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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
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48話ー禍々しい者ー

 世界デュロル保護機構のゾディアック マイケルソンを倒した雪崎達。


 しかし、その代償は大きすぎた。


 多くの命を、言葉通り一瞬で奪い去ったゾディアック。組織の目的はいかに。


ーJEA 東京本部ー


 今回の世界デュロル保護機構によるニューヨーク新市街地襲撃は残酷すぎる。


 何の対策も練れないまま、市民の緊急避難もパニックに陥り、スムーズな避難ができずに多大な犠牲を生んでしまった。


 襲撃したデュロルは、自身を"ゾディアック"と名乗っていたが、恐らくそれは事実だろう。


 彼の名はマイケルソン・ハンプソン。大手輸送会社の代表取締役として知られる名だ。国と国を結ぶ輸入輸出に大きく貢献し、世間からの評判も良い会社だったのだが。彼の告白により株価は暴落し、信用も著しく落ちた。


 大手輸送会社が滑落し、いくつかの輸送会社が注目を浴びることとなった。しかし、その滑落を待っていたかのように、突如新しい輸送会社が界隈を占めることとなる。


 旧ニューヨークの海側に新しく建設されたニューヨーク新市街は、今回の件で致命的なダメージを負うことになる。


 我々としても、ニューヨーク支部を失ったことに悔しさしか残らない。チームエル・ソルこそ生き残ったものの、あの場所には優秀な技術者や指導者や多くの兵士が居た。生き残った者が数百名居たことが唯一の救いだ。


 ニューヨーク支部の再建はしばらく見越されるだろう。世界デュロル保護機構が大々的に活動し始め、この被害じゃあ……。


 しかし、1人の能力(ちから)でアレほどの破壊を可能にするとは……。これから対策できるのか?


