第61話 全部知ってるの
「アハハ! ライナスのじじい死んじゃったの!?」
雷鳴が響く謁見の間に、甲高い笑い声が響く。
いつも不機嫌そうにしている少女が愉快そうに笑っていた。
「まぁ、いつかは死ぬと思っていたんだけどね! でも、こんなあっさり死んじゃうなんて! アハハ!」
楽しそうに笑う少女が座っているのは金の玉座。
それは死んだ変態幹部ライナス・ブレゼットのよりも大きく、そして豪勢な装飾が施されていた。
その玉座に座る金髪ツインテールの少女もまた魔族であった。
彼女の手と足には鋭い爪、頭に竜の角を生やし、背中には蝙蝠のような大きな翼。
口元からは長く鋭い八重歯が見えている。
そんな姿の少女だが、顔は正直言って童顔。
童顔かつ身長は小さいため、少女にはロリっ子と言われるような小悪魔的なかわいさがあった。
「殿下がお笑いになるとは珍しいですね」
「当たり前じゃない! あの老害じじいがやっといなくなったのよ! 笑うに決まってるじゃない!」
玉座に座るツインテールの少女の正面には1人の男。彼もまた頭に竜のような角があった。
「はぁ~ぁ……笑い過ぎて涙がでちゃった。それで、他には? 何かいい情報あった?」
「はい。どうやらこちらに“悪魔の兵器”が来ているようでして」
「は?」
男がそう報告すると、少女は眉をひそめた。
「“悪魔の兵器”って……リコリスぅ? はぁ? なんであんな化け物がこっちに来てるの?」
「さぁ、分かりません」
男が笑顔でバッサリ答えると、少女は「う゛――!!」と奇声を発し、頭を抱える。
「えぇ~、アイツがこっちに来てるとか、めんどーなんですけど~」
「まぁ、厄介ではありますね」
「そうでしょー? だってだってさー、ただえさえさー、アタシたちさー、人間と殺り合ってるっていうのに、あっちの魔王とやるってなったら、ちょーめんどーじゃなーい。しかも、あのリコリスを……あんなの寄越されたら、アタシら勝ち目ないじゃーん」
「でも、“兵器”はこちらの世界にいると、レベルは下がってしまうようですよ」
「え、そうなの?」
「はい」
「え、じゃあ、今のうちに潰しておいた方がいいじゃーん。あ、でもアイツのレベルが落ちたところで、アタシたちが倒せる保証はなくない? もしかして、あるのぉ?」
「いえ、私には分かりません」
「むぅー」
「ですが、物は試しですよ」
「そうだけど……失敗したら、嫌だぁ」
「それはそうですね。そこは作戦を練った方がよさそうです。あと、王国では七星祭が行われるようでして、リコリス・ラジアータも参加するようです」
「七星祭?」
「学生のお祭りみたいなものです。学生同士で戦うらしいですよ」
「へぇ、お祭りか……人間も面白そうなことしてるじゃーん」
すると、少女は黙り込んで、一時してぱぁと目を輝かせた。
そして、勢いよく立ち上がった。
「リンデン!」
「はい、なんでしょう」
「アタシ、いいこと思いついたっ!」
「いいことですか?」
「ええ!」
腕を組み仁王立ちする少女。
ニヤリと笑みを浮かべる彼女は男に向かって、大声で言った。
「アタシたちもお祭りに遊びにいこっ!」
★★★★★★★★
リナの家でパーティーをした数日後。
俺、ネル・モナーはロザレス王国の王都にある王城に来ていた。
七星祭があるため、王都にはもう少し後で来る予定だったが、俺は転移魔法を使って、1人王城に足を運んでいた。
先日、俺はいつも保健室にいる王国の第1王女ステファニーから、ある手紙を受け取った。
その手紙に書いてあったのは2文だけ。
それでも、俺は動揺した。
なぜ、あいつがこんなことを言ってきたのか。あのことはかなり前の話なのに、今になってなぜ連絡してきたのか……疑問が尽きなかった。
彼女と直接話したい、最優先に聞きに行かなければと、俺は王城に向かった。
手紙を持っていたため、手続きに手こずることはなく、すんなりと王城に入れた。
そして、俺が案内されたのは、薔薇の花が咲き誇る庭園。
そこの椅子で静かに座っていたのは、1人の少女。
金の長い髪に、雪のように白い肌。快晴の空のように透き通った水色の瞳。
白のワンピースをまとう少女は、まるでお人形のよう。
でも、やっぱりステファニーにどことなく似ているな。
そうだよな。血が繋がっているもんな。
端麗な少女は静かにお茶を飲んでいた。
「あら、もう来たのね。勇者様は随分と足が早いわね」
少女の名前はティファニー・ロザレス。
ロザレス王国の第2王女で、ステファニーの妹。
年は俺より5歳ほど下だが、ティファニーには丁寧な口調や王族ならではのオーラもあり、幼さを感じさせない。
そんな彼女と俺だが、何度か会ったことがあった。
と言っても、昔のパーティーとかで少し話をしたことがある程度。
ステファニーのように、裏で交流すると言ったことはなかった。
まぁ、俺とステファニーとの交流もあるため、彼女が俺のことを一方的に知っていてもおかしくはない。
だとしても、なぜ彼女があんなことを言ってきたのか分からない。
「久しぶりだな、王女様」
「ええ。随分久しぶりだけど、元気にしてたかしら?」
「まぁな。新聞で報じられた通り、幹部を1人倒してきたから、元気はあるんだろうな」
「そういえば、そうだったわね。幹部退治お疲れ様。ネルはようやく勇者として働くことしたのね」
別にそういうつもりじゃないんだけどな。
「……本題に入ろう。この手紙はどういうことだ」
俺はステファニーから受け取った手紙を見せる。
その紙にはこんなことが書いてあった。
『私はレン・アベルモスコの正体を知っている。ついでに、ベルティアとコンコルドのことも』
「知っているってどこまで知っているんだ」
そう問うと、ティファニーにはニヤリと口角を上げる。
そして、こう答えた。
「全部よ。全部知ってるの」




