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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】

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84話ー這い上がれー

 千歳一行が絶体絶命の時。


 駆け付けた仲間によって息を吹き返す。


 そして明かされる、ルータスの思想。


ー太平洋 沖合 夜ー


 ルータスはマグマの地面に潜った。


 マグマの表面を藤長(ふじなが)の氷が覆う。しかし、マグマの熱に氷は虚しく溶ける。


 地面の下で蠢(うごめ)く重厚な気配は、熱となって千歳(おれ)らの肌を突き刺し続ける。室瀬(むろせ)やゴンゾー達はマグマに衝撃を当てて抉り続けるも、芯となるルータスの姿は見えず、マグマは絶えず元に戻る。


 悪い予感を止めようと皆必死になる。そしてついに、その予感は現実となって動き出した。



 【大想(たいそう) 獄葬鬼神(ごくそうきしん)】



 マグマの地面を突き破り、星空へと突き上がる巨大なマグマの腕。10メートルはあるぞ……。


 掌で地面を押し、その巨躯は持ち上がった。根太い胴体で上半身を支える。下半身は無く、人体で言う臍(へそ)下からマグマと同化している。マグマで筋肉隆々を表し、まさしく赤鬼のような顔装甲をしている。左右非対称のツノが星空を撃ち抜くようだ。


 俺らは目を逸らす事無く、マグマに包まれたルータスを見据えた。


「千歳(ちとせ)、ルータスの本体を探すぞ。バカデカイ鎧を纏っただけだ。ビビる必要ねえからな」


 峯岡(みねおか)のおっちゃんは呟いた。


「わかってるよ。そういう峯岡のおっちゃんがビビってるんじゃないの?」


「あぁ!?俺がビビるわけねえだろ!」


 ガコッと肩を殴られる。


 このやり取りで、みんなの気の震えが収まった気がした。脅威を前に、"いつも通り"でいる俺と峯岡のおっちゃんを見て、少し気を緩めてくれ。


 張り詰めたら、いつも通りなんて出来ないんだ。命を賭ける戦いくらい、いつも通りにやろうぜ。


 俺も、いつも通りに行けそうです。


 ルータスは何も言わず、腕をゆっくりと胸の前で構えた。腕を動かしただけで、重厚な軋む音が響く。


 身体がデカイ分、動くのも遅いんだろう。デカイお陰で、攻撃も当たりやすくなる。そう思わせたいんだろうな。


 強力な助っ人も来た。畳み掛けるなら今!


 巨躯なルータスへ向けて、斬撃を飛ばす。しかし、斬ったと思われた腕は、斬撃の後を追うようにマグマで修復された。マグマの身体にいくらダメージを与えても無駄ってことか。


 高威力かつ、ルータスの反応速度を超えた攻撃で、奴の本体を剥き出しにする。その剥き出した一瞬で、超硬い装甲ごとぶった斬る。一筋縄にはいかない。けど、それでルータスが倒れるなら、やらない他ねえ!!


 常に全力以上!!限界を突破しろ!!


 地面のマグマを蹴る。耐えかねたマグマは四方へ飛び散る。俺は間合いへと入った。


 【雹千火(ひょうせんか) 墨筆斬三文字(すみふでぎりみもんじ)】


 筆のように幾つも重ねた斬撃を、三振り。


 巨躯の両腕、胸部を2度斬り裂いた。遅れてやって来た風圧に、斬り離された腕は角度を変える。


 飛び散った胸部のマグマは、そのまま俺へと飛翔した。まだ胸部は塞がってない。


「室瀬ええええ!!」


 【殴天流垂(おうてんるすい) 捻(ねじれ)】


 室瀬が大槌を振るい虚空を打つと、捻れる風圧が生成される。その先端がルータスの胸部へと届こうとした。しかし、ルータスはその風圧を拳で打ち消す。


 もう体勢を整えやがった!


