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契神の神子  作者: ふひと
第2章:悠天の神子
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第49話:一夜ぶりの対峙

「探したぜ」

「……」


 人気のない、町のはずれの神社。

 月神の導きが無ければたどり着けなかったであろうその場所で、少年と少女は対峙した。


 ほんの一日ぶりの再会。

 しかし彼らには、まるで悠久の時を隔てた再会であるのかのように感じられた。


 仁王丸は刀を拾い上げ、力なく立ち上がる。

 その刹那、海人に悪寒が走った。


「仁王丸お前、まさか」

「……神子様、申し訳ありません。ですが、こうなった以上責任は取らねばなりませんよね……」


 彼女は苦しそうな笑みを浮かべ、震える声でそう告げる。

 そして、刀を再び自身の首に当てた。


「馬鹿ッ!!」


 反射的に飛び出した海人に突き飛ばされ、仁王丸の手から刀がすり抜ける。

 首筋から血を流した彼女は、光の消えた瞳で海人の顔を見つめていた。


 彼が何度も見てきた、仁王丸の綺麗な顔。

 しかし、これほどまでに憔悴しきった彼女の顔を見るのは初めてだった。


「お前が死んで何になるってんだよ!?」

「この術式は、一度発動すれば解除できません。ですが、術者が死ねば術式が崩壊します。なら、私が死ぬだけで全て丸く収まるんです」

「……ふざけるな!」


 胸中をぐちゃぐちゃの情緒に掻き乱されながら、海人は悲痛な顔で彼女にそう言い放つ。

 いや、あるいは無力な自分を責めるものだったのかもしれない。

 いずれにせよ、海人には全てを一人で抱え込み、一人でつぶれそうになっている哀れな少女を見捨てることは出来なかった。


「お前は、利用されただけだろ! それに、お前を追い込んだのは俺たちだ。なら、責めを負うのはお前だけじゃないはずだ!」

「ですが……直接あの男に力を与えたのは私です。この町の人々を無為に殺したのも……」

「だとしてもだ! お前が、一人で背負い込む必要はないんだよ!!」


 海人は仁王丸の肩を掴んで叫ぶ。

 しかし、彼女はうなだれたままだ。


「貴方は、私にそこまでして構おうとする。自分勝手な理由で貴方を裏切り、あまつさえ民の命まで奪った私に救いの手を差し伸べようとする。ですが、もう……いいんです」

「はぁ?」

「私は、取り返しのつかない過ちを犯しました。こんな女、救う価値なんてありません」

「救う価値なんて……力になりたいと思う気持ちに価値なんて関係ねぇよ!!」

「貴方は、私に死ぬことすら許してはくれないのですね」

「ぐっ!?」


 突如、海人の身体が吹き飛ばされる。

 契神術などではない。ただの単純な神気の暴発だ。


 仁王丸は、絶望したような表情で佇んでいた。

 海人は、痛む身体に鞭打ち、苦い表情を浮かべつつ立ち上がる。


「許さない……許すわけがないだろ!……過去に囚われて、全部自分で背負い込んで、ここで全部終わりにしようだなんて、自分勝手なこと言ってんじゃねぇ!! 仲間を、俺を頼れよッ!!」

「頼らせてくれなかったのは誰ですか! 私より力もない。知恵もない。甲斐性もない。そんな人をどうやって頼れっていうんですっ!!」


 いつもは大人びて見えた仁王丸が、子供のように声を荒げて叫んだ。

 しかし、海人は動じない。仁王丸の濃紺の双眸を真正面に捉えながら、彼は口を開く。


「不甲斐ない自覚はある。お前の言う通りだ。力もないし知恵もない。でもな、仲間を見捨てて平気なほどの薄情さも持ち合わせていない。それは、お前だって同じはずだ!」

「……っ!!」

「俺は、お前を見捨てない。お前にちゃんと謝るまで、そして、お前が心の底から幸せだと思えるようになるまで、お前が死ぬなんてこと、俺は絶対に認めない!! それでも、お前が誰も頼らず、そのまま独りで全部カタを付けようっていうなら、こっちにも考えがある!」


 そう言い放つと、海人は大きく息を吸い込んだ。


「俺と戦え仁王丸! 俺みたいな無力で馬鹿なヘタレでも、お前にとって頼る価値があると証明してやる!! そして、絶対にお前を死なせない! 圧倒的なハッピーエンドってヤツを見せつけてやる!!」

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