第二話 開戦、そして殺し合い
信事は紅葉にあるものを渡す。
「紅葉。ホラ、約束の品物だ。」
「お、ありがとな。注文通りの薄生地で動かしやすい…。気に入った。」
「前々から拳銃用のグローブ寄越せと煩かったからな。」
「頼みを聞き入れると言ったのはお前だろ。戦友の頼みくらい快く引き受けろよ。」
「まぁな。因みに色は青でよかったのか?」
「色なんざ、どうでもいい。使えればな。」
「ってか、今までグローブ無で拳銃握ってたのか。」
枯葉が紅葉に突っ込む。
「そうなんだよ。拳銃を再び握ることになるなんて考えてなかったし。」
「私的には案の定だけど。」
「冗談はよせよ沙羅。戦にならないとばかり思ってただけだ。グローブと素手で感覚がズレなければいいけど。」
「大丈夫。紅葉なら多分、どんな障害も気にしなくていい。」
「そうかい。そりゃどうも、華林。」
「飲み会とは言え、開始十分で戦争の話題になるとはな信事。」
「掠矢…一応俺たちは常時戦争の最前線に立ってるんだぞ?」
「それでも少しは休めよ。お前らだってだって人間だ。いつかは消耗する。」
「それまでは俺はこの仕事を突き通す。」
「紅葉…世界統治が完了したら手を引いてくれ。」
「そしたら俺は拳銃の競技に参加しよう。」
「優勝する気満々じゃんそれ。」
「沙羅、上には上がいるって諺、知ってるか?」
「…知ーらない。」
「嘘つけ!」
「…信事、声でかい。」
「悪かった、華林。」
一連の会話の流れは、やはり平和を感じさせる。しかしながら、未だ戦争が始まる可能性が高いのは紛れもない事実。新たな異変は今も、誰にも気付かれず進行し、徐々に世界中を恐怖に陥れることになる。
「枯葉、改進軍の―というか日本の兵器技術をアメリカに共有するってのはつまり、俺たちはアメリカの味方ってことか?」
「まぁそういう事だ。」
「ってことは、信事の作戦は予定通り進行中ってことか。」
「その作戦とは…?」
掠矢が質問を投げかける。
「旧ソ連領の最西端に最新式軍事基地を平和団の名の許製作するんだ。無論ヨーロッパは軍事基地の取り下げを要求するだろう。その混乱に乗じてヨーロッパが仕掛けてくるであろう攻撃を口実に戦争を初め、アメリカの威圧と平和団の攻撃でヨーロッパを落とす。同時に、ヨーロッパの植民地も全て頂き、アメリカを牽制するって方針さ。」
「…キューバ危機の一旦を再現するのか。」
「掠矢、言いたいことはよく解るがな…」
「いや、やるなとは言ってない。ただ、普通に戦争だなそれ。」
「そうなるな。」
信事は回答する。
「これまで戦争社会で孤立した考えを持つ集団は消えてきた。俺たちも例外じゃない。」
信事は決意したように虚空を睨みつけ、こう言った。
「殺られる前に殺る。ただそれだけだ。」
瞬間の沈黙が走った。沙羅がその沈黙を破る。
「とにかく、平和団は半年間休息なんだ。この話は、これ以上はよして。」
そこで会話は終結し、飲み会は夜中二時頃に解散した。
情報だ。紅葉のもとに、ある一通の情報便が入った。紅葉は自分のベッドの上で信事と無線連絡をしている。
「信事、聞こえるか?」
『良好だ。どうした?』
「テロ組織が新しく結成され、世界各所で殺戮行動が起こっているらしい。」
『それだけじゃ動かないぞ俺は。』
「まぁ聞け。枯葉によると、テロ行動が日本領に近づいているらしい。」
『…根城の位置は?』
「特定済みだ。」
『どうする?行くなら兵をだすか?』
「いや、俺たちだけでいい。スナイパーも一人欲しいな。」
『それなら沙羅だ。平和団だけでなく、改進軍の中でも一、二を争う凄腕だ。』
