表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/81

第70話 奥様参戦!

 ふわりと揺れる金色の髪。ツインテールの金髪と、今にも仕留めてきそうな殺気だった瞳。久しぶりに対面した彼女に、リコリスはごくりと唾をのむ。


「クローバー………」

「久しぶりー、リコリス。元気にしてたー?」


 突如闘技場に舞い降りた1人の少女とおじ様執事。観客の全員が2人の覇気に圧倒される。


 丁度ネルから連絡を受け、試合会場端へと来ていたメミも踏ん張らなければ、座り込んでしまいそうなほどだった。


 だが、覇気を目の前にするリコリスが倒れ込む様子はない。むしろ。


「今いい試合してたのにィ! 邪魔しないでよ!」


 子どものように怒っていた。まるでお気に入りのおもちゃで遊んでいたのに、それを取り上げられた時のように地団駄を踏んでいた。


 メミはネルに連絡を受け、リコリスを止めようとしたが、リコリスに近づくことすらできなかった。恐怖が全身に襲ってくる————相手はアスカに似た小さな少女だというのに。


 しかし、リコリスに恐れる様子はなく、むしろ少女に向かって怒鳴っていた。試合を邪魔されてかなり憤怒している。顔が真っ赤だ。


「大体なんであんたがここにいるのよ!? あんた、私にやられてから雑魚魔王の所にいないと生きていけないんじゃなかったの!!? なーんにもできない弱小妻はお家で引きニートしてなさいよっ!!」


「はぁ? アタシが弱小妻っ!? アタシ、そんなに弱くないし! 今ならアンタをボッコボコにできるっつーの!!」


 大きな角を持つ金髪ツインテール魔族少女も、リコリスと同じように叫び散らかす。後ろに待機するおじ様執事は、穏やかな表情を浮かべたままだった。


 なんだ……この茶番は……とメミは思わずにはいられない。

 

 覇気は凄い。現に気絶している者もおり、すぐさま止めに入るはずの審判は動けない様子。額には垂れる汗が見えた。


「だいたいアンタのレベル、落ちてるじゃーん? 聞いちゃった、あは♡ ざまぁ♡」

「…………さ、最近レベル1つ上がったもん!」


 ふんっ鼻を鳴らすリコリスに、煽るように笑う金髪ツインテール。レベルが一つ上がっただけで堂々している辺り、リコリスはかなり苦労しているようだ。可哀そうだ。


 普段からネルにべったりなリコリスには、メミは何かに失敗する度にざまぁと思っている。が、今はあんな相手に因縁をつけられて本当に可哀そうに思う。悪運ばかり集める人だ。


 にしても、この二人は子どもが喧嘩をしているようにしか見えない。ただならぬオーラを撒き散らかしているにもかかわらず、だ。緊張感あるのかないのか分からない。


「レベル一つって、くぷぷっ……本当に悪魔の兵器が落ちぶれちゃってるー、くぷぷっ」


「あ、あんたこそ、引きこもりニートでしょ! 今まで家から出てこなかったくせに! どうせライナスがいなくなったから、出てきたんでしょ! やーい、ニート! 引きニート! 頭の痛い弱小妻!」


「なぁーにを!! このブラコン悪魔め!」


「あ、それとも昔みたいにお転婆してるってわけ~!? もう結婚したっていうのに暴れてるの!? あははっ、こんな餓鬼みたいな奥さんだなんて兄魔王も大変ねぇ!!!」

「キィーっ!!!!」


 猿のごとく奇声を上げる悪魔女。珍しくリコリスが口喧嘩に勝っている。いつも秒で負けるので本当に珍しい。


「いいわよっ! 私だって本気出してやるんだから!」

「リコリスさん、落ち着いてください! まずはここから逃げて——」

「逃げるわけないでしょっ! クローバーを相手にしてるのよ!!」

「クローバーって……えっ、まさか……」


 兄がいった「魔王軍幹部」、リコリスが呼ぶ「クローバー」、まさか相手は……。


「魔王軍幹部クローバー・スノードロップ……?」


 メミは思わず声に出してしまった。手で口を押えたが、もう遅い。聞こえたのか、魔族女も反応する。


「そうよ! アタシこそ、魔王様の正妻クローバー・スノードロップよー!!」

「ははーん。ファミリーネームは変わってないみたいだけど、まさか結婚してなかったり? ええ~、クローバーちゃんの痛い妄想ですかぁ~? イタタタァ」


「違いますぅ!!!! み、みんながいつまでたっても呼び方を変えてくれないから、前の通り名乗ってるだけよ!!」

「あははっ、可哀そうな子! 名前もろくに覚えてもらえないなんて!」

「キィー!!」


 爆笑するリコリスに、またもや奇声を放ちじたばたと地団駄を踏む。地面に罅が入り、今にも壊れそうだった。小さい体のわりに怪力だ。


「悪魔の兵器リコリス様! アンタこそ、お兄ちゃまから離れてよかったのぉ~? アンタなんて、相手を殺すことしかできないのに、ちょっと魔力を放っただけで何千もの敵が死んでたっていうのに、人間と一緒に暮らせるわけ―?」

