一話「きっかけと始まりの冒険」
この気持ちは間違いだと言われるかもしれない。
異性の恋するには普通。でも私が好きなった、恋をしたのは自分と同じ女の子。
「ルティア早く早く」
「アーシュ待ってー」
内気な性格な私をアーシュちゃんはいつも手を握って、そして希望で溢れている世界に連れ出してくれた。それを繰り返していくうちに、自然とこの気持ちが生まれた。
でも世界は残酷で、どうしようもないぐらいに残虐。私はそれを知らなかった。
私達が住む国ソルダリスには、年齢が七歳に達した時に教会で女神ソルから天啓を受ける習わしがある。そこで女神から直接天啓を授かった者はその先の人生が成功したと言っても過言では無い。なのでこの儀式は一種の未来へのあやかりになっている。
ルティアもアーシュも同じ時期に生まれ、年は同じ。二人でいつもみたいに手を握って、二人で教会の牧師さんに儀式を受けた。
教会には私達以外にも村中から観客が集っている中、それを告げられた。
暖かく、優しい女性の声が教会内全域に響いた。
『アーシュ。貴方は【勇者】となり、これから生まれる魔物の王を打ち倒しなさい』
私の隣で唖然としながらも「嘘」と何度も何度も繰り返して、私の服の裾を掴んでいた彼女の顔を今も覚えている。
「パパとママみたいに、牛さん達と一緒がいい!」
両親の同じ仕事をするのが夢と沢山私に話してくれたアーシュの夢は、ただの女神の天啓によって、最も容易く砕かれた。
それを私はただ隣で見ることしか出来なかった。
(なんでアーシュにそんなことするの)
怒りと憎しみを抱きながら。
王国には予言が残されていた。
【勇者がこの地に立ち上がり、星が10度巡った日に魔物の王は目覚める】
要は勇者が現れた十年後に魔王が現れるので倒してください、ただそれだけ。
その責務をアーシュは背負ってしまった。剣すら握ったことすらない彼女にそれを背負わせるにはあまりにも重すぎる。だというのに村の誰も、アーシュの両親すら守ろうとしなかった。
「村から出たことないのに突然勇者とか呼ばれて、もう分かんないよ」
「逃げようよ。アーシュちゃんが戦わなくたって、他の人が倒してくれるよ」
「でも勇者じゃないと聖剣は抜けないし、その剣じゃないと魔王は倒せないんだよ。私にしか出来ないことなんだって」
「そんなことこそ分かんないじゃん!」
どれだけルティアがアーシュを手を繋ぎ止めようと、少女一人に出来ることなどたかがしれている。世間は勇者を求め、彼女は勇者に選ばれた。その事実がひたすらに二人を苦しめていく。
「でもルティアが危ない目に遭うかもしれないって思うと頑張れるし、ルティアが平和に暮らせるのなら私は勇者になってもいい」
世界の平和の為とかそんな大層な理由なんかじゃ無く、身近の人を守る為に剣を取る。それはある意味勇者の本質のなのかもしれない。
二人は分かっていた、もう天啓を授かる前の二人には戻れないことを。
その三日後に王都からアーシュに召集され、村総出で彼女を見送ることに。
各々がお守りやお金、道具などを手渡す。その中でルティアは誕生日に渡そうと思っていた手作りの髪飾りを手渡した。
「ありがとうルティア。一生大事にする」
「あっちに行っても手紙送るから。絶対に無事に帰ってきてね」
「うん!」
騎士の一人がアーシュを呼び、馬車に乗り込む。
「バイバイ」
「バイバイ」
「またね」といつも言っていた彼女の言葉はそれで、それがお別れの合図だと気づいてしまう。
その上で見えなくなるまで手を振り続け、完全に地平線に飲み込まれた時、耐えていた涙がボロボロと頬を伝ってこぼれ落ちた。
「アーシュ、アーシュ....」
自分に力があれば彼女の隣で支えられたのかもしれない。だが自分に出来るのは待つだけ、そんなの他の人間でも出来る意味の無いこと。
「待つなんて嫌だ。アーシュがこの先傷つきながら戦うなんて許せない、それを良しとするこの国もそれをさせる魔物も」
ならどうすればいい、それは何もかも足りない頭でも直ぐに答えが導き出される。
「私が魔王を倒せばいい」
脳の奥に暖かく優しい声が響く、『勇者に任せておけばいい』と。
きっと女神様が私を止めてくれている。その方が世界の為、普通はそうする。
