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ティアナの王城事件簿〜ホロゥを従え謎を追え!!〜  作者: 今泉 香耶


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エピローグ

 ひと月後、マリウスの父親である前ジェルミー公爵は、爵位をもう一度息子から返してもらい、公爵にと返り咲いた。勿論、王城内での宰相と言う立場も。それを喜ばない人は一人足りといないと言われるほどで、彼の有能さを物語っている。


 彼は今まで別荘暮らしで、表向き療養をしていた。体の調子が悪い、ということにして、人々の前から姿を消したのだが、本当のところは記憶障害が再び出るかどうかを確認していただけで、特に何をしていたわけではない。なににせよ、そのおかげでマリウスの婚約者になったティアナと会うことも出来なかったというわけだ。


 だが、今はもう彼とその妻は公爵家に戻って来た。要するに、今までのように気楽に公爵家に足を運ぶことがティアナには少し難しい。そういうわけで、マリウスの方からティアナの別荘にやって来る機会が増えた。


「今日はどうしたの?」


 と、ソファに座りながら訪ねるティアナ。


「用事がなかったら来てはいけないかな?」


「そんなことないわ。ただ、そのう……なんか、いつもと違う……? 気のせいかしら? 舞踏会に行く時ほどではないけど……何か、かっこいいわね!」


 圧倒的に語彙が足りない。だが、足りないなりに褒めるティアナ。彼は、いつも仕立てが良い服を着ているけれど、今日の服は「新しい」と思えたし、髪形も違う。いつもは真ん中でわけている前髪を後ろにあげて、わずかな毛束が額にかかっているだけだ。そうして額を見せていると、彼の顔の輪郭がよくわかる。素直な感想は「かっこいい」。それに尽きた。


「形から入ろうと思ってね」


「ええ?」


 何の話?とティアナが返す前に、マリウスは言葉を重ねる。


「今日、コンスタンツェは?」


「眠っているわ」


「そうかい。それは好都合」


 何が好都合なのか。2人だけの会話が必要なのか。ティアナは軽く首を傾げてマリウスを見る。


「僕は、爵位をもう一度父に譲ったので、僕は公爵ではなくなったんだけど……父と話し合った結果、次期公爵はやはり僕になってしまうようでね。ただ、宰相としては弟が継ぐと思う」


「そうなのね。でも、それもまだ先の話になるんでしょう?」


「多分ね」


 そう答えたマリウスは、どうも少しばかりそわそわしているようにティアナには見える。いつもの恰好ならば気にならなかったかもしれないが、彼がなんとなく普段と違うからこそ、よりそれが際立ってしまう。


「その、僕と君は契約で婚約をしているわけなんだが」


「そうね?」


「僕は、君のことが好きなようで」


 マリウスのその言葉で、ティアナは目を軽く見開いた。目線を合わせれば、マリウスは居心地が悪そうな表情で、だが、まっすぐティアナの方を見つめている。


「このまま未来の公爵夫人になってもらえたらと思うんだ」


「未来の、公爵夫人……?」


 きょとんと彼を見ながらその言葉の意味を咀嚼するティアナ。未来の。未来のということは、今現在ではないということで、となると、次の?


 そんな彼女の様子を見て、マリウスは「ううん」と唸った。


「僕が言ってること、伝わっているかな? 君、時々とんでもなく鈍いよね?」


「失礼ね! それは、その……そういうこと?」


 あまりにも曖昧な返事すぎる。マリウスは苦笑いを浮かべて「伝わってるのかな?」ともう一度繰り返す。


「もしかして、豪華な結婚式なんてものをするつもりってこと?」


「まあまあ合っているけど、まさかそこまで話が飛ぶとは思わなかったな……」


 そう言いながらマリウスがティアナを見れば、ティアナもマリウスをじっと見つめる。しばしの間互いを見てから、2人は同時に笑い声をあげた。


「で、どうかな? 僕と結婚式をあげることまでは考えてくれたってことだね? 僕はあまり自分の感情を口に出すことが得意じゃないんだけど」


 マリウスは軽く首を傾げてティアナを見る。


「君のことが好きだな」


「うっ」


「え? 『うっ』?」


 ティアナのその声は、一体どういう感情のものなのか。マリウスは明らかに動揺をして眉根を潜めた。が、彼女の回答はまったく予想外のものだった。


「こ、告白、され慣れてなくて……変な声が出てしまったわ……」


「僕だってされ慣れてないし、し慣れてもいないよ!?」


 ティアナは「あー」と震える声を喉の奥から絞り出す。一体どうしたのか、とマリウスが目を丸くしていると彼女は突然叫んだ。


「わたしこそ、自分の感情を口に出すなんて苦手なのよ! だって、いつも口にしなくても、大体体の方が動いてしまっているから!」


「それはそうだ……」


「でも、口に出さないといけないのよね? ね、マートリー男爵を助けに行った時より緊張しちゃうんだけど!」


 ティアナは両手を自分の頬に当てて、足をぱたぱたと動かした。勿論、ドレスの裾の下に隠れてその動きははっきりとは見えないが、もぞもぞしている様子を見てマリウスは苦笑いを見せる。


