7話ー強化合宿ー
戦闘経験の少ない5人組のデュロルに騙された千歳一向。
高千穂と千歳の連携で次々に鎮圧していく。
しかし、その内の1人が逃げた先に待ち構えていたのは、世間を揺るがす組織"鬼神"だった。
「鬼神……!!どうしてこんな所に!」
黒谷は刀を握った手を痛がるように抑え、笑いながら答える。
「意味はねえ。ただ暇だから装甲車を追いかけてきただけ」
「暇!?お前達の仲間が捕まってんのに呑気なもんだな!!」
「あいつらか?使えねえ物が捕まったから何だってんだ」
「"使えねえ物"だと!!」
「おいおい、危ねえから刀仕舞えって。俺に向けんなよ」
「人間を物だとか言ってんじゃねえよ!あいつらはテメェらに人生奪われてんだぞ!」
「人の人生どうこう言うのはそれぞれ勝手だがよ、お前にどうこう言われたかないね」
「お前、クソ性格悪ぃな!」
「どうも、褒め言葉だよ」
「あああ!!俺はお前が大嫌いだ!ぶっ飛ばしてやる!!」
「だーから……その気ならやってやるけど、まだ俺はお前を殺さねえ」
「ナメやがって!!」
俺は渾身の力で刀を振るう……何だこいつ。当たったと思った一振りがギリギリで避けられてしまう。何度も何度も避けられる。
完璧に動きは読めてるはずなのに。
「遅いよ遅いよ新人くん」
それなのに余裕ぶっこいてやがる。
「うークッソ!!!」
刀を今以上の力で振るう。
「あっぶね!!てか、掠った!刀持ってちゃ危ねえって!」
すると、黒谷は地面に手をついた。
「刀没収うううう〜!!」
すると、俺が立つ地面にヒビが入り、股下を軸に両端が持ち上がり、俺の刀を挟む。
「"挟"!!」
「うわっ!刀がっ!!」
「さ〜てさて武器がなくなった新人くんはどうするのかな?」
俺は迷わず殴りかかった。黒谷の足の動き、上半身の姿勢、その体勢から考えられる次の行動を全部予測した上で殴りかかっているのに。
一つも当たらない。
「これだから、まだお前とは殺し合いはしねえって言ったんだよ。もっと強くなったお前に賭けてんだ」
避けながら悠々と喋る黒谷。俺の予測する動き以上の筋力と洞察力を持っているのか?息切れもしないで喋りながら避け続ける姿を目の当たりにし、ついつい力んでしまう。
黒谷は一発、俺の腹部に左フックを放つ。
「がはっ!」
何だこいつ……格が違う……。菅岡、黒潮の2人とは比べ物にならないほど、拳が重い。
「お前ぇが手ェ出しちまったヤマはそれなりの覚悟がなきゃ死ぬ。そのお前は所詮この程度の実戦経験の薄々のお子ちゃまなんだよ」
すると黒谷はまた地面に左手をつき、顔を俺に向けた。
「さっきの美少女に助けてもらいな」
すると、直径1メートルほどの四角い地面が斜めに飛び出した。
「”凸”!!」
飛び出た地面は俺を掬い上げ、不自然に盛り上がった土山に叩きつた。下半身は土山に埋もれ、飛び出た地面に押されて身動きが取れない。
「今度会う時はもっと強くなってろ。山辺を倒した男として見込んだんだ。期待はずれなら殺す」
そう言うと黒谷は去って行った。
くそぉ、まったく身動きが取れねえ。それに、なんだあの能力。地面を動かせるのか。
数分経って、高千穂が戻ってきた。
「千歳くん!?」
そう驚くと何かを察したようで、俺を動けなくしてる地面を射抜き、埋もれてる俺の脇を抱えて引っ張り出す。
「ありがとう。助かった!」
「何があったの?」
俺は刀が挟まれてる土の塊に向かって歩く。
「鬼神の、たぶん幹部の1人に会った」
土の塊から突き出た柄を握り、抜くと刀身は半分に折れていた。
「刀が折れちまった」
ジジッ
「今のお前の視界記録を菅岡達に見せた。間違いない。鬼神の幹部だ。名前もそいつが言ってた通り」
「鬼神……」
高千穂は拳を強く握りしめた。
「あいつは絶対ぇ俺がぶっ倒す」
「千歳くん」
高千穂は今まで以上に真剣な眼差しで俺を見た。
「私、千歳くんについてく。今まであんな事言ってくれた人いないし。私の果たさなきゃいけない約束も、千歳くんとなら果たせそう!」
「当たり前だ!仲間なんだからなっ!」
「嬉しい!千歳くんの力になれるよう頑張るね!」
何だか暖かい笑顔が溢れる。ただ、鬼神幹部の圧倒的な強さの前で、俺は何もできなかった。接触できたにも関わらずだ。黒谷から受けた攻撃は2発。たった2発でこのダメージだ。もっと、もっと強くならなきゃ。
鬼神は倒せない!!
