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契神の神子  作者: ふひと
第2章:悠天の神子
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第50話:海人VS仁王丸

 ――『一つ、イイことを教えてあげよう』――


 膠着状態の猿田彦神社。

 通せんぼに全力を出した導きの神への対処に手を焼いていた中、突然月詠は語りかけた。


 言霊の能力、その作用機構――


 あまりにシンプル、しかし強力。ゆえに、玄人向き。

 月詠が語る言霊の権限、そのエッセンスは、ただただ俺を困惑させた。

 そもそもなんで俺がこんな訳の分からない力を手に入れたのかもよく分からない。

 平穏に暮らしていただけの高校生が持つには過ぎたる神の力。


 しかし、今この状況、その過ぎたる力だけが頼みの綱だった。

 口に出した言葉を具現化する『再臨』の権限にして証明。

 その効力は、より明確で詳細なイメージをもって引き上げられる。


 ――『大切なのはイメージ、理論は二の次よ』


 彼女の言葉通り、俺はイメージした。

 月詠の告げた怪老の術式――人払いの術式の崩壊を。

 反動は来ない。目論見は成った。

 なら、あとは彼女を目指して走るだけだ。その後のことなど考えていない。ただ、激情に身体を突き動かされ、玉砂利を蹴って神社を後にした。


 ▼△▼


「大口を叩いたのに、その程度ですか」

「くっ……やっぱり強えな」


 戦いが始まってまだ五分も経っていない。

 だが、状況は誰の目にも明らかだった。


「私の十年を侮らないでください」


 その言葉通り、彼女の強さは圧倒的だった。

 ただでさえボロボロだった俺の身体は、そろそろ限界に近づいてきている。対する仁王丸は一歩も動かず、刀すら抜いていない。彼女は初手で展開した防御結界の中で、泰然と佇んでいる。手加減さえ透けて見える立ち振る舞いだ。


 俺が逆立ちをしたって届きようのない高みに、彼女は立っている。


「貴方が私に勝つなど、万に一つもありえません」

「ゼロじゃないなら、それを引き当てるまで挑むまでだ」

「……無駄な努力を」


 張り詰める空気。舞う札。放たれる光。


 来る。


「契神「天忍日命(アメノオシヒミコト)」神器『天羽羽矢(あめのはばや)』」


 放たれた光は詠唱とともに矢の形をとる。そして、雨のように否応なく襲い掛かってきた。迎撃、回避、その二択でせめぎ合う。

 彼女の狙いは俺の戦意喪失だろう。これまで彼女は一度たりとも俺に向かって明確な殺意を向けていない。この攻撃も、危害を加えるというよりは自分に近づけさせないための弾幕だ。避けるだけなら、距離を取ればいい。


 しかし、それではいつまで経っても彼女に触れることはおろか、近づくことすらできない。ゆえに、俺が選ぶべきは――


「ぐッ!!」

「――っ!?」


 左腕を光の矢がかすめた。被弾箇所から先の感覚がなくなり、腕がもげたような錯覚を覚えるがどうやら繋がってはいるらしい。反動でおかしな方向へと曲がる自分の腕を眺めて幾許かの安堵を覚える。

 と同時に猛烈な痛覚の波が押し寄せてきた。脂汗が頬を伝う。すぐ目の前に転がる濃密な死の気配。足がすくむ。

 しかし、ここで引くわけには行かない。目測およそ15メートル。一発食らえば即死もあり得る彼女の拒絶を潜り抜け、震える体に鞭をうつ。


「どうして!?」

「俺はヘタレだからな」


 無我夢中で弾幕を走り抜ける。目を腫らした少女がたった一人で立っているその場所へ、彼女がそこから抜け出せるように、そして、決して二度とそこへ戻らないで済むように、願いを込めて手を伸ばす。


「お前がそんな顔してるのにも耐えられないんだよッ!」

「――っ! そんな、自分勝手」

「ああ、自分勝手さ! いつもお前に迷惑かけてばかりで、お前の気持ちを汲むことも出来ねぇような馬鹿の独りよがりなわがままだ!」

「分かっているならっ!」

「分かっているから、お前にぶつけてんだよッ!! お前が、こんな俺を見て、ほんの少しでも自分だって自由に生きて良いんだってッ! 過去に囚われないで生きてていいんだって思えるなら、俺はどれだけでも自分勝手になってやる!!」

「分かったような口を利かないで!!」

「利くさ!! 今回だって、お前は親の言いつけを守ろうとした、それだけだろ!! お前の父さんがお前に何を言ったかは知らない。でもな、これだけは言える!! 娘の幸せを願わない親なんていない。そして、こんな結末なんて誰も望んでいないッ!!」

「――っ!!」

「だから、俺は願うよ」


 すぐそこに、彼女がいる。手を伸ばせば、あるいは届く距離に、この世界で途方に売れていた自分を救ってくれた彼女が、目を腫らして立っている。


 今度は、俺が彼女を救う番だ。

 絡みついた呪縛から、そして、この先に待ち受ける運命から彼女が逃れられることを願って。

 彼女たちが再び笑って暮らせるような日が来ることを願って、強くイメージを持って、()()()()


「――『解けろ』」


 矢は、再び元の光へと還元される。彼女と自分を隔てる結界は、術式ごと崩壊した。もう、俺と仁王丸を隔てる物理的な障壁は存在しない。

 俺はただ、目を見開く彼女に手を伸ばし、ニヤリと微笑んだ。


「俺の勝ちだ。大人しく帰って来い、仁王丸ッ!!」

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