76話ー紫ー
明かされた和ノ信の過去。
そして、峯岡の脳裏に蘇る健史の声。
2人の炎が交わり、淡藤色の炎に纏われる。
ー愛知県 某所ー
【極想 雷神度剣】
晴天を覆う雷の剣。その数5000以上。
1口の剣で、街の10分の1を破壊する程の雷を凝縮している。
あの剣を街に落とす訳にはいかない。何としてでも全てを破壊する!
「いざ尋常に!勝負!!」
とは言っても、あの数を峯岡だけで処理するのは無理だ。
みんなの協力が必要なんだ。
そう強く想ってみんなを見やる。すると、みんなは俺を見て頷いた。まるで心の声が聞こえたかのようだった。
瀬川はすぐに山谷と由紀の元へ駆けた。瀬川が引き抜いた矢と、山谷の黒鉄球を由紀の箱で囲む。それを2つ作る。
山谷は中の黒鉄球を使って、2つの箱を剣の高さまで移動させた。
【大想 繋 絆】
断たれることのない、人と人を結ぶ力強い糸。
矢筈同士を糸で結んだ瞬間から、瀬川は鼻血を出した。和ノ信の剣を壊す強度と、断ち切られない為の硬度を保つ想の持続。それに、身体の所々にあるその傷。恐らくゾディアッククラスのデュロルとの連戦だろう。
辛いだろう……すまん……直ぐにケリを付けるからな。
瀬川の矢筈を結んだ糸は、宙に浮く剣を13本切断した。切断したと同時に行き場を無くした雷が溢れ出て、瀬川達の居る方向を明るく照らす。
苦い表情を見せる瀬川。
静止していた剣が2口動き出し、瀬川の糸に飛んでいく。
斬り裂くつもりだ。
そうはさせまいと脚を動かしたと同時に、和ノ信が俺に斬りかかる。
なんとか太刀で防ぐも、身動きが取れない。
その間に、瀬川の糸は斬られてしまう。
力み続けた瀬川の口から血が飛び散る。
糸を斬った剣はそのまま瀬川へと飛翔する。
「由紀いいぃぃいいぃい!!」
俺の叫びに、由紀はわかってるよと言わんばかりに腕を伸ばす。
【棺送師 硬々葬棺千式】
ダルディエゴを閉じ込めた技の上位互換!
瀬川を、千に重ねた箱で囲む。
剣はその箱に突っ込んだ。雷が放出する際の衝撃波が辺りを襲う。氷の地面の抉れ方を見れば、その威力は強大なものと理解できる。
瀬川がどうなったのか気になる!けど、目の前の和ノ信がそうはさせてくれない。奴は両手に剣を構え、いつ爆発するかわからない中で剣撃を見極めなければならない。
尻目に見える瀬川の場所はまだ煙に覆われていて確認できない。
クソ!意識が周囲に削がれる!和ノ信に一点集中しなければ勝てないのに!
俺は!みんなを守れない程弱い!まだ強くならなくちゃならない!
他のみんなは?無事なのか?他の場所の剣は動き出してないのか?
どうにかして、瀬川の安否を確かめねえと。
和ノ信の少しの隙を……。
俺の太刀は和ノ信に弾かれた。
胴体ガラ空き……。
ああ、クソ……。
和ノ信が剣を振ろうと動く。
こんなにスローに見えんのかよ……。
"バカ!!周りばっか気にしてんじゃねえ!!"
おう、また来たか健史。
"お前が心配する程、みんな弱くねえぞ!目の前の敵に集中できねえ奴が!他のみんなを守れる訳ねえだろ!!"
でもよ……。
俺の目の前を何かが横切る。
"それ"は和ノ信の剣を貫いて吹き飛ばす。
貫かれた剣は雷を放出して粉砕した。遅れて来た衝撃波に流され、俺と和ノ信は離れる。
現実に引き戻された感覚。
「すみません!口悪く言わせてもらいます!ミネールさんのバカ!!周りに気ぃ取られすぎです!」
俺の目を見据える里道。
「ミネールさんが思うほど、僕達弱くないですから!ミネールさんは和ノ信に集中してください!道は必ず、僕達で開きますから!!」
瀬川周辺の煙は退き、松尾に抱えられながらも意識を保つ瀬川を確認した。
由紀も山谷も、他のみんなも生きてるし、何なら剣を上手く対処してる。
みんな、俺が和ノ信に勝てると信じて……。
情けねえ……。
俺はみんなを信じてなかったってのか!
「フウウウン!!」バチイイイン!!
