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君と僕等を、繋ぐ線。  作者: 中め
7/7

君と僕等を、繋ぐ線。



 -----------畑田が秋のもう1つのブログを見つけてから、3ヶ月が経った。


 その間、畑田とは連絡を取っていない。


 友達でも何でもないから当たり前なのだけれど。


 でも、1回だけ顔を合わせることはあった。


 俺がプロデュースする新人バンドのライブに取材に、畑田がやって来て、その時に軽く挨拶だけはした。


 ただ、それだけ。


 ……なんか、モヤモヤする。


 畑田のこと、突っぱねたくせに気になる。


 俺は調子良く畑田に期待しているんだ。


 アイツなら、秋に関する何かをまた探して来てくれるんじゃないか。


 畑田が秋のブログの存在を教えてくれた時、胸が潰れるかと思うくらい苦しかったのに、嬉しかったんだ。


 秋の声が聞こえた気がしたんだ。


 でも、俺の都合良く、畑田が新たな秋の情報を持って来てくれるわけがなかった。


 今日もスタジオで、新人バンドの為の曲作りをする。


 ……俺は何をやっているのだろう。


 新人バンドが嫌いなわけでも憎いわけでもない。


 声だって演奏だって悪くない。


 だけど俺は、他人に供与したくて音楽を作っているわけではないのに。


 ……歌わないくせに、何を言っているんだ、俺は。


 自分の気持ちに折り合いを付けられず、そんな思いに目を背けながら、音楽に集中する。


 音楽が好きな気持ちは本物。


 不本意な形の活動であったとしても、やっつけで作る様な真似は絶対にしたくない。


 邪念を振り払い、ギターを鳴らしながらメロディーを考えていると、


「悠斗、ちょっといいか?」


 タブレットを脇に挟んだマネージャーが、開きかけたスタジオのドアの隙間から顔を出した。


「別にいいけど」


 曲創りもノッていなかった為、肩からギターを下ろし、マネージャーを招き入れた。


「ちょっとこれ、見てみてくれないか?」


 マネージャーが近づいて来て、持っていたタブレットを俺に差し出した。


 タブレットに映されていたのは、俺のHP。久々に見た。


 秋が死んでから、それまでやっていたツイッターもインスタも更新を辞めた。


 コメントを見るの辛かったから。


 俺を応援する書き込みもあっただろう。


 でも、秋の死を責める声だってあったに違いない。


 秋がいなくなってしまったことを受け入れるのに精一杯な俺に、非難の声をまともに受け止める心の余裕なんかなかった。


 だから、HPの更新も全部スタッフまかせだった。


 HPに寄せられるコメントからも、目を逸らしたかったんだ。


「トップページの写真、変わってるね」

 

 久しぶりに見たHPには、おそらくレコード会社か事務所のパーティーかなにかで撮った集合写真を、俺だけピックアップしてカッコ良く加工したものが貼り付けられていた。


 雑誌取材までも断り続け、写真がない俺の為の、スタッフが編み出した苦肉の策。

 

 技術の進歩は目まぐるしいなと、3年前とは違うHPを眺めていると、


「そりゃ、そうだろ。3年前と同じ写真を載せ続けられるわけないだろ。立派に3歳年とってんだから。トップページなんかどうでもいいんだっつーの。じゃなくて、コメント欄開いてみろ」


 マネージャーが、俺が1番避けたいと思っているページを開かせようとした。


『嫌だ』と駄々をこねられるような歳でもないし、ビビってる姿を見せるのもダサいしで、しぶしぶ言われたページに人差し指を乗せ、クリックした。



『今、拡散されているツイートに、私も賛同します‼』


『俺も‼』


『感動した‼ これは実現すべき‼』


『I  WANNA  ACHIEVE  IN  MY  COUNTRY‼』


 コメント欄には、俺の知らない【拡散ツイート】に関する意見が書き込まれていた。


 そこには、英語のコメントも混ざっている。


「……何? どういうこと?」


 首を傾げる俺に、


「その拡散ツイートが、これだ」


 マネージャーが、俺の手に持たれていたタブレットの画面を切り替え、それを表示した。


 そこには、『〔拡散希望〕この小説は映像化の価値があると思います。音楽は、過去の噂を抜いても抜かなくても、桜沢悠斗で‼』と書かれた文章の下にURLが貼り付けてあり、それを開くと秋の【君と僕等を、繋ぐ線。】が表示された。

