35.突然の気づき
「魔法院に連れていかれても、結局他の魔力は検出されないし、わたしって本当に聖女なのかしら?」
ベッドにごろんと横になってため息をつくティアナ。するりとコンスタンツェが彼女の中から出てきて、くすくすと笑う。彼女は結局姿を消して、ずっと外に出ていたようだった。
「あなた本当に治癒魔法とかも使えないのねぇ~」
「出来ないわよ。そもそも聖女だって、たまたまなったようなものだし……」
「たまたまで聖女になんかならないわよ! でも、そうね。あなたは本当の意味で『聖女』の力しか持っていないのねぇ」
コンスタンツェの言葉の意味がよくわからなくて「え?」と尋ねるティアナ。それを察したコンスタンツェは
「なんだっけ? 今の国王はあまり聖女に対してよくわかってる感じはしなかったのよね。神聖魔法がどうとか言ってたでしょ。そんなもの、聖女の役割じゃないわぁ。あっ、でも今は魔法が使える人間の方が少ないから、そういう意味ではティアナに期待してたのか、そっかそっか」
と、勝手にあれこれぶつぶつ呟いてから、空中でくるりと一回転して「まっ、よくわからないけど!」と笑う。
残念ながら、魔法院での結果は散々で「とんでもない量の魔力はありますが、特に何の属性も解放されていないらしく」と言われる始末。
属性の解放をされていないというのは、魔法が使えないということだ。そういう人間は案外といるらしく、使うための魔力は体内にあっても、何にもならない。ただそこにあるだけなのだと言う。
そして、ティアナは魔力があるからと言って「魔法院で魔法を使えるようになるまで勉強します!」なんてことを言うタイプではない。そもそも、解放されていないということは、よほどのことがない限り一生そのままなのだ。魔法院に通ったとしても、きっと何年も、下手をしたら何十年も、ティアナは魔力を使うために修行をしなければいけないだろう。それは、母親も「やめておきなさい」と言ってくれたので、安心して諦められたのだが。
しかし、魔法院としては、魔力をここまで潤沢に持つ人間は珍しいと言う話で「大聖女様の公務以外でも、魔法院に足を運んでいただけますと……」とお伺いをたてられた。どうやら、属性が解放されていなくとも、魔石に魔力を封入することは可能らしい。それを使って魔法院、要するに王族側は儲けているのだが、それに一役噛んでくれと。
「陛下にご報告させていただきますね」
そう言われてしまえば、きっと魔石に力を封入する作業を手伝わざるを得ないのだろう。ティアナは「うう……」とベッドの上で唸った。
「いっそのこと……いっそのことマリウスとこのまま無理やり結婚して……こどもを産めば……いや、そういう話じゃない……」
そのうめき声を聞いてコンスタンツェは「きゃはは!」と笑い声をあげる。
「ひっどいわねぇ~! 子供を身ごもっている間はあれこれ言われなくて済むだろうって? そんな理由で結婚を迫ったら、それはアレよ」
「何よ」
「あなた、頭がおかしいわ」
「わかってるわよ。冗談よ、冗談……」
それにしても、と思うティアナ。
(マリウスは、何もわたしに言ってなかったわ。でも、わたしとの結婚を急げと陛下に言われていたのね……)
けれど、それを黙っていた。優しい人だ、と思う。
(いつだってマリウスは、どこか飄々としているけど。でも、あの人、言うほど変わり者なんかじゃないわ)
人に対して淡々と接しているように見えるけれど、それは表面的なものだ。彼はいつだって自分に優しいし、他人の気持ちに波風をたてるようなことはしない。穏やかで、品があって、優しくて、けれど、ホロゥを操れるようにとむきになってあれこれ試行錯誤をするように一所懸命なところもあって。そうだ、それからラルフと共に、前公爵の借金の件を探ったりと正義感もあるし……。
(あれ?)
こうやって、改めてマリウスのことを考えたことがティアナにはあまりなかった。ただ、彼と話をするのは楽しいし、ホロゥの件、コンスタンツェの件があって、自分たちはある意味運命共同体だとは思っていた。けれど……。
「ねぇ、コンスタンツェ」
「なぁに?」
「マリウスってもしかして、かなりの優良物件?」
その言葉は、マリウス本人の口から出たことがある。だが、ティアナはその時はさらりと流してしまっていた。
真剣な表情でそんなことを聞かれたものだから、コンスタンツェは「あっはははは!」と大きな声をあげて、空中で斜めになってくるくる回る。あ、おもしろおかしすぎる時は、斜めになって回るんだ……そんなことをティアナが思っていると
「そうよ。今頃気づいたの? あの人、結構なものよ。でも、あれじゃない? 話を聞くところによると、あなたたち契約して婚約をしたんでしょ?」
と言って、コンスタンツェは「ほんっとおっかし!」と言って笑う。
「そうよ」
「だからってこともあるんじゃない? 契約した相手だから、きちんと接しているっていう可能性はあるわよね。まっ、その辺りはわっかんないけど。でも、そうねぇ~、マリウスが幸せになるかどうかはわからないけど、結婚しちゃったらあなたの方は幸せになるんじゃない?」
そう言ってコンスタンツェはもう一度「きゃはっ!」と笑った。それを聞いたティアナは「あら、そうなのね……」とまるで他人事のように言ってから「疲れた……」とベッドに突っ伏しそのまま昼寝を始めてしまうのだった。




