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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】

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83話ー溶岩ー

 楓太が命を掛けて作ったチャンス。


 一行は無名を引き離すことに成功する。


 そして、ルータスに浴びせた一撃は、雲を裂いて星を見せた。


ー第二次世界デュロル大戦の2年前 カナダー


「澄み切った空気、見上げる山々、良い所だよなぁ」


 俺に拳を押し当てるデュロルは、静かに俺を見据えた。


「昨日までここは平地だったぜ。好きな街だった」


 デュロルは力を込めて拳を震わせる。


「自分の世界ぶっ壊した気分はどうだ」


 デュロルは尚拳を震わせる。


「そうかよ」


 俺は足元に熱を流す。地面は紅くヒビ割れ、隙間から溶岩と黒煙が立ち昇る。


 デュロルは足元を見て驚くようにして足の位置を変えた。


「どうだ、俺と組めよ。世界ぶっ壊して、あの方の望んだ世界を創らねえか」


 デュロルは俺を見上げ、震わせた拳を引っ込める。


「んぅーーあぁー!」


「お前……喋れねえのか」


 家族を知らず、言葉も話せず。


 本当の意味の孤独を知った人間。


 その人間に手を差し出す、あのお方の優しい世界を……こいつと創ろう。



 人間は1人では産まれてすら来れない。


 産まれた時点で、孤独では無い。


 孤独にするかは、上の立場の者が決める。





ー太平洋 沖合 夜ー


 千歳(おれ)は硬化したマグマへと着地した。


 少し遅れて、ルータスも地面へ着地する。


 ルータスはムクッと立ち上がり、俺を見据える。


「鍛え上げられた技だ」


 胸元から肩にかけてある微かな擦り傷は、マグマに覆われて修復された。


「嘘でしょ……?擦り傷だけ……?」


 高千穂(たかちほ)は思わず呟いた。畑山(はたけやま)と滝原(たきはら)も同じくして唸る。


「アレだけで倒せるとは思ってなかったけど、予想以上に傷が浅い」


 久美(くみ)でさえ呟く。俺も今ので倒した感覚は無かった。にしても浅すぎる。硬すぎる。


「大猿(おおざる)はなぁ、俺の古い馴染みでよ。こんなに年老いた輩でも、まだ情は残ってんだ」


 一瞬にして俺の目の前は覆われ、造られた大拳に吹き飛ばされる。何とか刀で防ぎ直撃は免れたものの、両腕は滲み入るように痺れる。


 みんなから距離が離れてしまった。まだ勢いを止めきれず、みんなの援護に行けない。


 硬化したマグマを抉りながら、勢いを止めようと脚を突き刺している。俺の横を、直進するヒビは通り過ぎた。そのヒビからマグマが噴き上がる。


 ルータスが通り過ぎた……。


 体勢を無理に変えて振り返る。その瞬間に状況を判断し、最適な位置に一歩目を踏み込む。突き出される7つの拳。より速く俺へと到達する拳から刀で弾いていく。弾き続けていく。


 集中しろ。


 視覚だけじゃダメだ。聴覚も使え。死角を無くせ。


 狂った温度さえも感じ取れ。


 俺へと向けられる殺意を受け流せ。


 360度の全てから拳が来る……。


 受け流すだけじゃダメだ!キリが無え!


 俺は拳の1つに刃を刺した。そのまま他の拳を絡め取りながらルータスへ近付く。


 ルータスは引く事なく更に俺へと距離を詰め、打ち込む拳の数を増やした。


 詰めて来んのかよ!