俺らは倒れてるデュロルら5人を拘束し、気絶してた他3人を叩き起こし、待機させてあった装甲車に乗って本部に戻る。
エキポナ装備破損2名、デュロル5名逮捕。
ー同日15時35分ー
「黒谷、遅かったじゃないか」
「暇だったから、噂の新人の千歳って奴に会ってきた」
「そうだろうな。お前のことだ、また挑発でもしてきたのだろう」
「まあな。で?今日は何の集まりだ?みんな集めちゃって」
「少々作戦変更だ。その千歳が山辺を倒しちまったから、作戦開始時期を少し早める」
「おいおい、千歳に怯えてることがバレバレじゃん。そんなことして世界デュロル保護機構になんか言われないんか?」
「言われる覚悟だ。実際、山辺は幹部に近い力を持っていた。千歳を脅威として見ていいことは確かだ」
「今日会ってきたけどよ、そんな怯えるほどでもなかったぞ?」
「本来なら作戦実行まで半年はあった。しかし今日、お前が接触したことによって、千歳は半年後には強くなる。そうゆう男だろう。お前が接触して千歳を殺すはずがないと思っていたしな」
「だって、強いやつかなって思ったからよ。久々に楽しめそうかなって」
「お前のことだ、千歳に目をつけるとは思っていた。千歳はお前に任せる」
「ああ、あいつは俺が殺す」
「と、いうことだ。黒谷の接触によりこれ以上千歳が強くなる前に作戦を実行し、黒谷は千歳を殺す。作戦準備期間と、ガキたちに作戦を叩き込む期間を含め、2ヶ月後の11月19日に作戦を実行する」
「千歳は2ヶ月しか鍛えられないのか〜しょうがねぇな〜。はいよ」
「了解や」
「……」
「ハイ」
「はーい」
ー同日同時50分ー
「今日の5人は普通乗用車でそれぞれ別の場所へ収監した。千歳、高千穂、その他3名は……まあアレだが良くやった」
「おう!」「ありがとうございます!」
一般デュロルの収監場所は"人"とは違い、収監施設と一目見ただけでは分からないようになっている。それは、一般の住宅街の一軒家から深く降りた地下にある。装甲車での移送はデュロルを乗せていると教えているようなものなので、一般デュロルに限り、普通乗用車で移送する。人間体の手足を厳重に縛り、たとえ移送途中にデュロルになっても身動きの取れないようにしており、私服を着たチームスアロの隊員2人が同乗する。1人は運転、もう1人はデュロルの横に座り、様子を見る。報道されたデュロルの身元の保障と、デュロルを許さない一般人からの襲撃や、ストライキ防止のためにこのような体制を取っている。要警戒デュロル、厳重注意デュロルの移送は、普通乗用車では危険なため装甲車にて行う。その2種の危険デュロルは、危険度に合わせて収監場所を変え、厳重な警備の元に収監される。
「まさか鬼神幹部が直々に来るとはな。千歳、お前本当に身体大丈夫なのか?」
「うん。けど、あいつのフックを受けた時、この身体になって初めて痛みを感じた」
「痛みか、体を守ってる人工筋肉より相手の方が上手だったようだな。パーツも破損してる可能性がある。整備が必要だな。千歳、強くなりたきゃ訓練もだ!」
「燃えてきたー!!」
「堀さん!!私、千歳くんと組みます!」
「お、決まったか!」
「はい!」
俺らみたいな任務の初心者達は、同じチーム内"チームルナならチームルナ"の4人と行動を共にするか、他部隊1人ずつで中に経歴が3年以上の人を入れた編成をするか、他部隊数名と合同で何回か警戒レベルの低いデュロル対処の任務を遂行する。
やがて、その合同任務などで自分に合う人が見つかれば、申請を出し自分の決めた編成で任務を行う事ができるようになる。高千穂はまず俺と組み、4人以下での任務は認められない為、俺と高千穂とそれ以外の少数で任務を遂行することになる。