 

 俺が1番好きな秋の小説。


「これ、英語の拡散希望ツイートもあるんだよ。秋さんの【君と僕等を、繋ぐ線。】が全部英訳されてんの」


 英語の拡散ツイートも俺に見せるマネージャー。


 英語のツイートに貼付されていたURLをタップすると、【THE LINE CONNECTS YOU WITH US】とタイトルを打たれた小説が、英語で載っていた。


 ……こんなことをするヤツは、アイツしかいない。


 俺の他に、【君と僕等を、繋ぐ線。】が一番好きだと言った、アイツしか。


 引き出しに閉まっていた名刺を取り出し、電話を掛ける。


『はい。上川出版、畑田です』


「桜沢です。お前だろ、あの拡散ツイート」


 畑田が電話に出た途端に、何の前置きもなく本題へ。


『やっと桜沢さんのところにも辿りつきましたかー。結構時間かかったなー。もっと早く広まると思っていたのに』


 拡散ツイートの犯人は、やっぱり畑田だった。


 俺の許可もなく勝手に妙なツイートを拡散させておいて、全く悪びれのない畑田。


 コイツ、どういうつもりなのだろう。


「お前、何のつもりだよ。無断でこんなツイート流して」


『え? だって誰の許可もいらなくないですか? 別に私が秋さんの小説をパクったわけでもなく、『秋さんの作品ですよ』って言ってツイートしてるんですから。それに、そもそもネットで発表されてたんだから、拡散するのだって自由でしょうよ』


 畑田の言い分は尤も。確かに畑田は何も悪いことはしていない。


「無許可でやったことはいいとして。何なんだよ、あのツイートは」


『え?? 見たまんまですよ。『みんなの声で秋さんの小説を映像化しよう‼ 桜沢悠斗に音楽をつけてもらおう‼』っていう運動』


 さっきから、畑田の喋り始めの『え?』が馬鹿にされている様で、ちょっと腹が立つ。


「だから、何でツイート?」


『桜沢さん、秋さんとの対談の時のこと、覚えてるって言ってましたよね。秋さん、対談で言ってたんですよ。『私はネットの力を信じてる』って。桜沢さんも『俺も』って。だから私も信じてみようと思って。だって私は、ただの雑誌記者です。映画製作会社にもテレビ局にも、知り合いはいてもコネなんかありません。私にはこれしか思いつきませんでした』


 畑田は、俺に歌わせて手柄を立てたいだけなのかもしれない。


 それでも畑田は、秋と俺の夢を本気で叶えようとしていた。


 秋が喜ぶであろう、秋が1番納得するだろうやり方で。


 畑田の気持ちが、素直に嬉しかった。のに、


「正確には『オタクとネットの力を信じてる』だったけどな」


 畑田が相手だと、謎に悪態をつきたくなるのは何でだろう。


『そこ、敢ての割愛ですよ』


 畑田が、こんなに捻くれた俺に負けじと返事をしてくるからだ。


「にしても、英語のツイートまで。小説も英訳してあったし。誰が? 一緒に取材に来た男の人が?」


『私ですよ‼ 売れっ子アイドルか⁈ ぐらいの勢いで寝ずに訳したんですから‼ 英語圏の人たちにも拡散した方が、多くの声を集められるだろうなと思って』


 畑田が電話の奥で『ふんふん』と鼻息を荒げた。


 ……え。畑田って。


「英語出来んの? お前」


『私、中学高校の英語の教員免許持ってますもん。まぁ、ネイティブじゃないんで、英訳ちょっと稚拙な表現が多々あるかと思いますが、話の内容は伝わる様には訳せているはずです』


 ……そう言えば畑田、俺の取材がしたくて教師になるのを辞めたって言ってたな。


 畑田、英語の先生になりたかったんだ。


『まぁ、確かに北村さんの力も……ていうか、色んな人に協力はしてもらいましたけど。北村さんも私も、SNSを盛んにするタイプじゃないので、拡散力に乏しかったので、家族とか友達とか同僚を巻き込んで広めたんですよ。ただ、北村さんも私もそんなに呟くことがないので、それっきり使ってないですけど』


