれた少女は、ハキハキと力強く、一言ずつを区切るように答えた。


「模擬試合を申し込みます。勝利した暁には、わたくしを推薦してくださいませ」

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