第三話 殺戮の悲しみ
その後、その女は虐めることをやめた。だが俺は復讐を止めなかった。彼女の悪事を全て警察に届け、彼女は警察に捕まる。警察は彼女の影響で人が自殺した事実を重く受け止め、彼女を少年院に留置した。だが、彼女が少年院送りにされた原因に、あの日助けを求めてきた彼女があると言われ、酷い嫌がらせが始まった。俺はその言論を止める事に専念した。俺は論破力があると勝手に思っている。あいつはまだやり直せる。だが死んだ奴は二度とやり直せない。その事実を受け止めてもらいたかったのだが。その火の粉は俺にも降りかかってきた。俺の悪口と明らかな盗撮写真を加工した犯罪写真をプロジェクターでクラス中に曝されたりした。教室のドアを開けたら、そんな事になってた。
「…飽きた。もう、虐めは飽きたよ。君たちには呆れた。こんな餓鬼のまやかししか出来ないのか。」
俺はプロジェクターの投影部に教師用の馬鹿でかい三角定規の角を思いっきり当てる。ガラスが砕ける音。プロジェクターが破損した。そのまま、刺さった定規を思いっきり放り投げる。レールから投影機が投げだれた。
「もう散々だよ、お前ら。」
教師が俺を連れ出そうとする。腕を掴もうと一人の男性教師が手を伸ばす。俺はそいつの手首をひねり上げ、背負い投げをした。
「寄るな‼」
「は、犯罪だぞ!物を壊しやがって!器物損壊だ‼」
「犯罪だぞ、皆して俺を貶して。人権侵害、恐喝、殺人未遂、プライバシーの侵害。」
俺は冷めた口調で脅す。
「どっちの罪が重いかな?碌に勉強もしないで教科書代を無駄にしかしない税金泥棒共。」
俺は三階の廊下から荷物を一階の蓋の開いた焼却炉に向かって投げ落とす。見事に入った。
「重荷は御免だ。」
そう言って中央階段から一階に降りた。そこで異変に気付いた。外が騒がしい。上を見ると、屋上で何かやっているようだ。俺は大急ぎで屋上へ向かう。四階建ての階段を一気に駆け上がった。
「おいっ!よせぇ‼」
彼女は最後にこう言い残した。
「誰も助けてくれなかった。あなた以外、誰も。」
そう言って、あの日俺に助けを求めた彼女は、学校の屋上から、奈落へと落ちていった――。
「ぐぁは‼」
俺は勢いよくベッドから起き上がる。呼吸が荒い。脈も速い。
「なんて夢だ、クソ。」
変に目が冴えちまった。俺は辺りを見回す。
「…そうか、今日はこいつと。…ん?」
そもそもこいつは何故俺の部屋で泊まりたいなんて言い出したんだ?いや、よせ。深追いは御免だ。何より今は気分が悪い。寝起きも最高潮の悪夢に邪魔された。華林を起こさないようにリビングに向かった。
「…二時か。よく起きる時間だ。」
この時間は本当に嫌いだった。よく起きるからだ。最近、あの類、過去を夢見る悪夢が多くて、寝つきが良くない。俺はコップにスポーツドリンクを注ぎ、一杯をグビグビと飲み干した。
「あぁ、生き返る。」
…そろそろ寝るか。そう決めた俺は再び音を立てないように寝室に戻る。ベッドに潜った直後、俺は再び眠りにつくのだった。
鳥の鳴き声が聞こえる。烏だ。烏の鳴き声は良い。何時も正しい方向を目指して、澄んだ烏の声が響く。だから俺は烏の鳴き声が好きなんだ。烏が鳴いているということは、まだ日の出前か。そのくらいに烏は良く鳴く。と思ったら、別の音が耳に飛び込んできた。
「紅葉、紅葉‼おーきーてー‼」
肩を揺すられてる。ほっぺためっちゃ膨らんでる。やば可愛い。華林もこんな顔するんだ。初対面の時のあの態度じゃ考えられないな。口数が少ないうえに、感情を露わにしないからな。珍しい。まぁ、起きたくても昨日のように上に乗られて起きれないんだが。
「くーれーはー。」
「解った、起きるから。どいてくれないと起きれないから。」
「…あ、ごめん。」
気付いてなかった⁈こいつ、そんな天然馬鹿だっけ?いや、華林が天然だなんて、あり得るはずがない。
「…おはよう華林。」
「おはよう紅葉。」
「そしてお休み世界。また明日。」
「うん、お休み。…って寝るな‼」
「ごめんごめん。おはよう。」
華林さんまだツンとしてる。そういや、こいつ何歳なんだろうな。まだ聞いてなかったわ。俺は起き上がり、リビングに向かった。
「お腹すいた。ご飯は?」
「ほれ。」
俺は冷蔵庫から栄養ゼリーを取り出した。
「こ、これだけ?」
「朝は基本これだけ。特別体力を使うときだけ乾パン食う。それだけでも昼間でもつ。」
これが日課なので慣れた。正直、今変えられると生活リズムが狂うので、華林には理解してもらう必要がある。
「昼にたんまり食えば腹は喜ぶ。」
「なるほどこれが。紅葉の細身の秘訣か。」
「言われるほど細くないけどね。」
「筋肉と脂肪のせいでがたいがね。」
「脂肪はさほどありません。あるのは俺の肩幅です。」
「あらそ。」
そう言って華林は勢いよくゼリーを飲み干した。
俺と華林は身支度を済ませて兵舎の一階エントランスに向かう。時刻は五時を回り、この時期朝四時半に顔を出す太陽はだいぶ昇った後だった。
「そういえば、紅葉は飲まないの?ゼリー。」
「飛行機に乗る前にな。そのくらいの時間に飲むのがベストだ。」
「不思議な生活してる。」
「悪かったな。」
そこで、沙羅と信事がこっちに来た。
「遅かったな。」
「ごめん。こいつの世話に手間取った。」