「堀さん、そのマイケルソンって奴は死んだのか?」


 その声は唐突に耳に届いた。


「ああ、居たのかお前たち」


 深刻の中に心配そうな表情を覗かせる。


「マイケルソンは死んだよ。ニューヨークチームエル・ソルと雪崎(ゆきざき)山木(やまき)の協力でな。しかし、その6人は肉体的かつ精神的ダメージも負ってな……」


「そうだよね……あんな酷いこと目の前でされたら私も……」


「あいつらにお礼言っとかねえとな。ニューヨーク支部はやられちまったけど、あいつらが体張ったお陰で、他に被害が出なくて済んだ」


「ああ。最小限の被害に抑えるべきだったんだがな」


 すると、大画面モニターに通知が届き、それに応答する。


「こちらJEA東京本部、どうした」


「こちらJEA大阪支部。つい先程、元大阪チームエル・ソルのメンバー片桐(かたぎり) 瑛太(えいた)との連絡が途絶えました」


 この会話に対し、高千穂は目を見開いて反応する。


「片桐の最後の記録は?」


「はい。モンゴル平原にて、1人のデュロルと対峙していた模様」


 この言葉に続いて、片桐の視界記録が送られてくる。


 大画面に映し出されたデュロルは、禍々(まがまが)しい容姿をしていた。


「現在、片桐の視界カメラはオフになっています。GPSはモンゴル平原を示しているので、恐らくそこに囚われているのではないかと推測されます」


「わかった、対策を考える」


 大画面に映し出されている禍々しいデュロルは、見ているだけで恐怖を感じさせる程のオーラを纏っていた。その禍々しさを言葉で表すならば、"悪魔"が相応しいだろう。


「そのデュロルの左手の甲、マイケルソンと似た模様が入ってる」


 千歳(ちとせ)はボソッとその言葉を呟いた。世界デュロル保護機構でゾディアックと名乗ったデュロルの戦闘を研究したんだろうな。


「マイケルソンの左太腿に入ってた模様は、確か牛だった。このデュロルの模様は、馬??」


 高千穂は顎に指を添えてそう言った。


「何かしらの動物の模様が入ってるのか」


 畑山の言葉に滝原も続けた。


「ひょっとしたら、このデュロルも"ゾディアック"なのかもしれません」


 滝原の言葉に千歳はなるほどなと反応する。この動物の模様がゾディアックである象徴ならば、かなりマズいことになる。


「片桐さんは、ゾディアックかもしれないデュロルに囚われてる……ってこと?」


 俺の頭に過ぎった言葉を、高千穂が代弁する。


 この場に冷たい空気が漂い、皆が大画面のデュロルに目をやる。そこに、この空気を打ち破るが如く扉を開けた者がいた。


「うーい!元気にやってっかー!!」


 がっはっはと大口を開けてズカズカ入ってきたのは。


峯岡(みねおか)のおっちゃん!!と里道(さとみち)!!」


「チトッセオ久しぶり!」


「おお!千歳!!久しいな!頑張ってるみてえじゃねえか!!皆も久しぶりだな!」


 がっはっはと千歳の首に腕を回し、千歳を幼い子供のように振り回す。


「お久しぶりです峯岡さん!」


「お!高千穂も立派になったなー!相変わらずの美人だな!」


「やめてくださいよぉ〜」


「は、初めまして!と、東京チームエル・ソルの滝原(たきはら) 大和(やまと)と申します!宜しくお願い致します!」


 深々と頭を下げる滝原の首に腕を回す峯岡。


「そんな頭下げんな!それはもっと偉い人に向かってやるんだよ!がっはっは!」


 あからさまに困った表情を見せた滝原に向け、峯岡らしい言葉をかけた。


「同じチームエル・ソルなら!俺らは対等だ!!」


 千歳くんが2人いるみたいと高千穂は呟いた。峯岡と千歳が師弟関係だからではない。根本から似ている。それはここに居る皆が感じていることだろう。


 すると、がっはっはと大口を開けて笑っていた峯岡が急に静まった。峯岡はモニターに映る禍々しいデュロルを睨んでいた。


「おい、これって」


 峯岡が気付くのを待っていたかのように、山谷(やまたに)は口を開く。


「うん、思い出した?あの時のだよ」


「3年半以上前より見た目変わってるよな。いつの記録だ?」


「昨日だ」


「誰の記録だ?見る限りこのデュロルと対峙してるぞ」


「片桐の記録だ。モンゴル平原にて1人で対峙し、囚われの身となっている」


 峯岡は込み上げる怒りを抑えるように拳を握った。


「"あの時の"ということは、前に戦っているのか?(すぐる)たちの記録にはこのような禍々しいデュロルは居ないと認識しているが」


「知らねえ!こんなデュロル!知るわけねえ!」


「山谷。どういうことだ?」


 奥で腕を組む由紀(ゆき)も頭を抱えた。


「3年と数ヶ月前に……ちょっとね……」


 珍しく自信なさげの山谷。


「その時期……片桐が重傷になった時と重なるぞ!お前ら、無断で出撃していたのか!!」


「無断で出撃したことは悪いことだって、僕らが一番分かってるんだ!それでも、言えなかったんだ」


「山谷、言え。俺が納得できる理由を言え!」


「言えない!片桐の頼み事なんだ!」


「私情で掟を破るエル・ソルがあるか!!言え!言わねえと______」


「デュロルなんだよ」


 今まで一言も発さなかった由紀の言葉は、重心を持っていかれるようだった。


「片桐の弟、デュロルなんだよ」


 知られたくないことだってあるだろうと由紀は付け足し、再びモニターに目を向けた。


「あのデュロルに、片桐の弟は拐われたんだ。チームエル・ソルである私たちが、デュロルを取り戻す為に出撃すると言ったところで、一体誰から許可が降りる?誰にも言わず、極秘に遂行する他無かったのだ。許せ堀」


 当時の大阪チームエル・ソルと峯岡との連絡が数日間途絶えた時があった。そして、片桐が重傷、当時のルナの枠にいた垣越(かきごえ)が命を落として帰還した。


 デュロルの不意打ちに合い、視界カメラをオンにする余裕が無かったと言っていた。奴らが嘘をつく筈がないとの先入観に駆られ、それ以上の大事にはしなかった。


「じゃあ、片桐さんは、1人であのデュロルの元へ……」


 高千穂はいつになく暗い顔を見せた。


「でもどうして片桐さんは、あのデュロルの場所が分かったのかな?」


 高千穂から出たその言葉に、反応できる者はいなかった。


「俺らが行く。場所はモンゴル平原だろ?装甲輸送機を手配してくれ」


「俺らも行く!峯岡のおっちゃん達と、俺らが居ればいくらゾディアック相手でも……」


「ダメだ!!俺らが行かなくちゃダメなんだ!あいつに負けて片桐まで囚われて、垣越の仇を取らねえままなんて気が収まらねえよ!!」


「いいや!俺らも行く!必ず勝てる!!」


「ダメだ!!絶対に付いて来んな!!」


「何でだよ!そんなんで納得するかよ!」


「ちょっと千歳くん!」


 今にも殴り合いそうな2人の元へと山谷が仲介し、峯岡の耳元で何かを確認し、次に千歳の耳元でそれを告げた。


「わかった。それならいい」


 あの頑固な千歳がすぐに承諾した。どんな内容で納得させたんだ?


