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契神の神子  作者: ふひと
第2章:悠天の神子
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第38話甲:月詠を名乗る少女

再び海人視点です。

「月詠……だと?」


 立て続けに起こった常識外の事態に唖然とする海人。

 彼は、自室のドアノブに手を掛けつつ月神の名を名乗った少女を見る。

 そんな彼を宵闇のような瞳で見つめたまま、彼女は胸に手を当て自信に満ちた表情で口を開いた。


「ふふふ、そうよ。あたしが月の女神にして運命と時を司る三貴子(みはしらうずのみこ)が」

「あ、普通にドア空くんだ」

「っておーいッ!?」


 何事もなかったのように出ていこうとする海人に、少女は血相を変えて椅子から彼に飛びつく。


「なんで帰るのさ!! え、なんかこう、ほら……なんかないのっ!?」


 半泣きになりながら海人の服を掴み、少女は必死に引き留める。

 必死過ぎて語彙力が行方不明だ。

 だが、海人は冷淡にもその手を振り払った。


「俺はお前みたいな変な奴に絡んでる場合じゃない」


「へっ、変な奴とか言うな!!」


「俺は仁王丸を追いかけなきゃいかないんだ! 早く見つけないと……」


「誰よそれ!?」


「あいつは俺の……」


 海人は、ふと言葉に詰まる。

 仁王丸が自分にとって何者か、そんなことは考えたことがなかったのだ。

 少女は首を傾げて不思議そうな顔をしている。


 そして海人はしばらく悩んだのち、再び口を開いた。


「…………友達だよ」


「なにその間……まあ、いいや」


 月詠は不思議そうな顔のままそう宣った。

 今一つ納得はいってなさそうな様子ではある。


 だが、彼女は海人の服から手を放し、くるりと一度、翻った。

 そしてぱちりと指を鳴らし、彼の顔を見る。


「でも、人探しならあたしにも手伝えるかも」


「えっ!! 本当か!?」


「もちろん! なんたって月の女神だからね。月明かりが照らす範囲ならどこだってお見通しさ」


 はっきり言って海人はこの少女をあまり信用していない。

 だが彼は、そうドヤ顔で自信満々に語る彼女に幾らばかりかの光明を見出した。


「なら、えっと……彼女は」


「彼女ぉ!? その友達って女かい! はぁ……まったく」


「なんだよ」


「いや、別に……いいけどさ」


 情報を伝えようとしただけなのに何故か呆れられる。

 その上、少女はどこか不機嫌な表情を浮かべて頬を膨らませ、目を逸らした。

 だが、人探しの協力は続けてくれるらしい。


「で、そいつはどんな奴なんだ?」


「彼女は、なんというか、生真面目で」


「性格の話なんか聞いてないよ!! 見た目を聞いてんだよ!! 探せないだろうが!!」


「あ、そっか。えっと、黒髪で、平安装束で、色白で……」


「なんか該当者山のようにいるなぁ……ええい、面倒くさい、こうしてしまえ!」


 そう言い放つと、彼女はいきなり海人の肩を掴み、そして、


「えっ! 何!?」

「あんたの記憶を直接見た方が早い!! ほら!!」


 彼女は海人を無理やりしゃがませると、自分の額と彼の額をぴたりとくっ付け、目を閉じる。


「はぁ!? え、ちょ……!?」

「……っさい。集中してんの」


 彼女の吐息が顔に当たった。

 可憐な少女の顔がすぐ触れ合うような、いや、触れ合う近さにある。


「……っ!!」


 状況が状況とは言え、海人は平常心を保つのに必死だった。

 上がる心拍数、赤くなる耳。

 これまで碌に女友達すらいたことがなかった彼には刺激が強すぎる。


 だが、月詠はそんなことを気にする素振りはない。

 ただ、唸りながら海人の記憶を読むのに集中している。


「うーむ……えー……ん、コイツかな……? よし!」


 彼女は彼の記憶の中に目ぼしき人物を見つける。

 そして額をくっ付けたまま視界を広げ、月明かりが照らす伊勢の町を捜索し始めた。


「えっ、このまま!?」


「なにか問題でも? あたし人の顔なんて覚えない主義だから、こうしてずっと見とかないと忘れんのよ」


「えぇ……」


 滅茶苦茶な理屈だ。

 だが、彼女がそういう以上海人は従うしかない。

 なので、しばらく試練は続く。


 そしてしばらく時間が経った。そんな時である。


「……いないなぁ。なら、少し前は…………あ! 見つけた!!」


「本当か!!」


「うっさい! こんな近くで大声出すな!!」


 彼女は耳を抑えながら海人を突き飛ばす。

 だが、突き飛ばされた方の海人はたまったものではない。


「お前の方から近づいてきたんだろ!! で、どこ?」


「えっと……ちょい待ち……ん?」


 そこまで言いかけて、月詠は言葉に詰まった。