 ちょっと待て……。自然な流れで気付かなかった。巨躯ルータスの放った拳、鎧を纏う前と同じ速度……もしくはそれ以上だった。


 そこで、拳を追う風圧に吹かれる。喉が焼けるような熱風。肌にヒビが入りそうだ。


 ルータスは、俺へ向けて左拳を突き出した。


 【雹千火(ひょうせんか) 留斬冊文字(とどめぎりさくもんじ)】


 拳の到達する箇所に斬撃を残した。


「っは……!」


 攻め気じゃない。


 斬撃を残し終えた瞬間に、その映像がループする。


 巨躯ルータスの左拳は、残る斬撃にマグマとなって通り抜ける。斬り分けられたマグマは、俺へと到達する直前に硬化する。その瞬間、俺の背中は地面によって押し上げられた。


 地面と拳に挟まれる。


 全身を突き刺すようで、重圧に潰される感覚。肌のあちこちが裂け、身体が悲鳴を上げた。


 ルータスの拳はマグマ化し、俺はマグマの中に吸い込まれ、直ぐに硬化される。恐らく、ルータスの拳の中に閉じ込められた……。


 傷口にマグマが触れた所為で、内側を抉られるように焼かれる。拳の中でも、全身を凄まじい数の拳で殴られる。


 突如、その連撃は収まり、俺の身体は外気へ触れた。一瞬にして冷やされ、白煙を纏う。


 ルータスの左腕は弾けており、その傷口を氷で覆っていた。しかし、氷は直ぐに溶け、左腕は修復される。


 藤長が助けてくれた。


「すまん!ありがとう藤長!」


 あの時の……一瞬の判断の誤りで、意識は飛びそうになった。


 ルータスは次の一手へ動き出していた。周囲のマグマが棘状に浮かび、突き出した右腕に命令されるように畝る。幾本の棘は先端を収束させ、一方向へ飛んでいく。


 遠距離に居るみんなに向けて正確に飛ばしていた……。


 近距離の俺ら数人を相手にしながら、遠距離の数人の動きを把握し、隙を突いて攻撃を仕掛ける。


 近距離の俺達だって、強大な力を持ってる。それを把握する立ち回りに、判断力。


 俺も負けずと攻撃を繰り出す。踏み込みが浅い……。


 俺らの足場が硬化とマグマ化を繰り返す為に、踏み込むタイミングを掴めず、体勢を必ず崩してしまう。かと言って空中に飛べば、ルータスやら地面から伸びる棘やらに邪魔される。


 峯岡のおっちゃんも、ルータスに登って行く途中でマグマ化した足場に掬われ、棘に傷をつけられる。体勢を崩して落下したところを、右拳で撃ち抜かれてしまう。


「おっちゃん!!!」


 峯岡のおっちゃんは後方へ吹き飛ばされ、海壁丸(かいへきまる)を大きく凹ませた。


 久美(くみ)がルータスの右脇下に入り込み、両手を斜め上に向けた。


 【大想(たいそう) 黒点(こくてん)】


 久美が指定した一点に何倍にもした重力が集中する。耐え切れなくなったマグマは剥がれる。


 巨躯の胸部中央に、ルータス本体の赤い装甲が見えた。


 【繼禰(つぐね) 爆撃推進(ばくげきすいしん)】


 高千穂(たかちほ)の放った矢がルータスへ近付いたと同時に、久美は【黒点】を解除する。その矢はルータス本体の装甲に突き刺さる。同時に矢筈から爆発を収束した炎を噴き出した。その推力に装甲は揺らぐ。