「グッ……」


 思わず漏れた。その声にルータスは驚いていた。


「この程度でお手上げか?」


 俺を殺さず、ただ只管に拳を突き出される。これが拳じゃなく鋭利なものなら、俺は何度命を落としているか。


 その余裕と、見え透いた目的に腹が立った。


「テメェの目的はぁ!ヒョーゾーかぁ!!」


 俺が気絶すれば、ヒョーゾーが出て来ると思っている。


 俺を殺せば、ヒョーゾーが出ずに終わってしまう。


 わざわざヒョーゾーを出してから、俺を殺す気なんだ。つくづく___。



「性格悪いなぁ!ルータス!!」



 俺の振るう刀身が通った場所に、白い想(そう)の線が引かれる。


 その想はしばらく宙に停滞し、なぞるように消えていく。


 その線に触れた拳は、綺麗に裂かれた。


「濃密な想。残る斬撃か」


 守りに徹するだけじゃダメだ。常に想は使え。相手はルータスだぞ。疲弊することを恐れるな!


 みんなはこっちに向かって来ている。まだ間合いからは遠い。大丈夫。


 斬られることを理解したルータスは俺から距離を取る。


 そうはさせない!


 ルータスにされたように、同じく距離を詰める。


 【雹千火(ひょうせんか) 斬留(きりとめ) 流々字(るるうじ)】


 刀の流れるままに線は引かれる。滑らかな曲線は相手に軌道を読まれる。読めばいい。俺の描く斬撃に気を取られろ。


 それすらを上回る速度で、斬ればいい!!


 最良の一歩を踏み込み続け、ルータスを間合いへと誘う。ルータスは必然的に、俺へと拳を突き出す。拳が若干鋭利になってる。関係ない!


