第42話 入学、そして再会
数日後。
帝都に早咲きの桜が舞う中、帝国魔導院の入学式が執り行われた。
正門へと続く並木道は、真新しい制服に身を包んだ新入生と、その送迎をする高級車の列で溢れかえっている。
紺色を基調とした詰め襟と、純白のマント。それが魔導院の制服だ。
だが、私が纏うそれは、あえて特注で仕立てさせた「漆黒」のマントだった。
「……目立つな、おい」
隣を歩くヒセツが、呆れたようにぼやいた。
彼もまた、学生という身分(護衛枠としての特別入学)に化けるため、窮屈そうに制服を着ている。
「いいのよ。喪服の色は、私の戦闘服だもの」
私は日傘を回し、周囲からの視線を受け流した。
ヒソヒソという噂話。
『あれが日野家の……』『実技試験、見たか? 紙切れ一枚で中級邪鬼を完全停止させたって……』『ああ。術式の構築速度が異常だったらしいぞ』
畏怖、警戒、そして妬み。
実力を見せつけたことで、彼らの見る目は変わった。単なる「没落未亡人」から、「底知れぬ技術を持つ危険人物」へと。
私は人だかりができている巨大な掲示板の前で足を止めた。
そこには、入試の総合順位と、クラス分けが張り出されている。
私は一番上の名前を探した。探すまでもなかった。
黄金の文字で、その名は頂点に刻まれていたからだ。
**首席:九条 鷹人**
当然の結果だ。
筆記、実技ともに満点。五摂家筆頭として、最高級の触媒と完璧な術式制御を見せつけたのだろう。
だが、そのすぐ下。
銀色の文字で刻まれた名前を見て、周囲の学生たちがざわめいた。
**次席:日野 桜子**
「……チッ。北条や西園寺を抑えて、堂々の二位かよ」
「気に入らないか? 家柄だけでふんぞり返っている連中より、よほど美しい数字だろ」
周囲の学生たちは、私を遠巻きに見つめている。
派手な破壊力を見せたわけではない。だが、陰陽師としての純粋な「知識」と「技量」において、私が彼らを凌駕していることを、この順位が証明していた。
九条鷹人。
貴方の背中は、もう射程圏内よ。
「……ん?」
その時。
隣で掲示板を眺めていたヒセツの気配が、ほんの一瞬だけ――瞬きするよりも短い刹那だけ、揺らいだ。
彼は掲示板の一角、一般枠とは別の「留学生枠」の欄を見ていた。
表情はいつもの不遜なままだ。取り乱してもいないし、声も上げていない。
だが、私は見逃さなかった。
彼の右の眉が、ピクリと1ミリだけ跳ね上がったのを。
私は彼が見ている名前を追った。
**留学生主席:王 蓮華**
大陸からの留学生だろうか。美しい名前だが、私には聞き覚えがない。
「……知り合い?」
私が小声で尋ねると、ヒセツは興味なさそうに視線を外し、鼻を鳴らした。
「まさか。……ただ、昔飼っていた小鳥と同じ名前だっただけさ。3000年も前に死んだ鳥だがな」
その声は平坦で、何の色も混じっていない。
嘘をついているようには見えない。彼にとってその名は、遥か昔に終わった歴史の1ページに過ぎないのだろう。紀元前の出来事が、現代に関係あるはずがないと。
だが、それでも。
あの不遜な怪物が、眉一つ動かしたという事実。
それが、私の胸に小さな棘のように刺さった。
「……そう」
私はそれ以上追求せず、ふと視線を感じて振り返った。
遠く、講堂の入り口。
取り巻きに囲まれた九条鷹人が、こちらを見ていた。
無表情な鉄仮面。だが、その瞳は確かに私を――自分に次ぐ実力を持つ唯一の競争相手として――認識していた。
私は彼に向かって、優雅に、そして不敵に微笑んでみせた。
ここからが本番だ。
私はヒールを鳴らし、ヒセツと並んで巨大な正門をくぐった。
桜吹雪が舞う中、私たちは新たな戦場(学園)へと足を踏み入れた。
泥濘から這い上がった復讐劇の、第二幕が上がる。
(第1章 完)
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