「きょうだい」 3
俺とヒイロは、再び空間内に出た。
だが、肝心の手がかりは全く無い。俺たちはいきなり立ち往生することになった。
「ミキさん、あれ」
その時、何かに気がついたヒイロが空間の向こうを指さした。その先を目で追うと、そこには一匹の雑魚思念体がいた。
雑魚は何をするでもなく、ただその場に突っ立っている。
「……?」
試しに俺たちから近寄ると、雑魚は逃げた。しかし一定の距離が開くとまた立ち止まる。
また近づくと、逃げ、雑魚は立ち止まった。
(『あのコ』のアトをオって……)
「え……?」
あの雑魚のことだろうか。隣を伺うと、ヒイロと目が合った。
「ミキさん」
「ああ」
俺たちは覚悟を決めると、その雑魚の後をついて行った。
雑魚は無人の街をどんどん進んでいく。やがて道は、整った大通りから寂れた裏路地へと入っていった。
しかし幾度目かの角を曲がった所で、そいつは急に姿を消した。しかもその先は袋小路で、隠れたり通り抜けられそうなスペースも無い。
俺とヒイロは慌てて突き当りまで走り、辺りを見回した。
「くそ……どこ行ったんだ?」
「おかしいですね、確かにこっちに……」
と、俺は視界の端で何かが動くのを捉えた。
「……?」
俺は壁に近寄り、ゆっくりと手を触れてみた。
すると壁と思われていた風景は、スクリーンのように波打った。
「おい……!」
驚きの目で振り返ると、ヒイロは無言で頷き、
「ちょっとどいて下さい」
ヒイロは剣で壁を切り払った。するとその奥から、更に別の空間が姿を現した。
ここだ。多分だが、間違いない。
俺たちは、その中へと足を踏み入れた。
謎の空間は、俺たちの秘密基地以上に殺風景だった。その代わり、裏路地とは思えないほどの広がりがある。
さっきから鳴り止まない耳鳴りに加え、まるで病院内のような白一色の光景に、俺は頭がクラクラしてきた。
「まさかこんな場所があるなんて……」
周囲を確かめながらヒイロが呟く。俺たちは前後を手分けして警戒しながら、じりじりと歩を進めていった。
そのままT字の通路へと進み、左右の分かれ道へ差し掛かったとき、
「!!!」
先頭を歩いていた俺は、右の通路から現れた雑魚と鉢合わせになった。
突然の事態に思わず足が止まり、後方に注意を向けていたヒイロが俺にぶつかった。
「ちょっとミキさん……!」
まごつく俺たちの姿に、雑魚は身を翻して逃げ出そうとした。
こんなところで仲間を呼ばれたら終わりだ。
「っ……!!」
俺は素早く雑魚の背中へ槍を突き出した。攻撃を受けた雑魚は、抵抗する間もなく消えていった。
俺たちは元来た通路に隠れ、辺りの気配に神経を尖らせる。だがしばらく経っても、周囲に変化はなかった。
「……急ぐぞ」
「分かってます」
俺たちは探索を再開した。
その後も謎の隠れ家を徹底的に調べて回ったが、どこも長い廊下が続くばかりで部屋の一つも見当たらなかった。
「くそ……奴等どこに隠れてるんだ?」
「……と言うか、そもそもここで当ってるんですか?」
もしかしてさっきの雑魚はたまたまだったのか。俺たちが今やっているのは単なる勇み足なのかもしれないと不安になりかけたとき、
「ん……?」
廊下の突き当たり、一匹の雑魚が曲がり角の向こうへ消えていくのが目に入った。
俺とヒイロは無言で頷き、急いでその後を追う。けれどその先はなんの変哲もない袋小路で、こちらへ来たはずの雑魚の姿もなかった。
そこで一瞬考えた後、ヒイロが何の迷いもなく行き止まりの壁の前に立った。
「『バカの一つ覚え』……」
ヒイロは一つ呟き空間を切り裂いた。するとなるほど、先ほどのように隠し通路が現れ、その向こうに格子のはまった頑丈そうな鉄の扉が見えた。
俺が格子の隙間から中の様子を確認すると、椅子に繋がれ、ガックリと項垂れた妹の姿が目に飛び込んできた。
「ヒナカ!」
気を失っているのか、ヒナカは俺の呼びかけにも反応を示さない。俺は槍で扉を無理やりこじ開けると、すかさずヒナカに駆け寄った。
