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「きょうだい」 2

「キヨッ!!」


 俺は秘密基地へ怒鳴り込んだ。

 だが、肝心のキヨの姿が無い。俺はあたりをイライラと見回し、


「クソッ!!どこに……」


 そのとき、俺の頭にアイツの声が響いた。


(二人共、無事か?)


 相変わらずの平静な声だった。姿を見せないキヨに、俺はすかさず食いかかった。


「てめぇっ!どういうつもりだ!!」

(一体どの件について聞いている?)


「とぼけるなよ?どうして装置のことを黙ってた!!」


 ヒイロが割って入るように口を挟む。


「装置をつけた途端、一宮ユウは倒れました。どういうことですか?」


 一瞬、秘密基地の中に沈黙が流れた。


(装置の適合率は数千人に一人の割合だ。……高い確率で、拒絶反応がでると予測はしていた)

「そのせいで奴は……ユウは、死にかけたんだぞっ!」

(装置の拒絶反応で人は死にはしない。だが一宮ユウは思念体と融合していたために、より拒絶反応が強く出たんだろう)


 ユウの無残な姿を思い出すと、急に胃の中身がこみ上げてくる。思わず口を押さえた俺の代わりに、


「結局、ミキさんの妹は替え玉で……本人はその場にいませんでした。キヨさんには、まさかそこまで分かってたんですか?」

(単なる推測だったがな。万が一にもうまく出し抜けるかとも思ったが、やはり連中はそこまで易しい輩では無かったか……)


 俺は不快感を無理やり腹に収め、宙を睨みつけた。


「お前だって奴らと同類じゃねえのか!?最初っから、装置を渡す気は無かったんだろ!!」


 さっきから怒りの収まらない俺へ、キヨは言い含めるように続けた。


(俺も本来ならこんな真似はしたくはなかった。だが連中にはもともと、まともな取引など行うつもりは無かったんだ)

「!!それって……」


 それ以上の言葉が続かず、喉に異様な乾きを感じて俺は唾を飲み込んだ。


(奴等には、君も、君の妹さんも、最初から助けるつもりなど無かった)

「……っ!!」

「最初から……どういうことですか?」


 絶句する俺の代わりに、ヒイロが先を促した。


(いいか?まずは装置だが……奴等に譲渡できない以上、それは死亡状態のミキから直接奪うしか方法は無い)

「それは分かりますけど……」

(そして問題は『もう一つ』の要素だ。これは俺の推測だが……奴等はヒナカさんをミユの『身代わり』にするつもりだ)

「ヒナカを……冗談言うなよ?アイツにそんな事……」

(『chatter(チャッター)』がいつか俺たちに言っていた、ミユ救出に必要な『もう一つ』……。現在の量子空間は、ミユを取り込んだ状態で安定してしまっている。装置の力でミユを空間から救い出すことが出来たとしても、今度は場を安定させるためにその穴を埋める代わりが必要だ。連中はそれを――……)


 キヨの言わんとしていることが、俺の頭の中で一本の線につながった。


――それじゃあ、ヒナカはどの道――……。


「ふざけんじゃねえっ!!だから……あいつを見殺しにしてもいいって言いたいのか!!?」

(妹さんの救出には最善を尽くす……だがそれでも、100%の保証はできない)


 まるでのれんに腕押しだった。キヨへ向けた怒りの矛先は、その度に冷静に、淡々と受け流されていく。


 どこまでも冷徹なキヨに対し、ヒイロが努めて感情を押し殺すように切り出した。


「キヨさん……どこにいるか知りませんけど……まずは戻って顔を見せてくれませんか?その後でまた作戦を……」


 だが、その提案にもキヨは素っ気なかった。


(悪いが、現状それは不可能だ。必要があれば再度こちらから連絡する。君たちは、無闇に動かず待っていてくれ。俺はもう行く……)

「待てよ!まだ話はっ……!!」


 言い終わる前に、キヨからの通信は一方的に切れた。


「くそっ!!!!」


 基地の中に重苦しい沈黙が流れる。感情のやり場を失った俺は、傍の椅子を力任せに蹴り飛ばした。


――もう、誰も当てにならない……!


 俺の肚は決まった。


「インステリオン」


 装置は問題なく作動した。俺は、装着された緑スーツを入念に確かめる。


「ミキさん」


 ヘルメットを脱いだヒイロが前に立ちはだかり、諫めるように俺の顔をじっと見つめてくる。

 俺はヒイロを睨み返した。


「止めても無駄だぞ。俺は一人でも妹を助けに行く」


 俺の言葉に、ヒイロも表情が険しくなる。どちらも譲らず、無言の睨み合いが続いた。それはほんの数秒だったが、緊張から握りしめた掌が汗ばんでくるのを感じた。


 と、不意にヒイロがフッと表情を緩めた。それにつられて、俺も一瞬緊張が解けてしまった。


 が、それは大きな油断だった。


 その隙を見逃さず、ヒイロは俺の顔を躊躇なく殴り飛ばしてきた。


 ヘルメット越しにも関わらず、頭の中に火花が散るようなとてつもなく重い拳だった。その衝撃で俺は壁まで吹っ飛び、ぶつかって隅の地面にへたり込む。


 俺が見上げると、ヒイロは、さっきよりも険しく、怒りに満ちた表情で俺の方を見下ろしていた。


「私も、今度ばかりはキヨさんのやり方に納得出来ません……」

「ならっ……!」

「でも、無闇に乗り込んで行って何をするんですか?無駄死にですかっ!?」


 ヒイロは俺の胸ぐらをぐいと掴んだ。


「そんな事になる位なら……今私がここで動けなくしてもいいんですよ」


 俺はヒイロの眼力に一瞬気圧された。

 いつもならここで気持ちがへし折れているだろうが……


「やりたきゃやれよ」


 俺はさっきよりも力を込めて睨み返した。


「動けなくなろうが何だろうが……それでも絶対にアイツを助けに行く!!」


 俺の意志の固さを見て取るとヒイロはその手を離し、


「何を言っても無駄みたいですね」


 スラリと剣を抜いた。


「うあぁっ!!」


 自由になった俺はすかさずヒイロへ体当たりを仕掛けた。けれど、既のところでそれは躱された。

 だがそのまま俺はヒイロと距離を取り、


「アウス・メテル」


 狭い秘密基地の中、俺とヒイロは同時に武器を構えて睨み合った。


「後悔しないでくださいよ……!」


 ヒイロが跳躍の構えを見せる。俺は槍を握る手に力を込め、その一撃に備えようとした……

 その時だった。


(……ヤめて……)

「……!」


 そのか細い声に、俺は思わず顔を上げた。


「え……?」


 その声はヒイロにも聞こえたらしく、構えていた剣をおろしじっと耳を澄ましていた。


(キヨ……アブない……)


 キヨが……?一体どういうことだろう。


(ヤツラ……トめて……ハヤく…………)


 声はそこで止まった。秘密基地に沈黙が戻り、俺とヒイロは無言で互いを見合わせた。


「今の……まさか、ミユ……?」

「さあ……私には何がなんだかさっぱりですけど……」


 ヒイロは剣を収め、仕方なさそうにため息を付いた。


「今の話、このまま放っとくわけにもいかなそうですね」

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