 俺は拳を次々と斬り、その合間にルータスへ刀を振るう。避けられては詰めるを繰り返す。


 ルータスは辺りを見渡した。


「腹立つなぁ。腹立つんだよなぁ」


 俺の残る斬撃の線が、ルータスを囲っていた。


 ルータスは一歩下がり、背中に3本の傷を付けた。この戦いで初めて、ルータスから血が流れた。この機を逃すまいと、首元へ刃を伸ばす。


 その瞬間、ルータスから凄まじい熱気が噴き出る。直後、ルータスの身体の装甲以外からマグマが滲み出る。下半身を、硬化させたマグマの地面に溶かして一体化させた。


 硬化していた地面は通常のマグマに戻り、大きく波打ち始める。


 この敷き詰められたマグマ全部が、ルータスの支配下にある……。


 ルータスは自身をマグマで囲み膨張させる。俺の残る斬撃は砕かれてしまう。


 俺はルータスの居る位置を斬り裂く。しかし、そこに奴は居なかった。


「千歳!下だ!!」


 追いついた畑山がそう叫んだ。


「みんな後ろに飛べ!!」


 俺の言葉に、駆け付けたみんなはマグマを蹴る。


 【雹千火(ひょうせんか) 飛斬罰文字(ひざんばつもんじ)】


 俺はマグマを蹴って下を向き、地面をバツ字に斬る。遅れた斬撃が、衝撃と共にマグマを大きく退かせる。


「南東に居る!多分あそこ!」


 高千穂は矢を引いて放つ。


 マグマに触れる寸前で1度目の爆発。周囲のマグマが避け、その爆発を推力にして矢が突き進む。


「当たった!刺さらなかったけど!」


 【磁槌(じつい) 加磁気一本釣(かじきいっぽんづり)】


 予め滝原の磁槌に触れていた高千穂の矢が、マグマの中を潜るルータスへ触れた。磁槌の磁気が付与されたルータスを引き上げ、マグマから剥がそうとした。


 しかし、突き上げられたルータスの上半身に、地面のマグマは引っ付いていた。それに合わせて周囲のマグマも大きく波打つ。


 【雹千火(ひょうせんか) 飛斬一文字(ひざんいちもんじ)】


 ルータスへ引っ付く地面のマグマを一刀両断する。しかし、マグマ同士の連結が速い。


 斬られた瞬間から、斬撃を追う形で修復しやがった。


 【雷盾(らいたて) 迅(じん) 纏(まとい)】


 畑山は雷盾を自らの身体へ纏い、両腕の雷を槍状にする。


「内側から破壊する!」


 畑山は滝原の磁槌に触れ、揺らぐマグマを蹴った。畑山は両腕を前で交差し、ルータスに引っ付く地面のマグマへ突っ込んだ。


 【迅(じん) 限界突破(オーバーロード)】


 マグマの内側から光が溢れ、大きな雷の槍が空へ突き刺した。内側から弾かれたマグマは渦を巻くように収束しようとする。その中心に居るのがルータスだ。


 畑山は飛び散ったマグマへ雷の槍を当てて幾つか消滅させる。しかし、そのマグマは一瞬にして畑山を包んで硬化する。滝原は磁槌を力一杯振り、畑山を包んだマグマごと引き寄せた。


 久美は宙に浮くルータスへ掌を向け、【黒点】で時間を稼ぐ。


 【繼禰(つぐね) 収束粉砕矢(しゅうそくふんさいや)】


 高千穂の軋む弓から、矢が放たれる。


「畳み掛けろ!!」


 高千穂の矢はルータスに掴まれる。その瞬間、【黒点】と合わさり爆発が収束した。一点に集められた威力は、ルータスの鎧装甲にヒビを入れる。


 修復される前に!俺が斬る!!


 鞭のようにしならせた斬撃を飛ばした。その斬撃はルータスの腹部を斬る。しかし、まだ浅すぎる!装甲は修復された。


「くっ……」


 硬化したマグマを破って出た畑山が、奥歯から声を漏らす。


 これを繰り返すしかない。少しでもダメージを与え続けろ。


 例え俺が死んでも、他のみんなが必ずルータスを倒す!!その為に!!今俺らが全力を尽くせ!


 【針地獄岩(ニドルロック)】


 広範囲の___。


 一瞬だった……。


 技を脳が理解してから、硬化されたマグマの刃が突き上がるまで。


 久美の判断で刃より上に落とされたけど、刃に数カ所は抉られた。動脈はやられてない。


 【雹千火(ひょうせんか) 筆斬罰文字(ふでぎりばつもんじ)】


 俺らの下の位置にある刃を砕き、切先を無くす。この刃は修復されない。


「すぐに止血してくれ!滝原!!大丈夫だぞ!意識しっかり持てよ!」


 滝原は左太腿(ふともも)を抑え、苦しい顔を見せる。


「だ、大丈夫です……。立てます……!」


「立つな!止血優先だ!呼吸を整えろ!」


 滝原は冷汗かきながら目を瞑り、深い呼吸を繰り返す。


 しかし、硬化したマグマの刃は下へ引っ込み始める。


 みんなも無傷じゃない。高千穂も腕を抑えてる。久美でさえ出血してる。


 呼吸を整える。地面に着いた瞬間から、また呼吸の箇所を探す戦いが始まる。呼吸1つの判断で、みんなの命が左右される。


 ルータスを目の前にして……負ける訳にはいかねえんだよ。


 俺らが、ここで終わらせねえと……。



 【裂槌(さづち) 殴天流垂(おうてんるすい)】



 円形に歪んだ空気が、広範囲に刃を砕いていく。その直後に刃は全てマグマに戻った。


「千歳!間に合った!お前が死ぬなんて思ってなかったけどな!」


 室瀬(むろせ)……。


 声すら出なかった。口を動かすのがやっとだった。あまりの安堵に、力は抜けてから再度入る。


「俺らが千歳達に近寄る溶岩を抑える!」


 室瀬兄(まさとさん)と、丘(おかーさん)と、宮武(ゴンゾー)は技を連発し、マグマの動きを一定に保っていた。


「ありがとう!本当に!」


「千歳えええええ!!生きてっかあああ!!」


 遠くから鼓膜が震える程の声で叫ぶ漢。


「峯岡(みねおか)のおっちゃん!!」


 峯岡のおっちゃんの後ろに、藤長(ふじなが)と、鹿子木(すのちゃん)と、山谷(やまたに)さんも居る。


「みんな来てくれた!しかも生きてる!」


「元気無えなぁ千歳!後の4人も必ず合流する!心配ねえ!」


「藤長……。立派になって……」


「俺はガキか!?」


 峯岡のおっちゃんは滝原の肩に手を置いて、ルータスを見据える。


「状況はまだまだ最悪ってとこか。上等じゃねえか!!」


 みんなも無傷じゃない。むしろ消耗してる。


 大支部に襲来したゾディアックを倒して来たんだ……!!スゲエェ!!


