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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
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6話ー数より力ー

 高千穂に頼まれ事をされ、任務へ着いて行くことになった千歳。


 それは直ぐに実現することとなる。


 果たして千歳は高千穂にどんなアドバイスをするのだろうか。


 いい朝すぎる。


 雲1つない晴天に、澄んだ青空。鳥の鳴き声と共に、高千穂の声も響く。


「千歳くん!!任務だよ!!昨日言った事お願いね!!」


「ああ、任せろ!」


 今任務はチームアグアの高千穂、チームアルボルの篭田(かごた)、チームフエゴの坂本(さかもと)、チームルナの斎藤(さいとう)と俺の5人だ。けど俺は手出ししないから4人ってことになるな。


 今回埼玉県南部から通報のあったデュロルの対処で、確認されてる能力は衝撃波。事前にこれだけ分かっていれば予備もでき、比較的楽に対処できると思っていた。


 装甲車で移動する。現場は山奥。


 デュロルは現場の川原(かわら)でバーベキューをする5人の若者を狙ったもので、まだ誰も捕食されておらず、ただ衝撃波を色々な方向に飛ばしているだけのようだ。


 現場に着き、急いでデュロルのもとへ向かう。


 川原には2人の男性が倒れていた。


 すると、通報した女性が近づいてきて、1人を抱えて向こうに走ったと話す。もう1人のことは分からないと言う。


 言われた方へ急ぐと、女性を抱えた口のあるデュロルが、脛までを川に浸けながら、こちらを仁王立ちして見ている。川の反対側は山に入る林が広がっていた。


 口のあるデュロルはお腹に装甲がある。顔面に何のパーツもないデュロルは腹部には装甲がなく、デュロル特有の黒い皮膚が剥き出でいて、そこに人間を押し付けることにより捕食する。口のあるデュロルはそのまま口で捕食するため腹部は弱点では無くなる。


「こんにちはエキポナの皆さん」


 何なんだあの余裕は。


「この人を離してほしいですか?」


「ああ!その人を離せ!」


 デュロルの問いにチームルナの斎藤(さいとう)が答える。


 「いいですよ!」と言うと抱えていた女性を川の中に降ろした。


「はい、離しました」


「ナメてんのか!!」


 チームアルボルの篭田が怒り気味にそう言って飛び出した。


 かかってきたと言わんばかりにデュロルは手を突き出して衝撃波を出した。


 一瞬デュロルの手とその周囲が歪んで見え、ブォンと何ともニゴイ音がした。


 衝撃波に下半身が押された篭田は、勢いを殺しきれずに頭から川底の砂利へと倒れ込んだ。


 倒れた篭田にデュロルは(また)ぎ、手を交互に押し付け、何度も衝撃波を与えた。


 それを見ていた高千穂は弓を構え、狙いを定め、少しずらして放つ。デュロルは飛び上がり弓を避ける。自分たちのいる方へ飛んできたデュロルに向け矢を引き、何の合図も無しに放つ。