「どうした?」


「おっかしいな……」


 不思議そうな顔で首を傾げる少女。

 海人は彼女の顔を覗き込む。


「何が?」


「いなくなった」


「は?」


 月詠の言うことの意味が分からず、海人は間の抜けた顔をした。

 そんな彼を一瞥することもなく、彼女は手に顎を当てたまま口を開く。


「ある時点から、見えるはずなのに見えなくなった。どゆこと?」


「それはこっちが聞きたいよ。で、結局どこで見えなくなったんだ?」


「神社……えっと……ん? ここ伊勢じゃん。じゃあ猿田彦神社だね。そこで消えた」


「よし、助かった」

「ちょっと待てぃ!!」


 再びドアノブに手をかける海人の服を月詠は掴む。


「なんでそうすぐ帰ろうとするかな!! ていうか分っかんない? あたしが見えないんだよ!? ソイツはもうこの世にいないんだよ!!」


「はぁ!? いきなり縁起でもないこと言うんじゃねぇ!!」


「違うわ!! そういう意味じゃねぇ!!」


 必死な表情で否定する月詠。

 その様子から仁王丸が死んだわけではないことに気付き、海人はいくらか安堵する。


 そんな感じで今一つ理解度が低そうな海人に、彼女はため息を付いた

 そして月詠は彼に顔を近づけて、その目を真正面に見つめながら唇に人差し指を当てる。


「いい? 私が見れるのは月明かりが届く範囲だけ。逆に言えば、そうじゃないところは見えない」


「じゃあ、屋内に入ったのかもしれないじゃん」


「いや、それは建物ぶっ壊したら光届くし普通に見れるけど?」


「どういう判定だよ」


 困惑の表情を浮かべる海人。

 彼女は再び椅子について足を組んだ後、頬杖をつきながら口を開いた。


「つまりだね……問題は遮るものの有無じゃない。シンプルに、光を届けることが()()()()可能かどうかだ」


「……ってことは、仁王丸がこの世界にいないって」


「そう。きっと、月の光の届かないどっか別の世界に迷い込んだんだろうね」


「……!!」


 海人は彼女の一言に衝撃を受ける。

 なぜならそれは、自分にとっても記憶に新しい、あり得るはずのない超常現象。

 異世界転移――それを示唆していた。


 だが、少女はふっ、と目線を海人の奥に向ける。


「あ、異世界転移とかではないと思うよ? どちらかと言えば神隠しかな」


「神隠し?」


「うん。ソイツは多分今、ここみたいな隔離空間にいる。だから、アンタが探しに行っても無駄。見つかるわけない」


 異世界転移ではない。

 そのことに海人は胸を撫でおろした。


 だが、状況はさほど変わらない。


 別に異世界転移ではなかったとしても、月詠の言う通り彼には打てる手がないのだ。

 隔離された異空間に立ち入る方法など彼は知らない。


「……じゃあ、どうすれば……」


「うーん、そだねー……」


 月詠は顎に手を当て、暫し天を仰ぐ。

 そしてしばらくしたのち、再び視線を下に落として海人の目を見た。


「とりあえず、次会った時どう謝るか考えといたら?」


「え……」


 仁王丸が出奔した理由を知っているふうの月詠。


 そんなところまで言った覚えはない。なのに、なぜ――

 海人は怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。


 そんな彼に、月詠は可憐な顔に呆れの感情を浮かべて溜息をついた。


「なに不思議そうな顔してるのさ。記憶見たんだから知ってるに決まってんでしょ。ていうか……」


 突然彼女は海人を睨みつける。

 そして、腕を組んだまま蔑むような冷たい目をして口を開いた。


「アンタ流石にゴミ過ぎない!? ないわぁ……ホントないわぁ……」


「え……急に何を……」


 いきなり罵倒され、困惑する海人。

 そんな海人に、彼女は整った眉を顰め、より一層失望を強く表しつつ腕を組む。

 そして、大きく息を吸い込んだ。


「だってさ! 普通に考えてアンタが悪いじゃん!! なのになんでアンタが説教始めてんの? マジで意味分かんないんですけど!!」


「え……でも」


「でも、じゃねぇよ!! そら怒るわ!! しかも多分アンタ、ソイツの地雷の上でタップダンス踊る勢いで痛めつけてんじゃん!! 相っ変わらず無神経ね……なに? それは何かの才能なの? 正論ぶつけりゃいいってもんじゃないっていつになったら分かんのよ!! 控えめに言って最低!! もう一遍出直してこいこのヘタレトーヘンボク!!」


「え、えぇ……」


 後半はもはやただの罵詈雑言だ。

 自称女神は椅子の上で腕を組み、仁王立ちしながらゴミでも見るかのような目で海人を見下している。

 海人は、そんな耳が痛くなるような少女の説教をうなだれながら聞かされることしか出来なかった。

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