「…………」

「敵味方も分からず殺してしまう、まともに調整もできない、悪魔の兵器なんて! あははっ!」

「殺す————」


 …………ちょっと待って欲しい。今の、どこが、リコリスの地雷だったのだろうか。


 メミはリコリスの過去をよく知らない。ただクローバーの話からするに、相手しか倒せない殺戮兵器だったのだろうか。メミはごくりと唾をのむ。


「ネルと同じにしないでよ……今の私はね、調整なんてちょちょいのちょいよ!」


 …………ちょっと待って欲しい。本当に、そこが地雷でいいのだろうか。


「ネルはね! ここぞという時に調整をミスって、台無しにしちゃうけれど、私は違うの! 天才なの! ミリ単位の微調整なんてお手の物! 華麗に決めちゃうわけよ!」


 メミから見てリコリスは、器用に魔法を扱い技量はないと思う。魔力は並み以上にあるし、魔法知識も意外とあるのだが、技術が伴っていない。


 ネルとどっこいどっこいな所はある。へまも多い。ネルは肝心な時に火力を出し過ぎる所があるが、リコリスが彼と大きく違うのはやる時にはやってくれる時もある。ごくたまに。


 要するに、リコリスの話は盛っている。宿敵相手に見栄を張っている。


「だから、あんただけ(・・)を殺すのだって余裕よ————」

「リコリス……さん?」


 メミの瞳に映った彼女。肌にはおぞましいタトゥー、クローバーを睨む瞳は赤く燃え、すくんでしまうような覇気を吐き出す悪魔。存在が禍々しい。

 

 さっきまでのポンコツリコリスはどこへ行ったのだろうか。

 目の前にいるリコリスは、お間抜けな彼女ではない。別人だった。


「リコリスさんっ!!!」


 メミは叫ぶ。兄が心配していたのはこのことだったのだろうか。

 相手は只得さえ魔王軍幹部。二人をあのまま放置しておけば、きっと観客を巻き込むどころではなくなる。下手をすれば、王都が消える。


 リコリスを止めてクローバーから離れなければならないことは頭で分かってはいる。いるが、何一つ体は動かない。


「アハハッ——!! いいじゃーん!! 悪魔の兵器!!!」


 クローバーはこのリコリスを知っていたのだろう。ずっと待ちわびていたのだろう。両手を空に上げ、歓喜していた。


「メミさん、ここから離れましょう」


 振り返ると、心配そうな顔を浮かべるラクリアがいた。動揺しているのか、メミに落ち着いてもらうためなのか分からないが、彼女のいつもの変な語尾は消えていた。


 ラクリアはパッとメミの手を取る。


「近づいていては巻き込まれます。私たちではどうにもできません」


 メミの手を掴む手は強く握っている。そこで、ようやくメミは自分の手が震えていることに気付いた。


 ラクリアは誰もが認める変人だが、メミ以上に戦える人間ではある。そのラクリアですら、無理だと言っている。メミでも止められないと頭では理解していた。


 だが————。


「いえ、兄様が来るまでは離れるわけには」

「ですが…………」


 兄に頼まれたのだ。リコリスを会場から離させろ、と。メミはリコリスがどんな状態に陥ったとしても、メミは彼女をこの競技場から離すと決意していた。


 たとえ、自分がボロボロになって、無残な死に方をするとしても————。


「偉いな、メミは」


 ぽんとメミの頭に置かれる手。その手は大きく、メミは触れられるだけでほっとする。恐怖で緊張していた顔も、徐々に柔らかくなっていく。


 わしゃわしゃと撫でると、彼はメミの横を通り過ぎ、真っすぐ歩き階段を上っていく。


「兄様!」


 彼の背中は大きかった。以前からずっと大きく見えていたが、こういう危機的状況だからだろう。メミの瞳には誰よりも頼もしく、輝いて映っていた。


「後は任せろ」


 彼はそう言って、壇上へと上がっていった。暴走したリコリスと魔王軍幹部クローバーがいるあの場所へと、真っすぐに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