第三十三話 お金を腐らせる男
かなり久しぶりの更新になってしまいすみません…!
“魔神将”の襲撃から一ヶ月後――
別段大きな変化はなく、普段通りの生活を送るエヴェリーテは、庭で水の魔術が扱える様になる為の練習をしていた。盥に入れた水の中に手を入れ、水を自由自在に操るという訓練だ。風の魔力を纏って水を浮かせることは出来た。一緒にウェルギリウス指導の下、風を感じろと一ヶ月前に言われたセストはアイとララとぷにぷに三兄弟と共にシルフィー高原にいる。年中風が強く吹く高原で風力を利用して風力発電がされている場所である。風の魔術師が風の流れを掴む為に訪れる絶好のスポットなのだとか。
但し、魔物の強さはモヨリの森と比べ強いので錬金術で作成した【魔物除けスプレー】を全身にかけてから送った。効果が続く三時間の間なら、どんな魔物でもセスト達に気付かない。三時間以内に戻って来いと指示した。
エヴェリーテは掌に魔力を集中させ、魔力の流れが安定したのを見計らい、慎重に水を持ち上げた。エヴェリーテの持ち上げた水は、揺れもなく波紋もない。安定した魔力量で操作しないと綺麗状態は保てない。
「そこから水を噴水のように上へ噴出させてみろ」
「うんっ」
側で見守るウェルギリウスの指示通り、脳内で描いた光景を思い浮かべ、掌全体で操作している魔力を更に中央へと集中させた。円を描く様に集まった魔力が一定量に達した瞬間、エヴェリーテの手にある水が勢いよく空高く噴出した。
「や、やった!」
「上出来だ」
実はこの作業、一ヶ月前に始め今日漸く成功した。掌分の水を全部噴出したエヴェリーテは額の汗を拭うと隣に立ったウェルギリウスを見上げた。
「これで水の操作は大方仕上がった。広範囲に及ぶ操作は、ある程度水の魔術を覚えてからにしよう」
「うん。次は何をするの?」
「今日はもう終わりだ。根を詰めてぶっ壊れたら意味がない。セスト達が戻るにはまだ時間があるな」
そう言ってエヴェリーテを抱き上げると近くのベンチに座り、小さな体を膝の上に乗せてそのまま……
「ん……」
特訓で大量の魔力を消費したエヴェリーテに魔力供給を行った。キスを通して送られる魔力をちょっとずつ飲んでいく。こくり、こくりと音を鳴らして飲むエヴェリーテの銀糸を優しく撫でた。
唇が離れ、至近距離で美形に見つめられてエヴェリーテは頬を赤らめた。
「ふ。まだ慣れないか」
「慣れないわよ! 所で、今日でウェルギリウスの出した水の魔力の課題はクリアしたから、明日からはまた別の属性になるの?」
「そうだな。水と相性がいい氷属性にするか?」
「出来る所からにする」
「なら、氷でも構わん。お前は全属性なんだ。どの属性でも操れるようになる。俺みたいに万能になる必要はないがある程度の実力は付けておけ」
どの属性の魔術でも最高難易度の魔術を軽々と扱える様になるまでどれ程の月日が必要となるか。エヴェリーテには想像もつかない。
「自分が一番使い易いと思える属性を探すのもありだがな」
「ウェルギリウスにはないの?」
「俺の場合はない。どの属性でも階梯が上がれば上がる程威力も範囲も大きく変わる。好んで使うのは雷の魔術だがな」
モヨリの森の主を撃退した【ヴォルト・フィールド】が良い例だろうか。セストと揃って生きた心地がしなかった。
「セスト王子達が戻ったら昼食にしましょう。今日の昼食はなんだろうね」
「さあな。所で、お前が前に言っていた勉強会だったか。日取りは決めたか?」
一ヶ月前にあったスカーレット公爵令嬢アリシアが招待してくれたお茶会。アリシアは勿論、双子の王子の婚約者探しと称したお茶会で出会ったヴァイオレットやスカーレット公爵邸で開かれたお茶会で一悶着あったシルヴァ公爵令嬢ベアトリクスを誘って、此処ウェルギリウスの屋敷で勉強会を開く。“魔神将”の襲撃に遭い、長く『五公会』を開いてた為ウェルギリウスが屋敷に戻れない日が多々あった。勉強会はウェルギリウスがいて開けるので肝心の彼がいないと開けなかった。
