レイナとアイシェとサロス~新しい旅立ち~
今回長いです。休み休みご覧ください。
帰路についてすぐ。私は思った。
「あ、アイシェとどうやって合流しよう……」
というか、帰りは転移すればいいじゃんとか、アイシェの戦いはいつ終わるかなとか、色々考え無し過ぎて自分の行動の浅慮具合に呆れる。
「ま、まあきっとアイシェなら戦いが終わったらすぐ近くの王都に行くだろうし……王都で待ってれば……うん、あとはマップで」
マップで人の行き先、行動を見るのはどうかなぁとは思う。思うけれど、でも今回は見ないとアイシェと合流が難しいので、使うことにした。
で、それはいいとして。
「レイナさん! なぜアイシェを一人で行かせたんですか!!」
「あの子が死んでもいいの?!」
「ありゃあいくら何でもないぜ」
「殺人的」
「うるさいなぁ」
アイシェと魔王を二人っきりにしたことに関して、非難の嵐を受けていた。本当にもう、結構にワーワーと言われていた。
「いいの。アイシェなら勝てるから」
「そうは言いますが、師匠、アイシェは俺と同じくらいの強さですよね?」
「ん? そんなことないよ?」
「え」
サロスが何かを勘違いしているようなので、先に言っておいた方がよかったのかな。
「アイシェは私と一緒に旅してたんだよ? ちゃんと……て程でなくても稽古もつけたし、一人で魔物と戦うことも多かったからねえ」
「それを言ったら俺だって魔王討伐の為に旅をしてきました」
「うーん、そうなんだけどねー」
それは私もひっ掛かっていた。なんでアイシェってあんなに成長早いんだろうね?
「まあ、やっぱり私と稽古してるからかなあ?」
「確かに、師匠に鍛えられた数年の方が、圧倒的に成長は早かったですが……」
「そうなんだ」
じゃあ私に何か関係あったりするのかな。どうなのかな。
「まあそれはいいとして」
「あ、そうですよ、アイシェ一人では不安です。今からでも全員で……」
「いやいや、そしたらまた魔王が操魔使って、私が戦っての繰り返しでしょう」
「それは……それでも、です。師匠が倒してもいいのでは?」
「いやいや」
流石にそれは、私にはできない。
なんといっても、グロいので。あんまりしたくない。
「さて、王都に転移するよ」
「え、あ、はい」
そんなわけで、サロス達と一緒に王都の近郊に飛ぶ。人目に付くと面倒だから、いきなり街中には飛ばない。
「さーて、まずはお城にでも行ってみようか。ゆっくりしたいー」
「ま、まって下さい、師匠!」
「ん?」
なんか慌てた様子のサロス。どしたのかな。
「空が……」
「空?」
今度は賢者ちゃん。名前なんだっけ。に言われて、空を見る。
「あらまあ」
月が迫っていた。あらあらまあまあ。
「魔王の仕業か、ありゃあ。ははっ。この世界も終わったか?」
「笑い事じゃないぞズィナミ。師匠、アレの対応はどうしますか」
「うん? アイシェがいるし、大丈夫じゃない?」
月かあ。私の流星より大きさは大きいよね、多分。数は一だけど。
「ですが……!」
そこまでサロスが言いかけた時。月が、崩れた。ように見えた。
「あらまあ、消えていくね」
「え……一体……なにが」
「アイシェでしょ」
何をしたのかと言われたら、多分斬ったんだろうけど。あんな崩れ方するからには、よほどの細断をしたのだろう。
「細かく切れば、風に乗って消えるだろうねぇ。潰されないし、流石だなぁ」
「そんなこと、できるんですか?」
サロスが言葉に詰まりながら問う。
まあ、あんなの見ても信じられないレベルだよねえ。
「アイシェならね、できるでしょ」
ちなみに私なら魔法で何とかすると思う。剣ではちょっと自信ないなぁ。
「…………アイシェはそこまで強くなったのですね」
「そだよ。サロスも頑張ってね」
私はサロスの想いも知っているので、頑張ってとしか言えないね。
「俺もあの域に行けるでしょうか」
「むー。それはサロス次第かなあ」
もしかしたらだけど、私と訓練すれば行けるかもしれない。サロスだって筋はいいしね。
「さて、その後アイシェがどうかな」
しばらくお話している間に、戦闘でも始まったかと思って、マップを見てしまう。
そして。
「あ、こっちに向かってる」
「え」
どうやら魔王もすぐに倒したようだ。
まあ、月を斬れるんだからねぇ。魔王なんてすぐ斬れるだろう。
