第二十一話 喧嘩
〇王宮
「…まったく、帰ってきてないのですか?」
「あぁ、まだだ」
豪華な扉の前で仁王立ちしているノーチェにため息を吐くアルデン。
「まったく、まだ仕事も終わっていないというのに、それに…」
「それは本人に言ってくれ」
「そうですね、はぁ、では帰ってきたら、執務室にいますので、リリアンを連れて来てください。」
まったく…っと言いながら踵を返すアルデン
「なぁ、リリアン何してるんだ?」
っと、テオが首を傾げる
「さぁ…。何をしてるかは分かるが、何をしたいかはわからない。まぁいつもの気まぐれだろう」
「???」
答えになっていないセリフに首をかしげるテオ
〇地下4階層
「ヒュッ…ヒュ…!あぁ…!」
「耐えて!」
脂汗を流し、ガンガンっと左腕を地面に拳を叩きつけるソウタが呻き声を上げる。
マリコが両手をソウタの右腕にかざし、そこからは淡い光が溢れ右腕に注がれる
「いだぃ…!あ”ぁ!いだ…ぃ”!!」
「まだ、くっつくかも」
「あ”ぁあ!」
「な、痛がってるだろ!」
リリスはソウタのちぎれ掛けた腕を押さえつけ、ギュッと腕を押し付ける、それにソウタは目を見開きより一層、悲鳴をあげる。
リリスの肩を掴むトウヤ
「腕が無くなるのと…どっちがいい?」
首をかしげるリリスにトウヤはうっ…と言葉が詰まる。
「まさか…あそこまでとは」
そうエリックが汗を拭う。
ここは、少し外れた壁の向こう側。
壁の隙間の奥に空間をみつけ皆はそこに避難していた。
近くにはウルフの子供と思われる死体が転がっている
それは、そこがウルフの巣があったことを示していた。
「かわいそう…」
サヤカは悲しげに眉を下げてウルフの子供の死体を撫でる。
タケルが瓦礫の隙間から外を見ると、まだブリザードウルフの唸り声が聞こえていた。
逃げてウルフの入れない場所に入ったのはいいが、ずっと外にいられては出られるものも出られない。
「どうする?ここは4階層…。ソウタも血がヤベェし…」
「ごめん…私魔力限界…」
マリコが魔力が尽きたらしく壁に寄りかかる。
リリスはソウタの腕を離すと腕はくっついてはいるがまだ血が流れ地面を濡らしていた。
リリスは少し離れたところで水の魔法で血を洗い流す。
「腕が残ってるだけまだいいさ。普通あのブリザードウルフに噛まれたら腕…いや上半身ごと無くなってるかも。装備がいいんだな」
エリックは励ましているのか、慰めているのか、それとも安心させようとしているのかそう言うが、逆効果で
「上半身…」
っと、ユイが顔を青くしていた。
「囮にしても、キルさんみたいなヘイト向けれる人も防御力ある人も…いないよね?」
タケルの声にその場は静まり返る、それはスキルを持っていないから黙っているのか、はたまた持っているが黙っているのか、例え持っていたとしても、クラスメイトが目の前で腕を持っていかれかけたのだ、進んで囮になると手を上げるものはいなかった。
「エリックさん、あのブリザードウルフ、弱点とか…ないんですか?あ、ってかミサとマリコはしらないの?」
ユイの言葉にマリコとミサがゲーム画面を頭に思い浮かべながら思い出そうとする。
それにエリックが床に片膝立てて座りながら答えた。
「ブリザードウルフは火が弱点だ。でかい図体の癖して素早いし、鼻も耳もいい。ほかの弱点は無いな。火については__君たちレベルの魔力回復を考えると…ユイさんとトウヤくんは続かないと思うしソウタくんもこの通り。俺も…、他のみんなも適正を考えると威力も魔力量も。最悪全員動けなくなってあいつの餌だ」
親指をぐいっと瓦礫の向こうに向けるエリック。
「それに____」
白い息を吐くエリック。
瓦礫で埋まった出入口は氷が張っていて、ブリザードウルフのせいか部屋の温度が下がっていることを示していた。
