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始まりの街 10

「シスターハンナ、この肉、子供達に食わせてやって。」


単独の討伐依頼はやめるように言われているが、教会に来るのに手ぶらなのはきまりが悪い。そう感じているダグノフは教会の子供達の兄貴分だとこっそりと自負しているからか。

割りのいいゴブリンではなく、あえて討伐報酬は安いが食用に適した角兔(ホーンラビット)を狩る。


「あら、いつもありがとうございます。お怪我のないようで、良かったわ。」


シスターハンナはいつもの朗らかな笑顔を向けてくれる。教会にいた頃は、このシスターハンナが怖くていつも悪さがバレないようにとコソコソしていたが、今となってはそれは良い思い出だし、どのシスターよりも親しみを込めて接する事ができた。


教会に来るようになってから2ヶ月が過ぎた。目標であった200ペーリは最初の1ヶ月で貯まり、クリスに報告したら跳ねるように喜んでくれた。なんだか誇らしくて胸を張ったのだが、これは使わないで取っておきましょうと言われてしまった。


拍子抜けしたのだが後に続く説明で、これはいざという時のお金で、大怪我をした時に高位治癒ポーションを買うための蓄えであること、もしこのお金をすぐに使ってしまったら、きっとこの先お金を貯められなくなってしまうかもしれないことを伝えられた。


「このお金は、ダグノフさんはお金を貯められる人だって証拠としてずっと取っておきましょう!」


その笑顔に何も言えなくなってしまう。確かにそうだ。頑張った証拠が残るからこそ、この先も続けられる。そんな気がした。


それ以降も、一つの依頼につき20ペーリ貯めること、食事も節約する事を守り続けた。お金を貯めるのは思いの外楽しく、20ペーリと言わず、30ペーリ預けてみたり、依頼完了後報酬を受け取った際、その前の依頼報酬の余りを全額預けてみたりした。


クリスの方も彼女なりに色々調べてくれているようで、食事処で食べるよりも持ち帰りの屋台の方が安いのではないかとか、街にある防具屋や薬屋の価格の比較をして報告してくれた。

自分は教会にいた頃こんなに色々なことに目を向けられなかったし、もし出来ていたとしてもそれをこうやって分かりやすく人に伝えることなど出来なかったと思い、クリスの頭の出来の良さに感心しきりである。礼を述べればそんなことはありませんと答えが返る。


「ダグノフさんの為でもありますが、こうしてまとめておけば私が教会を出て行く時にも役に立ちますし、兄さん達もこれをみて喜んでいますから。」


打算的ですよねと苦笑するクリスだが、それの何がいけないのか。孤児として育つ自分たちは、身の回りのなんでも、自分の得になるように考えなければ生きていけない時がある。しかもその瞬間は少なくない。

兄さん達とは孤児の年上の子達だろう。教会は12歳になる年の春祭りが終わると巣立ちとなる。それは、12歳から各ギルドに登録できる事と、春祭り以降は気候が安定し、夜でも凍えるような寒さにならないから。お金が稼げず、野宿となっても直ぐには死なないから。

巣立ちといえば聞こえは良いが、放逐と捉えられても仕方のないシステムだ。だがこれも仕方がない。子供でなくなれば、自分の責任で生きていかなければならないのだ。

このクリスのまとめた情報は、そんな”兄さん達”の役に立つ事だろう。


「この情報は助かる。ありがとう。」


石版に書かれたその情報を、ダグノフは手持ちの紙に細かに書き写して行った。



「なんであの時、”よくやった”って言ったの?」


クリスは心の声未来に尋ねる。


「そりゃ、外の人間と話す機会があれば情報が得られるからな。」


ここで孤児しているだけだと情報が少なすぎる。と鼻でふんと息を払いながらそう言った。実際にはそんな姿は見えないのだが。


「しかも冒険者だろ?

 剣と魔法のファンタジーといえば冒険者、どんな話しを聞かせてくれるのか楽しみだねー!うーん、胸が高鳴る!」


浮いた声音にクリスは呆れる。未来の国ではどうだったかは知らないが、ここで冒険者といえば腕試しをしたいか、他に就く職がなかったかの、そんな人間が就く職である。

教会を出た子供達の多くがこの冒険者になって毎年命を落としていることはクリスも薄々気付いているし、もしかしたらクリスもそのあとを追うかもしれない。

それなのに、胸が高鳴るとか楽しみとか、クリスからすれば不謹慎な感想だ。


「出来れば現役冒険者に、色々なところに連れて言ってもらいたいところだが…、

 まぁ時機を見てだな。直ぐにはシスター達も了承しないだろうし。」


実績を残そうと張り切り声の未来は、相談を受けることで得られるメリットを色々考えているようだった。


「しかし、クリスもなんでまた相談を受けたんだ?」


未来が尋ねる。


「…お肉、くれたって言うから。

 次も持って来てくれるかなって思って。」


クリスは少し恥ずかしかったが、ここは素直に答える。未来に隠し事をしても仕方がない。


「ハハッ、良いね!

 育ち盛りらしい考えじゃないか。そうそう、欲には忠実じゃないと。」


バカにしている雰囲気はなく、素直にそう笑う未来にクリスはホッと胸を撫で下ろす。

そう言うことなら、ダグノフの相談にうまく答えてお肉貰わないとな、と未来はクリスにこれからやることを伝えて行く。

まずは教会の本を読ませてもらおう。シスタークララに言えば、役に立ちそうな本を見せてくれるだろう。今までは、子供だからと見せてもらえなかった司祭が保管する書籍も見せてくれるかもしれない。

買い物当番だって、市場調査する良い機会だ。シスターに事前に話して、帰りが遅くなる事を了承してもらおう。

未来から伝えられるそれらの事柄に、クリスは少し目が回る思いがしたが、それ以上になんだかワクワクして、自然と頬が緩んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

4/8まで毎日20時に更新予定です。

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