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悪夢、再び 1

(……………。……と、いうことで、ワタシはイマこうしてミンナとハナせている。ミキのソウチをカイしてだけど……)


 俺はハッと我に返った。


 俺はあの後他の二人と一緒に、定番となった秘密基地の会議の場でミユの話を聞いていた。


 碓か『領界の浸食レベル上昇に伴う、量子空間のデコヒーレンスへの状態遷移により、空間構成要素の固体再構築化が促進された結果……』ぐらいまでは覚えているんだが……。


「つまり、思念体が強くなったのも、ミユさんが私達と話せるようになったのも、全部アイツ等のせい、ってことですね」

「正確には量子・物理、両空間の境界が不安定になり、思念体の物理領域への影響がより強くなったということだ。更に量子空間の不安定化により、ミユを拘束していた力が弱まったんだろう。……そのお陰で、俺も殲滅コードを受ける寸前で助けられたんだがな」


 ミユとヒイロの両極端な解説を、キヨが半ば強引にまとめあげた。

 まあつまりは「事態がより深刻な方に傾いた」と考えておけば間違いないんだろう。


「で、俺たちのスーツがパワーアップしたのは?」

(あれは、もともとソウチにカクされていたキノウ。カラダへのフタンがオオきいからフツウじゃツカえないけど、ワタシがムリヤリカイジョした。あまりナガくはもたないからキをつけて)


 奴らのお陰でパワーアップが出来たうえにそれで姫を撃退出来たとは、何とも皮肉な話だった。


「そこまでこの空間を引っ掻き回して、あいつ等は何を企んでるんだ……」

(……ヤツラは、ジュウネンマエとオナじくらいのダイキボなリョウカイカンショウをオこそうとしている。ナゼそんなコトをするかまではワからないけど……)

「……!!」


 俺たちを巻き込んだ「夢ヶ丘線脱線事故」の原因。あの事故と同じぐらい、最悪それ以上のことが「また」起ころうとしていた。



 後日、警察からの連絡で一連の駐輪荒らしの犯人が捕まったことを知らされた。


 だがそいつは、俺の自転車や自動車の爆破など特に被害の大きかった数件に関しては犯行を否認しているということだった。


 それからこれといった異変もなく、幾日か過ぎた日の夜……。


「またこんなに遅くなっちまった……クソッ」


 街頭がポツポツと並ぶ寂しい路地裏、俺は新品の自転車を走らせながらボヤいていた。

山野に装置を没収されない代わりに時々あいつの手伝いをすることになってしまったが、そういう日は決まって校門を出るのは日暮れ近くだった。


――山野、そういうところはシビアなんだよなあ……。


(ミキ!!)


 おれがボンヤリ考えているところに、突如ミユが大声を出した。


「ヒッ!……何だ、脅かすなよ!」


 俺が思わず急ブレーキを踏むと、


「うわあぁっ!!」


 同時に、男の悲鳴が響き渡った。


「!」


 周囲を警戒していると、前方の十字路から男が一人飛び出し目の前を全速力で横切っていく。


 そしてその直後、俺はミユが訴えかけてきた理由が分かった。


「!!……なっなんで――……」


 男の後を追いかけ飛び出てきたのは、こちら側の領域には存在しないはずの「全身が真っ黒の化物」だった。


 思わず目を凝らして再確認するが、その異様な姿は間違えようがなかった。


「ナニしてんの、ハヤく!」


 ミユに急かされて自転車をその場に投げ置くと、俺は二人(?)が走っていった後を追って行った。


「た、確かこっちの方に……!」


 近くの公園まで走って、ようやく男と影に追いついた。影は、腰を抜かした相手に今にも襲い掛かろうとしている。


――まずい!


 俺は被っていたヘルメットを外すと、影の背中へ力いっぱい投げつけた。日頃からヒナカに厳しく言われて着けていたのが、この時ばかりは幸いした。


 そしてヘルメットは、きれいな放物線を描き影に命中した。


「…………」


 影は動きを止め、ゆっくりとこちらを振り向く。


「早く逃げろ!!」


 男が走り去ったのを確認してから、俺は変身した。


「……アウスレイング」


 さっさと片付けないと人目につく。俺は小声で必殺技を発動させ、素早く影を一突きした。


(もう、ダイジョウブみたい)


 俺は即座に変身を解除し、小走りで地面に転がるヘルメットを回収した。


「ミキさん!」

「ヒイロ!?どうして……」

(先程ミユに呼ばれたんだ。……『そちらの世界』に思念体が出たというのは本当か?)