「ならアーシュは誰が救うの」
この世界に生きる全てが彼女に背負わせるのなら、私だけは彼女の手を取る。
あの日、暗闇からがむしゃらに掴んで外の世界、明るい未来に連れて行ってくれた彼女の為に。
私が出来ることは、ただ一つ。
「私が魔王を倒す」
【理から外れた者を獲得しました】
老若男女全てを入り混じった声の中、その言葉が私の頭の中に響いた。
瞬間、今まで何かに縛られていたかのように体が軽くなる。あの声が一体何を意味していたのかなんて関係無い、けど確信がある。
たった今、私が自分で自分の道を進んでいける確信が。
涙が既に止まった。
「待っててアーシュ。私が全てを終わらせてあげる」
*
覚悟を決めた次の日、両親に頼んで木剣と剣術指南書を求めた。
父も母も困惑しながらも怒り、口を揃えて「貴方は勇者じゃない」と言う。でもそんなので私はもう止められない。二時間以上粘り、ついに二人が折れた。
中古の木剣とボロボロで所々読めない本を買ってくれた。新書だと平民の二ヶ月分の収入が吹き飛ぶので仕方ない、買ってくれただけ儲けだ。
教会に置いてあった絵本と牧師の授業で簡単な読み書きを一ヶ月で覚え、その後はひたすら剣と本に向き合った。
「一年間、ルティアの頑張りを見てパパは決めます」
その言葉を信じ、ひたすら剣を振るう。起きたら村の周りを走り体力を付け、日が落ちるまで本に書かれた技の練習と素振りを繰り返す。夜になったら教会で借りた魔物時点をひたすら読み解き、頭に叩き込む。
「一年間、それだけの遅れを絶対に取り戻す」
今もきっとアーシュは頑張っている。ならその二倍、三倍努力しなければ私は届かない。足を止めればアーシュが傷つき、救うことすら不可能になる。
「なら止まる理由は考える暇なんて無い」
そうして来る約束の日まで、彼女は足掻き続けた。
こうして半年が過ぎた頃には村周辺の森で魔物を狩り、素材と魔物の核となる魔石を近くの街のギルドで売るにまで至った。
ギルドに登録可能な最低年齢が八歳。私はまだ七歳なので手数料を取られるが、それでも私は同じ年齢の子と比べても金は持っている。お金があれば身を整えられる、本も買えて知識と技術を得られる、武器を新調すればそれだけ生存能力が上がる。
勇者に近づくことが出来る。
「ミニゴブリンの耳が四つに小魔石が二つ。合計で銅貨4枚になります」
「ありがとうございます。」
私がギルドの受付にお金を受け取ると急に体が持ち上げられる。
「ガーディーおじさん、スカートの中見えちゃう!」
「すまんすまん。こんな可愛いお嬢ちゃんが頑張ってるんだ、少しは甘やかしたくなるんだよ」
初めてギルドに来た時から私を助けてくれている上級冒険者のガーディーおじさん。私よりも大きいハンマー使いで、ギルドマスターからも信頼されている武人。そして私の今のお師匠さん。
「この後時間あるよな。騎士流剣術の続きをするぞ」
「夕方にはパパの商談が終わるからそれまでです」
「なら善は急げ、試験場借りるぞー」
「使用量は後でお願いしますね」
受付も呆れながらも私に手を振ってくれる。
このギルドの方々に出会ってから私の世界は更に広がった。
【スキル】に『魔法』、なによりも私の力になったのはそう、騎士流剣術。
騎士は多種多様な武器を使い、その技と技術は何十年も積み重なって形になった。
練習すればどんな人でも扱え、魔物の脅威にも立ち向かう力になる。まさしく私が欲していたものだったのだ。【スキル】のように人によって獲得出来るかどうか判別不能では無く、努力次第でどうにでもなるのも魅力的だし、私は魔力が乏しく強力な魔法を使えない。だがこれは別だ。
体を鍛え、技を肉体に叩き込み、己の物にすれば一生支えてくれる。
「今日もお願いします」
「おう、折れるなよ」
「言われなくても」
ガーディーは私に合わせて剣で戦い、見たこともない技でいつも圧倒してくる。ボコボコにされたら今回使った技を入念に教えてくれて、また次の実践で私が活かせるようにしてくれる。
初見と復習を体で覚えさせ、たとえ見たことのない技でも直感や予想で生存に繋げる技術は冒険者には必要不可欠な代物。それを身をもって私に教えてくれる。
