第十一話
私達の街とゆうねちゃんの街との交流が始まりつつある頃、ゆうねちゃんのお姉さんのいちはさんをこの街まで護送した。道をつなぐのはこのねむりちゃんの街と、ゆうねちゃんの街なので、ゆうねちゃんの街の代表が居なければならなかったし、任せられる人に交渉は任せて、私達は魔法で私達のできる別の事をした方がよい。
まぁ、仰々しく交渉なんて云うものの、そんなに難しいことにはならなそうである。私達の街とゆうねちゃんの街だって短期間でどうにかなったし。現状だって、私達もいちはさんもこの街の人と仲良くできているので、後はルートの調査とか、そういったことを済ませるだけであったりする。
私達は私達で、ねむりちゃんと色々なことをする日々だった。大分仲良くなることができたと思う。
「ゆめちゃん、この訓練キツくないっすか」
「強くならなきゃ明るい未来は訪れないよ!」
仲良くみりはちゃんの訓練を受ける。私だってキツいとは思うし逃げたいけれど、頑張るのだ。
「これから、道も整備して、燃料を確保して、兵器も車も使えるようにして、新しい街で新しい【魔法少女】の子を仲間に入れて、【超々高層ビル】の居場所とかを突き止めて、対策を練って、倒しに往かなきゃいけないんだから、体力付けて!」
捲し立てて言う。今後の予定は山積みだ。口では簡単に言えても、実際何が起きるかは分からないし、まだまだ【魔法少女】の協力は必要だ。
「分かってるすけど、私がそれを熟せるかは別の問題ですって〜」
「私も頑張るから。頑張ろう?」
何だかんだ言ってもねむりちゃんは協力してくれるので、ありがたい。
「おそくなってる」
「はぃ〜〜」
みりはちゃんに指摘されて、ねむりちゃんは動きをまた速める。
訓練が終われば、みりはちゃんと私とねむりちゃんで楽しくお話をする。
ねむりちゃんは、みりはちゃんのことを可愛い妹のように扱っていて、泊めてもらっているねむりちゃんのお家では特に世話を焼いている。それに私は少し嫉妬する部分もあるけれど、大切にしてくれる頼もしい人が居ることに安心する気持もある。私も私でみりはちゃんを甘やかしている。みりはちゃんの表情はあんまり変わらないけれど、それでも楽しい時間だ。ゆいには悪いけれどね。
これ程余裕ができるくらいには、街同士の交流は大きな進歩なのだと感じた。人同士の関わり合い、信頼できる人達、一時の安心と共にこれから共に立ち向かう強敵、わくわくではないけれど、それでも温かな気持だ。綺麗事ではなく本心で思う。
これから、道をつなげていったら、ひとまずのやるべき事が終わる。次は私達は何をするのだろう。
………………
街道整備の効果は非常に大きく、私が車の燃料をこっそり何年分か置いておいたこともあって、街同士の交流は順調に進んだ。土地問題、食糧問題、その他色々な事……少なからず改善していっている。修理された車も盛んに通るようになり、もうすぐでゆうねちゃんとねむりちゃんの街の道も本格的に使えるようになる。
普通の人達の交流といった意味では進展だ。しかし、目標の為に一番必要としている戦力、即ち戦える状況に在る【魔法少女】は増えていない。
各街の【魔法少女】は各街を守るために各街に残っている。あの街には奇跡的にも二人の【魔法少女】が居たから一人は相方役として私と行動ができているだけで、その他の街ではそうはいかない。現に他二つの街の【魔法少女】は街を守って遊撃なんかできる様子ではないのだ。
これからも、各街の協力で生き残り人類と【魔法少女】の捜索を加速させて、生存網を拡大していくのには変わりない。しかし、同時に【魔法少女】が戦える状態にするということが必要になってくる。【高層ビル】の数を大量に減らせるようになればなるほど。早く【異形】の親元と戦う為の行動ができる。
昔は、手っ取り早く終わらせるために、私は一人で【異形】を可能な限り潰して、街から【魔法少女】を引っ張り出して、親元を倒していた。だが、今それをしてしまうと、楽しみが減ってしまうので無しだ。そうでなくとも、幻想的な無口幼女という私への印象に合わせにいかなければ、それはなりきりではなくなってしまう。
……最近、そういう制約と、他の人の私に抱く考えを推察してそれに合わせたり合わせなかったりするという行為が楽しく思えてきている。
相方は、不幸な私を戦わせたくないと、それでも強いから頼ってしまうということに葛藤をしているようだし、三つめの街のねむりちゃんは私を年下の子として世話を焼いている。他の人達もこの二つを合わせたような接し方をしてきて、なりきりをしているという実感が湧いてきているのだ。
「あのもふもふには誰かが感謝しないとね〜」
取り敢えず、これからの事をマニュアルに認める。
訓練の成果は順調だし、相方を筆頭に【魔法少女】が強くなっている。現状こそ、その数は少ないが、ねずみ算式に各地の【魔法少女】に訓練を施してもらえれば、一年以内に【異形】の親元の……【超々高層ビル】に挑戦できるのではなかろうか。
私が考えるべきは、街を守らなくてもよい【魔法少女】を増やすことだ。
現状の滅んでいない街は、基本的には山々の中に在って、一箇所だけ平野まで【高層ビル】が通れそうな道が続くという構造になっている。そして【魔法少女】が最低一人存在する。
恐らく、山に完全に囲まれているならば、街として発展することはなかったのだろう。都市や他の街とつながれていて、そして、その中でも【魔法少女】が居て守りやすい街だけが生き残った。