俺は力一杯頬を叩く。
この情け、和ノ信に勝つことで拭ってくれ。
俺の想いを汲み取ったように、みんなは一斉に剣を破壊する。
【凛花乃雪 晴雪】
粉末状の雪が空へと舞い散り、触れた剣を瞬間冷却する。
閉じ込められた雷が暴れる程、氷は肥大化して南側を埋め尽くす。山に根を張り、巨大な桜の木を氷で象った姿を見せた。連鎖する雷の爆発に比例し、桜の花を上へ上へと伸ばしていく。
残る剣の数、約3700。
瀬川とセロリは遠くに避難する。
由紀は箱で剣を囲み、一箇所に集めて上空へと持ち上げる。
【浮与乃羽 超重付与】
山谷は右腕を下に向け続け、必死に震えを抑える。
やがて上空に赤い光が差す。
15個の黒鉄球は、大気圏を貫いて地上へと落下する。空気との摩擦で黒鉄球は真っ赤に染まり、尚且つ空気を削る。
黒鉄球は由紀の集めた剣の塊に直撃する。
塊を下まで貫いた瞬間にセロリが叫ぶ。
「解除!軽量化!!」
黒鉄球15個は散り散りになり、暴れる雷を掻き混ぜる。
避雷針となった黒鉄球に雷は夢中になる。
残る剣の数、約2900。
2箇所で2000もの剣を壊した。和ノ信が動揺したように見える。
2口の剣での怒涛の剣撃は止んだ。
一瞬、和ノ信の全身を稲妻が迸った。
残る剣が全て動き、切先を俺へ向ける。
【深炎モード 舞踏廻天】
鹿子木は最光度を保ちつつ、次々と剣を壊す。
ん?保ってるわけじゃない!
剣に小槌を打ちつける寸前で体内の想を吐き出して、その威力で剣を壊してるんだ。
そして行き場を無くした雷を適量吸収して光度を保ってるように見せてる。
剣がある分、半永久的にその姿でいれるってわけか。
和ノ信は鹿子木付近から剣を遠ざける。リズムが崩れた鹿子木は口から大量の煙を吐き出し、空中に放り出されたように力は抜ける。
由紀は上がらない腕を持ち上げ、鹿子木を箱で囲む。
残る剣の数、約1900。
俺に剣を振り下ろしながらも、和ノ信は鹿子木を警戒していた。
さっきの俺みたいだな。意識が俺から削がれている。
100口の剣を鹿子木へ向けて放つ。
「余所見は、追い込まれてる証拠!」
【中秋乃名月 薄穂飾】
里道は空中に空気の矢を生成し、その全てが音速を超える速さで剣を射抜く。
暴れる雷をも射抜き、稲妻を地上に降らせない。
この数の矢を継続的に放ち続けるなんて……。
そして最後に里道自身の矢を放った。
俺が放ったと認識した時には既に、矢は和ノ信の元にあった。しかし、和ノ信はそれを剣で弾いていた。
「やっぱり、この速さじゃ反応するよね……」
里道は氷に突っ立てる脚をフラつかせる。
想の多量放出。しばらく時間置かねえとキツいぞ。
でも、みんなのおかげで勝てるよ。
残る剣の数54。
和ノ信の動揺は明らかだった。
俺は氷の地面に脚を置き、呼吸を整える。
全身を包む淡藤色の炎は盛る。
氷の地面は円形に溶けて足元は浸る。
蒸気に包まれながらも、和ノ信の位置を完全に把握する。
残る剣の位置も…….。
俺と健史の合わせ技で!
【燻残火 淡誘】
想で出来た雷の剣は、淡藤色の炎に惹かれて集う。
切先に触れた剣に淡藤色の炎は優しく燃え移る。
【燻火 燻】
52の剣全体に淡藤色の炎は行き渡る。
和ノ信の想を燻し、俺の想へと焼いていく。
【残火 業火絢爛】
健史の如く勇ましい炎へと変貌する。
52の淡藤色に輝く炎の剣は、踵を返し和ノ信へと切先を向ける。
溶け始めた氷の地面を蹴って和ノ信の元へと飛ぶ。
同時に炎の剣も和ノ信へと飛翔するも、書き換えた想では本来の剣に勝てるはずもなく打ち消される。
"極想って技がある。アタシも使える。でもそれは、最終奥義だね。ほぼ全ての想をその技に注ぐから、勝ちを捥ぎ取りたい時にしか使わない。けど、それ故に最強だけどね。"
和ノ信が使ったのは極想。
残る2口の剣以外に、もう想は残ってないだろ!
和ノ信は左手の剣を崩して自身へと吸収した。
「そんなんアリかよ!!」
和ノ信の身体は雷を帯びる。
剣と太刀がぶつかり合う度、周囲の雷が俺の肌を突き刺す。
剣を受け流す際に、俺の淡藤色の炎は和ノ信へと燃え移る。
紫色の雷と、淡藤色の炎は互いを行き交う。
和ノ信は右袖の隙間から左掌を構え、凝縮された雷の熱線を放った。
構えた瞬間が見えてなかったら当たっていた。それに、避けた先に由紀の箱が無ければ、俺は氷の地面まで落ちていた。
まだ空中に幾つかの箱を残してくれている。つくづく思う。俺はみんなに支えられてんだなって。
そんなんで、やられてばっかいられるかよ!