それでも分からない時はギルドにいる他の冒険者に聞いて周り、それをメモ。使い切ったメモ帳は家で保管して寝る前とかに何度も読み返す。
「ルティア、お前の成長速度は早い。登録出来る頃には立派な冒険者になってるぞ」
「おじさんよりも強くならないといけないの。まだまだ先は長い」
「俺を抜くか・・・それはいい、弟子は師を超えるものだからな!!」
とびっきりの笑顔で豪快に笑うとまた私を肩車してくる。ウザいけど憎めない、それがこの人なのだ。
「もう帰らなきゃ。またね」
ギルドの皆と別れて帰りの馬車が待つ場所に向かうと、待っていたパパが泥だらけの私を見て毎回慌てながら駆けつける。
「なんでこんな泥だらけなんだ。もう一体ルティアは何を」
「稽古してもらってる。パパに認めてもらう為にね」
「はぁ〜家に帰ったら水浴びして綺麗にしなさい。ママがカンカンになるからね」
「分かってる」
次来た時はこの町周りの森で薬草集めをしよう。前に受付が薬草なら高価に買い取ると教えてくれた。魔物の活性化が目に見えて増えてる影響だろうか。
「不安だな」
日が落ち、怪しい色に変わる空を見て心がざわついた。
*
その日は町の近くに位置する森で薬草を集めていた。
「今日はおじさんとそのパーティーの方々は街にいないし、早めに切り上げよ」
ルティアの知識不足で薬草と似ている毒草を時折取り違える、なので数が増えるとそれだけギルド側に迷惑をかけてしまう。昼過ぎには戻って違いについて聞くのを忘れないようにしないと。
「これでよし。戻ろ・・・・こんなに暗かったけ」
周りを見れば少し先すら見えない夜の森。つい先ほどまで空から日光が降り注いでいたはず、間違いなく異常。
不安が足を動かす。街に戻れるはずの道にを進む、進んでいるのにいつまでも森が開かれることは無く闇のまま。
初めてのイレギュラー。それがルティアの思考を焦らせ、呼吸を荒くさせる。
(魔物の魔法、でも森から出れなくする魔法なんて聞いたことない)
自分の呼吸の音だけが森に響き、息を呑む。
「パキッ」
何かが折れる音、咄嗟に後ろを振り向いた。
抱きしめていたカゴを落とす。汗が吹き出し、恐怖で全身が震え上がる。
ルティアの目が捉えたのは雄牛の頭と自分の身の丈の数倍はある巨漢。
「ミノタウロス....なんでこんな場所に」
ダンジョンや大陸の北の果て、禁域と呼ばれる魔物が蔓延る場所に生息する魔物。その中でも知能が高く武器を巧みに扱い、多くの冒険者を鏖殺した怪物。
今のルティアには勝てない存在が、目の前にいる。
「可笑しいな。この森は人間がおらず、偵察に向いている話だったのだが」
「に、逃げないと」
両手に握られた禍々しい色の大斧。間違いないあれは魔剣、人を殺す為に作られた魔族の武器。
足を動かそうにも石のように固まった足のせいで尻餅をついてしまう。
「まだ幼い、肉つきも柔らかく美味と聞く。これなら持ち帰れば良い土産になる。」
「やだ。辞めて。」
片手で体を持ち上げられ、一瞬強く握りしめられる。
「カフゥ、ゴホ」
「加減を間違えたか。これだから女子は扱いが難しい」
まだ育ち切っていないルティアの体では耐えられず、口から血を吐き出す。全身が「痛い」と叫び、視界が酩酊する。
「助けて、たすけて」
死にたくない、まだ目的を果たせてない。まだ《《旅の始まり》》にもたどり着いていない。
「どうせ結界を張った以上助けは来ない。これ以上時間をかけても人類に気付かれる、戻るとしよう。」
ミノタウロスの背後に黒い門が現れる。おそらくあれは転移魔法か何かだろう、その先に行けば私は助からない。だけど力を出すことすらこの体では不可能。
(やっぱり無理だったのかな)
心が絶望に塗り替えられ、視界がモノクロになりかけた。
風が吹いた。
この場にいる二人以外の音が無かったのに、今、風という音が流れる。
「ルティアーーーーー」
「上だと!?」
「騎士流剣術・|地を破る一振り!!!」
空が降ってきたガーディーのハンマー。その一振りはミノタウロスの肩に触れ、肉と骨を叩き潰しながら地に落とす。
不意打ちによって振り落とされたルティアはガーディーは受け止め、距離を取る。
「おじさん....ゴホゴホ」
「ポーションだ。外傷を治せるアイテムは無くてな、これで我慢してくれ。」