取り得る行動は、まずは、一般人をなるべく少ない数の街に押し込めて戦力を分散させないこと。これは私が問答無用に昔行っていたし、あまりしたくないけれど、これからもある程度は必要になってくると思われる。
次に、周辺の【異形】を一掃して、【魔法少女】が出ていっても大丈夫なようにすること。これは、決戦が近付けば必然的にそうなるだろうが、早い段階ではできるものでもない。
そして、最後に、いくつかの街を一つの街ということにすることが挙げられる。つまり、街を完全に山々で囲ってしまうのだ。作った街道は山を縫うように作ったので【異形】に襲われる心配はないだろうから、これからは各街の【高層ビル】の居るような平野への道を閉ざすだけで済む。自然の大きさは知っているのであまりほいほいと活用はできないが、街三つ程度の現状ならば効果は大きそうだ。
勿論、相方含め【魔法少女】には沢山働いてもらうことになる。並大抵の苦労ではないが、街を捜索する【魔法少女】の数も増やしていく必要があるし、状況は加速していくので頑張ってほしい。
さて、こんな感じのこれからの事を書いた本を渡して、私達は次の街の発見に向かうことにした。
………………
みりはちゃんからまた新しいマニュアル本を渡された。最早恒例の事で、いつもの通り、これからの内容が書かれていた。
もっと協力してくれる街を見付けて、そして【超々高層ビル】包囲網を作ること。人々を守ることと、【魔法少女】が戦える状態にあることを両立するためにする三つの案。
「戦いばかりだと思ってたっすけど、そうでもないんすね」
「私もみりはちゃんが来るまではそう思ってた」
【高層ビル】が来たら戦う。それ以外は訓練か、休息か。そういう日々だったのに、最近では戦わないなら道の整備か訓練か頭を使って戦略を練る。戦うにしても安全に、なるべく戦わないようにという日々だ。
更には、友達も仲間も居て、頼れる人もいて、閉塞感は無いし、効率的に作業を分担できるという豪華な環境だ。
「勿論、戦わなくてもやることは大変だけれどね」
「そうっすね。私も毎日道の整備の駆り出されたり、そうじゃなくても訓練ばっかりで大変でしたよ〜。みりはちゃんも、更にこのマニュアルも作るとか、大変すぎるっすね!」
だからといって、戦わない時にする娯楽があるかと言われても、あまりないので、どうしようも無かったりするのだが。
「でも、大切な子と、友達と話せるだけ、幸せだなって私は感じるよ」
「ゆめちゃ〜ん!! 嬉しいっすよ!!」
少し照れくさいことを言うと、ねむりちゃんはだき着いてきた。
「いっぱい動いて汗臭いんだから離れて!」
「あ〜ひどいっす、ひどいっす、私の心はぼろぼろっすよ〜」
「もう……」
そうだ。こんな時間が私には楽しく感じる。
「それでさ……これからは、どうするの? 街に残って防衛する【魔法少女】も必要だけど、戦いに行く、調査に行く【魔法少女】も必要なんだって書いてあるけど。また今度は今まで以上に戦わなくちゃいけない時も出てくるよ? これからはまた別のこともしていかなくちゃならないし」
「私は、戦いに行けるなら戦いに行きたいって思うっす」
ちょっと真剣な表情になる。
「私は、そりゃ戦うのは、死にそうになるんで嫌っすけど、でも、私だって、友達と一緒に戦いたいって思うんすよ。友達と一緒に居たいっす。それに、私の力がこの嫌な世界を終わらせる助けになるなら、頑張りたいっすよ」
「そっか。私は逆かも。逆の気持ってわけじゃなくて、死なせたくない、戦わせたくない人が居るから、私は戦いに行きたいと思ってる」
死なせたくない子。勿論、みりはちゃんだ。
「みりはちゃんって、私達が初めて会った時、とんでもなかったんだよね。何がというか、全部。服はぼろぼろ、髪はぼさぼさで伸びっぱなし。一人で今まで暮らしてきたんだなっていうのが分かったの。それでも、私達の前に現れた百メートル級の【高層ビル】を一撃で倒してしまった」
「一撃で?! みりはちゃんって、やっぱり最初から凄かったんすね」
「本当にそう思う。なのに、突然、荒野なのに眠るものだから大慌て。勿論、今は私達の仲間になってくれて、常識も教え込んで、こうやって色々なことを最前線でやってくれてるけれどさ」
私はそんなみりはちゃんが大好きだ。大好きで、大切で、それでも分からない部分が多い。
「強いけど、危うさがあるっていうか、私が護らなくちゃって思った。私はみりはちゃんに追い付きたくて、訓練を頑張ってるし、逆に訓練以外の戦いには行かないように動いてる」
この街に来てからずっと、私がみりはちゃんに【高層ビル】が現れたという情報が届く前に【高層ビル】を撃退している。それに、移動する時だって、なるべく安全な役割にみりはちゃんがなるように動いてきた。
「みりはちゃんが、戦える人達の中で一番強いってことは私だって分かってるし、こんなことは効率的じゃないのも理解している。でも、戦える子の中で一番年下なんだよ。それに、私達と会う前は、街とかで生きてきたわけじゃない。たったの一人で生き抜いてきた……不憫だよ」
「……この世界って本当に嫌になるっすね」
「そうだね。本当に嫌になっちゃう。私だって、戦いに行かない選択肢があればそうしたいけどね、でも、私はみりはちゃんを戦わせないために戦いに行くんだ」