『あはは』なんて苦笑いする畑田は、この試みが上手くいったとしても、手柄を独り占めする気はないらしく、あくまでも【みんなの協力のおかげ】として話す。


【手柄】なんて、畑田はどうでも良いのかもしれない。


 そんなみみっちい考え方をしているのは、俺だけなのかもしれない。


【手柄】なんて、俺は自分のことをどんだけ大物だと思っているのだろう。


 自分自身を過大評価て……だっさ。


「悠斗、ちょっと電話代わって」


 傍で俺と畑田のやり取りを聞いていたマネージャーが、『電話貸して』と俺の目の前で右掌をひらつかせた。


 とりあえず電話をマネージャーに渡すと、マネージャーがそれを耳に当て喋り出した。


「マネージャーの平塚です。悠斗側の話しか聞こえてなかったけど、察するにあのツイッターばら撒いたのって、畑田さんなんですよね? それ、私にもやらせてください」


 マネージャーも畑田に賛同したいらしい。


『是非とも‼』という畑田の声が受話器から漏れ聞こえた。


 ……だけど。


「ゴメン。平塚さんの気持ちは有難いけど、遠慮してくれないかな。事務所の人間が関わって、事務所の偉い人の耳に入って、その人たちに動かれたくない。だって、上の人間なら何らかのコネがあるっしょ。そうすると、【ネットの力】ではなくなってしまう。俺の音楽活動と引き換えに秋の小説を映画化するのは、秋の本望じゃないはずだから。寝る時間を削ってまで英訳してくれた畑田さんにも失礼。俺、もう1回ネットの力を信じてみたいんだ。それでダメなら仕方がない。秋の小説にも俺の音楽にも魅力がなかったってことだから」


 自分の掌をマネージャーに見せ、電話の返還を要求。


「……ホント、変なとこが頑固」


 マネージャーが呆れた様に笑って、俺の手に電話を戻した。


 そしてまた畑田との会話再開。


「……実を結ぶかな。畑田さんの作戦」


 畑田に聞いたところで正解なんか出るはずもない質問をする。


『桜沢さん、ネットの力を信じるんじゃなかったんですか? 桜沢さんの音楽にも秋さんの小説にも、人の心を動かす力があります。良作にはネットの力が働くはずです‼』


 そう言って畑田が俺の音楽や秋の小説を褒めてくれるのは有難いが、


「ハードル上げんなって。そんなこと言って、もしどうもならなかった時、俺に掛ける言葉あんのかよ、お前」


 妙なプレッシャーかけんなっつーの。


『【どんまい】ですね』


 そんなとこだろうと思ったよ、畑田。


「畑田さん、仕事中だろ? ごめん。戻っていいよ」


『あ、はい。では、失礼致します』


 業務的な締め文句を言って、畑田が電話を切った。


 畑田がネット上にばら撒いた種は、どこかで花を咲かせて実をつけるだろうか。


 もし、花も咲かず実もつけなかったとしても、それでもいいんだ。


 秋の小説が、1人でも多くの人間に読んでもらえるのなら。


 その中の誰かが、秋の才能を認めてくれるのなら。


 秋は報われる。




 -----------更に3ヶ月が過ぎた頃、畑田が拡散したツイートが、朝の情報番組の3分程のコーナーで取り上げられた。


 あのツイートは、そこまでの注目を集めるほどに広まっていた。


 少ない時間の紹介だったけれど、さすがテレビ。テレビの威力が凄まじいと思い知らされる。


 もともとあったネットの声と、情報番組の視聴者の反響により、【君と僕等を、繋ぐ線。】が畑田の働いている上川出版で書籍化することが決まった。


 話題性のある本。予想以上に秋の小説は売れた。


 そして……。


「悠斗‼ 【君と僕等を、繋ぐ線。】の映画化が決まったぞ‼ 主題歌のオファーがお前にきた。やるよな⁉ 悠斗‼」


 遂に、秋の小説の映像化が決まった。


 興奮気味のマネージャーが、俺の肩を揺らす。


「……やるに決まってるじゃん。そのシゴトは俺にしか出来ない。誰にもやらせない。……俺、歌うわ」


 肩に置かれていたマネージャーの手をそっと下ろし、代わりにギターを肩にかけた。


「……すげぇな。実現したな。俺の夢も叶ったわ。もう1度悠斗に歌ってもらう夢、叶ったわ」


 マネージャーが、涙目になりながら嬉しそうに目を細めた。


 俺は、マネージャーにどれだけの心配と迷惑をかけてきたのだろう。


「今まで本当にゴメン。こんなわがままな俺を、見捨てないでくれてありがとう。最高の曲作るから。頑張るから」


 マネージャーに恩返しをしなければ。


 何倍にもして返したい。


「期待してるからな‼」


 マネージャーが俺の背中をパシンと叩いた。


 うん。その期待、全力で応える。


 久々に自分で歌うための曲を作る。


 秋を想って、秋の小説をイメージしながらの曲作り。


 楽しくて、嬉しくて。


 久しぶりの歌入れは、ちょっと緊張して、何度も撮り直したりして。


 でも、歌うのはやっぱり気持ちが良かった。


 そうして出来上がった曲を1番初めに聞いて欲しいと思ったのは、両親でも、友達でも、事務所の人間でも、レコード会社の人でもなく、畑田だった。

 

