38話ー背負う重さー
日本の精鋭4(3)チームの、福岡チームエル・ソルと交戦した櫻木。
櫻木の劣勢とも思えたが、櫻木の予測不能な能力が炸裂し状況は一変する。
ー同日 JEA 福岡支部ー
「チームエル・ソルが……敗れた……?」
私はどこかで、チームエル・ソルならと期待し、安心してました。
彼女達なら、やってくれると。
気付かぬうちに、重いものを背負わせてしまっていたのは私なのです。
福岡チームエル・ソルの出撃に安心してしまった私は、敗れた時の策を放棄してしまいました。
「他のチームエル・ソルは?出撃可能ですか?」
まだ私は固執してしまう。チームエル・ソルという存在に。
「大阪チームエル・ソルは今マレーシアに出撃中で、北海道チームエル・ソルは、先程青森県に出現した、"デュロル狙いのデュロル"の対処の為、出撃中です。東京チームエル・ソルは……如何致しますか?」
私は焦っていた。私の気の緩みによる指示の誤りで、被害が大きくなってしまう。どうにかしなければという焦りで、冷静な判断ができていない。
すると、遠くから勢いよく駆け寄ってくる足音が聞こえる。重いドアを勢いよくこじ開け、肩で息をした兵士はこう告げました。
「チーム藤長が、たった今!出撃しました!如何致しますか!!」
「何ですっ……」
私はその事実に、言葉を詰まらせた。
また敗れてしまうかもしれない。
けど……もしかしたらと……。
また、少しの期待を抱いてしまったのです。
ー同日 青森県 某所ー
「もっと!骨のある野郎はいねえのか!」
何が機械だ、何が兵士だ!
こんなにも直ぐ血を流し倒れる奴が、兵士を語って恥ずかしくないのか!
「俺に期待させる演出しやがって」
楽しくはないが、俺の名を世に知らしめるには丁度いい。
「まだゾディアックの穴は埋まってねえ。俺がいただくんだよ」
それを考えただけで笑いが込み上げてくる。
「ハァ、つまらん」
機械の屍を踏み、歩を進める。
「誰もいやしねえ」
エキポナを斬っている間に、街に人影は無くなった。
「目指すは東京!」
俺は血に濡れた骨刀を青空に漂う白い雲に向けた。
「あ?」
雲に向いた切っ先から目を落とすと、こっちに向かって歩いてくる4人のエキポナが目に入った。
その4人を理解した瞬間、俺は装甲の下で笑みを抑えきれなかった。
「これはこれは!!北海道チームエル・ソルのお出ましか!!」
胸が高鳴り、はしゃぎ出したい気持ちを抑える。
「Deep Swamp!流水 定太!!俺の名をよく覚えておけ!!」
気持ちのいい決め台詞だ!!
俺の言葉には耳を貸さずに震斧の嵐山は、肩に担いでいた巨大斧を右手だけで持ち上げる。
「そんなデカイ斧振り回し……てっ!!」
その斧の重さに地面が揺れるような衝撃が、俺の右足を掠める。避けなかったら身体は真っ二つだった。あの身の丈ほどある大斧をあの速さで、しかも片手で振るうとは。何て脳筋な野郎だ。
「まずいっ!!」
嵐山は大斧を振り下ろした直後にも関わらず、奴の両目は俺を捉え、大斧を振り上げる体勢になっている。
俺は急いで後退し、骨刀を構える。だが、後退した俺は、ふわっとした空気の膜に包まれた。
俺は首だけを動かし、何とか後ろを確認する。
柔盾の東松!!
奴の両腕には肘から手首にかけて拡がる、円錐型の機械が装備されている。この機械が、この摩訶不思議な膜を作り出しているのだろう。
「反発!!」
両手を広げて前に突き出した東松は、その体勢のまま押し込む姿勢を見せた。それと同時に俺は強い力に押し出され、大斧を振り上げる嵐山に向かってしまう。
嵐山はタイミングを合わせて大斧を振り上げる。
俺は押し出された勢いを利用して骨刀を振り下ろした。
骨刀と大斧は激しくぶつかり合い、重く硬い音を響かせて動きを止めた。
「っ!?止めただと!?」
嵐山は目を瞠り、明らかに驚いた表情を見せた。良い!楽しい表情だ!
