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ロリコンな保護者兼お師匠様に溺愛される  作者:
十歳編~波乱の幕開け~
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第三十二話 宰相のお迎え

 


「はあ……全く」

「大変だったね……」

「それで済めばいいがな」



 今日以上に濃い一日はそう訪れないだろう。あの後まだまだ騒ぐ王を面倒がって結局“アルファの湖”まで飛ばした。容赦のなさにパーシアスは顔を引き攣らせ、その弟セストはもう慣れた光景なので飛ばした本人に無事に戻れるかを確認。空間魔術にも長けているから大丈夫との返答を聞いて安心した。シャルディンの方は、特に用事もなかったらしく。本当に近くを通っただけだから屋敷に来ただけだった。エヴェリーテと会話をしていたヴァイオレットを呼んでプラチナ公爵家へ馬車を走らせて行った。

 馬車を見届けたウェルギリウスとエヴェリーテ。空は朱色に染まっていた。



「また襲ってくる?」

「ラ=スノーがお前の存在に気付いたんだ。その内また来る」

「……勝てる?」

「……さあな。魔王が復活していない状態でも、“闘神”の力は絶大だ。第七超度位(ズィーベンクラス)の魔術師が数人いて勝てるかどうかだ」

「えー……」



 闘いの神の名は伊達ではない、という事か。


「さて」とウェルギリウスは小さな手を取って屋敷へ戻った。妖精少女二人は買い出しから戻って夕飯の準備をしている。ぷにぷに三兄弟も手伝っている。必然的に、残っている面子がサロンに残っている。向き合う形でソファーに座っているパーシアスとセストからは微妙な空気が流れている。元から仲はあまり良くないとセストが言っていた。戻ったウェルギリウスとエヴェリーテに気付いたセストが顔を向けた。



「プラチナ公爵様達はお帰りに?」

「はい。先程」

「そうですか。父上は今日中には戻るのでしょうか?」

「“アルファの湖”には、錬金術に使える上質な水が豊富にある。空間魔術でさっさと戻れるのに戻らないのを見ると、どうせ普段は来れない場所だからと遊んでいるだろう。その内戻るだろうから放っておけ」



 放置発言にパーシアスが顔を顰めた。



「王が長く不在だと……」

「ちょっとは信用しろ」



 王族の発言を途中で遮るのは不敬に値するが“人外”と名高いこの男には関係のない話である。



「で?パーシアス。お前は城に戻らなくて良いのか?セストは兎も角、お前はあいつに連れて来られたのを見ると、どうせ城の連中に何も言わないで来たんだろう?」

「はい……」

「なら、お前こそさっさと戻れ。あの口煩い宰相が来たら――」


「申し訳ありませんがその口煩い宰相はいますよ」



 この場にはいない第三者の声にウェルギリウス以外の面々は驚いて声のした方を向いた。群青色の長い髪を背中に垂らした神経質そうな男が立っていた。服装から上位貴族と思われる若い男を見るなり、ウェルギリウスはしっしっと手で払った。いつぞやと同じ犬猫と同じ扱いに男のこめかみがピクピクと震える。



「ご無沙汰しておりますウェルギリウス様。パーシアス王子とセスト王子に国全体を覆う結界を発動する様言われ、事情を聞き驚きました」

「結界をする必要はもうない」

「ええ。“魔神将”の姿が消えたと報告を受けたので結界の展開を中止しました。……後、一つ確認ですが王はどちらへ?」



 姿のない王の場所を問い、返答を聞いて「あんたねえ!」とつい素が出た。



「ハリー素が出てるぞ王子達の前で」

「誰のせいだと思っているんですか!毎回毎回王といいあなたといい!!」

「あまり怒り過ぎると血圧が上がって血管が破裂するぞ」

「それもこれも全部あなたのせいですよ!」



 ウェルギリウスの服の裾をちょいちょいと引っ張ったエヴェリーテは彼が誰だか問うた。パーシアスの婚約者として城に登城した際会っているが名前や役職を知らない。

 襟を正した男はこほんと咳払いをしてエヴェリーテと向き合う。



「紹介が遅れましたね。私は宰相をしておりますハリー=ウェ=ラピスラズリです」

「ラピスラズリ……」



 それって……とラピスラズリの名を聞いて思い出す。ラピスラズリは、攻略対象者の一人ヴィクトルの家名。



「そういえば、お前とこのチビは魔力検査の方はどうだった」

「属性は基本四属性の水でした。エヴェリーテ嬢と比べないでくださいよ」

「するか下らない。エヴェリーテが俺と全属性でも何も可笑しくはない」

「え?」

「俺が見つけてきたんだからな」

「……」



 やはり、という目でハリーはウェルギリウスを見た。エヴェリーテが本当の娘でないのは殆どの者は知っている。妻や愛人の類の話を一切聞かないこの男が突然見目麗しい幼女を連れた事で社交界はあらゆる予想をした。また、ウェルギリウスの“人外”じみた美貌に虜となっている貴婦人や令嬢からは嫉妬や罵倒の嵐となっている……と余計な話はしないでおこう。見るからにエヴェリーテを溺愛しているウェルギリウスの耳に入れば、その貴婦人や令嬢がいる家は一人残らず殺されて破壊されるだろうから。



「王国としてはどう動くつもりだ」

「それを王と共に相談しようと此処へ参ったのですが……その王がいないなら、出来ません」

「一応『五公会』を開くとは言っていたが」

「それが妥当でしょう。今回の“魔神将”襲撃は、魔王復活が近付いている何よりの証拠ですから。パーシアス殿下」



 ウェルギリウスに軽く頭を垂れ、此方を向いているパーシアスへハリーは話を変えた。



「城に戻りましょう。殿下付きの護衛や使用人達がずっと殿下を探していらっしゃいました。大方、王に私がいるから何も言わないで城を出ても問題はないと言われたんでしょう?」

「は……はい」



 的確に言い当てるハリーの洞察力が凄いのか、単に昔からずっと一緒にいるせいで行動が読みやすいだけなのか。イマイチ分からない。

 ハリーに促され、ソファーから降りたパーシアスは先にサロンを出た。



「では、私達はこれで。セスト殿下を頼みましたよ」

「あの、王様が戻るのを待たなくて良いのですか?」

「どうせ此処に戻ると思いますので、戻ったらすぐに城へ送って下さい。暫く魔力封じの鎖で椅子に縛り付けますので」

「そうか。前にも言っていたな」

「前回は失敗しました。王妃様にもご協力をお願いします」

「ああ、あの女か」



 王妃を思い出したウェルギリウスが嫌そうに顔を歪めた。良い思い出がないらしく、思い出したくないとばかりに手を払った。


 ハリーへ向けて。

 またこめかみがピクピクとするも、喉まで上がった言葉を無理矢理飲み込み、一礼をしてサロンから出て行った。





読んで下さりありがとうございます!


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