「おじさん、おじさん!」
「間に合って良かった。後は俺に任せろ」
普段のガーディーからは感じないほどの殺気と覇気。きっとこれがこの人の本来の姿、冒険者としての姿。
「結界の判定外だった空からの侵入に、これほどの一撃。まさか俺の右半身を人間の身で使い物にならなくさせるとは」
あれほどの一撃を浴びたにも関わらず、ミノタウロスは嬉しそうに話す。
ガーディーは構えを解かず、次の技を出す準備を終えている。
魔物に付き合わない、それが冒険者の鉄則。
地を踏み蹴り、距離を一足で殺す。
「騎士流剣術・最速の一振り」
「【パワーブレイク】」
ガーディーの騎士流剣術とミノタウロスのスキルがぶつかり合う。
その衝撃は風を巻き起こし、ルティアですら地面にしがみ付かなければ吹き飛ばされる。あの二人の戦いは彼女が立ち入る隙など存在しない。
(凄い。あれが強さなんだ)
いずれガーディーすらアーシュは追い抜く。だからこそ今の景色に歯を食いしばる。
今の自分ではお荷物、動くことすら出来ないのだ。
「やはりお前は良い。紛れもない強者、勇者と相見える前にこんな経験が出来るとは。やはり魔王には感謝しないとな」
「魔王だと」
「そうだ。俺こそ四魔臣の一人、双斧のアース。さぁ強者よ、俺と殺し合おう。」
四魔臣、魔王の王臣であり剣。文字通り魔王にあだなす者全てを殺す厄災の魔物の一人。なんでそんなのがこんな辺境にいるんだ。
「おじさん逃げて。」
「逃げるかバカたれ!」
二つの魔剣の大斧とミノタウロスが持ち合わせる身体能力、その二つを持ってガーディーの命を刈り取る為に振り下ろされる。それをガーディーは冒険者として経験と予測、直感に技術、全てを出し切って真正面から立ち向かう。
「素晴らしい、本当に素晴らしいぞガーディー。騎士流剣術と言ったか、それも極みの域に至っている。故にお前はここで殺す」
「そっくりそのままお返しするよ」
「【ダイダロスブレイク】」「騎士流剣術・地を破る一振り」
互いの攻撃で互いの肉体は着実に傷が生まれている。だがそれでは先に倒れるのはガーディーの方、魔物の耐久力は計り知れない。ましてや四魔臣ともなれば。
(実力は拮抗、なら私がなんとかするしかない)
ポーションの鎮痛効果で少しは体は動く。だが自分の未熟な騎士流剣術でアースの肉体に届くビジョンがまるで浮かばない。
(でも私が何かをしないとおじさんが死ぬ。今、私とおじさんの命ならおじさんの方が重い。私の命は軽いんだ)
きっとこれをガーディーに聞かれれば思いっきり怒ってくれるだろう。でも私も死ねない、死にたくない。ならほんの少しでも両方が生き残れる選択をする。
剣で体を支え、無理やり立ち上がる。息を吸う度に全身から激痛が走る、鎮痛効果越しでこれ、無かったらとっくの昔にショック死していた。
(おじさんの一撃を喰らってるのに、あの化け物は両腕で斧を振ってる)
動かす度にアースの腕から血が飛び散っているというのに、殺気も殺意もまるで衰えていない。これが魔物、これがアーシュが立ち向かわないと行けない敵。
(アーシュを守る。その為にこいつを倒す)
彼女のことを考えると不思議と思考が冷え、視界が広がる。
あのスキルを獲得した時に近い、自由になった感覚が全身に広がる。
(一瞬でいい。隙を作れれば)
もはや完全に私を意識から外しているアースと私に被害が及ばないように立ち回っているガーディー。彼が本気を出させるのには、私が安全であることを知らせければならない。最優先でやることは一つ。
「そんな動きでは直ぐに死ぬぞガーディー」
「生憎弟子は守らないとなんだよな」
アースの言う通り、ガーディーには余裕が無い。このままではジリ貧、更に強力な騎士流剣術は持ち合わせているがルティアを巻き込んでしまう。
(最悪なパターンだ。早くルティアが安全な場所まで)
その刹那、小さな光がアースの背中、森の奥の方に動いていくのを捉える。
周りを見る余裕などガーディーには無い。だが今光を放って移動出来るのはルティアしかいない。つまり。
(全力で技が放てる)
瞬時に全身に力を入れる。この一撃でアースを倒し、ルティアは街に連れて帰る。
冒険者として、彼女の師としてここで死ぬわけにはいかない。
