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始まりの街 09

「しっかり、気持ちを強く持ってくださいね。」


ダグノフの脳裏に先日教会で出会った少女の姿が浮かぶ。

今はパーティでの依頼が終わり、久しぶりの大物狩りに皆で酒を飲もうと酒場でエールを煽っているところだった。

男ばかりのパーティメンバーは大声で今日の武勇を語っているのだが、ダグノフは2杯目のエールを眺めては、これで止めにしようと自分に言い聞かせている最中だった。


「しかしオークをスパッと切れるなんて、あんな気持ちいいこたぁないな!」


「最近覚えた強化魔法の程はいかがでした?そんななまくらでオークが切れるのは私のお陰でしょう。」


「何を言いやがる!

 最近力が有り余ってるんだ、俺の腕っ節がいいからに決まってんじゃねぇか。」


横では剣士のエーミエルと魔法士のディータが言い合いをしている。一見すると喧嘩が始まりそうなやりとりだが、この二人はこれが普通だ。パーティを組んだ時から気がつけば早6年。誰一人欠けることなく、馬鹿をしながらも冒険者として続けて来れたことを嬉しく思い、そっと女神に感謝をする。


「なぁダグ、酒たりないんじゃないか?」


眠そうな目を向けてダグノフに訊ねるのは斥候のアルマンだ。戦闘時に見せる張り詰めたこの男独特の緊張感は、街に戻ると一切感じられず、いつも眠そうな目でヘラヘラとしている。ダグノフはどちらがこの男の本来の姿なのか、今だに掴みきれていない。


「そうだぞダグ!もっと飲め!

 最近お前付き合い変じゃねぇか?女でもできたか!!」


急に肩に腕を回されてダグノフはエールをこぼしそうになる。すぐ側には、先ほどまでディータと言い合いをしていたエーミエルが咎めるような顔でこちらを見ている。


「女なんていない。付き合いぐらいどうだっていいだろう。」


ぞんざいに遇らい、エーミエルの近い顔を押し返す。


「エルは心配しているのですよ、ダグ。

 最近お金の使い方が荒くなったと思ったら、急に付き合いが淡白になって。

 ダグが悪い女に引っかかってはないかと私に相談してくるぐらいなんですから。」


今度はディータだ。説教がましい目にダグノフはシスターハンナを思い出す。


「その、すまん。」


ダグノフは、自分が他の仲間に心配をかけていたのだと知り、申し訳なく思う。垂れた頭はその気持ちの素直な現れだった。


「最近金の使い方で悩んで、教会に相談に行ったんだ。」


仲間に心配されるくらいなら、と素直に告げる。


「教会とは、ダグが育った孤児院のことですか?」


ディータの問いにあぁと答える。


「それで、今は酒を控えて飯も節約するようにしてるんだ。

 その、悪い女なんていねぇよ。」


まさか自分が女にかまけていると思われているなんて、少し恥ずかしいという思いを込めてぶっきらぼうに続ける。


「そりゃそうだ!教会には良い女しかいねぇからな!」


違いねぇと手を叩いて破顔するエーミエルはホッとしたようだ。誤解が解けて良かったとダグノフは安心する。


「良い女とは、また言い様が違う気がしますが…。

 ダグに変な虫がついていないようで良かったです。」


ディータはエーミエルの言葉遣いに苦言を呈しているが、それでもダグノフを思った言葉には温かみがあった。

アルマンはにししと笑い、酒を煽っている。この男なりに心配してくれていたのだろうか。


付き合いの長いパーティではあるが、自分が注目を浴びるのは少し気恥ずかしい。だが、自分を心配してくれる仲間に出会えた事に感謝して、ダグノフは酒をチビリと飲んだ。


「だがなんでまた。

 金に困ったら依頼受けて稼げば良いだろう?」


そう問うエーミエルに、ダグノフは上手く説明できなかった。

あの時石版に書いて見せてくれた数字、生活する上でどのお金を削って、いくら貯めるのか、説明を聞いた時には納得できたし、自分のすべきこともわかる。だが、他人に説明しろと言われてもそれは無理だ。


「確かに、稼ごうと思って最初は一人で討伐依頼を受けたんだ。

 だけど、疲れが溜まる一方で…。」


歯切れ悪く答えると、ディータからはぁと溜息が聞こえる。


「それで、親代わりのシスター達に相談したんですね?

 私たちパーティには一切相談もせず?」


ディータはダグノフ達よりも2歳年上だ。そのせいか兄貴面をして、自分を頼って欲しいと思っている節がある。今回も、ダグノフがディータに相談をしなかった事に少なからず腹を立てているのだろう。


「あぁ。みんな普通に生活してるし、俺だけが金に困ってるんじゃないかって。

 恥ずかしかったんだ。相談して、バカにされるのが。」


こんな事を言えば、恥ずかしいからと相談しなかった事がもう意味をなさない。が、酒の席だ。勢いに任せて全部言ってしまう。節約のため2杯しか飲んでいないのは忘れたことにする。


「冒険者なんてその日暮らしの連中の総称みたいなもんだからな!

 恥ずかしいこたぁねぇよ。」


「それにしても、なんでお金を貯めようと?」


「怪我が治りきらなかった時、高位治癒ポーションが高くて買えなかったんだ。

 その後一人で受けた討伐依頼でなんとか買えたんだが…。

 いつも依頼が成功する訳じゃないし、俺もずっと怪我がないとは言えないからな。」


前半は事実、後半は教会で少女と話してそう感じた事だ。以前の自分であれば先のことなど考えなかっただろう。

はぁと感心した3人の顔がこちらを覗く。


「ダグ、お前そんなこと考えてたのか!」


「本当、驚きましたよ。このパーティで行き当たりばったりじゃないのは私だけだと思っていました。」


エーミエルはやはりというか。ディータは自分だけ生き残ることでも考えていたのか、いやきっとこの男のことだから、仲間が困った時に貸すお金ぐらい蓄えているのだろう。

アルマンだけは目を丸くしてつまみのジャーキーを齧る。


いつしか依頼達成の宴が、ダグノフの話しで盛り上がってしまっている。

それを申し訳ないと思いながらこの話しはもう止めにしようと言えば、ディータにはもっと他の2人にもお金の大切さを伝えてあげてくださいと言われてしまう。

挙句、今度そのシスターにパーティ皆んなで会いに行って一緒に教えてもらうのが良いとまで言われてしまった。


「それだけは、やめてくれ。」


「まぁ、そうだよな。

 俺も母ちゃんをみんなに紹介して母ちゃんの説教皆んなで聞くのは勘弁だ。」


慌てて断ったダグノフに、エーミエルが自身の解釈で納得する。

そう言う訳ではないのだが、そう言うことにさせてもらう。

あの少女をパーティに紹介することはしたくない。ダグノフはそう感じていた。

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