第41話 実技試験
筆記試験を終えた受験生たちは、校舎裏にある広大な演習場へと移動していた。
午後からは実技試験。
魔導師としての「出力」と「制御能力」を測定する、最も花形とされる試験だ。
ドォォォォンッ!!
轟音と共に、演習場の中央で炎が巻き起こった。
試験官たちが結界を張り、飛び散る熱波を防ぐ。
「次! 受験番号78番、北条家長男!」
「はいッ!」
自信満々に進み出た少年が、懐から小さな壺を取り出した。
蓋を開けると、黒い煙のような「下級邪鬼」が這い出してくる。
彼は呪符を掲げ、叫んだ。
「燃え尽きろ! 赤舌!」
命令を受けた邪鬼が悲鳴を上げ、その身を燃料として燃焼させる。
物理的な火炎が走り、標的である「機巧人形」を黒焦げにして吹き飛ばした。
「おお……素晴らしい火力だ」
「さすがは北条の血筋。使い捨てにする邪鬼の質もいい」
試験官たちが感心し、周囲の受験生たちも羨望の眼差しを送る。
ここでは「大きさ」こそが正義だ。
どれだけ強力な邪鬼を使役し、どれだけ派手に消費できるか。それが彼らの価値基準だった。
「……野蛮ね」
私は待機列の最後尾で、あくびを噛み殺した。
エネルギー効率が悪すぎる。あんな大雑把な燃焼では、標的を倒す前に自分のお財布(邪鬼の購入費)が尽きちゃうわ。
「次。受験番号108番、日野桜子」
私は日傘をヒセツ(学生に変装中)に預け、手ぶらで演習場の中央へ進み出た。
目の前には、身長2メートルほどの不気味な機巧人形が立っている。
その内部には中級の邪鬼が封入されており、ガシャン、ガシャンと殺意を持って暴れている。
「課題は『標的の無力化』だ。……始め!」
試験官の合図と共に、機巧人形が動き出した。
私は杖も構えず、懐から数枚の「和紙」を取り出した。
人の形に切り抜かれた、薄っぺらな紙人形(形代)。
(……見えた)
私には氣は見えない。
けれど、人形の動きの歪み、関節にかかる負荷のベクトル、そこから逆算される「動力源(邪鬼)」の座標は、数式として完璧に見えている。
神魔や邪鬼を縛る制約。
それは対価だけではない。術者本人が、その存在をどれだけ正確に「把握(理解)」できているかが、支配力の限界を決める。
曖昧な認識で命令すれば暴走する。だが、完全に構造を理解してしまえば――。
「……止まれ」
私が手首を返すと、紙人形が手裏剣のように飛んだ。
ヒュッ、ヒュッ。
五枚の紙人形が、機巧人形の関節と、胸部の中央に吸い付くように貼り付く。
カッ……!
紙人形に書かれた幾何学模様が、一瞬だけ青く光った。
それは攻撃ではない。
内部で暴れる邪鬼の「存在定義」を、より上位の計算式で書き換え、強制的にロックする封印術式。
ガ……ガガ……プシュゥ……。
突進してきていた人形が、糸が切れたように前のめりに倒れ込んだ。
爆発も、破壊もない。
ただ、内部の邪鬼が「動く意思」ごと凍結され、沈黙したのだ。
「な……っ!?」
試験官が口をあんぐりと開けて立ち上がった。
人形は無傷だ。だが、ピクリとも動かない。
完全なる機能停止。
「ば、馬鹿な……! 高価な触媒も使わず、ただの紙切れで中級邪鬼を封じたのか!?」
「破壊する必要はありません。動力を切れば、ただの鉄屑ですもの」
私はスカートの埃を払い、試験官に微笑んだ。
「制約とは、力でねじ伏せるものではなく、理解して縛るものです。……違いますか?」
シーンと静まり返る演習場。
さっきまで火炎を自慢していた少年が、青ざめた顔で震えている。
理解できない恐怖。
「満点だ……文句なしの合格!」
試験官の震える声が響く。
私は優雅に一礼し、悠然と退場した。
校庭の隅で、ヒセツが腕組みをして立っているのが見えた。
彼は私の顔を見ると、つまらなそうに鼻を鳴らし、口元だけで囁いた。
『……殺すでもなく、痛みを与えるでもなく、ただ「停止」させるか』
その瞳には、賞賛の色など欠片もない。
あるのは、捕食者特有の不快感と、理解しがたい異物を見る目だった。
『生かしたまま意志だけ奪うとはな。あれじゃ帰れねえ。……破壊するより質が悪いねえ』
私は彼の冷ややかな視線を背中に受けながら、無言で歩き去った。
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