第28話 可哀想に
コツン__
という音が、薄暗い地下室に響き渡る。静寂な空間に、その音が響き響き、一つ一つの足音が響いた壁や床に反響する。地下室の奥深くに佇む誰かの姿は見えない。ただ、その足音だけが、コツコツと淀みなく鳴り響く
地下__コンクリートの打ちっぱなしの壁、床、天井。
ここは城の地下にある牢屋である。
罪人を投獄する場所とは違う、ここは特別な牢獄でこの場所を知っているのは上層部のみ、しかも入れるのは許可を得たものだけ。
女王の許可が___
一つの牢屋で足を止める。足音の主
足音の主は黒いローブに身を包んでいて、に使わない宝石で装飾されたヒールが目立つ。
顔には黒い目の穴も鼻も口の穴も見当たらない、黒い黒いお面を被っている。
「あし……あしが……あし……」
牢の中には一人の男がいて、コンクリートの床には血溜まりができて、黒く固まっていることから時間が経っていることを示していた。
男の右足は見当たらず自分の足を見て
「おれの……あし……あし」
と、牢の前に佇む主にも目もくれず震えていた。
「アルデンも……酷いことをする」
鉄の、血の匂いからか鼻を塞ぐ。
ガシャンっと牢の檻に体当たりするような音が聞こえる
「おい……ナオト!ナオト……!」
っと、向かい側にいる男の声。いまさっき意識を取り戻したようだ。
「お前!おまえか……!誰だよ!なんで俺らを!なんでナオトの足をきりおとしたんだ!」
足音の主は振り向かずに口元だけをゆがめる
「おい!こたえろよ!なんでだよ……なんで……」
ペタンっと地面にへたり込む音。
「ナオトは……。陸上部で……この前自己記録更新したんだよ……足が……足がなきゃ」
「 あ”ぁぁ!!」と、雄叫びのような悲鳴か、鳴き声か……悲痛な叫びが地下に響く。
「だれが……誰がこんなに……!助けて……いやだ、助けてよ……ここはどこなんだよ……」
誰にやられたかも、ここがどこかも分からない。
不安と、次は自分かという恐怖
「可哀想に」
音の主がそう言って振り返る
面でくぐもった声、真っ黒なお面はシゲルの目線にしゃがみこむ
「可哀想に」
「ひっ__」
小さく悲鳴をあげた。
その可哀想という声は、同情する声では無い、悲しそうでも泣きそうでも無機質でもない
嬉しそうに、楽しそうに、まるで遊園地で遊ぶ子供のように
「可哀想に」
っと、今にも笑いだしそうな声色だった。
「痛いよね、足、分かるよ。」
再び振り返る、ようやくナオトは己の足から声の主に顔を上げた
「あし……」
「いたいよね。いたいよね、苦しいよね」
ガシャンと音を立てて牢が開く
「あ”ぁぁあ”!!ぁ”!」
あろう事か、ヒールで切断部を踏みつけ、断末魔が響き渡る
「やめて欲しい?」
「おねがい……やめ……てあ”ぁぁ”!いたい”いた”い”」
足を退けてしゃがみこむ
「女王陛下に仇なすからこうなる。もう逆らっちゃダメよ?」
「さからわない……さからわない!」
床にたおれ涙を流す
「私も痛かったから分かるよ、痛いよね。されて嫌なことは……しちゃダメよ?こうやって……無くなっちゃうかも」
「ごめんなさい……!ごめんなざい”!」
牢をでた主。
「おまえ……!一体なんだよ!!女王ってやつの手下か!こんなことして……召喚者にこんなことして許されると思うのか!女王がこれを知ったらあんたを、あんたらを許さないだろうな!!」
ガシャン、ガシャンと暴れる音、それでも金属音が響くだけで檻はビクともしない。
声の主はコツコツとまたヒールの音を響かせ階段を上がっていく。
先程とは違い照明により明るく照らされた部屋。
本棚が動き地下への入口を塞ぐ。
ソファーに座った主は足を浮かせる
「アルデン、靴の処理を」
にこりと笑うアルデンが立っていた。
「はい」
血塗れたヒールをぬがしたアルデン。
ローブを脱ぎお面を外す。