そう言って沙羅は信事の背中をバンと叩いた。
「ったく、負傷者をもっと優しく扱えってんだよ。」
信事も元気そうだ。
「皆おはよう。今日は改進軍と会議だ。十時半から別途の前会議だそうだ。七時の飛行機に間に合わせるぞ。」
「「「はーい。」」」
皆ラフ過ぎか。
「さっさと行こう。もう六時だよ。」
「そうだね、さっさと行こう。」
俺は皆を先導し、空港に向かった。そこでゼリーを飲む。
「ゼリーか、腹でも減ったか?」
「俺は何時もこんな生活だ。因みに、これが朝飯な。」
周りにちょっと引かれた。
「何時からそんな生活だ⁈」
「十年前から。」
「年季入ってらっしゃる。」
「来るぞ。あれに乗る。」
機内、何故か沙羅に押されて、俺が華林の隣の席になった。信事は相変わらず沙羅とイチャイチャしている。
「何で俺ここなんだ。」
「ペア的にじゃない?」
「そんなんでいいのか、平和団。」
会議で何が話されるのだろうか。例のスパイの件もそうだが、新ソ連の残党狩りが八年間放置されてることも念頭に置かなければならない。新ソ連はまだロシアを抑えただけだからな。
「っと、ん?」
華林が俺の肩に寄り掛かって寝ている。流石に朝が早すぎたか。良く寝れなかったかな。夜中、俺もガサゴソしてたし。悪いことしたな。そして同時に気付く。
「あいつ…こうなることを予想してやがったな。」
俺は聞こえないようにそっと呟いた。俺も眠気があったが、保冷剤で首元を冷やすと不思議と眠気が吹き飛んだ。ソウルを飛び立ち二時間五十分。羽田に到着した。
「起きろ、着いたぞ。」
「むにゃ?んん、着いた?」
「ああ、日本だ。」
そう言って自分と華林のシートベルトを外した。
解放、娑婆の空気は美味しいのである。
「うはぁ、故郷に戻ってきたぁ。」
帰国早々、沙羅はそんな感嘆の声を漏らした。
「帰ってきたな。」
「ああ、信事。日本はだいぶ平和になったよ。」
「そうだな。約束、守ってくれてありがとな。」
「だが、日本だけじゃない。世界中が苦しんでいる。その汚染を取り除くために、俺たちが汚れ仕事をこなさなければならないんだ。」
信事は、安心したように俺を見つめた。
「強くなったな。」
「俺はもう、親友に死んでほしくない。お前ら三人だけは、命に変えても守る。」
「そいつは嬉しいが、その時は俺が囮になる。お前のように優秀な兵士を死なせるわけには行かない。それに、俺はもう手負いの身だ。俺が死ぬのが妥当だろ。」
「…信事。俺はお前らに生きて欲しいだけなのに。」
「大丈夫、俺もお前も、命に嫌われているが、俺もお前も、命に救われている。」
その言葉は、不思議と説得力があった。
会議室に到着する。緊張感が漂っていたのだが、信事によって雰囲気が台無しになった。
「掠矢、久しぶりだな。」
「ああ、一週間ぶりだ。元気なようで、何よりだよ。」
そこで二人は、互いにひしと抱き合った。
「無事でよかった。」
「ありがとう、また会えてうれしいよ。」
そして抱擁を解き、互いに熱い握手を交わした。
「それじゃ、会議を始めましょうか。」
そう言って、全員、会議室に呼ばれた。
「本日話し合う議題は、次なる平和団の攻撃目標と改進軍の連携についてです。司会進行は私、小松静寂が務めさせていただきます。よろしくお願いします。尚、本会議では通常の会議法が適応されるわけではありませんので、議長を無とさせていただきます。」
「改進軍代表、須賀枯葉です。」
「同じく、改進軍代表、長牙掠矢です。」
「平和団代表、飛騨紅葉と、咲詩華林、霧島信事と霧島沙羅です。」
目を見張る掠矢。その直後、信事と掠矢は目を合わせ、二人はすこし笑った。
「では、改進軍代表より、案を聞かせていただきます。」
「はい、我々改進軍では、アジア諸国の圧力が強まっているのを感じています。特に中国…あそこに情報が漏れているような動きを見せています。そこで、特に強い力を持つ中国を、アメリカとの諜報策によって排除してもらいたいと考えています。」
「それには、いくつか問題があります。」
俺はその場で手を挙げた。
「紅葉さん、どうぞ。」
「平和団は国ではなく、独自の軍隊なので、アメリカとの協力は難しいと思います。仮にあなた方の外交によって十分な信頼があっても、アメリカが敵になった時に厄介です。」
「平和団の武器至急等をアメリカに援助してもらおうということです。」
「そうですか。解りました。」
「平和団が中国を出兵するさい、必要な物等はありますか?」
「少なくとも、一週間分の食糧と、大量の予備弾倉です。」
「一週間分だけでいいのですか?」
「我々は短期決戦が主戦です。それ以上の食糧はただの重荷でしょう。」
「わかりました。一週間分の米と缶詰、インスタントのスープをお配りします。」
「あと、水もお願いします。」
「了解です。」
「中国を落とした後は、どうするんですか?」
枯葉の目の色が変わる。
「諜報合戦で、中国で手に入れた情報をもとに、冷戦を終了させます。」
「そこから短期決戦に挑むわけですね。大戦を勃発させて。それだけでも多大なる犠牲が付きまとうでしょう。そのために、俺たちはまたこの手を、血で染めなければならないと。」
その言葉は、会議室の後に続く声を消し去り、沈黙を作り出した。




