33.大聖女(2)
翌日、ティアナは王城に足を運んだ。午前の早めの時間は国王が謁見を行っているらしく、昼に近い時間に登城した。大聖女とは一体なんだ、というわけで、一人で話を聞くのが若干心もとなかったため、母親と一緒だ。
控えの間に通されて待っている間だけ、コンスタンツェは元気に飛び出てきた。昨日「疲れたから休む」と言っていたが、今日は大丈夫なのだろうか。ティアナはあれこれと彼女に話しかける母親に相槌をうちながらも、ふわふわ浮いているコンスタンツェのことが気にかかる。
「ねぇ、この置物結構なお値段しそうだけど、この国ってまだ豊かなの? あっ、話せないか……」
ちらりとティアナの母親を見て、肩を竦めるコンスタンツェ。控えの間は豪奢なシャンデリアに最高級のソファ、そして美しい銀細工が足に入ったテーブル。チェストのような調度品の上に置物がいくつか並んでいる。正直なところ、これは控室なんてものではなく、完全なる応接室、いや、応接室以上の更に上の応接室だ……そんなことをティアナが考えていると、コンスタンツェは「つまんなーい」と言って、ティアナの中に再び入った。
「結構待つのねぇ。王城で待たされるのは初めてではないけれど、陛下の謁見がかなりお時間が押しているようね」
そうティアナの母親は愚痴る。確かにそうだ。昼前には、と言っていたものの、時間は半刻をとっくに回って、もうすぐ一刻になってしまう。彼女が言うように、国王への謁見に何かしらの時間がかかっているのだろうが、彼らは待つ以外、何が出来るわけでもない。
「白銀の聖女様。お待たせいたしました。陛下がお待ちです」
そうして、待つこと一刻と数分。国王の付き人なのか何なのか、とにかくよくわからないが人がやってきてティアナたちに声をかける。それを聞いて内心は「お待ちって何よ。こっちが待ってたのに」と思うが、顔には出さずに、しずしずと歩く。しずしずと歩くのは、母親が一緒にいるからだ。自分ひとりならば、たかたかと足早に向かうに違いない。
国王の謁見の間には、すでに何度も来たことがある。通路を歩いて、謁見の間の両開きの扉を開けられ、ティアナの名を国王に名乗られる。勿論、頭には「聖女」とつけて。
敷かれた赤い絨毯の上を母親と共に歩みを進め、印がある場所でティアナは自分から名乗る。その奥にある5段ほどの階段の上から、国王が「うむ、そう緊張をしなくても良いぞ」と声をかけられた。
中央に国王。左右に一人ずつ護衛騎士が立っている。そして、国王の斜め後ろに1人の男性が立っている。本来、そこには宰相が立っているのだろうが、今はまだマリウスの弟ではなさそうだった。そして、赤い絨毯から離れた左右の壁際には、更に騎士や臣下が数人ずつ並んでいる。
(おっと、コンスタンツェ、出て来たわね?)
ティアナの体の中からコンスタンツェはぬるりと外に出た。が、姿を消しているようだ。その感覚がわかるようになってしまった自分を「慣れたわねぇ」と他人事のように思うティアナ。
「待たせてしまったな。謁見に少々手間取ってしまって申し訳ない。ここ数年はなかなか頭が痛い問題が多くてかなわん。国庫の見直しもしなければいけないな……いや、そんな話はどうでもいい……」
こほん、と咳ばらいをする国王。
「さて、ティアナ・カーラル・アルベール。並びにアルベール男爵夫人。よく来てくれた。今日、ティアナを呼び出した理由は、ティアナの肩書きを聖女から『大聖女』に格上げをしようと思ってのことなのだが。それは理解しているだろうか?」
「あの、大聖女とは一体……それに、わたしをそうする理由というか、原因は何なのでしょうか」
「ティアナ。そなたは聖女になってからこの2年、多くのことを成し遂げて来た」
「え?」
思い当たる節がまったくない。ただただティアナがきょとんとしていると、国王の斜め後ろに立っていた臣下が、何やら紙を広げて読み上げた。
「ティアナ・カーラル・アルベールが聖女になってからの神託は、非常に細やかで鮮明なものが多く、それゆえに数々の功績をあげている。よって、その業績を鑑みて、大聖女の称号を与える」
「へ?」
間が抜けた声が出た。が、誰もそれについては指摘もせず、話は進んでいく。そもそも、ティアナにとってそんなことは初耳だ。神官長にすらそんなことは言われたことはない、と思う。
「大聖女として、今度も励むように」
「あ、あの……大聖女とは、その、何を、どうするものなのでしょうか?」
そのティアナの言葉に、国王は笑い声をあげた。
「はっは、何も。特に何も。だが、月々の報奨金は増える。そして、各地にある王族所有の施設の一部を利用することが出来る。それから、王城の各所に足を伸ばす権利を与えられる。詳しくは、これからランメルツ伯爵に案内をしてもらうと良い。大聖女となれば、王族に何よりも近しい者となるからな」
心の中で「聖女になった時も似たことを言っていたと思うけど」と思ったが、ティアナは頭を下げて「ありがとうございます。もったいなきお言葉」と答えた。
「それから、宝剣を今も持っているな? 聖女にとって宝剣は大切なもの。引き続き、決して失くさぬように、常に身に着けておくようにしなさい」
「は、はい」
と答えながら、ティアナは内心「えっ、あれって常に身に着けるものだったの!?」と動揺をした。
(あっぶない! そんなものだなんて神官長全然言ってなかったじゃない。今日、ここで見せてくれとか言われたらどうしよう……!!)
心の中では滝のような汗をかいているが、ありがたいことに国王は宝剣を見せろとは言わなかった。