 畑田の携帯に『映画の曲が出来た。俺、歌ったから。聞きに来て欲しいんだ。仕事が終わったら事務所に来てくれないか?』と電話をすると、『待てない。上手く仕事調整して、今すぐ行くます‼』という畑田の返事が来た。


 畑田の『今すぐ』は本当に【すぐ】だった。


「たまたま桜沢さんの事務所の近くで取材入ってて……」


 と、いつか秋の非公式のブログの存在を教えに来た時の様に、畑田は肩で息をしながらオレの待つ事務所にやって来た。


「そんなに急がなくても。別に曲は消えて無くなるワケじゃないんだから」


 そんな畑田に、あの時の様にペットボトルの水を差し出すと、


「いや、まぁ。そうなんですけどね。すみません。遠慮なくいただきますね」


 と畑田が喉を鳴らして一気にほぼほぼ飲み干した。


 どんだけ走ったんだか。


「だって、一刻も早く聞きたくて。1秒でも、0・1秒でも早く‼ って思ったんですよ。ていうか、聞かないと気になって仕事が手に着きそうもなくて」


 呼吸が整い出した畑田が、『早く聞かせて‼』と言わんばかりに俺の目を見るから、そんな畑田の耳にヘッドホンを被せて早速出来上がったばかりの曲を流した。


 前奏で大きく目を見開く畑田。


 小刻みにリズムをとっては、サビに入る頃にはキラッキラに瞳を輝かせて、ノリノリに頭を揺らせていた。


 曲が終わって、畑田の耳からヘッドホンを外すと、


「もっかい‼ もっかい聞いてもいいですか⁉」


 畑田が俺の手からヘッドホンを取り返そうとした。


「あとでサンプル持ってって聞けって。今はダメ。……で? どうだった?」


 畑田は喜んで聞いてくれてた様に見えたけど、畑田の声で畑田の本音が聞きたい。


「最高ですよ‼ めっさ好きです、この曲 ヤバイッス‼」


 そう言って、覚えたてのサビのメロディーを鼻歌で『ふんふん』言いながら歌う畑田。


 嬉しかった。畑田が喜んでくれて、嬉しかった。


「……ありがとうな、畑田さん。畑田さんのおかげで、秋と俺の夢が叶ったよ」


 そんな畑田の手を取って、自分の両手で包み込む。


 秋と俺の夢を実現させてくれた畑田に、もう憎まれ口を叩く気はない。


 畑田には、感謝しかない。


「私のおかげなんかじゃないですよ。みんなのおかげ。ネットを見て賛同してくれた全員のおかげです。それに、私の方こそ、ありがとうございました。私の夢も叶いました。私は、歌を歌う桜沢悠斗の取材がしたくて出版社に入ったんです。この曲の発売が決まったら、私に取材させてください‼」


 畑田が俺の手を握り返した。


「取材、今からすれば? 曲の変更はないし、折角来たんだから一仕事してけば? 聞きたいことがあれば何でも聞いて。全部応えるよ」


「取材、私でいいんですか?」


「うん。ていうか、畑田さんがいい」


 記者に畑田を指名すると、畑田は嬉しそうに、でもちょっと泣きそうになりながら笑った。


「……ねぇ、畑田さん。俺が新曲出したら、毎回取材に来てくれる?」


「もちろんですよ‼ 桜沢さんが嫌でなければ」


「俺が、全く売れなくなっても??」


「それでも取材します‼ したいです‼」


 満面の笑みで即答する畑田が、俺のファンでいてくれて本当に良かったと思う。


 教師を目指していた畑田の耳に俺の音楽が届いて、畑田の夢を変えてしまった。


 だから、畑田が後悔をしない様な曲を創り続けようと思った。


 畑田に出会えて、本当に本当に良かったと思うから。


「今度、【君と僕等を、繋ぐ線。】が映画になることを報告しに、秋の墓参りに行こうと思ってるんだけど……迷惑じゃなかったら畑田さんも一緒に行かないか? 秋に畑田さんを紹介したいんだ」


