34.大聖女(3)
「また、あれほどの精度の神託を得られるということで、そなたの力について話し合いが行われた。結果。神聖魔法というものをそなたが使える可能性もあるので、改めて魔法院に行って魔力の判定をしてもらうと良い。勿論、そのようなものが使えないとしても、そなたが得る神託は本当に細やかで、国のためになっている。この先も頼むぞ」
「は、はい……」
「そして、本来は、大聖女となることで王族の誰かと婚姻を結ぶことになるのだが……そなたは、現在ジェルボー公爵令息と婚約をしておるな?」
「はい」
「ジェルボー公爵家であれば、問題はない。ジェルボー公爵家は、代々我々王族に寄り添って宰相を勤め上げてきた優れた家系だ。ならば問題はないだろう」
それこそ、ティアナは心の中で「うおおおおおお!」と咆哮をあげた。危ない。危ない。自分が知らないうちに大聖女になるようなことになった挙句に、王族との婚姻を用意されていたらと思うと、もういてもたってもいられない。今すぐ、この謁見の間を叫びながら走り回りたい……それぐらいの気持ちだ。だが、ジェルボー公爵家ならば大丈夫と。
(さすがだわ。あの乗り物で神殿から公爵家へと不測の事態の時はいくんですものね。そりゃあ厚い信頼がなければそこまでは陛下もおっしゃらないでしょうね……)
あの頃の自分の英断を褒めてあげたい。そして、その英断を受け入れてくれたマリウスのこともたくさん褒めよう、と心の中で「うんうん」と何度もうなずくティアナ。
「ジェルボー公爵令息との婚姻は急いで欲しいものの、現在は若くして爵位を突然引き継いだばかりであるし、まあそこは急がせても無理だろうとは思う。が、急ぐようにとは先日ジェルボー公爵には言ってはいるんだが、そこは致し方がない話だな……とはいえ、年内。年内は無理かもしれぬが、まあ来年ぐらいには」
ああ、これか。
ティアナは腑に落ちた。この話を国王はしたかったのだろう。何度も「急いでいるが、しかし、それが難しいことはわかっている。だが、とはいえ、急いで欲しい、とはいえ」と繰り返す国王。
聖女の力を持つものを王城付近に呼び寄せただけではなく、とにかく血筋として組み込みたい。その気持ちが強いことはわかっている。話を聞けば、前聖女の子供たちは魔力もなく、聖女としての力はなかったのだと言うが、それをティアナの子供ならばと期待をしているのかもしれない。
「まあ、それは、おいおい、だな」
それから、あれこれと世間話に近いことを話してから「以上だ」と国王が言えば、檀上からランメルツ伯爵が降りてくる。40代後半ぐらいのその男性は、優しそうな笑顔をティアナに向けた。
「お話をするのは初めてですね。大聖女様。それでは、王城内を案内させていただきます」
「えっ、ええ?」
伯爵ともあろう爵位の者が、自分にそんな丁寧な言葉を使うなんて。ティアナは喉を詰まらせたが、その横で母親が「よろしくお願いいたします。わたくしは控えの間で待っていればよろしいでしょうか?」と声をあげたので、その間に「んっ、ん」と息を整える。
ランメルツ伯爵は「自分も本来は入れない場所なので、その手前までしかご案内は出来ないので、男爵夫人もご一緒に」と言って、2人を連れて謁見の間を出た。出る前に、母親に促されて「あっ!」と慌てて国王に退出の挨拶をしたが、国王は「よい、よい」と言って軽く手を振るだけだった。
「ぜんっぜんそんなこと聞いてなかったんだけど。神官長に」
帰宅をして着替えを終えたティアナは、ぶつぶつとコンスタンツェに愚痴を言う。
あれからランメルツ伯爵に王城の中を案内された。王族しか入れない場所のいくつかがティアナに開放され「自由にお使いいただけると思います」と言われたものの、自由になんて使うものか……と心の中では呆れてしまった。そもそもティアナは王城に特に興味がない。
それから、各地にある王族の施設――そのほとんどが別荘だったが国所有の鉱山やらなにやらも含まれる――についての説明を受け、その後魔法院へ。
そうこうしているうちに、あっという間に昼食の時刻はとっくに終わっており、腹ぺこになったティアナは音を上げた。始終嬉しそうな母親と共に、城下町で貴族が集まるサロンに足を伸ばして食事をした後、ようやく解放されたというわけだ。
きっと、これが自分ではない他の貴族令嬢だったら「折角だから……」と、そこに足を伸ばすだろう。王族だけが許された庭園や、王族だけが許されたサロンに行って、なんとなくの王族気分を味わってみるに違いない。ティアナも少しだけ興味はある。特にサロン。サロンとは言ってもほとんどそこは「休憩所」と変わらない。ランメルツ伯爵が言うには「そこで休憩をしながら焼き菓子を頼んだり、香油を使って手足のマッサージを受けたりが出来る」という話だ。
とはいえ、彼も「自分もよくはわかっていないのですが……」と苦笑い。それはそうだろう。正直、少しだけ気にはなる。焼き菓子が。ティアナはそう食い意地が張っているわけではないが、焼き菓子はまあまあ、いや、結構好きだ。だが、それだけだ。
何にせよ、ティアナにとって「大聖女」と言う肩書きは、完全に無用のものだったし、逆に足枷をつけられたようで若干腹立ちもあったのだ。




