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第22話 いい子ちゃん

○執務室


「アルデン、ただいま」


 執務室に入るリリアンにようやくか、というように溜息を吐くアルデンは席から立ちあがる。

ノーチェは今日はテオがいないからか扉の外で待機する。

 パタンと音をたてて閉じる扉。


「ずいぶん遅かったですね。それでどうでした召喚者は」

資料を持ち長机の方に異動するアルデン、するとリリアンが何も答えないことに気づき、リリアンの方を振り返る


 髪で影ができ、表情が伺えない

「リリアン様?」


 リリアンに手を伸ばすと、ニッコリと笑ったリリアンが顔を上げた、その表情はいつもの無邪気なような幼さが残る顔。


()()()()()()()()。ただ怪我人が出たわ」


 変わらない?というセリフに疑問が残ったがそれよりも気になることに口を開く

「怪我人ですか?」


「そう、腕の損傷が一人、全身切り刻まれたのが一人、どっちも重症だけど生きてるよ」


「そう、ですか、Dランクの冒険者がついていると来たんですが、そんなに深く潜ったのですか?」

 リリアンは首を横に振り、アルデンの前のソファーに腰掛け、クッキーをつまむ


事故で(・・・)地下に落ちちゃってね。ブリザードウルフが出たの、4回層…いや、5回層も魔物が喰われた形跡があったし、もっと深くで産まれたようね」

リリアンに紅茶を入れようとした、アルデンの手が止まる。


「ブリザード・ウルフ?この国のダンジョンにですか?」


「そ、おかしいわよね。まさか家臣たちが用意したわけじゃあるまいし...とりあえずギルドに連絡して封鎖しているわ、今度Bランク以上宛に依頼を出す予定。出てこられたら災害が起きるわ」


「えぇ、それは懸命な判断です、」

 コトッと置かれたティーカップを口づけるリリアン


「相変わらずミアやリタと同じぐらいに美味しい紅茶入れるわね」


 「無駄に長く生きていませんから...それより、僕の研究物、ちゃんと持ち帰ってきましたか?」


「もちろん」


リリアンは外にいるノーチェに頼み…一体の等身大の人形を持ってきた


「これは?詳しいことはよくわからないのだが」

 と人形を抱えたノーチェ


「僕の研究物です、エルフの国に生える魔力を吸って育つ木を使い、削りあげ人形にしました、これに魔法をかけることにより一時的に魂をこの人形に定着させます」


「なるほど、それがあの(・・)姿というわけか」


「そうよ、まぁレビューとしてはやはり距離が離れると魔力の伝達も感覚も鈍くなるし...弓使いにくかったわ」


 

これは、リリアンが召喚者達との謁見を終わらせた後にさかのぼる。



 「それで、リリアン様、話は戻りますがダンジョンでの召喚者達の引率はいかがなさいますか」


「そうね。冒険者ギルドに連絡して予定の日に出陣できる冒険者Dランク以上のパーティを揃えて。人選はレイセンに任せてあげて欲しい。あの子人を選ぶ目があるから」


冒険者の選抜を弟のレイセンに任せようとしたところで、リリアンがにやりと笑う


「アルデン、やっぱり私も行くわ」


「…はい?どういうことですか?変装の魔法をかけるとはいえ危険では...」


 それに首を横に振る


「ほら、アルデン…あれがあるでしょ」


「....なるほど、使わせろとおっしゃるのですね」


 アルデンが持ってきた人形に魂を定着させるリリアン

 本体のリリアンは気絶するように眠りにつき、人形の姿がリリアンに変わる


「やっぱり魔力とスキルの制限もあるわね。ノーチェ、私の部屋からお忍び用の服、そして本体をベットに寝かせてきてもらえる?」


 唖然としているノーチェ

「後で説明していただきますからね」

 そう言ってノーチェが意識のないリリアンの体を横抱きにして執務室を出ていく。


「リリアン、それはある程度ダメージを受けると人形に戻ってしまいます。そうなれば召喚者に気づかれ、不信感を抱かれてしまうでしょう」


「大丈夫よアルデン、わかっているわ」


変装の魔法で髪型も色も瞳も変え。リリアンから宮廷魔道士のリリスに変身したのだった


 ○現在


「なるほど、あれはそういう事だったんですね、それでもリリアン様。まだ未完成の研究物をあなたが試すなんて、何かあってからじゃ遅いんですよ」


「だってー」


「だってじゃありません」


 口を尖らせるリリアンに軽く説教するノーチェ


「まぁまぁ、何事もなかったし、僕としてはいいデータが取れたので」

「アルデン殿もだ、なにリリアン様に使わせてる、自分で試せ自分で」


「はい・・・」

 流れで怒られてしまったアルデンがしょんぼりと肩を落とす


 (まぁもっと地下に落ちるかと思ったけど、逃げ足が早かったわね)

 危機的状況に陥った時に起こる逃走反応とでもいうのだろうか。

 あぁいうときにやはり人間性というものが出ると感じる。


(それにしても…職業を明かさないのはなんでだろう....もしかして、勇者とか聖女じゃなければ殺されるとでも思っているのかな。)

そもそも、鑑定によりある程度の情報が見えるリリアンには関係のないことだが、召喚者はそのことをもちろん知らない。

 

ティーカップに再び口を付けたリリアンの唇が弧を描く


(そう簡単に死なせるわけないじゃない、いいように使って....死ぬよりもつらい目に合わせるに決まっている)


 薄っすらとティーカップから湯気が立ち込める、白い白い湯気をボーっと眺め

 少し前の記憶を呼び覚ます


(やっぱり、何も変わってはいなかった。人間の中身はそう変わらないか)

 

 本来、ユイがファイアーボールを放った後、壁でユイを隔離する予定ではなかった。あれは本当に偶然だったのだ。

氷と火によりでた煙。瓦礫の穴から脱出する召喚者達はみなリリスの背の方に走ったのだが、一人だけ、リリスの横を通りすぎ…


 ドン…とユイの背を押す()()()のサヤカ

(まさかあそこで押すなんて、もしばれたら私か他の人のせいにしていただろうな。)


 ユイは意識不明で顔や全身が嚙まれ引っかかれた跡が残り血濡れだった。

 おそらく捕食のためではなく、玩具で遊ぶ犬のような感じだっただろうか。


 

 白い煙と必死な状況のせいか、委員長がユイを押したというのはおそらく誰にも気づかれてはいないと思う。


あぁいう人間が一番何をするかわからないのだ、プライドも高く、沸点もわからない。そのくせ外面がいいのだ。


 ギュっとティーカップを握りしめるリリアン


 呼び覚まされる過去の記憶。

 (いっそ清々しいほどの....悪魔。いい子ちゃんの皮をかぶった女。委員長だけじゃない。大丈夫落ち着け私)


 カタカタと震える手を隠すようにカップを机に置く


(まだ復讐は....始まりのうちの一部にすぎない)

 


 

 

 

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