 そんな畑田を、秋にも会わせてやりたいと思った。


「……お墓参りの誘いを断る勇気ないですよ」


「別に墓参り断ったからって、祟る様な女じゃねぇっつーの、秋は。迷惑だったらいいって言ってるだろうが」


「迷惑だなんて言ってないじゃないですか‼ 行きたいですよ‼ 私だって秋さんにお礼言いたいですよ‼」


『行きたい』と言うわりには素直な返事をしない畑田。


 何だろう。やっぱり畑田とは、いがみ合っている方が楽しいし、しっくりくる気がする。


「お礼って、何の?」


「だって、やっぱり桜沢さんをまた歌う気にさせたのって、秋さんじゃないですか。私が何を言ってもダメだったのに、秋さんの言葉をヒントに行動したら、歌い出すんだもん。桜沢さん」


 両頬を膨らませて、畑田が拗ねた。


 どうやら畑田は秋に嫉妬しているらしい。


 そんな畑田を、ちょっとかわいいな。と、思ってみたり。


「じゃあ、行く日は追って連絡するわ。墓参りの帰りにご飯でも行く? 何でも好きなの奢るよ」


 秋以来かもしれない。女の子を食事に誘うのは。


「やった‼ じゃあ、芸能人御用達のお高いお店に連れてってくださいよ‼ あ、でもドレスコード厳しいとこはやめてくださいね。めんどくさいんで」


 素直に喜んでくれるところも、やっぱりちょっと可愛い。


「俺、あんまりそういう高級な店に行かないから、全然詳しくないんだけど……周りの人間に聞いとくわ」


「いえーい‼ 肉‼ にーく‼」


 肉で乱舞する、こういう子どもっぽいところも。


「あ、肉が食いたいんだね」


 嬉しそうに肉を頬張る畑田の姿を想像するとなんか楽しくて、美味しい肉をたらふく食わせてやりたいと思った。


「畑田さん。プライベート携帯の番号教えて。交換しよう」


「はい。 喜んで‼」









 君と僕等を、繋ぐ線。



 おわり。

















「きーた村。畑田は? もう帰った?」


 俺の同期、スポーツ部の里中は、時間があればこの前まで直属の後輩だった畑田さんの様子を、ちょくちょく見に来る。


 畑田さんのことが可愛くて仕方ないらしい。


「さっき帰ったばっか」


「ふーん? なぁなぁ。桜沢悠斗と畑田っていいカンジなん? そんな噂を小耳に挟んだんだけど」


 里中は、可愛い後輩に変な虫がつくが嫌なのだろう。


 てかコイツ、美人の嫁さん捕まえておいて、後輩の心配って何なんだ。


「まだ付き合うとこまで行ってないっぽいよ。まぁ、今日も桜沢悠斗とご飯の約束してるみたいでさ、さっき気合入れて髪の毛ぐるんぐるんに巻いてたよ。バッハかと思ったし」


「桜沢悠斗も変わってるな。バッハ連れて歩きたいとか」


「いいんじゃん。音楽家同士。話も合うんじゃん?」


「片方偽物じゃねぇか」


『クククッッ』畑田さんをネタに里中と笑う。畑田さん、ゴメン。


「いいのかよ、北村は。北村って、畑田のことちょっと気に入ってただろ?」


 里中の質問に目を丸くしてしまった。


 何を言っているんだ、コイツ。


「……は?」


「だって、北村。畑田のミスのフォローしてやったり、畑田の残業に付き合ったりしてたみたいじゃん」


 重ね重ね、何を言っているんだ、里中。


 つーか、それは里中だってスポーツ部時代にやってたじゃねぇか。


「里中が菓子折り持って『くれぐれも宜しく』って言ったからだろうがよ」


「ホントにそんだけかよ。で、そんな傷心の北村に朗報。俺の嫁さんの友達紹介してやろうかと」


 里中は、どうしても俺を恋に破れた男に仕立て上げたいらしい。


 軽くむかつく。……が、


「カワイイ? そのコ」


 彼女は欲しいわけで。


「百貨店の受付嬢」


「是非ヨロシク」




 この線も、きっといつか繋がる。

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