嵐山はもう片方の手で大斧の柄を握り、力を込め始める。
さすがに両腕で持たれた大斧には押される。
「嵐山ぁ、力強ぇなぁ!」
「貴様……何故俺の名を……」
すると、強く照りつける太陽の光が遮られて陰になる。空を見やると、太陽の後光が射した4本腕の影を確認する。奴は弓を背負い、4本の腕を下に突き出している。
四腕の室瀬!奴の動向を見落としていた。上に飛ばれたか。
「避けろツーブロ!!」
上に飛ぶ室瀬の合図に、嵐山は俺を突き放した。
それと同時に室瀬は、4本腕それぞれの肘から手首にかけて展開し、1つの腕の展開部分に穴が2つ用意される。
「檻矢!!」
その言葉と同時に腕の展開部分の穴から、先の尖った短い針状の物が射出される。
計8つの穴から射出されたソレは、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる。
俺は骨刀を垂直に構え、飛んでくる8つのソレを刀身で受け流して足元に着弾させる。
着弾した際に生じた煙に、足元が巻かれる気がした。
俺は刀を垂直に構えたまま、その不気味な足元を見やった。
地面にめり込んでできた穴から滲み出る煙。その穴から勢いよく棒が飛び出る。その棒は着弾した8箇所から飛び出し、それぞれが俺の身体に触れることは無かった。
「う……動けん!!」
棒を避けた時の体勢のまま、つまり力が入りにくい体勢のまま、それぞれの棒は上手く絡まって俺は動けなくなった。不安定な体勢で腕に力が入らない。だが、何とか骨刀は構えられる。奴らの攻撃を利用してこの棒から抜け出すしかない。
「共鳴!!!」
俺の前に出て踏み込んだ丸ハゲの男。槌鐘の森林だ。寺にある青銅の鐘のようなドデカイ物を先端に付けた、ハンドベルを大きくした形の大槌を構えている。
この体勢でアレを受け止めるのは、ちと厳しいな。
そんな気持ちとは裏腹に、森林はドデカイ鐘を思い切り振るった。それを俺は、力の入らない刀で受け止める。
ゴオォォーン!
身の内まで響いて内臓を掴まれるような低い音が鳴る。その音がやけに重く大きく、受け止めた鐘の衝撃を表しているかのようだった。
俺はその衝撃に棒を倒して後方へ吹き飛ぶ。受け止めた刀と腕の振動が治らずに、勢いのまま地面に弾む。
すると、またボフッと不快な空気の膜に包まれ、全身を覆うようにして俺の勢いを殺した。また全身を覆われている為に、上手く動くことができない。
空気の膜から出ようと踠いてる内に、正面から俺に向かって走り、大きな鐘を構える森林が見えた。
またアレを食らうのか。まだ腕と刀は振動している。俺は振動する腕と刀を何とか前に突き出し、受け止める覚悟を決めた。
「共鳴再び!!」
駆け寄った勢いを殺さずに、森林は大きな鐘を俺に打ち付けた。再び全身を揺るがす音に包まれ、俺はより深く空気の膜にのめり込む。
その音は空気の膜までも振動させ、より一層音が大きく聞こえる。
「くっ……重い!!」
耳に深く残る低い音の中で、微かにそう聞こえた。恐らく東松だろう。
「反……発……!!」
力むような声の後、俺は空気の膜に勢いよく弾き出される。弾き出されたと同時に地面に弾かれ、その勢いに手脚は四方に引っ張られるように伸びる。全身が振動し、上手く力が入らない中、何とか手脚を引き戻し、体勢を整えて地面に足を突き立てる。コンクリートは脆く削れ、勢いは段々と治るも、向かう先には大斧を構える嵐山が居る。
次から次へと……。
細かく振動する骨刀を構え、この勢いを利用して斬る覚悟を決める。
嵐山は大斧の柄の中間にあるトリガーを握りしめる。すると大斧の残像が広がり淡く消えていく。両手でガッシリと柄を握った。
「【震王 孤鋼鉄】!震スイング!!」
嵐山は大きく踏み込み、体を斜めに倒し、重心を両足に任せて大斧を腕いっぱいに振るう。
小刻みに震える骨刀と大斧は刃を交えた。
交えた瞬間、骨刀は砕けた。
通り抜けた大斧は俺の胸部の装甲に入り込む。
【震王 孤鋼鉄】の刃は超振動によって数多の物体を切り裂く。
「よし!砕いた!!」
あの白い刀さえ砕いてしまえば、後は冷静に対処するだけ。
流水の胸部の装甲に入り込んだ孤鋼鉄は奴を乗せた。"震スイング"の勢いのままに流水を下から上へと持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。
「……!!」
普段なら斬る感覚すら残らない孤鋼鉄が、地面に叩きつけた瞬間に弾かれるようにして奴から離れた。
周りの皆も固唾を飲んで俺を見やる。
「か……硬ぇ……」
白い刀をやっと砕いた。なのに、流水本体の方が硬い。
流水は握っていた砕けた白い刀を離し、仰向けになったまま手を叩いた。何度も。
「くっくくくく……」
そのまま表情のない装甲の顔を手のひらで覆い、寝返りを打つように左右に体を倒す。俺に背を向け、肩を揺らし、笑いを堪えるような素振りを見せた。
俺は想定外の出来事に、流水を見ることしかできなかった。あまりにもショックだった。
「嵐山ぁ、初めてだよ。骨刀を砕かれたのは」
流水は立ち上がりながらそう言った。
手のひらと身体の装甲に付いた汚れを払うようにバシバシと叩く。
立ち上がった時、しっかりと見てしまった。
流水の胸元の装甲には、あまりにも浅い一本の線が入っただけだった。
森林の鐘の振動も加えた、最大の攻撃だった。目標である白い刀の破壊は完了した。だが、ここまで装甲が硬く、2回も森林の鐘を受け止めておいて動く腕。俺らは奴を、甘く見過ぎていた。
「あの硬さが砕かれたか、もっと硬かったらどうかな?砕ける?」
流水は右腕を横に伸ばし、手のひらから白い刀の切っ先が突き出る。そのままズズズズと白い刀は生成され、流水がそれを握ったところでパキンと折れる。
俺らは目を見開いた。先の連携をもう一度……しかも、先程より硬いなんて……。
流水は左腕を横に伸ばした。
まさか……!!
