第49話 おとろしいやん
雲一つない快晴の空。
その空の下にある訓練場には、少し冷たい風がふく。
…………ああ、この風と一緒にこの人たちをどっか飛ばしてくれないかな。
そんなことを思いながら、俺ははぁとため息をついた。
目の前にいるのは、双子の勇者。
彼らに半強制的バトルに誘われた俺は、訓練場に来ていた。
だが、ここに来るまでいろいろあった……正直、めんどくさかった。
双子先輩の侵入の報告を受けた教頭先生は、他校の生徒が無断で学園に入り、さらには魔法使用していることに激おこぷんぷん丸。外に出てきて、双子先輩を追い出そうと、忠告しにきた。
だが、先輩も負けず、「ネルと戦わせろ」と主張。
しまいには双子が暴れだそうとしていたため、戦うなら訓練場でしてくれと教頭が折れた。
…………まぁ、俺は一度も「戦いたい」なんて言ってないのだがな。
しかし、双子は選択の余地もくれず、俺は訓練場に連行された。
「よっしゃっ! よくわからん先生もおっぱらったし、これで戦えるな! ネル!」
「先生がいなくなってくれてよかったよ。本当に邪魔だった」
そして、双子先輩は清々しいそうに、俺に話してきていた。
先生がいなくなってよかったとは……本当にこの2人は怖いな……。
「早速戦いたいところだけど、ネル、ゼルコバ学園のバトルって、七星祭のものと一緒?」
「はい、一緒です」
緑色髪のヨウ先輩の問いに、俺は即座に答える。
よしっ。
さっさと終わらせて、アスカの実験室に逃げよう。
しかし、カイ先輩は横に首を振った。
「ヨウ、いつものルールでするんか? それやったらいつも通りでおもろくないやろ。勇者同士のバトルなんやから、少し変えようで」
「そうだね。いつものルールだと味気ないね」
いつもの学園のバトルルールは、どちらかが戦闘不能なるまで戦うというシンプルなもの。
七星祭でもこのルールが使用されているため、各学園も同じものを起用している。
そのルールではなく、別のものでするのか。
「変えるといってもどうするんです?」
「あー……」
言ったものの思いつかなかったのか、カイ先輩は黙り込む。
俺も思いつかず考えこんでいると、ヨウ先輩は提案を出してくれた。
「勝利条件は戦闘不能ではなく、的を壊すのはどうだろう?」
「的、ですか?」
「そう、的。ねぇ、カイ。フィールドの両端に2つずつ、的を作ってくれる?」
「いいぜ」
ヨウ先輩が頼むと、カイ先輩は手にしていた杖を動かし、そして、訓練場の両端に、お盆サイズの2つの木の的を作った。
「あの的はどう守ってもOK。壊すのもどんな方法でもOK。これでどう?」
「いいと思います」
「七星祭で似たような競技があった気がするが、いいんじゃねーか」
「……文句言うのなら、ヨウが考えて」
「文句はねーよ。学園内のバトルではあんま見たことないし、これで行こうや」
これでやっと戦えるか……?
すると、カイ先輩が何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。
「ヨウ、俺ら大事なこと忘れ取ったやん」
「え? 何?」
「ネルには相棒さんがおらへん」
「ほんとだ」
てっきり、1対2かと思ってたけど、人数合わせをしてくれるのか。
「ネル、誰か僕らと戦ってくれる友人、相棒とかいる?」
「相棒ですか……」
訓練場の隅を見る。
そこにいるのは悪魔女とチェケラ女とメミ。
その3人に向かって、俺は叫んだ。
「なぁ! 1人、誰か俺と一緒に戦ってくれないか!」
「はいはーい! 私したーい!」
「ここは私です! 妹の私がします!」
「私は遠慮しておくYO!」
2人は元気よく挙手したが、ラクリアは横に首を振った。
ラクリアはダメか……となると、リコリスか、メミか。
この2択は……うん、当然メミだな。
そうして、メミを呼ぼうとした時。
「げっ、メミがおるやんけ」
と、カイ先輩の呟きが聞こえてきた。
隣を見ると、彼はなぜか嫌そうな顔を浮かべている。
兄のヨウの方も、メミを見て眉間にしわを寄せていた。
「あの……お2人ってメミとお知り合いなんですか?」
「そうやな、知り合いといえば知り合いやわ」
「知り合いになんてなりたくなかったけどね」
「? 知り合いなのに、なんで嫌そうにするんです?」
そう尋ねると、カイ先輩は顔をゆがめる。
うお……すごく嫌そうだ……。
「いや……だって、あいつ、おとろしいやん」
「おとろしい?」
おとろしいってなんだ?
