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ルール

 豪奢なシャンデリアの白々しい光が降りそそぐホールは、ひどく沈鬱な空気が淀んでいた。

 そこにいるのは、私を含めて八人。あの非情な死を遂げた……みつなりの姿は、もちろんない。代わりに、誰もが互いの顔色をうかがいながら、じっと立ち尽くしている。

 だが、集まったところで何も起きない。耐えかねたように、ずんぐりした若い男が頭をかきむしりながら、唐突に声を上げた。


「……あの、何やねんこれ。何が起きとるんです? 誰も何も言わへんから、誰かが仕切らな始まらへんやろ。とりあえず、お互い誰なんか自己紹介でもしませんか。オレはピエール覇気言います。何かのドッキリやと思いたいんですけど、あんな死体見せられて、正気でいられっかって話ですよ」


 関西弁を早口でまくし立てるその声には、強がりのようなものが混じっていた。ピエールに促されるようにして、俯いていた悠仁が、ようやく口を開いた。


「……悠仁」


それを皮切りに、一人、また一人と名前を言う。


「僕はマリ。よろしく」

「田中です。こんなことになって、困りましたねえ、皆さん」


 田中がそう言って、ちらりとこちらを見る。視線が集まった気配に、私は息を呑んだ。


「あ、の、私は……」


 喉がひどく乾いていた。口を開いてから声が出るまでに一、二秒の苦しい間があく。


「チッ、黙ってんじゃねぇよ。やる気あんのか」


 腕を組んだ尾崎が、露骨に舌打ちをした。その一言で、私は口をつぐんでしまう。


「誰だか知らねぇが、人殺しがいるんだろ? 慣れ合うつもりはねぇよ」

「尾崎さん、一旦ここは……あ、俺のことは右井って呼んでください」


 尾崎の横で、右井が会釈する。目は落ち着きなく泳いでいた。だが、その視線は一度だけ、こちらの身体を値踏みするように上から下へと流れた。


 一方で、大榎は深くソファに腰を沈めたまま、まるで他人事のような口ぶりで言う。


「大榎貴之。ま、そう焦りなさんな」


 そのときだった。

 ホールの重い扉が、軋んだ音を引きずりながら、ゆっくりと開いた。

 現れたのは、異様な男だった。顔の全体を、べっとりとした不気味な緑色のマスクで覆っている。目の部分だけがくり抜かれ、その奥にある黒い眼球は、死んだ魚のように濁っていた。どうやら彼もゲストのようだ。


『――全員の入室、および生存を確認しました。お集まりいただき、感謝いたします』


 その男が部屋に足を踏み入れた瞬間、再び天井のスピーカーが鳴り響いた。


『知っての通り、皆様の中には「招かれざる客」が紛れ込んでいます。夜になると血肉を求め、本能を抑えきれずに人を貪り食う、人の皮を被った化け物――「人狼」です。この人狼が生存している限り、当館のセキュリティシステムにより、外部への迎えを呼ぶことは不可能です』


 人狼。

 その単語が、毒液のように頭の中へ落ちた。意味が分からないはずなのに、背筋だけがじわりと冷えていく。


『したがって、皆様には毎日ここで議論を行っていただき、投票によって、最も疑わしい一人を処刑していただきます。この洋館は無人であり、全てAIによって管理・運営されています。生活に不便はありません。しかし、嵐により深刻な電力不足に陥っております。システムを維持するため、夜間に一時的なシステムリブートが行われます。その数分間だけ、全室の電子ロックが解除されます。人狼が生き残っていれば……その時間に、自らの牙で人間の喉笛を噛み千切りに行くでしょう』


「な、何やそれ……人狼ゲーム? あれってただの遊びやろ……」


『幸いなことに、皆様の中にはただの人間だけではなく、特別な力を持つ「占い師」「霊媒師」、そして人狼の牙から誰かを守る「騎士」が紛れ込んでいます。人間側の皆様には、どうか知恵を絞り、人狼を炙り出してください。……もっとも、もう一名、人狼を崇拝し、人間を破滅へ導こうとする狂人の人間も混ざっているようです』


「誰がそんな狂ったゲームに付き合うか! おい! さっさと責任者でもなんでも呼んでこい!」


 尾崎がスピーカーに向かって怒号を飛ばすが、AIは血の通った反論など持ち合わせていない。

 人狼。占い師。霊媒師。騎士。どれも、子どもの遊戯に出てくる役名みたいで、現実の匂いがしない。

 率直に言って私は頭が弱い。そんなお伽話のような、それでいてあまりにも猟奇的なゲームのルールなんて、理解できるはずがない。


 ただ、一つだけ、黒い確信が胃の腑に落ちてきた。

 あの灰色の空の下で、私が首を吊られたあの光景。あれは、この「投票」という名の、合法的な殺し合いの結末だったのだ。

 正夢になるのなら、私は誰かの都合のために、また殺されるのだろう。


『――それでは皆様。生き残るための議論を始めてください』

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