「来るかお前の最強の一撃が。ならば俺もお見せしよう」
「騎士流剣術」「【ダイダロス】。」
アースの荒れ狂う魔力とガーディーの全霊。その二つがぶつかり合う瞬間。
「騎士流剣術・最速の一振り」
その場にいない筈の少女の剣が振り抜かれる。
光の正体は咄嗟にルティアが投げたランタン。ガーディーのストッパーたり得た自身が離脱したと思わせ、更には全力を見せたことによってアースすら騙し抜いた。
切り裂いたのはアースの左足の膝裏。関節部分の最も柔かい箇所の一つが切り裂かれ、アースのスキルが体勢の変化と共に崩れ落ちていく。
「羽虫の分際でーーー。」
「騎士流剣術・吹き荒れる一切り。」
巻き起こした風をワザとこの身で受け止め、後方に大きく吹き飛ばされる。
この技自体先日ガーディーが見せてくれたばかり。「離脱技として重宝されている」と彼の口から教えてくれた、こういう使い方が出来るからか。
実践ならではの経験をしながら、ガーディーの射程圏外にルティアは逃げ切ることに成功する。
「おじさん!」
「言われなくても」
遠目で見てもはっきり見えた。ガーディーの全身から熱が漏れ出し、彼の周りが歪んで見える。これが強者、これが私が目指す先の人達。
「騎士流剣術・大地を割る一撃!!!!」
「こんな戦いが許されてたまるかあああああああああ」
既に負け犬の遠吠え。体勢が崩され右半身も砕かれている今、ガーディーの最強の一撃を耐え切れるアースではない。視界に収める価値も無い雑魚のせいでこんな屈辱的な敗北は浴びるなど彼のプライドが許さない。故にこの戦いを汚しても生きるのが最優先。
「『ワームホー』」
(転移魔法!?)
ガーディーは即座に判断し、溜まりきっていないながら技を放つ選択を取る。
魔法で離脱するのが一撃が届くのが先か、答えは二つに一つ。いいや三つ目だ。
「『ライトスパーク』」
取るに足らない雷の魔法、だが奇しくもそれはアースが今最も恐れたこと。
雷魔法は大きく二つに分かれる。威力を重視した『サンダー』、妨害を重視した『ボルト』。そして『スパーク』はボルトの下位互換で、基礎の魔法として扱われる。
ならば今『スパーク』がアースの体に触れればどうなるか。
「ガッ」
魔法の詠唱の最後が強制的に止められる。瞬きの合間しか止められないものだとしても、その時間さえあれば彼なら届く。
大地は砕け、木々諸共地面から空に浮き上がる。その中でただひたすらに下に、下にハンマーはめり込んでいく。強靭なミノタウロスの肉体な極限まで破壊し、その中心心臓たり得る魔石にまで一撃が届く。
「み..ごと」
敗者の声を勝者の旋風の音を持ってかき消す。
四魔臣の一人、双斧のアースの死が確定した。
*
「ルティアの治療を最優先。内蔵の損傷が激しいかもしれない、治癒魔法の使い手を呼んでください」
「ガーディーもヤバイぞ。一体どんな化け物と戦ってたんだ」
アース討伐後結界が解除された。限界を超えていたルティアは意識を失い、ガーディーも満身創痍で体に鞭打ちながら帰還。門番からギルドに連絡が飛び、今に至る。
「まさか双斧のアースを倒してしまうとは。流石だなガーディー、お前はこの街の英雄だ」
ギルド内の医務室で包帯グルグル巻きのガーディーにギルドマスターは嬉しそうに事を伝えた。
現場で魔剣を確認後これを破壊。近くに設置されていた魔法陣も無効化し、王都からも研究者と騎士団の派遣も決まった。
「これならお前も国王から勲章が授けられてもおかしく無い。追々連絡する」
「承知いたしました」
当のガーディーは納得がいかなかった。あの戦いは自分だけで勝ったものではない。
ルティアがいなければ私は死んでいたか相打ちになっていた。彼女に命を救われたのは紛れもない事実。
隣のベッドで静かに寝ているルティアに安堵しながらも、これから来る彼女の両親にどう説明すればいいか悩む。彼女曰く「危ないことをさせたがらない」とのこと。
「まぁいい。ルティアが起きたらしっかり怒って、そして褒めよう」
七歳の少女が四魔臣に立ち向かった。これだけでも偉業なのに、討伐に貢献したとなればそれ以上の偉業。
「俺の弟子はどこまで行ってしまうのか」
ガーディーの楽しみがまた一つ増えた。




