第62話 打診
「全部よ。全部知ってるの」
正直、王女様のこんな笑みなんて見たくなかった。
悪巧みしかない悪意100%の笑み。さっきまでの柔らかな微笑みはどこへ……。
「全部、とは……?」
「ええ、全部と言ったら全部よ」
そう言われてもな……インチキ占い師と言ってることが変わらないんだが。
どうせ、それっぽい適当なこと言って、俺から聞き出そうとしているんじゃないのか? インチキ占い師みたいに。
俺が眉をひそめていると、ティファニーはフッと優しい笑みに戻った。
「大丈夫、ネル。本当に全部知ってるから。ゆっくり話しましょう。どうぞ、そこの席に座ってちょうだいな」
やんごとなき王女様に促され、俺は警戒しつつも正面の椅子に仕方なく座る。
そんなに長いする気はないのにな。いつステファニーと遭遇するか分からねぇし、さっさと帰りたい。
「レンちゃんが神になっていることも、ベルティアとコンコルドが天使だってことも私は知ってる」
「……ほぉ」
レンのことを知っている。それは予想外だ。
それを知っているということは、本当に全部知っているのだろう。
でも、どうやって知ったんだ?
「もしかして、誰かに聞いたのか」
これらを知っているのはメミぐらいだ。
となったら、俺の知らない所で彼女たちが関わったのか。
しかし、ティファニーは間を置かずに横に首を振る。
「誰からも聞いてないわよ。私はずっと見ていたの」
「ふーん。なるほど……ティファニー殿下は魔眼持ちであられましたか。そうですか、自慢ですか」
「いや、自慢じゃないし、大体持ってないわ。魔眼なんて私には必要ないし」
「なら、どうやって知ったんだよ」
「どうやってって……自然とよ」
「自然と?」
それなら、尚更千里眼とかの魔眼で知ったとか、予知夢を見て知ったとかしか思いつかないんだが。
すると、ティファニーは自分の胸に手をあて、そして。
「だって、ほら、私は神様だもの」
と、自信満々な表情でこう言った。
――――え?
神様って……は?
「何言ってんだ、お前……」
「何言っているって、そのままの通りよ」
「……その発言はかなり痛いぞ、王女様」
教会にも怒られるんじゃないか?
しかし、自称女神様には俺の声が聞こえなかったのか、そのまま意気揚々に話始める。
「私もね、こんなふうになるとは予測してなかったのよ。まーさか、この世界自ら神々を作るとは思ってなかったわ。でもね、レンたちは偽物で、私が本物の神よ」
「うさんくせぇ……」
「神に向かってうさくさいとは……ともかく、私は本物なのよ。この世界を管理しているのは私なの。全てを知っているし、他の神々の調整をしているのはわ・た・し」
「と言われてもな……」
俺たち、神様のことはよく分かってないし。正直ピンとこない。
身近にいたレンが神の子だったんだ。ピンと来るはずがない。
「この世界が魔法が存在するようにしたのも私。魔法の神と協力して、世界設定したのよ」
「……その発言は本当に頭が痛いぞ、王女様。一度精神科に行かれますか? 王女様」
「もー、結構調整には苦労したのに……あなた信じてないわね……仕方ない! じゃあ、私がなんでもできること証明してあげる」
ティファニーはパチンと指を鳴らす。
すると。
「え? 兄様?」
「…………メミ?」
ティファニーの隣にはメミが立っていた。メミを連れてきた覚えはないし、今、彼女は学園にいるはずだ。
「おい、どういうことだ。なんでここにメミがいるんだよ」
「そりゃあ、私が移動させたからに決まってるじゃない。あ、転移魔法なんて使ってないからね」
「…………」
「む。その顔はまだ信じてないわね。もう、せっかく妹ちゃん連れてきたのに……メミさん、突然呼び出してごめんなさいね」
「いえ、王女殿下……でも、兄様、これはどうい――」
ティファニーが再度指を鳴らすと、メミは消えた。
そして、自称神様はすぐにパチンと指を鳴らす。
すると、俺たちはあの綺麗な庭から別の場所へと移動。
見えたのは赤い空に、赤い土。地面を駆けまわる魔物たち……なるほど、ここは裏世界か。
俺が移動した先は、裏世界の上空。足元にはあの赤い裏世界が広がっていた。
隣では「どう? 見違えた?」とでも言いたげな愉悦な顔をしたティファニー。
「言っておくけど、魔法じゃないからね」
「はいはい。そういうことにしておきます」
「なんでよー、まだ信じてくれないの」
「だって、あんたがただレベル高くて技術もあるつよつよ魔導士って可能性もありうるだろ」
「…………ふん、確かにそうね。まぁいいわ。『ティファニー王女は女神様』ってことを頭の片隅にでもおいてくれればいいもの」
いや、別に神様だってこと信じてないんだけどな……。
心の中で文句を言いつつ、足元に広がる世界に目を向ける。
裏世界の地上に広がる大きな街。30mは余裕でありそうなガラス張りの四角い建物が立ち並んでいる。
まさか裏世界にこんな街があったとは……イメージと違いすぎる。もっと古代文化を保っているのかと思っていたが、意外と現代的だ。
思えば、俺はリコリスの家周辺から移動したことがなかったな……。
「なぁ、王女様。あの高い建物はなんだ? 誰が所有しているんだ?」
もしかして、裏世界いるに人間か?