のだが……。
「堀さん!!伊歳野の所へ行っていい!?スポンサーもついたし、しばらく強化合宿に入りたい!!もっと強くならねぇと!」
「これまた早い段階から〜。ん〜。まあいいんじゃない?申請出しとくよ」
「えーーー!せっかく千歳くんと組んだのにー!」
「ごめんごめん、ぜってぇ強くなって戻って来るからよ、待っててくれ!」
「わがまま小僧め」
「何だトォォ!!」
その日の会議は終わった。気絶した他3人は一言も発することなく、ただただイスに座ってるだけだった。
ー同日18時ー
「いっとしっの〜〜!!」
「おーーぉ!!千歳!!久しぶりじゃん!」
「相変わらず元気いいな!」
「そうゆう千歳もな!!それよりさ、千歳の活躍見てるよ!!頑張ってんじゃん!」
「いや〜有名人になっちゃった〜なっはっは」
伊歳野は俺の爺ちゃんが愛用した刀を作った鍛冶屋の孫で、小さい頃よく遊んだ幼馴染の1人ってわけ。かなりボーイッシュな女の子で、短髪なところがまたボーイッシュを際立たせている。元気モリモリだ。
「伊歳野、お前に頼みがある。俺の刀の強化と修復と、俺の肉体改造の計画表を作ってくれ!」
「千歳の頼みだもん。お安い御用だよ!待ってて!実はね、こんなこともあろうかと計画表は前々から作ってた!!」
「お前ってやっぱ仕事早いな!早速頼む!」
「おう!けど、刀はかなり調整がかかるな〜。2ヶ月半ぐらい時間貰ってもいい?」
2ヶ月半。鬼神の約束の時間はまだ半年後。十分すぎる時間だ。まあチームと高千穂らには迷惑かけちゃうけど。それは追々説明するとして。
「じゃあその2ヶ月半の間、バッチシ筋トレだな!」
「千歳の人工筋肉との相性は良いからかなりレベルアップすると思うよ!」
そうして俺の2ヶ月半に及ぶ筋肉増量肉体強化計画が始まった。
ここでエキポナの身体、人工筋肉の説明をしよう。人工筋肉は、デュロルの黒い皮膚と似ていて、人体への衝撃を吸収する役目と、自然筋肉同様に、筋肉トレーニングをすればするだけ筋力も増量する。
エキポナも人間同様に筋肉のつきやすい身体かは人それぞれだ。
エキポナには人工筋肉をより効率的に働かせる為に、JEAの開発した人工血液「KDK」を入れ、自然筋肉に加え人工筋肉を動かすための不足した血液を補っている。
「よし千歳!まずダンベル5トォン!」
「しゃあああああ!!!」
「んぇー!!タカチーちゃん千歳と組むのん!?」
「うん。でも千歳くんが特訓だー合宿だーとか言うから今1人ぼっち」
「そ、そうかー。チトッセオはーお金あるからな。チトッセオが特訓から戻るまでに僕だってちゃんとしたスポンサーつけてやる!」
「千歳くんが戻るまで私もスポンサーつける為に任務着いてくね!」
「いいよー!」
「あ!藤長く〜んこんにちは〜!」
「あ、たかつ……高千穂つん!……ちゃん!」
「どうしたの?そんなに汗かいて」
「んやぁ〜暑いなぁ〜って残暑だなーって」
「そうだね〜暑いね〜残暑凄いよね〜!私汗っかきだから汗止まらなくってさ!」
「あは、あはは〜そうだよね〜」
「"そうだよね〜"なんだね……」
「いやっ!あっ!ちゃっ!」
「そいでフズィ!チトッセオが______……______あーだこーであーなんだってよ!」
「ええ!たかつほたんと組むの!?あ、色々違う。千歳と組むの?」
「うん!あんな言葉かけてくれた人いないし、惹かれちゃったっ!」
「惹かれちゃったっ!似てる?フズィ!今の僕似てる?」
「いや、今俺はそれどころじゃない……」
なんだこの気持はあああああ「あああああああ」!