『五公会』も終わり、エヴェリーテとセストの魔術師の土台作りは着実に出来上がってきているというので勉強会が開かれる。日を聞かれたエヴェリーテは来週だと答えた。妖精のララとアイも手伝ってくれるので心強い。
「あ、ぷに太郎さん達はどうしよう。ヴァイオレット様は、この間見たから知ってるだろうけどアリシア様とベアトリクス様は知らないよね……」
世界最弱の魔物と言えど相手はスライム。正式名称がぷにぷにだと知るのはほぼいない。困ったと眉を八の字にしたエヴェリーテの額に唇を押し付けたウェルギリウスは心配無用だと面倒臭そうに吐いた。
「ガキ共と一緒にいらんオマケも来るみたいだ」
「オマケ?」
「ったく、ゲオルグ一人相手するのも面倒だってのに三人も来やがる……嫌がらせか」
「……」
嫌々なウェルギリウスの様子から察するに、オマケというのはきっと各令嬢の父親を指している。あはは……と苦笑したエヴェリーテは、勉強会当日何事も起こらない事を祈ったのだった。
一時後、シルフィー高原で特訓をしていたセスト達を戻そうとウェルギリウスが空間魔術でシルフィー高原と庭園を結んだ。縦に裂けた空間の向こうでは、強風に乗って空中を駆けるセストと素材集めに勤しむララとぷにぷに三兄弟がいた。アイはセストを見守っている。
「おーい! ララ、アイ、ぷに太郎さん達、セスト王子ー、もう少しで【魔物除けスプレー】の効果が切れますよー!」
「エヴェリーテお嬢様!」
「セスト王子ー! 戻りますよ!」
「はーい」
アイの呼び掛けで地上に着地したセストにエヴェリーテは目を見開く。強風が吹く彼処でふわりと降り立ったセストは髪や服が風に拐われていない。全身に微量の風の結界を張って強風から身を守っていた。
魔術の習得はまだでもこうした操作が格段に上手になった。
ぷにぷに三兄弟、ララ、アイ、セストの順番で戻ると空間魔術は消えた。背中に背負う妖精の体でもすっぽりと収まる巨大な籠を下ろしたララは、今しがた採取したばかりの素材をウェルギリウスに見せていく。
「シルフィー高原は、白の妖精である私やアイではまだ早い場所なのでバージル様が【魔物除けスプレー】を使って下さって良かったです」
「あの場所は黄色の妖精で普通なのです」
アイが補足分を説明。逆に白の妖精だと何処までの採取エリアに行けるとウェルギリウスが質問をした。
「妖精個人の実力によりますが、基本はモヨリの森からアルク草原辺りまでです」
「魔術学院の新入生と同レベルか。今の所“収納”にある素材だけでも十分に足りているからいいが……足りなくなったらティポを呼ぼう」
「頻繁に呼んだらティポさんの迷惑にならない?」
「ティポとは個人契約をしている。何時何時呼び出してもいいように本来の二十倍の契約金は支払ってる」
「二十倍!? 紫の妖精の基本金を知らなくても、二十倍はとんでもない金額よ……」
「金は実際に腐ってるのもあるくらいには腐る程ある」
「ええ……」
個人契約を結んでいるティポとの契約料金に詳細を知らなくてもドン引き。更に諺通り現実にお金を腐らせている者がいようとは……、試しにお金がどう腐ってるのかを訊ねた。ウェルギリウスは通貨が変わって前のが使えなくなったのが三時代合わせて約四千万あると答えた。
唖然としたのはエヴェリーテだけじゃない。妖精のララとアイ、魔物のぷにぷに三兄弟、第二王子のセストも。
北の大陸最高峰にして“人外”の魔術師は、長生きするあまり使えず腐った多額のお金を所持していると判明した日であった。
我に返ったセストが金貨なら溶かしてもう一度使用出来るのでは? と提案するも、本人が面倒臭がりなのでやってないと返された。
「金の話は終わりにして中へ戻るぞ。ララ、アイ、簡易的でいいから昼食の準備を。三兄弟は二人を手伝え。エヴェリーテとセストは俺と来い」
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