「じゃ、手配頼む。」
紅葉はぞっとする。背後から声が聞こえたからだ。
「私も、連れてって。」
無線機の電源を切り、振り向く。紅葉が合鍵を渡しているのは決まって一人…。
「華林…。危険だ、止めておけ。」
「いや行く。待ってるの寂しいし、紅葉が心配だから。それに…。」
「それに…?」
「これも使えるようになったしね。」
そう言って華林は腰の両脇のホルダーに下げたFN-57に手をかけた。
「…使いやすい?」
「もう命中しまくり。」
「なら良かった。…解った。ついてくるのは良いが、一つ条件だ。」
「…何?」
「絶対に生きて帰ること。」
「任せて‼」
「…威勢がいいな。」
テロ組織と聞いた紅葉には一つ思い当たる節があった。三週間ほど前に集結した、夏祭りでの出来事である。その日が祭りになった根本的な理由はやはり、「鬼」と称された反日テロ組織だ。彼らの宣戦により、会場をパニックにさせられた。彼らと関係があるのか。紅葉はそれを確かめるためにこの調査及び制圧を引き受けたのだ。
祭りから一か月…。八月の終わりに差し掛かったこの日、彼らは連絡に預かった敵の根城に移動し、中に潜伏することになった。ここは旧ロシア領の森の中、柵に囲まれた敵の要塞の外壁付近である。そこに仮的な拠点を設け、対敵偵察を行っていた。
「予想通りだな…。」
「何がだ?」
「ロシア銃が多いってことだよ。見てみろ、信事。だいたいAKだ。他国から銃を輸入する暇もなかったんだろうな。敵の手勢もそれほど多くないだろう。」
「敵の数が多すぎて簡単な装備になったのかもしれんぞ。」
「それもあるだろう。ひとまずは夜に潜入しよう。敵も焦って出てくるハズだ。」
「解った。」
「それにしても、連中、アメリカからここまで来たのか。」
「どういう事だ?」
「武器を現地調達しながら来たってこと。例の祭りの事件で出くわした奴ら、揃ってアメリカ英語だった。こいつらはあの時の連中の仲間だとしたら、そうなる。」
「だが解せない。アメリカと日本は同盟国なんだろ?」
「反日運動は少なくともある。アメリカとて日本を信用しきれていないようだ。」
「ほう…。おもしろい。」
「日没まで三時間半。三時間と三十分後に出発する。それまで三人とも、休憩しよう。」
紅葉と信事は茂みに隠れていたが、そこから後退し、信事だけが仮拠点まで引き返していった。紅葉は敵に接近して行く。
「…やはり使用言語はアメリカ英語か。…十分だ。後退しよう。」
そして紅葉も後退していった。
仮拠点は岩が削られてできた空洞に設け、奥に戦闘用の荷物やサバイバル用の道具、食料などが置かれていた。
「どうだ、沙羅。水は集めれそうか?」
「出来ると思う。ただ、あと一時間はかかるかな。」
「上等。」
森林の中なので、そこで得た植物等を少し深めに掘った穴の中に入れ、閉じ込め、コップを入れ、その上に小石を置き…そしてしばらくすると、空気中の水分が結露して水源が確保できるのだ。それ専用の道具を持ち込み、全員が干からびないだけの水をこの拠点内で生産している。
「…それで、武器構成が最悪な四人だが、勝機はあるのか?信事。」
戻ってきた紅葉が愚痴をこぼす。
「そう言ってくれるな。拳銃使いが二人。二丁拳銃兼狙撃が一人。狙撃手が一人。」
一瞬の沈黙。
「揃いに揃って天才ガンナーだぜ?行けるよ。」
「サブマシンガンとか、アサルトライフルとかは要らない?」
「要らない要らない。」
「…スピードの牽制も大切だぞ。」
「いやだってあんた拳銃なのに連射早すぎるからいいじゃん。」