「ちょっと行ってくるね」
「師匠、俺も」
「いいよ」
私はサロス……あれ、他もついてきてる。皆を連れてアイシェの方に向かった。
で、歩くこと十数分。
「アイシェー!」
「レイナさん?!」
私が王都の方から歩いてきたものだからびっくりしたのか、ものすごい速度で走っていたアイシェが足を止める。
「アイシェ速いね」
「いえ、レイナさんほどでは……」
「私のは速いんじゃなくて転移だよ」
「あ、そうですよね。転移してきたんですね」
「そそ」
で、アイシェの方は……。
「ん、すご、ステータス高いね」
「レイナさん、見たんですか」
「あ、ごめん」
ついさっきの速度が気になってみちゃった。あははは。
「まあいいですよ。隠してもバレますし」
「そお? いやあ。軒並み私よりステータス高いね」
「え?!」
私の言葉にサロスが驚く。まあそりゃあそうだよね。
本来人類が到達できないであろう、最初の20人限定の100レベル。
それをまだ80レベル未満。カンストしてないはずのアイシェが超えているのだから。
「どういうからくりかは、聞かないでおこうかな」
「ありがとうございます。とっておきの切り札なので」
「おぉ」
アイシェがそこまで言うんなら、よほどいいスキルか何かなのかなあ。
まあでも、この感覚には、覚えあるけどね。
「と言いつつ、アイシェこの間の稽古で使ってたでしょ」
「うっ……やっぱりアレでバレてたんですね……」
「まあね」
弟子の、妹分の成長はしっかり見ているつもりだ。そういう意味ではあの時のアイシェは速すぎた。
「でも詳細は聞かないよ。個人情報だからね」
「こじん……?」
「まあ、プライバシーってとこかな」
「ぷら?」
「うん、この世界にそういう概念ないのだけはわかったよ」
怖いね異世界。個人情報は守られるべきだと思います。
まあ勝手にマップで居場所探しといて、言うことじゃないんだけど。
「さて、立ち話もなんだし、帰ろ?」
「そうですね」
こうして、私は魔王を倒したであろう英雄な、アイシェとサロス達と一緒に帰路に就く。
王都について、操魔の魔王……めんどうだから略して操魔王討伐について報告すると、皆、ひどく驚いていた。
なんでも過去の封印についてはトップだけは知っていたらしく。倒せるとまでは思っていなかったようだ。
で、そんな報告会から、翌日。
「旅に出ます」
「お供します」
私が唐突に言うと、アイシェは付いてくる気満々だった。
「実家に帰らないの?」
「帰っていいのなら、寄りたいとは思いますが」
「寄るだけ?」
「はい」
「私と一緒でいいの? もう魔王も倒したし、家族と平和を享受していいんだよ?」
「まあ、そうなのですが」
そこまで言って、アイシェはちょっと言い難そうに、あるいは遠慮がちに言う。
「旅は面白かったので。私も親離れする年ですし」
「そ、そう……?」
そんなアイシェ、今何歳だったっけ。覚えてない……成長は見て来たけど、覚えてない。
「なのでレイナさんと旅をしてみたいなと。ただただ楽しむために」
「お、いいねえ」
その心意気は嬉しいね。そうと決まれば。
「じゃあ旅しちゃおうか」
「はい!」
というわけで、旅をすることにした。
なので、それを報告しとくことにした。
誰に? それはねえ。
「サロス、やっほー」
「師匠、それにアイシェも」
「私達、旅に出ることにしたよ」
「旅、ですか?」
サロスが不思議そうに見る。なんで?
「魔王はもう、倒しましたよね」
「まあ、そうだけど」
旅の理由って、他にもあってよくない?
「あ、もしかして最強の魔王。操魔王以外の魔王の討伐ですか?」
「ん? 違うけど」
「では何を目的に旅を?」
「楽しいこと探し?」
「それは……え?」
この世界ってそういう理由で旅とかしないのかな。美味しいモノを求めてーとか、楽しいことを探してーとか。
「それで、アイシェも一緒に?」
「えぇ。レイナさんと一緒に行きます」
「……俺も行っていいですか?」
「お」
これは勇気を出したね、流石勇者。
「いいよ」
「え、いいんですか」
「いいよ?」
なんで聞き返されたのかな。
「アイシェは」
「レイナさんがいいなら問題ないんじゃないかと」
「そういうものかな」
どうだろう。そういうものではない気もするけど。でもまあ。
これならアイシェとサロスの恋も、上手くいくかも?
