表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミニ四駆に悔いを残していたら過去に飛ばされたの巻  作者: さかざき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/57

変遷

夏が近づいていた。


湿り気を帯びた風が肌にまとわりつき、夕方の空は少しずつ赤みを増していく。

何かが始まる前触れのような、落ち着かない季節だった。


周りは、確実に変化してきている。


コウスケはバスケ部だ。

朝練、夕練と予定がびっしり詰まった毎日。それでも、ミニ四駆に費やす時間だけは残してある。


練習帰り、汗だくのまま閉店間際のみつば屋に現れ、無言でマシンを走らせる。

その姿は、以前よりも少し大人びて見えた。


疲労が抜けきらないはずなのに、走りを見る目は鋭い。

コースアウトした瞬間に原因を探り、ローラーの角度やブレーキの当たり方を調整していく。


確実に、速くなっている。


ユリはテニス部に所属している。

部活、勉強、ミニ四駆。どれも疎かにしないよう、ノートにはびっしりと時間割が書き込まれていた。


ラケットを握る姿は意外と様になっていて、周囲からも注目されているらしい。


2人ともスポーツは、かなり得意だ。

学校の中でも一目置かれる存在になりつつあった。


俺は、緩めの文化系の中から科学部を選んだ。

活動が比較的穏やかであること。

そしてもう1つ、ミニ四駆に応用できる知識が得られないかと考えた結果だった。


学校にある備品を、ひとつずつ確認していく。


摩擦、慣性、抵抗。

教科書の中の言葉が、頭の中でコースと重なっていく感覚がある。


そんな変化は、みつば屋にも現れ始めていた。


知らない顔が明らかに増えた。

ジャパンカップを2連覇したユウの行きつけの場所が、人伝でいつの間にか知られるようになった。


その速さを一目見ようと、県外からも遠征してくる猛者が現れる。

週末には人だかりができる日もあった。


それによって、問題が起きた。


知らない人に囲まれ、次々に話しかけられる。

質問の内容はだいたい決まっている。


速くする方法は何か。

どこを、どう改造しているのか。


そのたびに、安定のキョドりが発動する。


さらに厄介なのは、目を離した隙に勝手にマシンに触り、内部を覗き込もうとする人間が出てきたことだ。


シャフト部に詰めたスペーサーやワッシャー。

モーターの位置出しのために貼り付けたスポンジ。

ほんの数ミリの違いが走りを変える、その積み重ね。


この部分だけは絶対に見せたくなかった。


気づけば、みつば屋は居心地の良い居場所ではなくなっていた。


この店以外に近くで走らせられるコースはない。

うまく折り合いをつけるしかなかった。


唯一の救いは、みつば屋のおばあちゃんが、店の繁盛を心から喜んでいたことだ。

レジ越しにニコニコと笑うその姿を見ると、複雑な気持ちの中にも、少しだけ嬉しさが混じる。


ユリは、カラーリングに相当手こずっている。

何度もマスキングテープを作っては作り直し、塗装もプラコップで練習を重ねていた。


妥協しない性格が、はっきりと表れている。


コウスケは着実に速くなっている。

もう、うかうかしてはいられない。


ジョンは、ユリの最終回用のマシン制作に本気だった。

塗装案を広げ必要な材料を書き出していくと、どうしても予算が足りない。


新作のアニメグッズを横目で見るだけに留めた。

いつもなら迷わず手に取っているはずのものだ。


だが、何も言わずに視線を外す。

そして、メモ帳の数字を静かに書き直した。


「……師匠の頼み。これは、拙者の作品でもあるでござる」


それだけ言って、ジョンはユリとの作業に戻った。


そして俺は――。


夏は、もうすぐそこまで来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