言葉の意味が分からず首を傾げていると、ヨウ先輩が教えてくれた。
「怖いってことだよ……僕も彼女は無理、怖い」
よほど怖いのか、ヨウ先輩は肩を震わせている。
うーん……カイ先輩もヨウ先輩も怖がり過ぎじゃないか?
確かに、以前のメミは怖かった。
『話しかけないでくださいオーラ』がハンパなかったし、俺に対しては『大っ嫌い』って言ってきているような睨みをしていることもあった。
でも、能力のある勇者が怖がることはないんじゃないか?
先輩たちは気に食わなかっただけで門や道を壊す暴れん坊。
正直、メミの方が怖がると思うのだが……。
「なんで先輩はメミを怖がってるんです?」
「いやなぁ、毎回あいつと七星祭で会うんやけど、いっつも怒られるんや」
「メミに……ですか?」
「せや」
「僕らに『無駄に物を壊すな―!』とか、『汚い言葉使うな―』とか」
「『煽ってくんなや―!』とかやな。ほんましつこいぐらい言うてくるんや」
「そうそう。僕らが彼女に会えば、絶対に1時間の説教タイムが始まる」
「ひぃ……あの説教を思い出しただけ身震いがするわー。なんぼ腹が立ったからといって1時間もずっと説教するか? 普通?」
「しないしない」
「よな? ジブンは俺らのおかんかてな」
メミから距離があるため、聞かれていないことをいいことに愚痴り始める双子。
よほどメミが嫌なようだな……。
「ま、そういうことやから、メミは却下や。悪いな、ネル」
「……ハッ、なぜあなたたちの意見で決めないといけないんです?」
と聞こえてきたのは妹の声。
気づけば、メミが近くまで来ていた。
メミはかなり怒っているのか、圧のある笑みを浮かべている。
そして、そんな彼女の後ろには目を輝かせる悪魔女。戦う気満々なようだ。
ああ……メミが来ちゃったか。
これは先輩方が怯えて……って、先輩はどこにいった?
さっきまで隣にいた双子先輩。
彼らはいつの間にか俺の後ろにいた。メミから身を隠しているようだった。
本当に怖がってるんだな……。
「い、いつの間にこっちに来たんや! 説教やろう!」
「早くどっか行って! 僕たち、まだ物を壊してない!」
「何を言っているんですか。あなたたち、校門と道を壊したでしょう?」
メミがそう言うと、双子は黙り込む。
だが、一時してカイ先輩が口を開いた。
「俺たちはネルと戦いにきたんや! 説教されにきたんやない!」
「物を壊した時点で、説教はします。絶対です」
俺の後ろで「ひぃ―」という小さな悲鳴が聞こえる。
なんかめんどくさくなってきたな……。
もういっそのことメミとこの双子が戦えばいいのに。
先輩が負けたら、メミに説教を受ける。先輩が勝ったら、説教なし。
…………もうそんな感じでいいんじゃないっすか。
だが、逃げ出すこともできないため、ぼっーと空を見上げていると、自分の服が引っ張られるのを感じた。下を見ると、カイ先輩が引っ張っていた。
「……なぁなぁ、ネル。あの黒髪のねーちゃん、あんたの彼女か? やったら、姉ちゃんに相棒になってもらいーや」
「そうだね。彼女なら大丈夫な気がする」
俺としてはメミ、ラクリアとの方が戦いやすい。
けど、勝敗はどっちでもいいからな……もう悪魔女でいっか。
メミを呼んだら、先輩たちがめんどくさくなりそうだし。
そうして、俺は先輩たちの言う通りにリコリスを呼ぶと、選んでもらえなかったメミはすねた。
すねたメミをなだめると、彼女から「審判は私がします」と言ってきたので、頼むことにした。
まぁ……双子先輩はピーピー文句を言ってきてはいたが、メミを選ばなかったんだ。そこは許してほしい。
人数がそろったことで、俺たちはフィールドの両端に移動。それぞれ準備をした。
審判のメミはフィールド中央に立っている。
俺たちが準備できたことを察すると、メミは双子先輩に声をかけた。
「双子は……準備できましたね。はい。了解しました」
「おい! 俺らまだ何もいっとらんやろーに! 俺らの扱いてきとーすぎへんかっ!」
「そうだ! そうだ!」
「……そこの双子、うるさいですよ。レッドカード出しますよ」
「そないな制度ないやろ!」
「そうだ! そうだ!」
本当に仲悪いな……。
そんな騒がしい双子を無視して、メミは俺の方に顔を向ける。双子先輩の時とは違って、優しい微笑みを浮かべていた。
「……兄様たちも準備いいですか?」
「おう」
「私も大丈夫よ!」
返事をすると、審判は頷き。
「では、バトル開始っ!」
その合図で、双子先輩とのバトルが始まった。