 周りも何を言ったのか気になってはいたが、それを聞ける空気でもなく、皆がそわそわしていた。


 山谷の機転で事は丸く収まり、大阪チームエル・ソルはモンゴル平原へと緊急出動する。別れ際に両チームは手を結び、互いの無事を誓った。





ー同日 モンゴル平原 中央部10時32分ー


 先に現地に到着したMEA兵士からの情報によると、片桐(カタギーリ)さんのGPSは、モンゴル平原にポツンと建つ古小屋に位置するみたい。


 鬼神(アラハバキ)でさえエキポナのGPSに気付いてるし、罠なんじゃないかと思ったけど。この熱い眼差しの峯岡(ミネール)さんを止めることなんてできないよ。


 でももし古小屋で、ヤバいって噂のゾディアックが待ち受けて居たとしたら。どうしよう。


「不安だよね、分かるよ。僕達も不安で仕方ない。何せ一度負けてる相手だからね」


 ヤマターニさんは初めて"不安"を口にした。


 一度戦って、負けてしまった相手とまた戦うなんて。そりゃ不安だよ。しかもそれがゾディアックだったなんてさ……。


「でもさ、逆を言えば、僕達はあいつの戦い方を身に染みる程に知ってるんだ。それに、3年前には無かった、新たな"兵器(ちから)"がある」


「そうだな、少しだが、奴の癖も知ってるし、能力(ちから)を知ってることが、私らを強くする」


「どんな……能力ですか?」


 僕の質問に対し、珍しく静かだったミネールさんが口を開く。



「武術、柔術、体術。どれもが当てはまる」



 ミネールさんはこの言葉を放ってから再び黙り込む。


 これから合間見えようとする相手が、どれ程の者なのか、この言葉だけで理解できた。


 JEAで化け物と称される千歳(チトッセオ)の爺ちゃん"千歳(ちとせ) 重三(じゅうぞう)"の弟子であるミネールさんと、当時の大阪チームエル・ソルの4人が合わさって戦った。しかし、片桐さんは重傷。垣越さんは命を落とした。かなりの戦力で挑んで尚、多大な被害を受けて帰還した。全てを目の当たりにしたミネールさんがそのデュロルを表すに値した言葉選びは、きっとその言葉以外が浮かばない程に印象付いたのだと思う。


「それだけじゃないんだけどね」


 ヤマターニさんは無理に明るいトーンでそう言った。


「奴を仕留めるのは、一瞬の、一撃でなければならない。私らの新たな"兵器(ちから)"で……」


 ユキーマさんもいつになく不安げな声色でそう言った。


 皆が感じている不安は、表に出しているものとは比べ物にならない程。根底から湧き出る、濁りの無い真の不安だろう。


 着々と現場へと近づく。





ジジッ

「古小屋へ兵士3名が接近。突入の合図を」


ジジッ

「突入3秒後」


 古小屋の扉横に背を付ける兵士の1人が指でカウントし、扉を勢いよく蹴り込み、盾を展開しながら古小屋の中へと突入する。


ジジッ

「……異常なし……何も無い」


ジジッ

「一番奥の部屋まで来ました。しかし、何もありません」


ジジッ

「いや、GPSだ。角にGPSだけが捨てられている」


 罠か?


ジジッ

「何処かに隠し通路は無いか?」


「隠し通路なんて小細工しないから、安心してよ」


 それは背後から聞こえた。誰も居るはずのない背後に、今になって気配を感じた。背筋は張り詰め、振り向く力すら入らぬ程に恐怖を感じた。


ジジッ

「隠し通路も無い。ここは囮だったんだ」


ジジッ

「日本から来るチームエル・ソルへ伝えろ!ここは囮だ!引き返せと!」


「囮だ〜囮だ〜大変だ〜」


ジジッ

「おい!見張っていろと言っていただろう!古小屋に入ってくるな!透過モニターはどうした!」


ジジッ

「おい、何かおかしくないか?」


ジジッ

「……おい、表情を変えろよ。頭だけ出さねえで、中に入って来いよ」


ジジッ

「もしかして……」


ジジッ

「あぁ……」


「あれ、死んでるのバレた?さすがに表情までは変えられないから仕方ないか!お土産!ホラ!」


 ゴロ。


「汗かきすぎじゃない?」


「逃げろ……お前ら逃げろ!!」


ジジッ

「日本人達に伝えたか!?」


「日本人がこっち来るんだね!?よくやったよ君たち!」





 この一部始終は全て、装甲輸送機内の4人に伝わっている。到着が目前に迫った時に受けた報せに、4人が感じていた不安は怒りが消し飛ばした。


 どうすることもできず、握り締めることしかできない怒り。間も無くして装甲輸送機は降下地点上空へと到達する。


 4人は躊躇うことなく装甲輸送機後方から飛び降りる。


 地上までは距離がある。しかし、既に柄を握り締める。手の届かぬ場所で奪われる命が、どれだけ悔しいか。


 それは、ここの者達が痛いほど理解している。


 4人の強い想いは、届かぬ場所で新たに4つの命を奪った1人のデュロルへと向いている。


 峯岡は鞘から煙を噴きながら降下する。


熱炎太刀(ねつえんのたち) 残火(のこりび)





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