「ブリザードウルフは、災害級って言って。さっきも言った通り氷山にすんでる魔物だ。滅多に出てこねぇが、出てくると吹雪が収まらなく雪崩も引き起こす。地形も変えちまうやべぇモンスターをそう呼んでる。本当になんでこんな所に__」
こんなつもりではなかった…そう言って頭をガシガシと掻きむしるエリック。
「半日待つか…それとも」
っと言うタケルの声にトウヤが反応する
「これ、この副委員長の姿見てそんな事言えんのかよ!やべぇだろこれ!血が…ずっとながれて…マリコ!何とか出来ねぇのかよ!」
「無茶言わないでよトウヤ…。私だって…はぁっ…」
深呼吸しているマリコ。
温度が下がる部屋、重症のソウタ。その絶望的な状況
「もういやぁ!!」
ユイが甲高い悲鳴をあげて頭を抱え込み雪崩るように地面にへたり込む
「なんでよぉ…なんでこんなこと…帰りたい、帰りたいよぉ! いや…外に行ったら、あいつがいるんでしょ!」
「ユイうるさいよ! そんなこと言ったって仕方ないでしょ?」
「仕方ないってなに!? だいたい、ミサがあんな所で転ばなきゃ」
「はぁ!? あんたに押されて転んだんだけど! そもそもファイアーボール雑魚過ぎない? ちゃんと訓練したわけ?訓練ちゃんとしてれば副委員長怪我しなかったんじゃないの?」
「なにそれ! 私のせいだって言うの?」
「喧嘩はやめましょう! ねぇっ!」
「ちょっと委員長! ウルフの死体触った手で触んないで!」
喧嘩をし始めた、ユイとミサ。今にも取っ組み合いが始まりそうだった。
それをサヤカが止めようとユイの腕を掴むが、バシッと鈍い音を立てユイがサヤカの手払う。
それを見て目をつり上げるミサ
「はぁー?ユイあんた勝手すぎない?」
「それはミサのほうじゃん!」
「おい!喧嘩はやめろって!」
トウヤがまた始まる喧嘩に怒鳴りつける
「落ち着いて作戦を考えましょう。まずここに留まるのはお勧めしません」
「そうだな」
リリスの声にエリックは賛同し頷く。
「まず私が地の魔法でウルフと私達の間に壁を作ります。恐らくあの威力なら一瞬で壊れると思いますが…時間は稼げるかと」
「そうだ…な。だが壁を作るには時間がかかるし乗り越えられたら困る。そこでユイちゃん。ファイアーボールを当てて少しでも怯ませるんだ」
エリックにいきなり呼ばれたからかユイは肩をびくっと揺らす
「わ、私が!?嘘でしょ!?」
「ユイさんが希望なんだ」
エリックは真剣な表情で真っ直ぐユイを見つめる
「……わかった。分かったわよ」
「なら体が冷えてかじかむ前に行こう」
ユイが詠唱を初め杖の先に火の玉が出来上がる
エリックがリリスに目配せをし、リリスは頷く。
ソウタはトウヤが背負い、みんなの表情は真剣だ。
「では、手筈通り…!」
ガシャン!!っとリリスが魔法で瓦礫を壊しその穴からユイとリリスが飛び出す
「ファイアーボール!」
ブリザードウルフにファイアーボールが当たり氷が溶ける音共に白煙が広がり、その隙に皆が瓦礫から外に出る
「リリスさん!なにしてるの!?」
ユイは焦ったように後ろを振り向くと瓦礫の入口すぐで、リリスが詠唱していた。
白煙に包まれユイの姿も見えにくくなる。
すると
ドンッ___
「え?」
ユイが前のめりに転ぶ。
「アースウォール」
「ちょ…!」
その瞬間に詠唱の終えたリリスが魔法を展開し、壁が出来上がる。
白煙が立ち込め視界が悪くなる中…
マリコは、目を見開いた。
「グルル…ゥ」
「いや…!あけて!開けてぇええ!!」
壁の向こうからウルフとユイの声が聞こえ、どんどんっと壁を叩く音が響く。
「な、何があったんだ!?」
白煙が薄れエリックが振り向く。
「ユイさんが転んだように見えたんですが…!」
っとリリスは壁に手を当て魔法で壊そうとする。
「あぁぁあ”!ぁぁ”!!いや!こないでぁぁ”!!」
甲高い悲鳴と何かの水音。
マリコは呆然とその様子を見ていた。
(押された…?ユイちゃんが。でも…押したのは…)
マリコが1人の人物に目を移す。
(委員長…?)