 それを見ていたチームフエゴの坂本は何をしていいか分からずにただ立ち尽くしていた。


 放った矢がデュロルに当たるが、装甲に跳ね返される。


 そんな時チームアルボルの篭田は「はぁ、もうダメだ〜」と川に半身浸かり、両手を川底につけながら嘆いていた。


 呆れるな。


 「おりゃあああああ!」と、無駄に大声を出し大槌を振り回しているのはチームフエゴの坂本。


「そこ邪魔!!!」


 高千穂が叫ぶ。


「あ、ごめんなさい」


 素直に謝る坂本。すると、デュロルが謝った坂本の両腕を抑えるように抱いて締め付ける。


「さ、僕を射抜いていいですよ!」


 締め上げた坂本をチームアグアの高千穂に見せつけて挑発する。


「おい高千穂!」


 見兼ねた俺は高千穂に呼びかける。


「ダメ!!ち、ケンシはただ見てて!」


 高千穂がデュロルに向かって弓を構えていると、俺たちを囲むように4人の人が立っていた。


「何だ?近づかないでくれ!危ないぞ!」


 チームルナの斎藤が呼びかける。


「危ないぞだってーん!」


「キャハハハハ!」


 囲む男女2人ずつの4人は俺らを嘲笑った。


 すると、坂本を締め付けているデュロルも「フフフフ」と笑った。


「ハマったなエキポナっふ!」


「ここからは逃さないよーん!」


「キャハハハッ!」


「……あはは」


 囲む4人は一斉にデュロルへと姿を変えた。


「あら」


 思わず声が出る。


「え、全員……デュロル??」


「そうです!我達はあなた方エキポナを騙し入れる為通報したのです」


「キャハハハッ!」


「普段あなた方は1人に大人数というズルい戦い方をしていますね。そんな戦いをすれば誰だって倒されてしまいますよ。そこで、天才の我達はエキポナを(おび)き寄せて逆の立場で相手をして差し上げようと思った次第です。しかし、5人対55人。1人としての力は断然我達が上です。よって、あなた方は逃げられません。諦めてください」と、坂本を締め付けているデュロルが言う。


「そんな……」


 斎藤は分かりやすく落ち込む。


「……」


 高千穂も暗い顔をしている。


 川に浸かり嘆いていた篭田は泣いていた。


「あれーん?1人だけ平気な顔して強がっちゃってるよーん?」この言葉を吐いたのは女性の1人で、顔にパーツは無く、頭頂部に装甲の輪ができている。


「キャハハハッ」この女性のデュロルの姿には困ったような口があり、常に困った表情に見える。


「本当っふね!強がってまふ!」ぽっちゃりした男性のデュロルは顔に鼻らしきモノだけがある。


 「……ふふ」ロン毛の男性デュロルは、デュロルの姿になってもロン毛は継承されているが顔にパーツは無い。


 「お前ら鬼神(アラハバキ)の仲間か?」俺は坂本を締め付けているデュロルに聞いた。


鬼神(アラハバキ)?ふふふ笑わせないでくれよ、あんな脅しでしかない奴らと一緒にしないでくれ」


「そっか。違うんだな」


 高千穂は下を向いていた。


「おい高千穂。お前今諦めてんのか?」


「……?」


 高千穂は静かに俺を見る。


「何言ってるんだ!そこの何もしていない君!こんなデュロルに囲まれた状況で諦めない方が変だ!」


 チームルナの斎藤が言う。


「お前に聞いてねえよニキビ。おい、高千穂どうなんだ」


「なんだー?仲間割れかいーん?」


「ニキビ……」


「……ふふ」


 高千穂は唇を噛み締めた。


「お前、強くなりたいんじゃねえのかよ。こんな状況こそ諦めてたら何もできねえぞ!」


「こんな状況……どうやって切り抜けたらいいの!!」


 「君たち、敵が目の前にいるのに呑気に……」坂本を締め上げているデュロルは気を使うように言った。


「うるせえ!お前は黙ってろ!!」


「黙ってろだってふっふ!生意気な小僧だっふ!」


 太っちょデュロルが俺に向かってくる。


 ドガっ!


「だっふー!!!」


「あいつが宙に舞ったーん!?」


 バシャン!「だっふ!」


「高千穂、見てる限りだとな自分だけでどうにかしようとして、まるでチームになってねえ。それはお前ら全員に言えることだ。仲間の動きを見て自分がどう動けばいいのか分かってねえ」


「そんなの、誰がどう動くかなんて分からないじゃない!」


「ああ、分からねえよ。だから声かけあって連携すんじゃんか!全部自分だけでやったって、自分の思い通りになんてならねえよ。それに仲間の行動を邪魔だって言ったよな」


「……うん」


「仲間を何だと思ってんだよ!!これっぽっちも信用しちゃいねえ!!そんな信用できてねえ奴らとなんかいいチームワークが取れるわけねえんだ!!」


「……」


「このチームを見るに、俺以外全員が初対面だろ?移動中作戦会議でもするかと思ったらみんな何考えてんだか無言だったじゃねえか。コミュニケーションも取れねえ、そんなんで俺に手を出すなだと?1人で何でもかんでもやれると思うな!!」