俺の悪い予感は的中し、右手同様に左手からも白い刀を生成した。
「君たちのその表情……良い!!良いよ!!もっと見たい!もっと見せてくれ!!」
そう言うと流水は前屈みになり、力むような声を出す。
すると、流水の腕の付け根に近い肩甲骨から腕が生えた。
……言葉を失った。
元々の腕よりはか細くあるものの、元々の腕より装甲の範囲は広く、硬く守られている。
腕が生えきり、腕を伸ばしきったと同時に、両手同様に白い刀を生成する。
4本の刀をバツ字に交差させ、肩で笑う流水の姿に、孤鋼鉄を持つ俺の手は震えていた。
パン!突如する破裂音に流水は反応し、1口の刀を振るう。
振った白い刀は小さな何かを斬った。斬った瞬間に、煙が飛び出る。煙は一瞬にして流水を包み込む。
「何戦意喪失してんだ!!奴の思うツボだろ!!構えろよ!!」
1人矢を構え、肩から伸びる腕を流水に向ける室瀬。その姿を見て我に返る。刃を交える前に、諦め掛けていた。チームエル・ソルとして日本背負ってることを忘れかけていた。
俺らが負けることが、どれほど人々に不安を与えるか。それは俺らが1番解っている。
室瀬は肩から伸びる腕の手のひらから銃弾を連射しながら弓を引く。
流水に纏う煙が退くと、流水は刀で銃弾を受け流している姿が見える。
室瀬は矢を放つ。矢は勢いよく流水に向かっていく。
流水は2口の刀で銃弾を受け流し、主右腕を伸ばして垂直に刀を構える。矢は流水の構える刀に吸い込まれるように飛んでいき、矢は刀に触れ、裂かれていく。真っ2つに分かれた矢を主左腕で持つ刀で弾く。
室瀬は間髪入れずに弦を引き、次々に放っていく。流水はそれを次々に斬っていく。
「ボーズ!!」
室瀬のその言葉に反応し、森林は流水に近づいて鐘を振り下ろす。
流水は生えた腕に持つ刀を交差し、振り下ろされる鐘を受け止めた。
ゴオォォーンと地が響く音と共に流水の足は地面にめり込む。あの鐘を受け止めて尚、両足で立っている。
流水は受け止めた鐘を持ち上げて右足を踏み出し、主右腕の刀で森林の腹部から胸部にかけてを斬り上げた。
森林はよろめき、鐘の重さに引っ張られるようにして倒れ込む。
流水の後方から東松が膜を張りながら突っ込む。膜は流水を包み込む。
パァアァン!
膜は弾けた。流水の刀によって膜は裂かれたのだ。
流水はそのまま踵を返し、主左腕を振るう。
俺は震えながらも柄を握りしめ、自然と走り出していた。
仲間をこれ以上傷つけさせない!!
勝てないかもしれない。そんな恐怖を抱きながらも。
チームエル・ソルの称号を背負った時から、その責任は纏わりつく。決して軽くはない。
ギッシリと詰まった責任が、背中には乗っている。
負けるかも?そんな事、全力で戦ってもいない奴が気にするんじゃない。
負けたとしても、全力で立ち向かったことに、胸を張れるように!手本となるように!!
全力で立ち向かえない男が!仲間を守るなんて生意気な!!
俺は俺を奮い立たせろ!!
「うおらああああああ!!」
刃と刃が交わった音に、後悔は無い。
そうやって俺は、ここまで昇ってきた。




