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第27話 元奴隷は佳境を制する

 俺は両腕を構えて突進する。

 暴風を突破しながら飛行して、炎を纏った拳で緑髪に殴りかかった。


 緑髪は蹴りで対抗してくる。

 脚は風を纏っていた。

 特徴的な音を鳴らしながら切断力を上げている。


 互いの攻撃が衝突した。

 俺の拳は、振り切れずに血を迸らせる。

 歯を食い縛ってその痛みに耐えた。

 指が千切れるほどではなく、十分に許容範囲だった。


 一方で緑髪の片脚は、黒く焦げている。

 肉の焼ける音がしている。

 割れた仮面から覗く目は、苦しそうに歪んでいた。


(炎と風の衝突で、互いの攻撃の威力が大きく減退したのか……)


 俺は結果を見て予測する。

 本来なら、片脚くらい千切り飛ばすほどの威力は込めていた。

 そうならなかったのは、風の加護によるものだろう。

 こちらも指が切り飛ばされなかったのは、同じく炎のおかげというわけである。


「ハアァッ!」


 負傷した手をよそに俺は緑髪に跳びかかる。

 このまま掴むつもりだ。

 拘束するような形で接触すれば、炎を押し付けられる。

 そうすれば彼女の風でも消化は困難だろう。


 緑髪は風で加速しながらこちらへ突進してくる。

 その行動に俺は驚く。

 てっきり距離を取ってくるかと思ったのだが、まったく逆のことをしてきた。


 どうやら緑髪は、覚悟を決めたらしい。

 下手に逃げ回って後手に回るより、近接戦闘で対抗する方がいいと判断したようだ。


(ちょうどいい。やってやるよ)


 俺も呑気に追いかける暇などなかった。

 このまま肉弾戦で叩き潰せるのなら、それが本望である。


 増援のエルフ達は、未だに待機していた。

 数名の犠牲を出しながらも、戦いの行方を見守っている。

 緑髪を始末した後は、あいつらも相手にしなくてはならない。


「オラッ!」


「くっ……!」


 互いに距離を詰めた俺達は、近距離で格闘攻撃の打ち合いを行う。

 能力を纏った状態で四肢を叩き込み、空中を飛び交いながら何度も仕掛けていった。


 防御はあまり考えない。

 勢いを緩めた瞬間、一気に畳みかけられると確信しているからだ。

 とにかく攻撃の手を休めず、相手を殺すためにひたすら仕掛けるのが最善手であった。

 以前、リータも「攻撃は最大の防御」と言っていた。

 その正しさを身を以て理解している。


 緑髪も戦況を理解しているのか、今までの彼女からは想像できないほど苛烈な攻撃を繰り出してきた。

 渦巻く風は、緑髪の全身を覆い付くしている。

 あまりの勢いに輪郭がぼやけている状態だ。

 触れるだけでこちらの身体が切り裂かれる。

 俺が全身を炎で覆うのと同じ形態だろう。


 今まで使用してこなかったのは、消耗を気にしていたからに違いない。

 加護の能力は、無理に発動し続けると負荷がかかる。

 俺も全開状態を長時間に渡って使いたいとは思えない。

 だから今までもなるべく控えてきた。


 俺より権能の力が弱い緑髪なら、その消耗と負荷がより大きいはずだ。

 それにも関わらず全力を発揮してくるのは、おそらく俺への復讐心が主だろう。

 戦況からの判断というのもあるだろうが、根底には憎悪がある。

 強い衝動が、彼女の力を引き出したのだ。


(やはりそうだ。これが使徒の本性か)


 血塗れになって戦う緑髪を見て、俺はある事実を確信する。

 女神に選ばれる者は、きっと人並み外れた復讐心の持ち主なのだろう。

 その素質から加護を授けられる。

 強い復讐衝動が、能力を最も強くするのである。

 不得手のはずの近接戦で互角に持ち込んでくる彼女を見て、俺はそれを悟った。


 しかし、復讐心なら俺だって負けていない。

 今日までひたすらエルフを憎み、そして屠り続けてきた。

 風の使徒という存在に行動を邪魔されたことで、狂いそうなほどの怒りも覚えている。

 その想いは炎に反映され、今も緑髪を焼き殺そうとしていた。


(――俺は、先へと進まねばならない)


 ここで死ぬわけにはいかなかった。

 復讐者として炎の使徒になった俺だが、それ以上の責任を背負っている。

 世界をエルフの支配から解放するのだ。


「うおおおおおおおおおぉぉッ!」


 俺は咆哮を上げて跳びかかる。

 緑髪が両腕を振るった。

 腕を包む風の刃は、交差するようにして俺の胴体を薙いだ。


「……っ」


 炎の壁すら突破した斬撃は、俺の骨や肉を抉っていた。

 喉奥から込み上げてきた血を吐き出す。

 しかし、怯まない。

 俺は体内を焼き焦がすような勢いで能力を振り絞ると、そのままさらに踏み込んだ。

 無我夢中で片腕を突き出す。


「な……ッ!?」


 驚愕する緑髪の声。

 防御に走る彼女の腕を粉砕し、さらにその奥へと進ませる。

 炎を纏う渾身の突きは、血肉を散らして緑髪の胴体に沈み込んだ。

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