「わたし、マリウスのこと……」


 震える声で言葉を紡ぎだすティアナ。マリウスが見れば、彼女は頬どころか耳も真っ赤になっている。すると、次の瞬間。


「ああ~、よく寝たわぁ~! あら、マリウスいらっしゃい!」


 ぬるりとティアナの横に、コンスタンツェが姿を現した。その瞬間、マリウスは「ああ~」とソファの背もたれに倒れてしまう。なんてことだ。彼女が眠っているうちに話を済ませようと思っていたのに……そう言いたくても言えず、歯がゆそうだ。勿論、コンスタンツェに悪気があったわけではない。完全にタイミングの問題だ。


「なぁに? 何の話をしてたのぉ?」


「あのね。わたしが、マリウスのことを好きって話」


「あら、そんな話をしていたの? きゃはっ! じゃあわたし、もうちょっとティアナの中で眠ってあげるわよ! そういうことは先に言ってよねぇ~」


 察しが早い。あっという間にコンスタンツェは再びティアナの中に戻っていく。それを困惑の表情で見送ってから


「もう一度言ってくれないか?」


 と、かすかに頬を染めながら尋ねるマリウス。


「あなたのお嫁さんになってもいいぐらいは、好きよ」


 ティアナがそう言うと、マリウスは満足そうな笑みを浮かべつつ、突然シャツの一番上のボタンを開ける。一体何をしているのか、と見ていれば、彼は「例の」ペンダントを取り出した。


「ちょっと! なんで言質をとる、みたいな感じでその魔石を発動してるの~!?」


「いや、だって君、やっぱりあれ勘違いだった、とか言い出しそうだから……」


「そんなこと言わないわよ。もう。何度でも言うわ。あなたのお嫁さんになってもいいぐらい、好きよ」


 彼女のその言葉を聞いて、マリウスはシャツのボタンを留めると、すっと立ち上がった。


「そうか。ありがとう。じゃあ、これからもよろしくお願いしたいな」


 そう言って、彼は左肘を張って胸の前で拳を作り、頭を下げた。完璧な会釈だ。それを見て、驚いてティアナも立ち上がる。


「まあ! こちらからも……これからも、よろしくね」


 そう言って、ティアナはドレスのスカート部分を持ち上げ、そっと片膝を折り、もう片方の足はそっと後ろ側の内側へと下げる。剣術の鍛錬で培われた体幹で、まっすぐに背筋は伸びたままだ。


 2人は互いに挨拶を交わした後、くすりと笑いあう。そこへ


「ねえ~、そろそろ出てもいい? どう?」


 とコンスタンツェの声。姿を消したまま、そうっとティアナの外に出て来たようだった。まったく、先程からそう時間が経過していないというのに。彼女は彼女で、2人の話が気になって仕方がなかったようだ。呆れながら笑うティアナ。


「いいわ。ねえ、コンスタンツェも、わたしと一緒にジェルミー公爵家に嫁入りする?」


 そう尋ねれば、ぱっと姿を見せたコンスタンツェは「マリウスのことはどうでもいいけど、ティアナの結婚式は見たいわね。特に、綺麗な今風のドレス!」と笑う。


 マリウスは苦笑いを見せながら


「仕方ないな。この前の件の立役者だもの。ティアナのためにも、コンスタンツェのためにも、とびきりのドレスを用意しよう」


と言って肩を竦める。


「今度はコンスタンツェも一緒に選んでもらおうかしら?」


「ふふっ、楽しそうね! で、いつ?」


まだまだ先の話よ、とティアナが答えれば、コンスタンツェは「待ちきれないわ!」と唇を尖らせてから


「長生きしなきゃ駄目なのかしら?」


 と眉をひそめて言う。


 それを聞いたティアナとマリウスは同時に大きな声で笑い、コンスタンツェも笑いながら空中で一回転をした。





了


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