と思ったが、ティファニーは横に首を振った。
「多分、魔王の手下たちの建物ね。といっても、人間たちが作っていた建物を改造しているだけだけど」
「……裏世界には人間がいるのか?」
「ええ、いたわよ。今はほとんど滅びちゃったけどね」
「生き残りはいるのか」
「いるわ。でも、生き残りは二桁もいない」
「その生き残りは?」
「レンちゃんが表世界に移動させた」
「レンが?」
「ええ、そうよ。あ、そういえば、その生き残りの1人があなたのチームにいるわね」
「は?」
俺のチームって、あの4人ってことだよな?
アスカ、ラクリア、リナ、リコリス……あ、もしかしてリコリスか?
いや、あいつは元々裏世界にいたし、悪魔だし、人間じゃないな。
なら、他の3人?
「おい、生き残りの人間って誰なんだ? 教えてくれ」
「えー、私が女神様ってこと信じてくれないから、教えてあげなーい」
「よし、分かった。信じる」
「ハッ、嘘ね」
「いや、信じるって。頭の痛い自称女神様なんて思っていないって」
「あなたそんなこと思っていたの!?」
それから、俺は何度も尋ねたが、自称神様は教えてくれなかった。
うーん。誰なんだか、めちゃくちゃ気になるんですけど。
チームにいるってことは教えてくれたんだから、最後まで教えてほしいものだ。
「それにしても、彼女ってあなたに夢中よね」
「……彼女って、メミのことか?」
「いいえ、レンちゃんよ」
「レン? ……なら、そこは“彼”じゃないのか」
「ええ、彼女に決まってるじゃない」
決まってるのか?
「そうか? ……あ、もしかして、神様には性別がないのか?」
「あるわよ。いや、ない人もいるみたいだけど……少なくとも私は女の子だし、レンちゃんもきっと女の子」
「…………は?」
レンが女?
「何言ってんだよ。レンは男だろ?」
「いいえ、女の子よ」
いやいやいや……あれはどう見たって男だろ。
確かに端麗な顔をしているから、中性的ではあるけども、あいつは男の子。
風呂ではしっかりと確認した。俺の方が大きかったのをよく覚えている。
「まぁ、今の外見は確かに男の子よね。一体何をされたのかは知らないけど、彼女が生まれた時は確かに女の子だったはずよ」
「はぁ? そんなのあいつから一言も聞いたことないぞ」
「現状から察するにレンちゃんは言わないでしょうね……あ、でもレンちゃんが女の子っていうのはほんとよ。私が適当なことを言っているわけじゃないわ。今度、本人に確かめたらいいわ」
第2王女が神様で、レンが女の子。
そして、俺のチームには裏世界で生まれた数少ない生き残りがいる。
うわ……情報量が多いぜ。頭、パンクしそ……。
「それで、王女様はこんな無駄話をするために、手紙を送ってきたのか」
「えー……無駄話じゃないと思うけど、帰る前に、ちょっとお話しておきたいことがあるの」
すると、ティファニーはまたパチンと指を鳴らす。
移動した先は先ほどの王城の庭。最初の場所に戻っていた。
「話?」
「ええ、あなたに打診しておきたいことがあって」
打診?
なんのことだ?
見当がつかず首を傾げていると、ティファニーはテーブルの上で腕を組み、俺に顔を近づけてきた。
俺を真っすぐ見つめてくる彼女の水色の瞳は、キラキラと輝いており、思わず吸い込まれそうになる。
「ねぇ、ネル」
「……お、おう、なんだ」
すると、ティファニーはニヤリと笑って、こう言った。
「死んだ後、あなた、神になってみない?」
頭の痛い王女様がまた頭の痛いこと言ってる……。