 俺は、たった今遭遇したことを二人に話した。


(そうか……領界の浸食はそこまで進んでしまっているんだな)

「そう言えば、最近は奴らの出てくる頻度が前より多くなったようが気がしますね」


 確かに、近頃は出動が週一位だったのが、週二、三で駆り出されることが増えたようにも思う。


(でもまだジカンはある。ハヤくヤツラをトめないと……)




「はあ……」


 玄関前で自転車を降りたとき、時刻はすでに7時30分をまわっていた。


「悪い、遅くなっちゃったな」


 ようやく自宅へ帰り着き、俺はホッと一息ついた。


「お帰り……」


 だが、ヒナカの曇った表情を見て、再び心がざわつき始める。


「どうした、何かあったのか?」


 俺は妹の不安が少しでも軽くなるように、なるべく穏やかに聞いた。


「うん……気のせい、だとは思うんだけど……」


 ヒナカは少しの間ためらっていたが、


「なんか、最近誰かにずっと見られてるような気がして」

「だ、誰か……?」

「学校帰りの時とか……振り返ってみても誰もいないんだけど、気味が悪くて」


 考えたくはないが、量子空間でのゴタゴタが関係しているんだろうか。


「もし何かあったらすぐに電話しろよ。迎えに行ってやるから」

「うん、ありがと……ごめんね、ご飯にしよっか」


 単なる思い過ごしだったらどんなにいいだろう。俺はヒナカの言葉に頷き、渋い顔でテーブルに食器を並べ始めた。


 夕食の後、俺は念の為にヒナカの話を他の三人にも伝えた。


(まさか、また思念体じゃ無いですよね)

「今のところは何とも……」

(『あの件』では妹さんに迷惑を掛けたからな……万が一のこともある。その件については考えておこう)


 キヨの言葉を聞き、俺も少し気分が軽くなる。ひとまず、その日は安心して眠りについた。




「今日は珍しく早いですね」


 更に幾日かが過ぎたある日、俺は日の沈みかけた寂しい道をヒイロと並んで歩いていた。

 理由は事態が悪化したことで、


「しばらくは一人でいない方が良いだろう」


 というキヨのお達しがあったからだ。

 まあ、今までもヒイロはちょくちょく学校に出入りしていたんだから、これまでとさして変わらないと言えば変わらない。

 ヒイロは登下校にも張り付いているので、俺もそれに合わせてここ数日は自転車を使っていない。それはそれで構わないのだが、俺とヒイロの様子を目撃したヒナカが、


「ツグ兄、あの人彼女?」


 と度々興味津々に尋ねてくる。正直に言うことなんか当然出来ないので、「ただのクラスメイトだ」と言い張るしか無いのが最近のちょっとした悩みだった。


「今日はな。もう少し頻度が減らせないもんか、頼んじゃいるんだけど」


 ヒイロが言っているのは、毎度おなじみの山野の手伝いについてだ。

 だがヒイロと一緒にいる時間が増えてからは、むしろ山野の平均拘束時間が10分程増えたような気がする。


――山野、碓か独身だったっけ……。


 と、俺の携帯が鳴る。ディスプレイの表示を見ると、ヒナカからだった。

 俺は嫌な予感を覚えながら電話にでる。


「ヒナカ、どうした?」

「ツグ兄?今バス停近くのコンビニなんだけど、迎えに来てもらえないかな……」

「……!」


 二、三の言葉を交わした後、俺は通話を切った。


「妹さん、どうしたんですか?」

「……誰かに後をつけられてるらしい」


 俺の言葉に、ヒイロの表情にも緊張が走る。


「私も付き合います」


 この辺りからなら大通りに出るのが最短だ。俺たちは一旦、元きた道を引き返した。

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