俺は刀身に意識を集中する。刀身の炎はそれに応えるように燃え盛る。
そのまま切先を和ノ信に向け、一旦引き寄せてから突き出す。
すると、刀身の形をした淡藤色の炎が突き出た。和ノ信は左手から出した雷で、それを相殺する。
炎に触れた雷に引火し、瞬く間に和ノ信の手元へと炎は移る。和ノ信は左手に炎が来る前に雷を離す。火の粉を避ける動作を利用して、剣を振るった。
振るったと認識した時には既に、右腹部と左太腿と右足甲の3箇所を貫かれていた。
唐突に来る激痛に若干の目眩がするも、俺の両眼は和ノ信の動きを捉えていた。
忘れかけた呼吸を整えながら、痛みを受け入れる。
和ノ信が剣をあの位置で振るう。また今のが来る。見極めろ。少しの違和感を掴め。
そして和ノ信は剣を振るう。
剣の軌道上から、細っせぇ雷の矢が生成されてる。それが俺に向かって飛んで来る。
刀身を使い、俺はそれを受け流す。
"卓の炎は蒼くて綺麗だよな〜、流れるようなさ、しなるような。"
今はお前の炎と一緒に燃えてるよ。
我武者羅で且つ、源清流清の炎でさ。
和ノ信の雷を燃える刀身で受け流しながら、由紀の箱、山谷の黒鉄球、生成された里道の矢を伝って、導かれるように距離を詰める。
和ノ信は剣に想を込めて刀身を伸ばした。
和ノ信が剣を振るう角度に、俺の刀身も合わせる。刃と刃はぶつかり合う……ように見えているだろう。和ノ信の刀身を滑るように受け流し、俺は距離を詰めていく。
俺の刃が剣の付け根に差し掛かった時、淡藤色の炎は和ノ信の右手を燃やす。俺は太刀を振り上げ、弱った握力の和ノ信から剣を弾いた。
振り上げた太刀を、そのまま和ノ信へと振り下ろす。
何度も、何度も。
……。
また走馬灯か。
俺は負けたんだよ。素直に負けさせてくれ。
見事な連携だった。
5146もの雷神度剣を、全て破壊するとはな。
皆の想いがこの男に集うのが理解できた。
峯岡という男は熱い漢だ。
エキポナは誰の為に、何の為に命を差し出すのかわからなかった。
だが、峯岡の炎を伝って俺に流れてきた。
人間も、エキポナも、デュロルでさえも守りたいと。
傲慢な漢め。
そんなこと叶う訳がない……。
……俺はその想いに負けた。
デュロルだけを守ると決め生きてきた。
決めた理由は簡単だった。物心ついた時からデュロルだったからだ。
峯岡は人として生き、その身体に機械を混ぜ、デュロルの想を学んだ。
峯岡の……こいつら全員に俺の想いは負けたんだ。
「俺の想はもう少ししか残っていない」
無駄なんだよ峯岡。
「雷を出す想すら残っていない。そこらの人間と同等だ」
それでも俺の前身を斬るのは意地か。使命感か。身体がそうさせるのか。
どれにせよ、涙を流してやる行動では無い。
「できれば殺したくない、と。傲慢で強欲な漢だな。俺を今ここで殺さなければ、俺の想は回復し、再びお前達に勝負を挑むだろう」
俺の想を伝って何を見た。過去か。
やはり、想いの根底にあるものは、根強く残ってしまうものだな。
「俺に残る想は、身体の治癒に回される。幾ら身体を斬ったところで、俺の想が尽きる前にお前が尽きる」
負けたからには、潔く負けよう。
負けた者など、ルータス様は求めていない。
「首を斬れ!峯岡!!」
峯岡は躊躇うように目を瞑るも、直ぐに俺を見据えた。
「それで良い……」
最期に吸い込む空気は焼かれるほど熱く、吐いた息は晴天に溶けた。
【燻残火 蛍舞遊】
綺麗な淡藤色の炎は垂直に線を引く。
炎から生まれ、躍るように後を追う蛍。
僕達はしばらく、美しい型を見つめる。
淡藤色の蛍だけが、自由気ままに晴天の海を舞い泳いでいた。
デュロル組織【世界デュロル保護機構】
第12ゾディアック【亥】
鬼名【雷鬼】
吉岡 和ノ信
旧姓
阿遅鉏 和ノ信 絶命。