「本当にどうしちゃったの?藤長くん」
「フズィはたまにこうなる」
ー特訓開始から10分後ー
「あああああ何時間たった?キツイよ伊歳野ぉぉ」
「まだ10分だぞ〜」
「ぐわああああ強くなってやらぁああ」
ー千歳特訓開始から1ヶ月後ー
藤長、高千穂、里道、室瀬は着々と任務を遂行していった。
彼らも段々と実戦に慣れていき、ニュースにも取り上げられていった。
「お、今日は高千穂大活躍だな〜」
千歳強化合宿も順調に進んでおり、以前の体格よりも立派に仕上がってきている。
「室瀬も臭激ングのCMに慣れたみたいだ」
伊歳野の俺専用の刀、俺呼んで「千歳刀」の開発と、それに合う鞘の開発も同時に行われていた。試作品の試し斬りなども着々と進んでいく。進んでいくにつれ、それに合った装備の開発も進展していった。
鞘は腰に取り付ける。背の腰に"支柱の脚"を付け、そこから折りたたみ式の器具が鞘に直結している。自在に鞘を動かすことが可能で、鞘を背中へと装着することもできる。鞘を持っている状態から手を離すと、腰か背中に自動で戻る仕組みになっている。
「千歳の体格変化の速度に開発が追いつかないよ〜」
ー千歳1人で特訓中ー
「ツトム〜。ずーっと筋トレ見せられて、暇ぞ」
「暇言うなって、強くなるためなんだから仕方ないっしょ!」
「1ヶ月とちょっと、ずっとツトムの筋トレ見ててもの〜。せめて女の子なら喜んで見るんじゃが」
「ヒョーゾーもやろうぜ!強くなっていくのがわかるし、面白いぞ!」
「嫌だ。疲れることは嫌いぞ」
「んだよ。柴犬になってそこに座ってるだけなのによく言うぜ」
「分からんと思うがな、犬の体ってデリケートなんじゃい。意外と疲れるの」
「へ〜。舌出してへーへー言ってるだけなのに?」
「なんとっ!愛おしいこの姿で襲ってしまうぞ!」
「おいっ!上に乗るな!ダンベルが見えないじゃん!」
「謝るんだツトム!謝れー!」
「だー!やめろー!ぺろぺろすんなっ!あひっ、やめろー!くすぐってー!」
ガシャーン!
「ギャーーーーー!!!!イテーーーー!!!ガラガラガラガラ。
「騒がしいやつぞ」
「お前のせいだー!!」
ー特訓開始から1ヶ月半ー
「おお!千歳お前またデカくなったな!」
「へへー!変化わかるか?」
「だいぶゴリゴリになってきたな!」
「室瀬も逞しくなったな!」
「だろ!そろそろみんな来るはずだぜ」
今日は1ヶ月半の成果の報告会と名乗って俺と室瀬、藤長、里道、高千穂が集まった。
「では、まずこの私里道 浩貴めが報告をさせて頂きたいとぉ〜思います!」
「お、自信ありげだな!」
「聞いて驚け!!なんと!僕にも専属スポンサーが付き、7000万1000円もの大金が入ることになりました!!イエィ!」
「おおお!!前は50万1000円だったのにめっちゃ上がったな!!おめでとう!」
里道は目をウルウルさせ立ち上がり雄叫びを上げていた。「おほおおおお!!!」
「んじゃ次は俺が」
藤長も自信ありげな表情。
「俺にも専属スポンサーが付き、7800万となりました!!」
「おおおおお!!大分追いつかれたな〜」
「俺だってお前に負けねえんだぞ〜!」
「え、フズィそんなに高いの……?」
「あ、言ってなかったっけか?」
里道はポカーンとしていた。
「それじゃ、俺の報告を。俺も専属スポンサーがついて9300万!!!!」
「おおおおお!?室瀬もか!!お前ら強くなりすぎじゃない??」
「俺らのそれぞれの活躍ニュースで見てるだろ?」
「ムロも??」
「里道だって立派な金額だ!悄げるなって!」
「はーい!それじゃ次は私ね!」
高千穂はにこやかな顔をしている。
「私にも専属スポンサーが付きました!千歳くんに付いてくにはこれくらい金額がないとね!1億1300万になりまーす!!」
高千穂は片腕を胸脇に、もう片腕を突き上げてガッツポーズ。
「まーじ!?高千穂に越された!」
「お、お前らなんなんだよぉぉ〜僕だってえええいつか越えてやるううう!!」
「みんな、すげぇ頑張ってんだな」
「何言ってんだよ、千歳もだろ?」
「みんなそれぞれ頑張ってるのね」
「待ってろ、俺もこの特訓が終わったらすぐ追いつくから!」
「お前は追いつくってより圧倒的に追い越すだろうな」
「よおし!!ラーメン行こうぜ!!」
「おー!!」
千歳特訓開始から2ヶ月。
突如日本は震撼する。
誰も予想だにしなかった出来事が起きてしまった。
否、始まってしまったのだ。