「ヒナ――……」
「ミキさん避けて!!」
次の瞬間、ヒイロの警告も空しく(むなしく)俺は横に吹っ飛ばされた。
「っ!?」
何が起こったのかと顔を上げると、俺の目の前に二体の影が迫っていた。すかさず立ち上がり、影の追撃をスレスレのところで躱す。
「こいつ等……!」
そこから何とか反撃に転じようとするが、影共の絶妙なコンビネーション攻撃の前に体制を整えることすら叶わない。
ヒイロに助けを求めようと必死で姿を探すと、当人は既に二体の真後ろで必殺技発動の体制を整えていた。
「消えろっ!!」
巻き添えを避けるため、慌てて横に飛びのく。直後頭上で閃光が煌めき、俺が振り返った時には二体の影はキレイサッパリいなくなっていた。
「長居は無用です、とっとと逃げましょう」
同感だ。
俺はヒナカの拘束を解こうと、椅子の方へ近寄りかけた。だがその時、空間が大きく歪み部屋全体を飲み込んでいった。
「!!」
俺とヒイロは武器を構え、臨戦態勢をとる。ようやく歪みが収まった時、俺たちは広場のような空間に出ていた。
「さて、探検ごっこはそろそろお仕舞いにしてもらおうか?」
「お前らっ……!」
目の前にはユウと喋雑が並んで立っていた。ユウはいつものパーカー姿で、この間のように姿が揺らいではいない。
その隣の喋雑は、腕に意識のないヒナカを捉えていた。
「ヒナカっ!!」
「おっと、まずは武器を納めてもらおう。下手に動けば……分かっているね?」
こちらに選択の自由はない。俺たちは喋雑に従った。
「それにしてもよくこの場所が分かったねえ?これでも巧みに隠したつもりでいたんだが……」
俺たちが無言でいると、喋雑は頭を振り笑い声を漏らした。
「答える気は無い、と……クク、まあそれ位は私自身で調べようか。君らを、あの『青い坊やのように』始末した後で、ね……クククク……」
「!!……貴様っ!よくも……!!」
喋雑の言葉に、ヒイロが身を乗り出そうとした。
「……動くなというのが分からないのかい?」
喋雑がヒナカの首に手をかける。それを見て、ヒイロは唇を噛み締めながらその場に踏みとどまった。
「やれやれ……。では、名残惜しいがそろそろお別れとしようか。……やれ」
喋雑は周囲の影に指示を出した。
だがその中に、何故か動き出そうとしない影が一体だけあった。
「……?」
喋雑が振り返ると同時に、その影はおもむろに腕を上げる。
その手には、見覚えのある銃が握られていた。
「どういうつもりだ――……!」
その言葉が終わる前に、影は喋雑の頭を撃ちぬいた。頭を吹っ飛ばされ、喋雑はそのまま塵になっていった。
「何……!?」
予想外の事態に狼狽える(うろたえる)ユウへ、影は容赦なく銃を向ける。
けれどもすかさず反撃に出たユウの方が、影の動きよりも一瞬早かった。ユウの攻撃を受け、影は後ろへ吹っ飛び倒れ込む。
影の撃った弾は逸れ、ユウのこめかみを掠めていった。
「どういうつもりだっ……!!」
ユウはこめかみを押さえつけ、苦痛に顔を歪ませる。
その一連の出来事に俺とヒイロは呆然となったが、解放されたヒナカが地面に崩れ落ちるのを見てすぐに我に返った。
「ヒナカっ!!」
ヒナカの元に駆け寄り、抱き起こして様子を確かめる。幸い、どこにも怪我は無かった。
「ヒナカ……良かった…………」
大きな安堵の思いに、思わず涙が零れそうになった。
「泣くのは帰ってからにして下さい」
「……べっ、別に泣いてなんかっ……」
隣のヒイロにピシャリと指摘され、慌てて顔を上げる。
俺は一つ深呼吸し、脱出コードを唱えた。
「アウス・エル」
……が、何も反応がない。もう一度試してみるが、結果は同じだった。
「逃げる気かい?だがここは特殊な閉鎖空間だからねえ……来た道を戻って、元の出口から戻るしか無いんだよ。辿り着ければ、の話だがね……ククク」
復活した喋雑に、懇切丁寧に解説されてしまった。
俺はヒナカを抱えて立ち上がり、ヒイロと一緒に駈け出した。