珍しい、髪色。宝石のような瞳が顕になる。
「どうでしたか、リリアン様」
「壊れる寸前……って所かな。止血はしたけど。まぁ落ち着いたら解放してあげてちょうだい」
「おや、よろしいのですか?」
口元に三日月を浮かべるリリアン
「だって__そうした方がいいと思うの。抑制力にもなるし、もう逆らおうだなんて思わなくなる。それに使える駒はあった方がいい、捨てちゃうのはもったいないでしょう?」
「では、殺さない程度に好きにしてもよろしいのでしょうか」
「いいよ。許可する、それにしても__」
足を組んでアルデンを見上げるリリアン
「なにか?」
「いいや、悪魔だなって」
「ふふ。急になにをおっしゃいますか、僕は忠実なる女王陛下の下僕。」
「よく言うよ、勝手に処分しようとしたくせに。いや、召喚者を実験台にしようとした……かな」
先程の笑顔はどこへやら、目を鋭くするアルデンが膝をつきリリアンの手に触れる。
「だって……リリアンに逆らうんですよ?森は出るなと言ってあったのに。それを少しの罰で許すなんて……やはりあなたはお優しい」
うっとりとしたように手の甲を撫でる
「血の匂いが着いたからテオに変な目で見られるかも、湯浴みをしたいわ」
「承知しました、気づかれぬように準備致しますね」
○王宮の大浴場
赤色の花びらが湯船に浮かぶ
ここは、宮殿にあるリリアン専用の大浴場
肩まで浸かるリリアンが大きなため息を吐いたかと思えばニヤリと笑う
「マッドサイエンティスにも困ったものね、忠実すぎる家臣も扱いに困る。でも__わざわざ私が手を汚さなくても上手いようにやってくれるなんて……」
あの__痛みで、恐怖で染まる顔……あぁ……
「なんて……なんて滑稽なんだろう。痛いよね、くるしいよね……あんたにカッターで切りつけられた足。私もやめてと懇願したのに辞めなかった。自業自得よね。私も怖かったなぁ」
おかしいとでも言うように花弁を手で水ごとすくいあげる。手の隙間から水が漏れ花びらだけが残る。
湯船から出て足湯のように座って足を揺らす。
「どうなるかな、壊れるかなそれとも……耐えるかな。そしてみんなのところに戻ったら皆はどんな顔をする?なんて言う?もう逆らおうだなんて思わないだろうなぁ……ふは。ざまぁみろ」
ジャバッと足を上げ水飛沫が飛び散る
しばらくそうしていただろうか。
後ろからパサっと音を立てリリアンの身体に真っ白のバスタオルが肩にかけられた。
「女王の入浴中に勝手に入ってくるってどういう神経してんの。ずーっと思ってたけど」
私に物を投げて渡したりとか。
そう言って少し振り替えるリリアン。
「やだなァ。あまりに長いから心配したんじゃないカ」
肩を竦める、燕尾服に身を包んだルシアンが手を差し出す。
バスタオルを身体に巻いてルシアンの手を取り立ち上がる。
「脱衣所の前でノーチェが護衛してるはずなんだけど?」
「だから言ったじゃないカ。心配だからみてくるっテ。あの子ウブっぽいからサ、恥ずかしがってたヨ」
「あなたがおかしいのよ。」
きっとノーチェも声掛けだけだと思っていたのだろう。
「怒られるから内緒ネ」
っと人差し指を口元につける
「はいはい。」
ルシアンは脱衣所の椅子にリリアンを座らせるとバスローブをかける。
リリアンはバスローブに腕を通し紐で結ぶと、バスタオルがパサリと地面に落ちる。
「あの子は上手くやっているかイ?」
「誰?……あぁ、アルデンね」
新しい綺麗なタオルでリリアンの髪から水分をとるルシアン
「アルデンは気は効くし知識もあるし有能よ。貴方と違ってデリカシーあるし?」
「うはは。ボクもそれぐらいあるサ、聞かないであげているんだから」
「……やな人」
「褒めてる?」
「褒めてないわ」
「あの子が羨ましいよ」
そう言ったルシアンの表情は伺えなかった