 高千穂は空を見て、堪える顔をした。


「人間1人じゃ何もできねえ!俺くらい頼ったっていいだろ!!何度も合同訓練を共にした仲間じゃねえか!!!!」


 瞬きをした高千穂の目からは涙が零れた。


「お前は1人じゃねえ!!!この俺が仲間だ!!!!」


「……千歳くん」


「もういいな、俺は手を出すぞ。我慢の限界だ!」


 高千穂は涙を拭った。


「私の仲間なんでしょ!言う通りにしてよね!」


「おうよ!」


 高千穂は笑顔を見せた。


「千歳くん!まず坂本(リス)の救出!あいつの気を引いて!私がそれから何とかする!」


「任せろ!」


ジジッ

「本部!抜刀する!!」


ジジッ

「おいっ!勝手な!!」


 俺は走りながら刀を抜き、坂本を締め付けるデュロルに刀を振り上げ、振り下ろすフリをして威嚇する。


「なっ!やめなさい!この方がどうなっても宜しいのですか!」


 するとデュロルは俺を避けた。


 避けたデュロルは高千穂の射程範囲に何の障害物も無く、高千穂の矢がデュロルの左肩を射抜く。


 その反動で坂本を離す。


 「なーん!あいつらタンタンに矢をーん!」輪っかのついたデュロルは慌てる素振りを見せた。


「キャハハハッ!?」


「ポンポン!立てーん!」


「だっふ!」


「坂本!大槌を取れ!あの太っちょの動き止めといてくれ!」


「お、おう!」


 坂本は大槌を拾い上げ、「おりゃ〜」と振り上げた。


 「痛ーいです!!」矢が刺さった肩を抑えながら言う。


「それにはまだまだ隠し技があるんだな〜」


 そう言うと高千穂は弓のボタンを押した。


「離れて千歳くん!!」


 俺は急いで川から出る。


 すると、川に浸かる口の割れたデュロルと太っちょデュロルと、坂本がビリビリと痙攣し出した。


「あの矢は放電付きなの、痺れなさい!」


「おいおい、坂本まで感電してるぞ?」


「はっ!大変!」


 「キャハハハッ!」すると後ろから、奇声をあげながら困った顔の女性デュロルが走ってくる。


 女性デュロルは手のひらを大きく叩くと、考えもしない爆音が響いた。キーンと耳鳴りがしたが、目の前で鳴られた雷よりは全然マシだった。


「いやーん!それやめてーぺんぺん!」


 輪っかが付いたデュロルは耳がある辺りを手で押さえていた。


「キャハハハッ!」


「何よん!謝りなさいよん!!」


「キャハッ!!」


「何をーん!!」


 奇声を荒げるデュロルがバーンバーンと手を叩きまくっている。


 輪っかデュロルの耳元でバンバン叩いていた為か、輪っかのデュロルはぶっ倒れた。


「キャハー!」


 タスッ!


「私達の前で油断するとどうなるのかしら?」


 高千穂の放った矢は、奇声デュロルの腹部の装甲を突き抜けて刺さっていた。


「ギャフっ」


 奇声デュロルは腹部に刺さった矢を掴みながら倒れた。


「おーいクイーンさん!?俺までビリビリしたよ!!」


「あ、ごめんなさい!忘れてた!」


 俺が出るまででも無さそうだな。高千穂以外の人が本当に邪魔してただけみたいだ。確かに高千穂はズバ抜けて強かったから、よく考えりゃそうだったか。キツいこと言っちゃったかな?


