55.大団円(2)
「何にせよ、資料も何も残っていないから、仕方がないな」
「そこよ。王族は隠ぺいをしようとしていたはしていたんだけどね……それにしても、資料がなさすぎでしょ。それは、王族だけじゃなくて、魔法使い側もそうだったんじゃないかなぁって思うのよね……」
「なあに、結局謎は謎のままなのね」
「そうね。でも、魔法なんてそんなものでしょ。結局、人の霊体にまでそれがあるって解明をしたけれど、じゃあホロゥって何なの。どうして死んでいるのに生きているの、とか、そんなことは解明されていないんでしょ?」
それは確かにそうだ。すべてに「解明」「解決」を求めても仕方がないのだな、とティアナは思う。自分だって、よくわからない聖女の力をよくわからないなりに使って、よくわからないまま事件を解決に導いた。それらを納得できる答えはよく見つかっていないけれど、そこに「ある」ことだけは事実なのだ。
「ティアナが切ってホロゥが消えるのも、単に魔力を吸い取られて消えるのか、それとも、本当に浄化みたいな形で消えるのかもわからないしね!」
それだって、同じことなのだ。謎は謎のままだったが、何もかもがそう簡単には解明は出来ないだろうと彼らは「確かに」と唸った。
「どうしても知りたかったら、今度は魔法院の資料にも手を出すしかないわね!」
そのコンスタンツェの言葉に、ティアナは「もう面倒すぎて」と顔をしかめるのだった。
「なんか、ちっともわからないわね。どうして、わたしがホロゥを切ったら、マリウスや王妃様まで力を得るのかしら」
「魔力の分散ってやつね。それを使って切った者だけに魔力が行き過ぎないようにっていう措置だと思うわ。とはいえ、それがホロゥを見れる人たちに、って限定になるなら、どこかで誰かも魔力があがっているのかもしれないわねぇ~」
「全然わからないわ!」
ティアナはそう言って、両手をあげた。
「ね! わたしもあんまりわかんないんだけど!」
コンスタンツェも真似をして両手をあげて、ソファにうずもれた。彼女の体の半分がソファの背もたれに吸い込まれてしまい、おかしなことになってしまったが。
「そうなると、わたしたちもホロゥの力を宝剣で吸い取って、結局自分の力に上乗せしているってことになるのよね? それじゃあ、昔の人たちみたいに……」
「そうならないための宝剣だと思うのよねぇ。だって、上乗せしたら魔力は遺伝しなくなっちゃったってことなんでしょ? そうしたら、あっという間に王族の中でもホロゥを扱える人なんて現れなくなっちゃうじゃない? でも実際はそうじゃなかったってことだもの……ううーん、でもどうなのかしら? ……ふわぁ……ねぇ、ごめんなさい、もう少しあなたの中にいていいかしら……」
あの日以来、コンスタンツェはよくティアナの中で眠っている。最初は「このままコンスタンツェは消えるのではないか」と不安を出だしていたティアナだったが、日に日に少しずつ元気になっていくので「これは消えないな……」と思いながら付き合っている。
「結局、わからないことはわからないことだらけだってことだね。コンスタンツェだってどこまで本当のことを言っているのかはわからないし」
と苦笑いを見せるマリウス。
「この数か月でそんなに何もかもがわかってちゃ、魔法院も立場がないだろうし」
「あはっ、そうね」
それは確かだ、とティアナは笑う。どうも、コンスタンツェがいてくれるおかげで、なんでもかんでも自分たちが「わかって」しまうような気がしてしまう。
「話を戻そう。何にせよ、王妃はそんなに反省はしていないようだけど、そこまで責められないと陛下はおっしゃっていてね。正直、こっちとしては父親が心に負った傷やら、僕が爵位を得たり、弟が宰相見習いになったりとあれこれ環境が変わったこととか、その辺も本来は補填をして欲しいところだよ」
そう言って、マリウスは「マイツェンの魔力も、そんなになかったようだよ。魔法院から王妃が抜擢したのも、魔法院の人たちはみな不思議に思っていたって言っていた。勿論、それは言葉の上でのことで、商人の令息が王妃付きになっている時点で、怪しいとは思っていたようだけどね」と呆れ声をあげた。
「でも、その……わたしに対してのあれこれを、王妃様からは出さないようにしてくれたんでしょ……?」
それは、国王とマリウスの間での約束ごと。王妃がホロゥを使って人を操ったように、大聖女であるティアナも同じことが出来る。それを、問題視するべきかどうかという話だ。それを王妃が言い出せば、止めることは出来ない。だが、それは困るとマリウスは国王に頭を下げて、ティアナを守ろうとしてくれた……のだと、たまたま魔法院から帰る時に出会ったラルフが彼女に教えてくれたのだ。
「大したことじゃないよ。陛下もさ……いや、これは聞いたら君は怒るかな」
「なあに?」
「君は、企みをするような人間には見えないし、多分今後もそうじゃないかって」
「あら! わ、わたしだって……ううーん? 企みは……特にしないわねぇ~。だって、悪い企みをするのって、疲れるでしょう?」
「だろう!?」
ティアナが笑えば、マリウスも「はは」と笑い声をあげる。
「だって、何を企めばいいやら。そんなの、ホロゥを使わなくったって、祈りの間の像からもらった神託です、って言って嘘を教える方がよっぽど楽じゃない? すぐに王城が動いてくれちゃうのよ?」
「それはそうだ。君はちゃんと頭がいいなぁ」
「あっ! また子供扱いしようとしているわね!?」
そう言うティアナに、マリウスは「違うよ」と苦笑いを見せた。
「僕は、君を子供扱いしたことなんてないよ。君は立派なレディだろう」
「えっ、ええ、そんなこと急に言われると、なんていうの……ちょっと照れるじゃない?」
そう言って肩を竦めるティアナを見て、マリウスは目を細めて笑った。照れ隠しなのか、彼女が口に運ぶ焼き菓子の一口は、いつもより少しばかり大きいように見えた。