 矢の勢いに押され、巨躯の背方向からルータス本体は吹き飛ぶ。高千穂の矢でさえ、ルータスを貫くことは出来ない……。


 みんながルータスの抜け殻の脇を抜け、生身のルータスに向けて技を出そうとした。それより速くルータスをマグマが包み、巨躯を生成した。


 後方にあった抜け殻は溶けるように地面と同化していた。


 マグマがある限り、ルータスの隙は一瞬の更に上の一瞬だ。


 海壁丸を境に、マグマは水平線まで広がる。


 この量のマグマを、吹き飛ばす。


 吹き飛ばさなければ……ならない。


 不安定を極めた足場のお陰で、みんなの消耗も激しい。それに、ルータスの攻撃を避け続けることは出来ない。みんなそれぞれ傷を負ってる。


 巨躯のルータスは両腕を星空へ突き上げ、上半身を前に倒しながら両腕を振り下ろす。


 【奈落地獄石(ホールロック)】


 俺らの足場のマグマが周囲に退き、底の見えない大穴が生まれる。


 【平行重力(パラレビリティ)】


 久美は腕を前で交差させ、俺らの重力をその場で平行に固定した。


 【螺旋針地獄石(ニドルロック)】


 大穴の底から、無数の剣が螺旋を描いて登ってくる。


 久美は俺達を押し出す為の想を使おうとしたが間に合わず。


 切断は抑えたものの、身体の複数箇所が抉られた。俺らは別方向に吹き飛ばされ、遠距離部隊のみんなに抱えられる。


「ごめん、間に合わなかった」


 俺を抱えた久美はルータスを見据えながら、悲しい声を漏らした。


「自分の所為なんて思うんじゃねえぞ」


 普段の久美なら、ここで俺に突っ掛かる。


 でも今の久美は痛い程、自分を責めたんだ。


 俺が攻め気じゃないことに気付いた時と同じ。


 久美は腹部から溢れる血を抑えながら、必死に俺を支える。


 全身を突き刺す痛みを感じながら、俺は立ち上がった。


 みんな、ボロボロだ。


 それでも、立ち上がろうと歯を食いしばってる。


「努(つとむ)、傷が……」


 久美は消え入りそうな声で見上げる。


 ルータスも攻撃を止め、俺に身体の前面を向けた。


「思いの外、梃子摺(てこず)るもんだな。まだ雹蔵(ひょうぞう)を引っ張り出せないとは、俺も老いたものだ」


 喉が焼け切れそうだ。奴が止まってる瞬間に呼吸を整えろ。奴の言葉に耳を傾けるな。乱されるな。


「千歳(ちとせ)、何故雹蔵を匿う。そいつのしでかした事は、世界中の"人間"を殺すも同然。他所の身体を借りなければ存在すら出来ない弱者だ。死んで当然なんだよ」


 喉から焦げる匂いがする。


「責任感じるだろ?世界の敵を身体に憑かせて。楽になろうぜ。辛いだろ?素直に雹蔵を出せよ」


 力で無理に押し通すことも出来る。だが、ルータスは俺を見抜いている。


 俺は何を言われても良い。



「雹蔵の所為で、お前の父と母は死んだんだ。仇を俺が討ってやる」



 父ちゃんと母ちゃんが、どれほどの想いを残したのか。それは俺と奏(かなで)姉ちゃんが痛いくらい知ってんだよ。


 仇?2人の想いをそんな言葉で言い表すな。


 あの2人が、仇を取れなんて微塵も思うわけないだろ。


 ヒョーゾーがどんなことをやってきたのか、確かに知らない。だけど、自分より他人の命優先するヒョーゾーが悪い奴だとは思わない!!


 テキトーな言葉並べんじゃねえ!


 俺のことは何言ったって良い!けどな!



「俺の家族を!お前如きが測るな!!」



 俺の身体から、何にも染まらない純白の想が溢れ出す。


 溢れ出た想が、俺の身体を鼓舞した。


 巨躯のルータスは両拳に力を入れて構える。まるで、俺がこうなることを待っていたかのように。


 大量の想を使えば、ヒョーゾーが押し出される。確かにその通り。けどな、それは前の俺だ。


 今の俺は、爺ちゃんの訓練受けた俺だぞ!


 "努(つとむ)!!全然なっとらんわ!!コレをコウしてコウじゃ!!アレがソレでどうすんだボケええ!!"


 俺はこの訓練を成し遂げたんだ!!


 強くなってない、んな訳ないだろ!!


 俺から溢れる想を身体の周囲に留める。いや!イメージは纏う!力の後押しをしろ!そして、自然な動きの中で、想を活用する!ただ押し出すだけが使い道じゃない!俺の身体の一部となれ!!


 俺は刀を縦に振るう。ルータスの左腕を斬る!そのイメージを脳裏に植え付ける。


 想をそこまで飛ばす。


 この考え方は今までの俺だ。



 "そこだけを想で斬る。"



 刀を振り下ろした瞬間、巨躯ルータスの左腕は斬り離される。左腕の傷口には、俺の白い想が燃えるように残る。


 想の情報を邪魔しろ!マグマで修復しようとする意識を焼け!斬って燃えるまで0.5秒、燃えてから2秒。ルータスのマグマが左腕へ触れるまでの時間2.5秒。


 充分すぎる時間だろお前ら!!


 みんなの目に艶が蘇る。


 踏み込む脚に想を集め、蹴る瞬間に同方向に放つ。


 制御できる速度。その速度に目が慣れるまで、コツを掴むまで結構な時間がかかった。


 コツを掴みさえすれば、少しの力で虚空だって蹴れる!


 ルータスは一瞬にして俺を見失った。


 奴の死角から、両肩を斬り離した。ルータスは離れた場所のマグマを浮かして集める。斬られて燃えた部位を補う為に。


 大丈夫。みんなが居るから。


 周囲から寄ったマグマはみんなが弾いてくれた。四散したマグマの収束は遅い。本体から離れてるのもあるだろうし、意識と理解が追いつかないんだろ。


 【燻残火(いぶしのこりび) 淡誘(たんゆう)】


 峯岡のおっちゃんの刀身に、巨躯ルータスのマグマは惹かれる。その刀身に斬られた瞬間、マグマを伝っていく炎。


 凄え!紫色の炎だ!!


 "今の火力じゃ絶対に敵わない。お前らが何と言おうと俺がそう思ってんだ。健史(けんし)みてえに派手な炎使いてえんだけどよ。"


 峯岡のおっちゃんぐらい凄え人でも、まだ進化するんだなあ。淡い紫色の炎はマグマを焼いて焦がす。


 俺と峯岡のおっちゃんの炎は物理的に焼いてるんじゃなく、想を焼いてるらしい。


 だから効く!!



 【獄葬鬼神(ごくそうきしん) 閻魔転生(えんまてんせい)】



 巨躯のルータスに周囲のマグマは収束していく。やがて水平線を埋めていたマグマは無くなり、広大に窪んだ硬化した地面のみが現れる。


 全身に硬化した装甲、その合間を巡るマグマ。


 凛々しく2本の脚で立ち、4本の腕は前後で掌を合わせる。


 上半身の大きさは変わらない。しかし、その大きさの中に、この水平線を埋め尽くしていたマグマが収束している。


 俺らの最大火力VSルータスの最大火力か。


「俺らにビビッた証拠だルータスぅ!!」


 見上げる巨躯に、余裕は感じない。





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