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契神の神子  作者: ふひと
第1章:蒼天の神子
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第20話:不可解の仮説

 南都陽成院の兵四千。しかしそれでは平安京攻略には不十分。しかしなお北上中――相手が有利不利の勘定も出来ないほどの馬鹿なら話は変わるが、そうでないならこんな負け戦を挑む意味がわからない。


 しかしそれはあくまで、彼らが平安京を攻め落とそうとしている、という前提での話である。なら、彼らの目的は別にあるのでは、と考えるのが自然。そして、海人はある一つの可能性に思い至る。


「――……もしかして、陽動か?」


 ――そう、彼らの行動が陽動であると考えれば、いくつか辻褄は合う。


 南都軍は、山城国府を電撃作戦でほぼ無傷のまま攻略し、それでいて山城国衙軍の撤退を許した。なんで山城国衙軍がそこで徹底抗戦しなかった(もしくは出来なかった)のかは分からない。しかし、確実に言える。南都軍はそこで山城国衙軍を殲滅できたはずだ。なのにそれをせず、転移もしないでノロノロ木津川を遡上し、山城国衙軍を追った。


 そもそも、山城国衙軍を追うこと自体がおかしい。仮に山城国府で彼らを打ち漏らしたということがあり得ても、追うメリットがない。転移を駆使してまっすぐ平安京を目指すべきだ。しかも、追ったにしては手際が悪すぎる。純粋な兵力差、士気の差があるんだから、戦線が膠着しているのもおかしな話だ。


 極め付きは南都軍の突然の上陸。南都軍は、突然山城国衙軍の追撃を止めた。海人は初め、摂津、河内方面からの援軍に挟撃されるのを恐れたのかとも思った。しかし、それではあまりに場当たり的だ。木津川を遡上している時点で初めからそうなるのは分かっていたはず。それなら、最初から陸路を転移で移動すべきだ。それに、挟撃の可能性に気づいて撤退するならまだ分かるが、なぜ宇治方面に進む?


 考えれば、まだおかしい点はあった。だが、すべてに共通して言えることがある。


 ――明らかに、手際が悪すぎる。時間をかけ過ぎだ。


 しかし、それにしては山城守に朝廷に報告する暇を与えないほど迅速に山城国府を落とし、そして戦いが始まって以降一度も優位を失っていないという有能さも際立つ。


 これらから導き出される結論はただ一つ――彼らは、意図的に戦闘を長引かせている。意図的に戦闘を長引かせ、平安京の注目を引き、戦力を削ぐのが目的――そう考えるのが妥当だ。


 ただ、この結論にはまだ重大な穴がある。そう――


「問題は、何の陽動なのか、ってことだよな……」


 それが分からなければ、海人の考えは根底から崩れてしまうのだ。南都軍の目的が陽動であれば、彩天が派兵を決定した時点でその目的は半ば達成されている。だが、肝心の()()がその隙に平城京に攻め入らなければ、彼らはやられ損。しかしその本隊について、彼にはまったく心当たりがなかった。


「随分お悩みのようで」


 ふいに師忠は、思考が行き詰まってきた海人に声を掛けた。


「さて、神子様のお考えの通りこの派兵は恐らく陽動です。そして、それは師輔卿もお分かりのはず。分かったうえで、その陽動にお乗りになったのですよ」


「それは、どういう……」


「あのお方は、神子様や他の廷臣が考えるよりもずっと甘いんですよ。それゆえに、時々危うい」


 師忠は相変わらず愉し気にそう口にした。師忠はいつも通りの態度を崩さない。いや、いつも通りどころか、彼にとっては今のこの状況がよほど愉快と見える。海人には、もしかして全部師忠の手引きなんじゃないかとも思えてくるほどに――


「あ、言っておきますけど私黒幕じゃないですよ?」


「しれっと心を読まないでもらえます?……ってそうじゃない!」


 海人は仕切りなおす。別に彩天が甘いかどうか、師忠が黒幕かどうかなんて今はどうでもいい。今、海人が気になるのは、


「陽動だとして、一体、何のための陽動なんですか?」


 師忠は顎に人差し指を当てて、空を仰ぐ。彼が何か考え事をするときの癖だ。海人も、その様子は何度も見てきた。


 しかし、彼は気づいていない。師忠は、海人の問いへの答えを考えているのではない。その問いに、()()()()()()()()を考えているのだ。


 そしてしばらく空を仰いだ師忠は、一つ頷く。


「……見当は付きますが、今それを答えるのはやめておきましょうか」


 散々勿体ぶっておいて、師忠は回答を拒否した。


「……?え、なんで?」


 てっきり自分の疑問が解消されると思っていた海人は突然梯子を外されて困惑し、頓狂な声が口をついて出た。


「だって、楽しみは後までとっておいた方がよいでしょう?はっきり言って、今更分かったところで陽動作戦自体はもうどうしようもない。なら、今は別のことを考えましょう」


「は……え?」


 海人には本気で師忠の考えることが分からない。


 ――どうして、相手の狙いが分かっていながらそれを伏せる?それに楽しみだって?師忠さんはこの戦争を楽しんでいるのか?


 海人の中で、師忠に対する疑念、そして彼の底の知れない性格への恐怖といった類の感情が積み重なっていく。そんな彼の様子に気づいたのか、


「あぁ、別に心配はしなくても大丈夫ですよ?御所の周りは仁王丸たちに固めてもらっていますから、よほどのことでなければ対処できる」


 どこか的外れな補足を加えて、師忠は満足そうな様子だ。そして、目を細めて横目で海人を見る。


「――ですから、我々はよほどのことがあった場合に備えておきましょう」


「――……それは、つまり?」


 困惑しっぱなしの海人に対し、師忠は満面の笑みで手を広げた。


「神子様、貴方の権限(ちから)の使い方をお教えします」






お読みくださりありがとうございました。今更ですが、地名とかはほとんど現実と一緒なので、気になったらG〇ogleMapとかでみてみてください。割と意味不明な行軍やってます。

あ、ちょっとでも面白いと思ってくださったならブックマーク等くださると嬉しいです!

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