 チームルナの斎藤とチームアルボルの篭田2人並んで体育座りしてるし。何なんだよこの根気のなさ。


「おい坂本!太っちょは倒したのか?」


「ああ!ドスッと一発よ!」


 その言葉の通り太っちょデュロルは川に仰向けになって浮いていた。


「あれ?ロン毛はどこ行ったんだ?」


 「ロン毛なら林に入ってったよ」と、体育座りしながら斎藤と篭田が林を指す。


「お前ら何もしてねえんだから見てこい。あいつ1人ならお前らで倒せるだろ?」


 「うぅ……」そう言うと2人嫌々林に向かっていった。


 おいおいそれでもエキポナかよ。どんな教官が育てたんだ。


 林に入っていった以外のデュロルは全員気絶してるな。


 だが、今回のデュロルが経験薄くて良かった。昨日の山辺(やまべ)みたいなトンデモねえ奴だったらピンチだったな。


「いや〜クイーンさん強……」


「千歳くんっ!お疲れ様!ありがとうね!」


「まだ終わったわけじゃねんだ、一応まだ警戒しとけよ」


「えへっ!ごめんごめん!」


「高千……」


「リスさんは倒れてるデュロル達運んでおいて」


「は、はい」


「ぐううううわああああああああ!!!」


 林から断末魔らしき声が聞こえた。


「何だ!?」


 林から鳥達が驚き一斉に飛び立つ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 地響きと心臓を抉るような低音が響き渡り、林の木々が次々と薙ぎ倒されていく。


 すると林から篭田が吹き飛ばされ、バシャン!と川に叩きつけられた。


「篭田!!何があった!!」


「……」


「ダメだ、気絶してんな」


 ロン毛がやったのか!?そんな風には見えなかったが。油断した俺が悪いな。


 すると、次にロン毛が林から吹き飛んできた。ロン毛は砂利に叩きつけられ、また身動き一つ取らない。


 誰の仕業なんだ!?


「坂本!この場所は頼んだ!高千穂付いて来い!」


「うん!!」


 俺と高千穂は林の中に入っていった。


 入って数十メートルの所に行くと斎藤が倒れている。


「斎藤!!どうした!何があった!!」


「……」


「高千穂!斎藤頼めるか?広いところまで運んでくれ!」


「わかった!!運んだらすぐ戻って来るから!」


「頼んだ!」


 高千穂は斎藤を担ぎ川岸に運ぶため、ここを離れた。


 地面は歪み、割れ、抉れ、不自然に土が盛り上がっている。


「よお!お前最近話題の新人だろ?」


 木の上から声が聞こえる。


「よっと」


 木の枝上からデュロルが降りてきた。


 俺はスッと刀を抜いた。


「おいおい、まだお前と殺り合うつもりはねえよ。刀しまえ。俺もお前に手ェ出さねえからよ」


 不気味に微笑んだ口のデュロルは両手のひらを俺に向け、まあまあと言わんばかりの素振りをする。


 俺は警戒し、刀を構え直す。


「ここにいたエキポナとデュロル、お前がやったのか?」


「ああ、そうだ」


「なぜ仲間を攻撃する!」


「仲間??誰のことだ?もしかしてあのデュロルを言ってんのか?」


 デュロルは笑い出した。


面白(おんもし)れぇこと言うな!!デュロルが全員仲間と思うな。デュロルにだって組織はある。どこの組織にも属してない野良デュロルなんざ、そっこら中にいるし人間同然よ」


「何だと?」


「まあそうカッカするなって!」


 俺は不意をつき斬り込む。


「おいおい、俺ぁお前と殺り合う気はねえって言ってんだろ」


「ぐっ!?」


 俺が力一杯振った刀身は握られ、完全に止められた。


「お前、何者だよ……」


「ああ、俺か?いつかお前と殺り合う者、黒谷(くろたに) (わたる)______」


 黒谷は刀から手を離す。


______鬼神(アラハバキ)だよ」




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