第48話 双子の勇者
見知らぬ生徒の報告を受けた俺は校門に向かった。
そこにはボコボコになった門や道があり、その近くにいたのは警備員の胸倉をつかんで叫ぶ2人の男。
暴れていた2人は俺を見つけるなり駆け寄ってきて、なぜかキャッキャッし始めた。
そんな2人に、俺は名を問うと。
「俺らはミザールの勇者や! よろしくな、新人勇者!」
炎のように明るいオレンジ髪の男から、元気な返事が返ってきた。
「……ミザールの勇者?」
「せや!」
…………ミザールの勇者って、あの「双子の勇者」のことだよな?
ミザールの勇者――――それは七星の勇者であり、世間では「双子の勇者」と知られている唯一2人の勇者。
彼らはロザレス王国東部にあるレフダー学園所属の勇者だったはず。
「せや。俺がミザールの勇者、カイ・モーガンや」
「僕がミザールの勇者、ヨウ・モーガン」
その双子の勇者は親切にも名乗ってくれた。
エネルギッシュなオレンジ髪の方がカイ、落ち着いている青色の方がヨウか。
なるほど、顔がそっくりだったと思ったら、双子だったのか……。
よく見ると、2人の瞳の色は同じ緑。
話し方と髪色だけ違うが、身長も体格もほぼ同じだった。
…………確かミザールの勇者って、俺の1つ年上だったか。
気を悪くして暴れられるのも困るし、一応敬語で話そう。
「ミザールの勇者さんでしたか……どうも、ネル・モナーです」
「おう! わざわざ名乗らんでも、お前の名前は知ってるで!」
「うん、新聞読んだから」
そう言って、カイはにかっと笑い、ヨウは優しく微笑む。
そして。
「よろしくな!」「よろしく」
と、2人は俺に右手を差し出した。
同時に握手は無理なので、俺は丁寧に1人1人握手を交わす。
2人はとても嬉しそうにしていた。
うーん。さっきまで暴れていたものだから、かなり凶暴なやつかと思ったけど……結構気がよさそうな人たちだな。
…………ん? いや、でも、待てよ。
ここからミザールの勇者が所属する学園って、ここからめちゃくちゃ遠くないか?
「あの……新聞を読んですぐに来たんですか?」
「おう! そうやで! な! 兄ちゃん!」
「うん。アルカイドの勇者が気になってたから」
マジか……。
気になるだけで、10日かかるところを半日で来るとか、化け物か。
「それで……お2人は何をしにきたんですか」
「何をしにきたって……そりゃあ、仲間になるあんたにご挨拶しにきたんや」
「挨拶……? それだけのために?」
「そうや。仲間に挨拶するのは大切やろー?」
カイはあたかもそれが当たり前かのように、答える。
隣のヨウも激しくうなずいていた。
俺に挨拶するためだけに来たって……いくら俺に会いたかったとはいえ、学園で暴れ回らないでほしいものだが。
魔王並みに怖すぎるから。
でも、挨拶だけしにきたってことはもう用はすんだのか?
しかし、2人に帰る様子はなく、こんなことを話し始めた。
「でも、カイ」
「なんや? ヨウ」
「彼に挨拶するだけじゃ、僕は物足りないよ」
「せやな……俺もそう思うわ。挨拶だけして帰るとか、なんかこう……勇者らしくないよな!」
「そうだね。勇者なら、アレしかないよ」
「おう!」
…………なんか嫌な予感がする。めちゃくちゃ嫌な予感がする。
そう思った俺はその場を離れようとした。
だが、カイにガっと肩を組まれ、逃げ出せない。
ヨウも俺の前に立ち、逃げ道を塞いでくる。
…………まずい。嫌な予感しかしない。嫌な予感しかしない!
そして、カイとヨウはニコッと笑って、こう言ってきた。
「なぁ! ネル! 俺らのちょっと相手してくれてんか!」
「君と少し戦ってみたいんだ」
★★★★★★★★
ネルたちが去り、物静かになったアスカの研究室。
そこで向き合っていたのは、ツインテール幼女と水色髪の女子。
その2人――リナとアスカの間には、妙な空気が流れていた。
2人の仲は、リナが男『リク』として過ごしていた頃から関わりがあったため、それほど悪いわけではない。
もちろん、リナの正体が女と知った直後のアスカは、少し距離を置いていたこともあったが、最近ではそれもなくなり、親しい友人になっていた。
だが、今目の前にしているリナは仏頂面。微笑みもしない。
そんなリナに、アスカは恐る恐る話しかけた。
「ねぇ、リナ。さっきのことなんだけど……」
先ほど練習場所としていた仮想世界上では、アスカは他人の思考が読めた。
不信がられることがないよう、彼女は事前にリコリスやラクリア、メミの思考を話しながら告白した。
だが、リナの思考に関しては絶対に口にしなかった。
当然、アスカは彼女の思考も把握している。
でも、言うべきではない、と判断した。
どうしても彼女が今考えていることを、アスカは信じたくなかった。
だからこそ、彼女に問う。
――――今、リナの考えていることは本気なのか、と。
「…………」
「ねぇ……何か言ってよ」
「…………」
だが、リナは何も言わない。
何も答えてくれない。
「そう……本当なのね」
そう呟き、アスカは腰にしまっていた銃をとる。
銃は彼女お手製の魔道具で、トリガーを引くと光線が放たれるというもの。
その銃口を、アスカは迷いなくリナの頭に向ける。
「あたしは研究所の物」
「…………」
「悪いけど、あんたを放っておけないわ、リナ」
だが、リナは動じない。微動だにしなかった。
「さようなら」
そう言って、アスカはトリガーを引いた。