「俺も!負けてらんねえな!!」


 自分を鼓舞する。目の前に居るのはほぼ無傷のルータス。


 臆するには勿体ないメンバーか。


 俺は立ち上がり、刀を構えてルータスを見据えた。





 腹が立つなぁ。何故、こんなにも腹が立つ。


 あの眼か?


 あの眼の何が憎い。



ールータス 4歳ー


 父は、俺の前でデュロルになった。


 その理由は良く知ってる。


 しかし、世間の目は、デュロルである父を殺せの一点張りだった。何も悪いことをしていない父が、何故皆に嫌われ、命を狙われるのか。


 わからなかった。


 そして父は、俺の目の前で殺された。


 男手ひとつで育ててくれた父。金銭面は厳しく、酷く窶(やつ)れ、それでも俺を育てる為に一所懸命働いていた。


 そして父は病気にかかる。俺を育てる為の金が稼げないと絶望していた。どうにか身体が動いてほしいと。その願いの中で一瞬、"デュロルになってでも良いから"と想ってしまった。


 応えるようにデュロルになった父は嬉しそうだった。身体が動くと、無邪気にはしゃいでいた。これで俺を育てられると意気揚々していた願い虚しく、息子の前で死んだのだ。


 何故デュロルというだけで殺される?


 何故理由も無しにデュロルを嫌うのか。


 デュロルであれば人を喰らうと決めつけ、噂を植え付ける。身近で死んだ人間は全て父の所為にされる。


 父は人を喰わなかった。


 身体が動くようになった瞬間に、絶望を克服したからだ。


 喰らう必要が無かったんだよ。


 そんな自分を嫌う人間達の前で、父は笑顔を見せていた。


 その笑顔が、人間達には憎いものだったのだ。


 笑顔の真意も知らずに。


 残った俺は酷い目にあった。


 家も無く、食い物もない。


 骨と皮だけになった手足で動ける筈もなく。そんな子供に対して、街行く人間は石を投げつけ、通りすがるついでに蹴る。それを平然とやってみせた。


 人間という生き物が、わからなかった。


 心は無いのかと。


 俺がデュロルになるまで、そう時間はかからなかった。


 周りから身を守る、岩のデュロル。


 自らがデュロルになって感じたこと、それは父の感情とは真反対のもの。


 "怒り"。


 父は人間を超越した人種に成ったにも関わらず、欲を持たなかった。俺を育てることだけに命を注いでくれた。


 それこそが"人間"であるべきだと。


 なのに、そこらに居る人間(むし)は、何故こうも寄って集(たか)る。


 俺と、周りのデュロルに向けられる虫の目に、ふつふつと怒りは積もっていった。


 そして、その怒りは外殻装甲である岩を溶かして溢れ出した。



 怒りは熱へと。


 岩は溶岩へと。



 俺は人を人だと思わない。


 思えるわけがない。


 世界に散らばる虫から、同種の"人間"を守らなければならない。


 世界ぶっ壊して、俺が守らないと。


 デュロルこそが人間だ。心を持つからこそ絶望する。


 絶望したことがあるからこそか。


 千歳(おまえ)のその眼が気に食わない。


 ギラギラと輝かせた眼に、現実を見せてやる。


 無理に作っていた笑顔を壊した。


 名の知れた数匹、かかってこい。


 全員まとめて相手してやる。





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