まあ、アイシェと、というより、サロスの片思いだけど。
「じゃ、行こうか」
「もうですか」
「うん、思い立ったらすぐ行動だからね」
「は、はい」
というわけで、サロスを連れて旅に出る。
一応、その前に国の勇者と英雄を借りていくので、王様に会って挨拶だけしとこうかなと思った。
でも、これが間違いだった。
「よくぞ来てくれたな。待ちわびていた」
「え」
なんで、待たれてるの?
「此度の代理戦争、剣聖戦に、ぜひアイシェ殿に出て欲しいのだ」
「お断りします」
「これは王命ぞ?」
「……どういう意味でしょう」
なんだろう、嫌な感じがする。すごく、人間独特の悪意みたいなものを、感じた。
「連れてまいれ」
「はっ」
王が兵に命令を出す。そして、連れてこられたのは……。
「ん……」
私はつい、この先の展開が読めて、イラっとしてソードビットを出す。
しかしそれを見た元勇者パーティの面々が戦闘態勢に入る。
んー。なるほど。
「人質はこれだけじゃないってことですか」
「流石レイナ殿、察しがよいな」
「どういう意味でしょうか、師匠」
「だからね、アイシェの家族とか、勇者パーティの大事なものを人質に取って、王命だからと言って従わせる気なんだよ」
「そんな……!」
サロスが驚き、そして王を睨む。
アイシェは、静かに佇んでいた。
「そうですか、王命、ですか」
「そうだ。何か他にあるかね」
「いえ、代理戦争、その代表として、剣聖として、戦えばいいのですね?」
「さよう」
「……」
私は黙って、アイシェと王のやり取りを見ている。
うわあ、腹立つなあ。
「承知しました。王命、承ります」
「うむ。賢明な判断だなでは――」
「いやいや」
上から目線な王に、流石にイラっと来て……私は人質救出のために動いた。
「エポケー」
私は魔法を使った。時を止める魔法を。
「さて、アイシェの家族を奪還してっと」
でもって、王、そして戦闘態勢のものにソードビットを向けておく。
そして時は動き出す。
「では――ぬっ?!」
「なっ、これは」
時が動き出した瞬間、みな一様に驚く。
「レイナ殿、これはどういうつもりかな」
「悪いけど、うちの妹分を脅して従わせようとするのは許容できないね」
「……ふむ、この余に向けられた刃は、エルフと人間の戦争になってもよいという証か」
「そうだねえ、エルフとっていうより、私と? 勝てると思う? アイシェの為なら全力出すけど」
「…………」
王は一言も発しない。何が起こったのかはわからないけど、何をされたのか察しは付いているのだろう。何せさっきまで王座横に囚われていたアイシェの家族は、私の後ろ。結界の中だ。
「後学の為に聞かせてもらっても?」
「何をしたか? 秘密だよ」
流石に時を止められるなんて、言っても信じないだろうしね。
「そうか、余は手段を誤ったか」
「そうだね、そういうタイプだとは思わなかったかな」
無理やり言うこと聞かせるタイプには見えなかった。なのでショックだ。
「だがな、これは人間同士の問題だ。この戦争に負ければ、我々は居場所も、権威もなくなる」
「我々ね、負けた国は属国とか?」
「隷属よ」
「あらまあ」
魔王問題が片付いたと思ったら、今度は人同士の争いかあ。
「レイナさん」
「ん?」
「私の為に、ありがとうございます」
「ん」
「でも。大丈夫です。家族の安全さえあれば、私は戦えます」
「……そう?」
「はい」
まあ、そういうことなら。いいか。
「旅はどうしよう」
「旅しながらではだめなんでしょうか」
「それは、そうだな。旅をしてある場所を目指してもらえればよい」
「ある場所?」
「魔帝都だ」
「魔帝都」
何その魔族っぽい名前。
「魔帝都……唯一共存派の魔王がいる国ですね」
「うへえ、マジかー」
そんなのまでいたんだね。怖いなこの世界。
「そこで開かれる代理聖戦に出場し、勝ってもらえればよい」
「で、そのあとは?」
「自由にするがよい」
「ふうん」
自由に、ねえ。
「他の国を隷属化するの?」
「せぬ。だが、それをもくろむ国もある」
「ふうん」
そうなんだ、へー。
「じゃ、いこっか、アイシェ、サロス」
「は、はい、師匠」
「レイナさん、ありがとうございました」
「いやあ……」
どっちかというと、キレて余計な事した感じがする。
ここでアイシェの家族を守れても、後々そうとは限らない。なので。
「まずはアイシェの家族を匿うところからかなあ」
そう呟きながら、私たちは城を、王都を後にした。
後味悪いね!
ご読了ありがとうございました!
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