沙羅が紅葉に突っ込む。
「俺は拳銃の最大連射をしているが、狙っている為若干遅れが出ている。」
「アサルトライフル使うの下手くそな奴が使うよりはマシでしょ。」
「…なんでC4持ってこなかったんだろう。」
そう、持ってきていないのだ、爆弾を。そんなこんなで、日が暮れるお時間。潜入出発時刻は目前に迫りくる。夏だからか…とても蒸し暑く感じる。…ここロシアなのにね。と紅葉は思った。暑苦しくて、聞こえぬセミの声が幻聴しそう。難聴か。と信事は思った。日本人であるが故、考えることは誰も同じなのだ。
そろそろだ。皆に指示を出そう。今までは信事が皆に指示を出していたのにな。いつからかずっと俺の役目になった。俺なんかがリーダーでよぉ。
「全員、戦闘装備。これより、潜入任務を開始する。総員、誰一人削れぬよう、何としてでも生存して帰還するぞ。」
三人は縦に首を縦に振った。
「ルートを確認する。ここから山の麓にまっすぐ進むと、敵陣の見張り櫓と正門にぶち当たる。櫓の上は、三時間ごとに交代のようだ。今、丁度後退のタイミングだ。次の交代が来ない内に任務を完了させる。内部に潜入完了次第情報を収集する。櫓の上の掃除は、沙羅と俺で狙撃し、両脇の見張りを即死させる。以上、移動開始!」
その号令で、四人は一斉に山を下り始めた。慎重に、確実に、一歩を前に出す。…そろそろだな。
「沙羅、狙撃ポイントに散ろう。信事、そのまま真直ぐ進め。後は無線で連絡する。」
「了解。」
「華林を頼んだ。」
「任せろ。」
俺と信事は左手の拳を互いにこすり合わせた。
「…行こう。そこの岩の下に少し平面な土地がある。そこから狙撃できるだろう。」
「任せて。左は引き受けた。」
「右は任せろ。」
「はいよ。」
二人は別れ、それぞれの狙撃ポイントに到着し、狙撃銃を構える。俺はL96-A1、沙羅はM24E1-ESRを使っている。又、俺は何故か狙撃銃の扱いだけは左利きである。…謎だ。
慎重に狙いを絞る。M24E1-ESRはバイポッドがあり、狙いを定めやすいが、L96-A1にバイポッドはついていない。そのため、手振れには気を遣うのだ。隣から狙撃の発砲音。コルトからもらった最新式のサプレッサーを装着したM24E1-ESRの狙撃音はかなり静かだった。俺は更に慎重にトリガーを絞る。サプレッサーがないこちらは、力強い発砲音と共に弾丸は放たれ、見事右の見張りの頭部を貫通した。ボルトを引いて次弾を装填する。そして沙羅と合流した。
「ナイスショット。流石だ。」
「あんたも、安定。ブレなくてよろし。」
「狙撃の天才と呼ばせてくれ。」
「…お好きにどうぞ。」
そして俺は二丁の拳銃に手を伸ばし、双方のスライドをベルトに固定したまま引き、第一弾を薬室に装填した。
「少し、小走りで行こう。」
「了解。」
華林よりスピードが出る沙羅は、正直走りやすいスピードまで加速してくれた。
「聞こえるか?そのままゆっくりめに直進してくれ。すぐに合流する。」
『了解。』
信事から返答。そして二人と合流する。
「お疲れ。ナイスショット。」
「まだ手振れに慣れきっていない。やっぱ沙羅はすごいよ。狙撃スピードが早く、正確だ。」
「あんたはえげつない個所狙ってるから時間かかるんでしょ。」
「…と、言うと?」
「致命傷を与えるだけの急所に一打撃与えるだけでいいの。」
「なるほど、俺は思った以上に殺戮者だったってことか。」
「それより敵襲。話してる暇は無し。」
みたいだな。敵襲。これより、無残な殺し合いを開始する。全員、生きて帰還しろ。




